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正体不明の野生動物

駅まで徒歩10分は実質15分

「意外と近くでしたわね」


 あんずちゃんが呆気にとられたような声を出す。それもそのはず。依頼の現場はフラーを出て一刻もせず到着するほどの距離だったのだ。


 フラー周辺はちょっとした平野になってる。そこから伸びる道を歩き、まだ城郭が遠くに見え、わたしは林道で見つけた手頃な石を蹴飛ばしつつ進んでいる。


「グレースさん、子どもじゃないんだから」


「でもたのしーじゃん」


 これといった目標もなし。ただテキトーに蹴って、ころがって、またこつんと蹴る。道から逸れるか見失ったら終了。フラーへの道すがら、かれこれ五分は経ってるだろうか。


「依頼場所はこのあたりとなる。油断するな。もういつ凶暴な野生動物たちが現れてもおかしくない」


 ふーんと生返事を返しつつ、わたしは周囲の草むらを見渡してみる。それっぽい気配はまだないけど、まあ小動物ならちらほらいる感じかな。


「人気が少ないですわね。旅人どころか商人たちの影さえありませんわ」


 あんずちゃんの疑問にブッちゃんが応えた。


「冒険者はともかく、商人たちはリスクヘッジのためだろう。不用意に危うい道を通るなら、遠回りでも安全な道を選んだほうが良い」


 そのほうが、高い金を払い用心棒を雇う心配もなくなる。闇よりなお深い色をした僧侶のことばに、あんずちゃんは納得した声をあげた。


 正直は話、野生動物の群れくらいならわざわざ冒険者を雇わなくても楽な部類だ。それこそ、商人でも徒党を組んでゾロゾロ行列をつくればいい。


 それだけで、件の動物たちは人間というよくわからない二足歩行の生き物を避けてくれるだろう。


(まあ、そうならないってことはある程度凶暴な部類なんだろうけど)


 フツーのアニマルですから。日がなマモノやモンスターと戦ってたわたしからすれば赤子同然ですから。


(なーんて言ったらオジサンに叱られちゃうだろうなあ……そうだ)


「おしごとついでにごはんにする?」


「ごはん、ですか?」


 またキョトンって顔のあんずちゃん。それから周りを見渡しクエッションマークを浮かべる。


「こんなところに食堂がありますの?」


「あはは、ウケる」


 んなわけねーだろ。


「狩りするの。たとえばぁ……そこ」


 ある気配を感じナイフを投擲した。それは草の合間に入り込んでいき、刺さる音とともにガサゴソと何かが走り去る音がする。


「チッ、仕留め損なったか」


 うーんウサギさんちょい苦手なんだよねーうまく気配隠すし、たまに足跡詐欺しかけてくるし。


「な、なにしてますの!?」


「なにって、今日のお夕飯にしよーかなって」


「野蛮ですわ! 信じられませんわ! あ、アナタそれでも人間ですの!?」


 あんずちゃんが狼狽えた風に言葉をまくしたてた。いやいや逆になんでダメなのさ。


 それともなにか。この広い世界でここだけ生類憐みの令発動してるとでも言うのか?


「えーでもおいしいよ?」


 すこしパサッとしてるけど、それがかえって調味料の馴染やすさを生み出すのだ。


「ブッちゃんはどう?」


「無用な殺生は好まぬ。拙者にはコレだけで充分だ」


 言ってローブの内側から取り出したのは一枚の巾着袋。中身は干し肉とパンがあり、ご丁寧にドリンクも腰からぶら下げている。


 殊勝な心がけだけど、その身体維持するには少なすぎない? サっちゃんはそりゃあもう毎日バカみたいに食ってたよ?


「グレースさん、今までどんな生活をしてきましたの」


「それはこちのセリフだよぅ」


 なんだ、これが都会暮らしというヤツなのか? 辺境から上京した田舎モンにはない感性だ。


(まあ、わたしもフラーに着いてから狩りなんてしてなかったけどねー)


 食べ物はたくさん、レストランに娯楽やお酒、注文したらおうちまで運んでくれるサービスまで至れり尽くせりだった。


 それが楽しくもありタイクツでもあり。なんとなーく物足りないなぁと感じてた矢先、うさぎを仕留められなかったことで思い出した。


(んー、たまにこういうことしないとね)


「ふふ」


 仕留め損なったナイフを回収しつつ、鋭く研がれた切っ先に指を這わせ、わたしは言いようのない高揚感に唇を横に開いた。


(――ん)


 なんかおかしな気配がする。いやしない(・・・)


「さっきまでいろんな匂いがあったはずなのに……これは」


 いるね。


「あんずちゃんブッちゃん。お仕事開始だよ!」


 ふたりの返事を待たず、わたしは手頃な木をよじ登っていく。背後から何事かを問いかける少女の声と、錫杖をシャランとならし周囲を警戒する気配が生まれる。


(こっちが風下みたい。うさぎさんの匂いに混じってこれは――えっ?)


 なにコレ、わたし知らない。


(水が腐ったようなぁ、鼻にツンとくる感じ)


 イノシシでもシカでも、凶暴なライオンさんやハイエナなどでもない。


 鳥でもない。しいて言うならぁ、爬虫類臭?


(近くに川があるのかな?)


 いやでも、この周辺にそんな立地なかったはず。じゃあどうして――ッ!


「あんずちゃん避けて!」


「えっ?」


 気付いた瞬間、わたしは大声で真下に叫んでいた。


 戸惑いにこちらを見上げるあんずちゃん。その気配にぜんぜん気づいてない。


(ダメ、間に合わない)


 そう思った瞬間、地に立ち呆けた顔でこちらを見上げる少女の足元が盛り上がった。


 まるで水のように。そしてそこから現れたのはやや緑がかった灰色、硬いウロコに身を包んだ細長い体躯と力強い四肢をもつ猛獣。


 すなわち、ワニだ。


「あんずちゃん!」


「ッ!」


 少女が気付いたとき、目の前には大きく開かれた口と、鋭く立ち並んだ牙があった。


 それが閉じられればもう、数トンもの力で人の首など軽く括られてしまうだろう。


 ワニの大口が口臭さえ漂いそうな距離感まで迫り、そして、少女と口の間に一本の杖が差し込まれた。


「無事か」


「ぁ……」


 間近に現れた恐怖を前に、少女はストンと腰を落とした。


「そんなヒマはないお主も剣を取れ。ぬぅう!」


 口に差し込んだ杖をさらに奥へ突っ込み、彼は純粋なパワーでワニを虚空へふっとばした。


 やるぅ! サっちゃんほどじゃないにしろ彼も凄まじい力だ。


「平気? 立てる?」


「え、ええ」


 地面に降り立ったわたしの手をとり体勢を立て直した。それからふと息を吐き、背中の大剣を掲げて気合いを入れる。


「不意を打たれましたけど、次はこうはいきませんわ! お覚悟はよろしくて?」


 そんな激に呼応するかのように、周辺の地がむくりと上下し、螺旋を描くようにこちらへと迫ってきていた。

この世界に常識なんてない、かもしれない。あるとすれば"彼"の常識だけ


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