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ワンだふるワンだーらんど ~異世界でトモダチ100人めざします~  作者: 犬物語
10:好き勝手生きたいと思います
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戦士っぽい侍女

やたら顔は広いスパイク。いったいなにもの?

「めいどさん?」


 貴婦人方とティータイムっていうからどんな人なのかなーと思ってたら、スパイクが言うヴィクトリアはまっしろいテーブルとイスに座ってるおんなの人じゃなくてその傍で立ってるメイドさんのことだったらしい。


「侍女とメイドはちがう。ざっくり言ってしまえば、メイドは城全般的な雑務をこなすに対し、侍女は貴人の傍にひかえ身の回りの世話をする立場だ」


「ん、ズブの素人にもわかりやすい解説だチャールズ。さらに言えば、侍女は貴人見習いである場合が多い。ヴィクトリアは違うけどね」


 そう言葉をかわしつつ足を進めていく。城の中庭に屋根つきテラスのようなものがあり、数人が石畳をクツでたたく音に気づき新しい客人の素性をうかがっている。


 そのだれもが劇画の登場人物のような格好の男性に白い歯をこぼし、オーバーアクションで参上のあいさつをする中年に声をあげ微笑した。


 どっちもスパイクのことだからね? うちのオジサンは居心地わるそうに渋い顔してるだけだから。


「ご機嫌うるわしゅうマドモアゼル」


(うえっ)


 まーたそういう態度。自分でかっこいいと思ってるのかなぁ。


「あらあら、フラーいちの吟遊詩人がおでましよ」


 それでいて受け入れられてるふしぎ。これまたまっしろなテーブルにはお茶菓子が段々重ねになっていて、テーブルを囲む三人の女性の手前には内容量めっちゃ少なそうなティーカップに透明な液体。それぞれほつれなく優美な布生地に身を包みそのうちひとりは植物? の王冠のようなものをあしらっている。


(ってことはあの人がいちばんエラいのかなぁ)


「歴戦の勇士が流した涙。あのうたは今も覚えてるわ」


 イスに座る三人の女性。そのうしろにはあたりまえのように佇む三人の侍女が待機してる。そのうち、王冠をかぶったひとのうしろに立つ女性に視線を向けたまま、スパイクは語り続けた。


「次の物語はこのようなものでいかがかな? ――決して報われぬ恋に堕ちた吟遊詩人と、男の恋心に気づきつつ目を背ける悲しき女性の物語を」


「まあ、今からたのしみだわ」


 貴婦人たちは口元を隠しつつ談笑にふける。その様子に侍女たちも口元をゆるめぇ、あ、ひとりだけ逆にキュッとした人がいたわ。


「……」


「いかがでしょう、今日はわたしと夜の街へ、深淵への第一歩を踏み出してみては?」


(スパイクもマジメな目してるし、これもしかしてばちばち?)


 彼の言葉を自分へのものと受け止めた三人組は、蕩けそうな目で彼の双眸を見つめつつも惜しい声をあげた。


「今夜はパーティーなの。残念だけどそのお誘いは断らざるを得ないわ」


「おぉそうですか、それは残念だ」


 対して残念そうに思ってないかんじ。さては今夜パーティーあると知ってたな?


「それにしてもたくさん連れてきて、いったいなんのごようかしら?」


「大した御用ではありません。ただ仕事上お世話になってる若いのに社会見学させてあげようと思いましてね」


「あらあらおやさしいこと」


「みなさまへの土産話もありますよ? ここにいるカッコ悪い中年こそ、二十年前我らが国を戦争の憂き目から救ったチャールズその人であります」


「あら」


 この時もやっぱりみんなの視線が注がれる。本人は若い世代はすでに忘れてる、とか言ってるけどそんなこと無いじゃん。


(まあでも、確かにミュージアムにはじっちゃんばっちゃんしかいなかったような気がする)


「ところで、そちらの侍女さまをお借りして良いですかな?」


「ヴィクトリアのこと? ああそうね、アナタと彼女は旧知の仲だったかしら――どうする?」


「ご主人様がお許しになるのであれば」


 侍女なのに戦士っぽい服のおんなの人は恭しく目を伏せた。メイドっぽいフリフリのカチューシャだけが侍女っぽさを演出してるけどそれでいいのか。


「やだ、いつものようにエリザベスと呼んでちょうだい。いいわ、いってらっしゃい」


「ありがとう」


 キザったらしージェスチャー。なのにこちらの女性型には大ウケの模様。なぜだ。


 ヴィクトリアさんはただ静かに目を伏せ、顔を伏せそれを礼としてから動きだす。


(……えっ)


 静かすぎない? 足音聞こえないんだけど。


「相変わらず戦士っぽいね。キミに戦闘能力はないはずなのに」


 茶化すような声をまるまる無視してわたしたちをすり抜けていく。そこまできてようやく聞こえる石畳と布擦れの音。プレートに見えた胸の防具はどうやら革製だったらしい。


 豪華なカッコした三人組から離れ、やがて人が寄り付かない隅の隅っこまでみんなして動く。それまでみんな興味深く城を見渡したり、調度品をまじまじと見つめたり、そういった意味ではスパイクの言葉はウソじゃないかもしれない。ヴィクトリアと呼ばれていた彼女が立ち止まり、周囲に人がいないことを確認し、振り返り、スパイクを仇のような視線で射抜き、そして――。


「……何しに来た?」


(えぇぇ)


 嫌悪感マシマシなんですけど?

会いたいひと、場合によっては会いたくないひと

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