91.第二回アバドン対策会議
二週間後、位置合わせの問題が解決しないまま第二回のアバドン会議が開催された。
今回の議題は、より精度を高めた調査結果の報告と、各国政府関係者への通知タイミングおよび人類を生き残らせる方法についての検討だ。
時間通りに始まり今回もスミソニアン天体物理観測所所長が議長である。
「まずは最新の観測結果から導き出された地球への影響から報告する」
画面にアバドン通過時の太陽系のシミュレーションの動画が映し出された。
アバドンは地球から約1億km近傍を通過。その影響で地球の軌道は近日点は太陽から9千万Km、遠日点は2億2千万Kmの楕円軌道となってしまう。
1年の長さは約18ヵ月となる。
『メーティス。結果は正しいか?』
『ご主人様の予知から導き出された軌道結果とおおむね一致しています』
さすがだな。まあ、全世界の望遠鏡と軌道上の宇宙望遠鏡だけでなく、複数の惑星探査機の望遠鏡まで動員して観測したんだから当然か?
「この結果から、推定される地表気温を算出した結果がこれです」
近日点では、各大陸とも130℃を超える平均気温が示されている。
特に赤道付近は内陸部を中心に200℃を超える箇所もある。
近日点で冬を迎える南半球はまだ少しマシみたいだが、それでも平均気温は南極を除けば80℃と表示されている。
次に遠日点の気温が表示される。
北半球の気温は平均で-70℃。北半球の高緯度地方は-100℃と表示される場所もあった。
赤道付近と南半球は多少マシで、-50℃程度の表示だ。
議長は続ける。
「この結果を持って、気象学者、地質学者、建築学、農業科学の専門家、軍関係者など、幅広い専門家に人類を生き残るための施策を検討してもらおうと思います。我々天文学者にできる事は予測精度をさらに上げる程度です。次回からは人類が生き残るための各種の専門家がメインとなると思います。あとは政治家ですね。皆さんに紹介します。米国大統領補佐官のトニー・C・ハミルトン氏です」
紹介を受けた補佐官は話をする。
「今紹介を受けました、合衆国大統領補佐官のトニー・C・ハミルトンです。トニーと呼んでください。今回の未曽有の危機に関して、すでに大統領に一報を入れており、大統領により明日にでも各国政府に公式に連絡を入れる予定です。
3日後には大統領令により、対策チームが結成され人類生き残りのために最大限の対応を開始します。
なお、本件はまだ不完全な情報であり、パニックを避けるために情報提供先は研究者と政府関係者のみに留め、インターネットやマスコミへのリークは絶対に避けていただくようにお願いします」
この日に決まった項目は以下だ。
①米国大統領の名前で、各国政府にアバドンの警告を発する。
同時に情報を提供する。
②米国政府内に対策室を設置し、対策を米国政府の最優先項目とする。
各国政府にも対策本部の設立を促す。
③アバドンの軌道を変える研究を並行して行う。
④地球環境の激変に生き残るためのに速やかにシェルターの場所を確定し、
建設を開始する。その為の資材の確保も行う。
⑤第三回目以降の会議は、米国内の対策室が主導する。
⑥情報漏れが起こらないように細心の注意を図る。
内容に関しては概ね了承されたが、天文学者側としては③のアバドンの軌道を変える研究に関しては検討する余地もないことを理解していた。
太陽の質量の1.5倍、秒速3万Kmで移動してくる星の軌道を変える事なんて、魔法でも使わない限りできるわけがない。
また参加していた気象学者も絶望的な顔をしていた。
気温だけ見れば何とかできるかもしれない、しかし実際は気温大幅上昇と大幅下降の影響により大暴風雨の発生や竜巻、潮汐作用によるすさまじい高潮など、予想もできないぐらいの災害が発生するだろう。
会議は終了したので、俺はさやかと橋本さんとメーティスと打合せをすることにした。
橋本さんは会議の音声と映像を見てもらっていた。
彼女は知力強化魔法により英語の勉強を進めており、既に英語能力は非常に高くなっていた。
「さて、俺たちの方では、③のアバドンの軌道を変える方法は基本部分は決まっている、④のシェルターに関しても、異世界転移魔法で安全に避難できる場所を提供できる。さらに⑥に関してはメーティスの能力で少なくともインターネット上の情報は隠すことができる」
「そうね、色々問題は山積みだけど、我々は有効な手段を持っているわよね」
「問題は、我々が有する手段に関して公表すべきか、公表するならいつにするかだ」
「私達だけ助かるんだったら、何もせずに大災厄の前に元の世界に転移してしまえばいいだけよね」
「そうだな、この世界の科学技術の知識と各種武器や装置類などを持ち込めば、前世の世界でもかなり有利に過ごせるしな」
「でも、それを良しとはしないわよね」
「そりゃそうだ。この大災厄を避ける手段を持っているんだから、80億人の命を見捨てる選択は無いよな」
「でも、太陽系外まで大量の魔石を運ぶ宇宙ロケットなんて、我々だけでは対応は無理よね。しかも早く建設を開始しないと間に合わなくなるわ」
「そうだな。少なくともアバドンを迎え撃つには、直ぐにでも準備を開始しないと間に合わなくなる。よし、さっきの大統領補佐官、トニーだけっか? 連絡を取ってみよう」
『メーティス、トニーの連絡先を探ってくれ』
『了解しました』
主人公はついに宇宙空間でアバドンを迎え撃つことに決めたようですね。




