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95.特別対策チーム

ホワイトハウス内の会議室で待つこと1時間。

なかなか補佐官は戻ってこないし、お茶も出てこなかったので、さやかが魔方陣を使って一旦自宅に戻り、紅茶を入れてケーキまで冷蔵庫から出してきて持ってきた。


会議室の机で3人でお茶の時間にする。

さやかのお気に入りのお店のケーキだけあっておいしいな。


ティータイムを堪能し終わったころ、補佐官が5人のメンバーを連れて戻ってきた。


「井本君、紹介する。スミソニアン計画のメンバーの中の更にえりすぐりメンバーだ。」


「天文学の担当のジョン・J・タイラーだ」


「ロケット工学担当のエディ・J・リーだ」


「システム工学担当のダニー・ヴァン・マーシャルです」


「「よろしく」」


補佐官は言葉を続ける。


「君たちには詳細は話していなかったが、ここにいる井本君はアバドンの第一発見者であり、今回アバドンを回避させる方法を提案してくれている」


参加メンバーはお互い顔を見合わせでざわざわしている。

まあ光速の10%の速さで接近してくる太陽の1.5倍の質量の星を回避する、なんて言われても信じられないよな。


「このメンバーを中心に、サバイバルチームとは別に特別チームを結成する。既に大統領の了解は得ている」


俺は大統領に説明したのと同じプレゼンを再度実施する。

大統領も了解しているとのことだったので、全員プレゼンは真剣に聞いてくれた。

しかし、説明が終わっても全員半信半疑の様だ。


『橋本さん、皆はどこまで信じている?』


『あまり信じてはいないようです。補佐官自身もまだ半信半疑ですね』


まだ信じてくれていないのは予想の範囲内なので、大規模なデモを実施することにする。


「信じられないかと思いますので、これからデモをご覧に入れたいと思います。部屋の中心に集まってください」


この部屋の魔方陣(絨毯の下に魔法で書いてあるので見えないが)は大きめに描いてあるので、この部屋の全員が同時に移動可能だ。

皆は半信半疑ながらも、言われた通り部屋の中心に集まる。

皆が転移魔方陣に入ったのを確認してから、ロスアンジェルス郊外の砂漠に転移する。

屋内からいきなり暑い砂漠に移動し、補佐官と秘書以外は驚愕していた。


「な、どうしたんだ、ここはどこだ?」


「これが空間魔法の一つ、転移魔法です」


「転移魔法だと? 何をバカなことを。しかし実際……」


ざわざわしているチームメンバーを無視して、俺は言葉を続ける。


「ここはロスアンジェルス郊外の砂漠になります」


システム工学担当のマーシャル氏が携帯電話を取り出し、地図アプリで現在の位置を確認している。


「確かにロス郊外だ」


以前実験で使った魔石はまだそのまま放置してあるので、それをそのままデモに使うことにした。


「あそこに岩山があるかと思います。デモンストレーションとして、この岩山を1Km移動させます。西の方角で、あの辺りです。巨大な質量が移動するので、地面が少し揺れますので注意してください」


何人かが携帯電話で動画撮影を開始していた。

俺が魔法を発動した瞬間、岩山は1km離れた場所に移動した。

同時に地面が揺れる。震度3ってところかな?


