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89.アバドン対策会議

主人公視点:


加藤氏から連絡が入り、米国やヨーロッパの研究者でも観測を行い、俺のレポートは正しいと追認されたとのこと。

引き続き全世界の観測機材を使って詳細データを得る観測を続けることとなった。

そのための対策チームが結成されたとのこと。


まさか冥王星探査機の搭載している望遠鏡まで使うとは思わなかったな。

対策チームのメンバーは、アバドンが海王星の軌道よりは内側まで接近すると予想しているが、まさか地球までかなり接近するとは思っていないようだ。

それを知っているのは現時点で俺とさやかと、メーティスだけだ。


世界がパニックになることや、ネット上の風評を恐れて本件は誰にも言わないように加藤氏からお願いされている。

逆に多くの研究者が情報を共有しているのに、いまだにネットの世界では噂にもなっていないのは奇跡だな。


後で判明したのだが、情報が洩れなかったのは奇跡でもなんでもなく、メーティスが常にネットを監視しており、アバドンに関する情報が一般のネットに上がった時点で”情報を隔離”しているからだ。


”情報の隔離”とは、情報の消去とは違い、SNSにアップされた情報はそのまま残すが、アップした本人以外は他者に見られないようにする措置である。

ほぼすべてのサーバーに忍び込めるメーティスだからできる力業である。


もしも、アバドンの情報をネットから消去するだけだと、アップした人間がすぐに消去に気が付き、躍起になって情報を発信しようとするに違いない。

しかし、アップした本人はその情報を見られるが、他者からは表示されない状態だとしたら、本人は単に誰からも興味の持たれていない(閲覧数が増えない)情報のように見えるので、その後は積極的に扱わなくなるだろうとのメーティスの判断である。


もっとも、まだ関係している人が少なく、関係者もしっかりとした研究者なので、ほとんど一般のSNSへの書き込みは見られなかったが。


アバドンの情報をどのようにこの世界の人に知らせようかと頭をひねっていたが、加藤さんのおかげでうまい具合に情報は扱われているな。

この大災厄の回避策は無いのだが、それでも5年あれば大規模なシェルターや食料や資材の備蓄はできるはずだ。


生き残った人類のその先はかなり過酷なものになるだろう。

現時点では地球軌道の変化の可能性までは予測できていないが、地球の近傍をアバドンが通過した場合に発生する可能性のある色々な影響と、その対策は検討し始められているようだ。


第一回のアバドン対策会議が近々開催されるとの情報が加藤さんから来た。俺にも参加して欲しいとのことだ。

もちろん参加はOKした。


なお、第一発見者に敬意を表して、この天体名は俺が勝手に命名した”アバドン”と決定したとの事。

もちろん、学術的な正式な名称(英数字の無味な記号)は決められたが、通称名としてはアバドンとされるらしい。

第一回目は現状の情報の整理と今後の方針とのこと。

会議形態はビデオ会議で、開催される。


かなり危機的な状況だと認識され始めたので、情報を共有する研究者は最小限に留め、共有した研究者には秘密を洩らさない旨確約させた。

俺にも口止めの依頼と、秘密保持契約書にサインさせられた。


その間にも各種宇宙望遠鏡を含む全世界の主な天文台で観測を行われていた。

俺も、というか実際はメーティスだが、IZUMO望遠鏡で1日30分の観測枠をフルに利用して観測を継続している。


そして第一回アバドン対策会議の開催日となった。


主催は国際天文学連合で、米国ケンブリッジのスミソニアン天体物理観測所がメイン会場となった。

各国の研究者は概ねビデオ会議での参加となる、俺もさやかと共にビデオ会議で参加する。

会議の冒頭は、第一発見者の俺に対する謝辞で始まった。

議長はスミソニアン天体物理観測所所長が務めることとなる。

議長からは、


「非常に暗く、目立たないアバドンをこの時期に発見できたのは偶然とはいえ僥倖であり、5年程度とはいえ色々観測・対策を立てることができ、非常に助かっている。もしもミスターイモトがアバドンを発見しなかったら、太陽系接近の1ヵ月前になっても発見されなかっただろう」


