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ワンだふるワンだーらんど ~異世界でトモダチ100人めざします~  作者: 犬物語
10:好き勝手生きたいと思います
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にんげんはせんそうがすき

ケンカはやめて


みんなオトモダチになろうよ

「アナタは」


 オジサンが真後ろで緊張した声を出す。ふと振り返ってみると、そこにはさきほど演説をしていた王子さまがいた。


「お目にかかれて光栄です」


「堅い挨拶は抜きだ」


 ヒザを折ろうとしたオジサンを引き止め、彼は目の前にいる中年男性の顔をマジマジと眺める。この日ばかりはトレードマークの無精髭は封印。髪型もしっかり決めてひときわ若返ったように見える。


「話はヴィクトリアから聞いている。もったいぶらずに本題に入ろう……ん?


「?」


 目があった。貫くような目だ。その目のまま、とくに感情が動いたわけでもなく彼は言う。


「これが話に聞く異世界人だな」


(これ)


 初対面なんですけど?


「はっ。女だてらに抜きん出たポテンシャルを秘めております。私みずからが一人前の隠密に鍛えました」


「ほう? どれ」


「えっ」


 男の手が無造作に伸びてくる。そしてわたしのあごを――ッ!


「……」


「あ、ごめんなさい」


 反射的に振り払ってしまった。そんなに強い力じゃないけど王子さまのうでをふっとばしちゃった。


「し、失礼しました! 訓練のクセで、なにぶん、戦闘スキルを叩き込んだもので反射的に顔面を守ってしまうのです」


「なるほどな」


 感情のない声。それでも彼の目は力があって、その奥底に野望を秘めているような感じがした。


「戦士に礼儀など無用か。チャールズよ、そなたもそうだろう?」


「……恥ずかしながら」


「良い。それよりヒガシミョーの一件についてだ」


 王子さまは澄ました声でオジサンを見る。ちょっぴり背が低いのに、まるで高みから見下ろすかのような態度だ。


「スナップなる異世界人が我が領土を荒らしてると聞いたが」


「はじめて出会ったのはヒガシミョー近くの村でした。どうやら龍脈の水を欲していたようです」


「なんだと?」


 それまで澄まし顔をあさっての方向に向けてた彼が、眉根を寄せ険しい顔でオジサンに向き直る。はじめて人間らしい感情を見せた気がする。


「ヤツらは龍脈の水を企みに使ったようです。その結果、一般市民に犠牲者が」


「ふむ、水を飲ませるとマモノ化するという話は真実のようだな……あの者の言葉通りか」


(え?)


 語尾につけた小さなささやき。それはオジサンの耳に届かなかったかもしれないけれど、わたしの耳は確かに聞いた。


(あのものってだれ?)


「おそらく隣国のスパイで間違いないだろう。となると怪しいのはラズボイか」


「いえ、彼らはそのような存在ではなくむしろ――」


 オジサンの助言を耳にいれることなく彼は続けた。


「すでに我が国に侵食しているというわけか。ならばもはや遠慮はいらん、こちらから仕掛けてやろう」


(……なにこの人)


 まるで戦いを望んでるかのようだ。


(なんで? ケンカしたってどっちもイタイでなにもいいことなんてないのに)


「おおレシル王子! ここにおられましたか」


 不穏な空気を引き裂くかのように明るい声がとどく。声の主は吟遊詩人のような格好とちっちゃいギターのような楽器をひっさげ登場した。


「スパイクか、相変わらず不遜な態度だ」


「本日は無礼講でございますよ。チャールズもこのような空気を吸い慣れてない故、レシル王子の機嫌を損ねてしまわないか心配です」


「我の機嫌が損ねぬうちにうたでも披露するがよい」


 待ってましたとばかりにスパイクが笑顔になり、うでをまわして一例する。抱えた楽器をポロンと奏で、これから始まる吟遊詩人の語りに周囲の喧騒がすこしだけ柔らかくなった。