「「おぉぉぉ!」」


全員から驚愕の声が上がる。


「では戻りますので、皆さんこちらにお集まりください」


全員を集めると、ホワイトハウスへ戻る。


「どうですか?信じていただけたでしょうか? 現時点でアバドンを回避する方法はこれしかないと考えています」


「信じるよ。現在の科学技術ではクオーク星の軌道を変えるなんてできるわけないから、この魔法が唯一の希望かもしれない」


『橋本さんどうです?皆信じてくれましたか?』


『はい、まだ少し疑念はあるようですが、信じてくれたみたいです』


俺はプロジェクターで資料を映しながら計画を説明した。


 ・ロケット2台を魔石をアバドンの方向と、その逆の方向に打ち上げる事。


 ・宇宙空間で魔石を直径10kmの円形に展開し、転移結界を発動させること。


 ・アバドンをその結界でとらえ、太陽系の反対方向の結界へ移動させること。


 ・転移結界を発動させるのは従魔化した制御装置を使う予定であること。


 ・結界は海王星の軌道の外側、50億kmで展開する予定であること。


 ・太陽系内の移動はスペースZ社の新型イオンエンジンを使う予定なこと。


 ・すでにイオンエンジンとロケットは発注済みで、間もなく完成であること。


「これらを踏まえ、詳細な計画とプロジェクトチームの結成をお願いしたいとおもいます。現時点での詳細資料は後でメールでお渡しします。何か質問はありますか?」


「魔石を詳細に調べたいのだが、サンプルはもらえるかね?」


「既にいくつかのサンプルは秘書のケリーさんに渡してあります。それと、移動魔法を起動するための制御装置もお渡ししておきましょう」


そう言って、俺は事前に準備しておいた魔石水晶発振器を組み込んだ制御装置を取り出して手渡す。


「この制御装置のボタンを押せば転移魔法は起動します。魔石の魔力吸収能力には限界があるので、1日に使用できるのは10回程度です」


「現時点で課題は無いのかね? もちろんロケット打ち上げと50億Kmの距離の移動だけでもかなり困難だとは認識しているが」


「実は致命的な問題があり、解決策模索中です」


俺は移動元の魔石と移動先の魔石の距離を厳密に定める必要があり、その誤差は15cm以下であることを説明した。


しかも、太陽との位置エネルギーの差分をだけでなく、各惑星や銀河の中心との位置エネルギーなども厳密に考慮して位置を決めなくてはならず、現時点ではその方法が見いだせていないことを説明した。


「もし、その誤差範囲を超えるとどうなるんだね?」


「アバドンを移動させるためのエネルギーが魔石の持つエネルギーを超えるため、転移魔法が起動しません」


天文学者のタイラー氏は直ぐにこの意味を理解したようだ。


「なるほど、移動先との位置エネルギーの差を限りなくゼロに近づけないと、膨大なエネルギーを消費することになるわけだね。確かにそれは非常に難しいね」


「あと、アバドンを迎え撃つ魔石群ですが、直径10kmの円に8kmのアバドンを捉えなければなりません。秒速3万Kmで向かってくるアバドンを誤差1km程度で迎え撃たねばならないのですが、こちらも未解決の課題です。こちらでも引き続き方法を考えますが、皆さんの方でも検討をお願いします」


俺はここまで行って、ある提案を持ちかけた。


「皆さんに、もう1名の人、というか、我々のメンバーを紹介したいと思います。皆さん、携帯電話はお持ちですか?」


「あぁ、持っているが」


「では、各自の携帯電話の通話アプリにこのIDの人物を登録お願いします。通話アプリが無い方は、この電話番号を登録してください」


この人物とはメーティスの事だ。


「メーティスという名前で登録できたと思います。彼は人間ではありません。AIです。アバドンやその関連する計画もすべて把握しています。細かな質問や相談は彼と行ってください」


各自の携帯にメーティスから呼び出しがかかる。


「今ご紹介にあずかりましたメーティスです。皆さんのサポートをしたいと思いますのでよろしくお願いします」


「AIだと? 音声は普通の人間としか思えないのだが?」


「はい、AIです」


「メーティスの本体はどこにいるんだ?」


「日本の東京にメインフレームは存在しますが、全世界に分散しても存在しています」


俺は言葉を続ける。


「私の方での状況も全てメーティスが把握しますので、皆さんの得た情報や計画は全てメーティスと共有していただきたいと思います」


メーティスは全世界のデータベースに侵入できるので、わざわざ情報をメーティスに渡さなくても良いのだが、現時点でそこまで言う必要もないしな。

メンバー皆は驚きの連続だからか、しばし無言だった。


大統領補佐官がようやく口を開く。


「今日は驚くことばかりだ。とにかくできるだけ早く行動することが成功確率を上げることにつながる。こちらの方も特別チームを早急に立上げ、アバドン迎撃の準備を開始する。とりあえずいったん解散としよう」


「では俺たちも戻ります。今後ともよろしく。細かな質問はメーティスに投げてください」


そう言うと、俺とさやかと橋本さんは皆の目の前から自宅まで転移する。


自宅に着くとさっそく今日の出来事を整理した。


「さやか、今日の俺たちの行動はどうだったと思う?」


「現時点では最善では無かったかしら? 米国大統領が信じてくれたのは大きいと思うわ」


「そうだな。全世界を巻き込まなくても、米国だけでもロケットの打ち上げと制御までできるからな」


「それにスペースZ社も米国企業だしね」


「うん、橋本さん、大統領を含め、今日のメンバーの心の内はどんな感じだった?」


「はい、半信半疑ながらも信じ始めているようです。やはり大統領の了解を得ていると言った補佐官の言葉が大きかったようですね。米国人にとって大統領の意思は絶対的な影響力があるようです」


とりあえず一番の難関と思われた、俺たちの存在を示すことには成功した。

転生先のこの世界では目立たないようにひっそりと暮らそうと思ったのに、やっぱりこうなってしまったか。

どうせ乗りかかった船だ。最後までつっ走るか。

いよいよ魔法を使ってのアバドン迎撃の特別対策チームが結成されました。

メーティスも加わり、地球を救う唯一の望みであるプロジェクトが始動しましたね。

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