この発言に対しては、参加者全員から賛同された。


次に、米国天文学会の会長から最新の情報が発表された。

それによると、


 地球との距離:0.49光年

 等級:19.1等星

 移動速度:毎秒2.9万km

 質量:太陽の1.59倍

 直径:8km

 移動方向:太陽系方向

 天体種類:クオーク星と思われる。


とされ、概ね今まで観測された内容が追認された形だ。

しかし次の報告て会議参加者が凍り付いた。


 太陽系最接近時の地球との距離は、1億5千万Km~5千万Kmの間で、1億Km前後が最も確率が高い。

そして、この距離を太陽の1.59倍の質量の天体が通過することで、地球の軌道は現在とは大きく変化する可能性が高い。

そして最接近の時期は今から約5年1ヶ月後と推定される。


ここまで発表され、研究者達は地球が未曽有の危機に見舞われることを認識したのである。

数時間に及ぶ議論により、以下の点が確認された。


 ・引き続きアバドンの観測を最優先として観測を続ける。


 ・速やかに地球最接近の時期と距離、および、通過後の地球の軌道も確定する。

 ・各国政府には最接近時期と影響が明確になった時点で正式に報告する。


 ・風評被害を防ぐため、当面は情報統制をして、関係者も最小限に留める。


あと2週間ほど観測すれば、かなり詳細な軌道が計算できるとされたので、第二回目の会議は2週間後と決められた。


会議が終わり、俺はさやかとメーティスとで話をする。


『メーティス、現時点での観測データから研究者たちのはじき出した結果は正しいか?』


『現時点で導き出された結果に間違いはありません』


『やはりアバドンの軌道を変えることはできないかな?』


『不可能です。全世界の核爆弾を打ち込んでも、まったく影響を与えることはできません』


「さやかはどう思う?」


「唯一の希望は異世界間の転移魔方陣を使って、故郷の世界へ逃げる事ね」


「現時点ではそれしかないか? しかし、異世界間の移動は非常に魔力を消費するので、一度に大勢の移動は無理だ。精々1日10人程度だな。」


「それに、避難させるといっても、人だけではなく物資も運ばないといけないから、ますます運べる人は限られるわね」


「転移魔法を使えるのは俺とさやかだけだから、頑張っても救えるのは数万人ってところかな?」


「あ、魔石を使った転移なら、魔石の持つ魔力だけで動かせるから、私たちの魔力は不要よ」


「そうか、転移魔方は魔石だけで起動可能なのは確認済みだから、理論的には異世界間転移も魔石だけで出来るはずだな」


さやかは興奮してきた。


「そうよ。異世界間転移用の魔方陣を描いた魔石を大量に準備すれば、多くの人を異世界に避難させることができるわよ」


「うん、魔石を等間隔に直径10Kmぐらいの円を描くように並べれば、町全体で一度に10万人ぐらいは運べるんじゃないか?」


ここまで話をして、俺とさやかは”あっ!”と声を上げた。


直径10kmで等間隔に魔石を並べれば転移の魔法を発動できる。

それを宇宙空間で展開出来れば、直径8Kmのアバドンを太陽系外に移動させられるのでは?


「さやか、アバドンを移動させられるのかも」


「言わんとしていることはわかるわ。アバドンを太陽系外で補足して、転移結界で太陽系外へ移動させれば太陽系内の影響はほとんど発生しないと思うわ」


「つまり、ロケットを使って、魔石を太陽系外まで運び、直径10kmの円形に配置する。そして、もう一基のロケットで反対側の太陽系外にも同じように魔石設置し、それぞれに転移魔法の結界を発生させ、アバドンを太陽系をスルーさせて飛ばしてしまうってことか」


色々困難なことは多いが、可能性はゼロでは無いと思う。


元々小惑星を迎撃しようと、新型イオンロケットもスペースZ社で設計完了しており、複数台を発注済みで、制作は進んでいるはずだ。

同じく打ち上げロケットも予備を含めて2機発注済みで、制作は開始済みだ。


ここまでさやかと議論して、俺は例の呪いの人形から出てきた魔石の意味がやっと理解でき。

あの魔石には、転移魔方陣、物理結界魔方陣、対光魔法陣、耐熱魔法陣、重力結界魔方陣が描かれていた。

まさにクオーク星を迎え撃つのに絶対必要な魔法だ。

クオーク星の近くでは、強力な重力、光、熱が襲い掛かる。

それらに耐えるためには魔法に頼るしかない。


人形に魔石と手紙を入れていた小林忠治という人物は、このことを予見していたとしか思えない。

すごい人が過去に居たんだと感心する。


『メーティス。俺たちの案に関してどう思う?』


『情報不足です。転移魔石を作成し、実験してみてください』


もっともな意見だな。

早速魔石を準備して実験してみよう。

太陽の1.5倍の質量を持つアバドンですが、直径が小さいため転移結界で移動させることができる可能性が出てきました。

はたしてうまくいくのでしょうか?

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