「友との再会とレシル王子の決意に」


 そして彼の口は、友が成し遂げた二十年前の快挙を思い出させるかのように語りだした。


「月日が彼を風化させも、この国がある限り彼の偉業もまた語り継がれるであろう。人が生まれ、そして死んでいく限り、国と魔族を救った彼の名は永遠に歴史に刻まれ続けるであろう」


 場面が現代へと変わっていく。固い絆で結ばれた友の姿。再会と屋敷での出来事。彼がいかに偉大な存在であるか、そして今この国に危機が訪れているということを。


「侵される大地、ふたたび火に包まれる家屋。あのときの記憶を繰り返してはならない。みなでこの危機を乗り越える手立てを考えよう。決して命を失わないように、決して過ちを繰り返さぬように」


「――フッ、愚民は考えるだけでいい」


 さいごの一節。弦が弾かれる音にまぎれ、レシル王子のつぶやきは空気の波にかき消された。そのかわりに彼は盛大な拍手をもってスパイクのスキルを賛美する。


「すばらしい演奏と語りだった。そして胸に突き刺さった。無益な戦を止めた英雄と、同じ過ちを繰り返したくないと願うその姿、とても感動的だ……だからこそ、我らは団結して先手を打たねばならない」


 これは無駄に血を流す行為ではない。この国を守るための行動を起こさなければならない。レシル王子はそう続けた。


「悲しいすれ違いの末まき起こった戦争とはワケが違う。ラズボイ連邦は自分たちの枯れ果てたクソみたいな大地から南へ逃げ出し、そして我らを追い出そうとしている。そうなる前にこちらから立ち上がらなければならない!」


 火の粉を振り払うように大きく腕を振り上げる。衆目は互いに顔を合わせ、まるで彼の言葉を肯定しているかのようだった。


「時間は待ってはくれないのだ――そして我らには伝説の勇者と同じ異世界人がついている!」


「え?」


 振り上げた腕がこちらに突き出された。それと同時に周囲の視線がこちらに集中して、スプリットくん、サっちゃんにビーちゃん、そしてグウェンちゃんにまでも注目が集まる。


 みんな困った顔をしていた。


「我らの未来は勝利しかないのだ!」


「ちょっとちょっとちょっとまったあ!!」


 いやマジでちょっとまって。レシル王子「演説のジャマするな」みたいな顔やめてちょっとまって。


「なんで戦うみたいな流れになってるの? っていうかわたしたちカンケーなくない?」


「異世界人は卓越したスキルを持つ。それは戦いの先導を担うからだ」


「だーかーらー! なんでケンカしなきゃいけない雰囲気になってるの?」


 そんなわたしの訴えに、レシル王子は蔑んだような笑みで衆目に視線をふりまいた。


「異世界人といえども、どうやら臆病者はいるらしいな」


 一拍おいてささやかな笑い声、そしてそこかしこから「あの食いしん坊ね」などわりかし言い返せないようなささやきが聞こえてくる。でもちがう、今はそんなこと問題にしてるわけじゃない。


「あっちこっちでマモノが出てるんだよ? それをどうにかしないといけないじゃん!」


「すべてラズボイ連邦の仕業だ。ヤツらを叩けばマモノも消え去るだろう」


 なにを意味不明なことを自信満々に語ってるんだあの王子は。


(なんでよ! マモノとあのふたりは別問題じゃん。って言うかなんでぜんぶラズボイのせいにしちゃうわけ?)


「約束しよう。モンスターもマモノたちも我々がひとつ残さず討伐してやろう。そのためには元凶たるラズボイをたたく。そのために異世界人の力が――」


 突然、周囲に地響きが起こった。


(地震? ううんちがう上からッ!)


 わたしが天井を見上げた時、その一角が激しい爆発音とともに破壊され、支えを失ったシャンデリアが堕ちていくのを見た。


「ひっさしぶりだなァ! こんなトコロで会えるとは思わなかったぜ!」


 聞き覚えのある声。白くてボサッとした髪、ツリ目で耳奥まで響くようなうるさい声。


「……スナップ」


 見たくもない存在の姿。わたしはそれをまじまじと瞳に焼き付けた。

まわりを扇動する能力、ほしいよね

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