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ワンだふるワンだーらんど ~異世界でトモダチ100人めざします~  作者: 犬物語
10:好き勝手生きたいと思います
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好き勝手生きるもん

やっと旧タイトル回収できた

「ムリにそうするつもりはなかった。だが」


 重い沈黙の後、今は礼服に身を包み、いっしょに同じ荒れ地を歩き、いろいろなことを教えてくれたその人は、普段見せないような後ろめたさの募る目と口でこのことばを紡いだ。


「あわよくば、と思っていた」


(……やっぱり、そうだったんだ)


 この感情はなんだろう。


 がっかりした。げんめつした。ううんちがう、今でもオジサンのことは好きだ。


 大事なところにポッカリと穴が開いたような、まっくら闇にひとり残されて、だれもいない道をひとり手探りで這いずってるような、そんな気持ちに落とし込まれていく。


 空虚なこころがわたしの中を支配するころ、彼は今まで旅をしてきた仲間を見渡す。そのなかでもとくに、長く濃い付き合いをしてきた少年を瞳にうつした。


「おっさん」


「スプリット、おまえの剣のウデはもはやいち武将のそれに到達した。もう何も言うことはない」


「そんなことねーだろ? オレはまだおっさんに教わることがいっぱいあるんだよ」


 スプリットくんはそれ以上なにも言えなかった。オジサンの視線は、森の中でサバイバル生活をしていたおおきな薄着の女性へ向かう。


「ここなら肉体自慢の男に事欠かないだろう。トゥーサが望むなら、軍がおまえの求める食糧も手配してやる」


 サっちゃんは難しい顔をした。


「しょーじき、迷ってる。アタイは身体を魅せるために鍛えてるだけで戦いの道具にしようなんて考えてもみなかったんだ」


「そうか。ならすこし考えておいてくれ……ビシェル」


 彼の目はエルフと共に数ヶ月を過ごした女性に流れる。


「おまえの弓からはもはやだれも逃れられないだろう。斥候偵察、おまえになら多くを任せられる」


「人には選択権があるはずだな、チャールズ殿」


「無論だ。だから無理にとは言わぬ」


 最後に修道女姿の少女へ。願いというより謝罪の気持ちが滲む表情だった。


「騙した、と思われるだろうか?」


 まるで懺悔のセリフ。少女はすこし伏し目がちになった。


「チャールズ様のお考えすべてを理解することはできません。ですが、少しでもそのお気持ちがあるのなら、ここにいる旅人の意思を尊重することこそ神のご意思だと思います」


 ことばのひとつひとつが心に沁みてくるようで、ここにいるだれもがちいさな少女の慈愛にピリついた雰囲気を拭い去っていく。


「フッ」


 それでも、彼には関係ないことだった。


「神など――ただ黙って見ているだけの存在に何ができる」


 レシル王子。わたしはこの人をたったニ度しか見てない。


 見てないけど、こいつがイヤなヤツだってことはたったニ度で充分理解できた。だからこいつは無視しよう。それでオジサンとだけ話をしよう。


「ねえオジサン。わたしたちは戦いの道具なの?」


「ふっ、自身の本分がわかってるじゃないか」


「ッ! レシル王子」


 オジサンが歯を食いしばり王位継承者を睨む。戦場ならだれもが震え上がるけど、この場においてだれもその態度に恐れを抱く人はいなかった。


「ちがう! それは断じて違うぞグレース! 私はそのような目でお前を見たことはない」


「じゃあ、なんでわたしたちに戦いを教えたの? なんでわたしに、隠れて人を殺す技術を教えたの?」


 はじめは狩りのためだと思ってた。


 物陰や木の上に隠れて気配を消し、得物が間合いに入ったらイッキに接近して仕留める。これが狩りの基本。


 狙いは心臓や首だ。野生のどうぶつたちはガードするなんてことしないから比較的楽に仕留められる。でも人間はちがう。


 懐に入り、ガードの上から隙間を縫って急所に一撃を入れる。相手が体勢を崩したらのしかかり身体の自由を奪う。


 関節を極める、四肢の自由を奪う。そして最後に、そのいのちを断つ。


 こんなの狩りで必要ないじゃん?


「私は――俺は戦いしか知らない。生きるための狩猟は行うが、ずっとおなじ人間と殺し合いばかりしてきた。だから、戦いは人間相手のそれしか教えられなかった」


「だったらオジサンもこっち(・・・)がいいよ! 戦争なんてなにも良いことないでしょ?」


「戯言は終わりだ」


 横からうるさい人間が口を出す。ジャマだなぁ、いなくなればいいのに。


(こいつも――敵?)


「貴様の宣言を最後にすれば盛り上がると思ったが思わぬジャマが入ったな、チャールズ」


「……」


 オジサンはただ沈黙したままだ。


「話はスパイクやヴィクトリアから聞いている。貴様が宣言すればこいつらも続くだろう。みなに勇者の帰還を伝えてやってくれないか?」


 壮年の剣士の目が揺れ、閉じられた。


「……オジサン?」


「グレース、すまない」


 それは、なんの意味でのごめんなさいなの?


 そう問う前に、彼は壇上の王を見据え、胸に拳を当て、高らかに宣言した。


「王の御前にて、騎士チャールズは国のため戦うことを宣言する」


「……許す」


 沈黙を貫いていた王が口を開く。重厚で場の雰囲気を支配する声。


 この瞬間、オジサンがどこか遠くに離れていってしまったような気がした。


「正式な式典は後日行う。さあ初仕事だ。こいつらを貴様の私兵として迎え入れろ」


 騎士の宣言をした男は、ただ黙ってこちらに向き直った。


「オジサン?」


「私についてきてくれ。それがお前のためでもあるんだ」


「ヤだ」


 そんなの断固拒否だ。


「オジサンこそこっちに来てよ。戦争なんてバカげてる」


「私は騎士だ。国に仕えるからには王の、そして王一族の(めい)は絶対なんだ」


(わからない。王ってなに? エラいってなに?)


 この人たちがなんなの? ただエラソーにしてるだけじゃん。


「戦うなんて間違ってるよ。間違ってることを間違ってるって言うことのなにが間違ってるの?」


 エラい人が言ったことすべてが正しいの?


「王は聡明だ。その血をレシル王子も継いでだ。これまでのことばもきっと深い考えがあって」


「ふかく考えてこの程度(戦争を起こす)ならアタマ悪いに決まってるじゃん!」


 周囲のざわつきが聞こえた。真っ向から国のエラい人を侮辱したんだ、そりゃそうか。


 でもいーもん。だってこの人間エラくないしバカだし。それに、


(見えちゃったもんね)


 異世界人グループがみんなして「よっしゃ!」って顔してるの。やっぱみんなあの偏屈王子イヤだったんだ。


「聞けグレース! お前たち異世界人はあまりにも――」


「ヤだ! いいもん! わたしもう好き勝手生きるもん!」


 気づけば、わたしはそんなことを宣言していた。

キミとアナタにグッバイ宣言

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