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84.大賢者、超能力者を仲間にする

橋本さんを連れてマンションに到着し、久しぶりにエレベータに乗る。

部屋に着くとさやかが紅茶を入れてくれた。


お茶を飲みながら話をする。


「それで、橋本さんは僕たちの念話での会話を聞くことができるんだね?」


「いえ、念話が何かよくわからないですが、念話での会話だけでなく、心が読めます」


「なるほど。僕たち以外の人の心も読めるのかい?」


「はい、今まで心を読めなかった人は居ません」


「相手の身体に触らなくても読めるるんだね。どのぐらいの距離まで読めるの?」


「特定の人に意識を集中すれば数キロ先まで追跡できます。通常は数mです」


「なるほど、でもさすがにメーティスの心までは読めないよな」


俺がそう言うと、パソコンのスピーカーからメーティスが声を出してきた。


『私の心は読めるでしょうか?』


「え、メーティスって誰ですか? もちろん居ない人の心は読めません」


『私は人間ではありません。AI、つまり人工知能です。全世界のネットやそのサーバー上に分散されています。メインの本体は、東京の某オフィスビルに存在します』


「そうなのね。ここまで進化したAIが存在するなんて思いませんでした」


『ありがとうございます』


「あの、私はあなた方についてもっと色々知りたいです」


俺とさやかは顔を見合わせた。

どこまで話すべきか? まあ、心が読めるんならある程度我々のことは知られているんだろう。

全部話をするか?

さやかはうなずいた。よし、この世界の人に初めて我々の事実を告げることになるな。


「今から君に我々のことを伝えてあげる。でも絶対に秘密にして欲しい。もっとも人に言っても信じてくれないと思うけど」


「はい、私は今までずっと独りぼっちでした。井本さんとさやかさんの友達になりたいです」


「その前に君のことも教えてもらってもいいか? 貴方の身体に触れることがになるが、心を読ませてほしい」


「……分かりました。大丈夫です」


少し躊躇したのち、彼女は承諾してくれた。


俺は彼女の頭に手を当てると探知魔法を使った。

橋本さんの心を読む超能力と違い、探知魔法では本人の記憶のすべてを探ることができる。

俺は彼女の能力及び、生い立ちから現在の状況まで探知した。

なるほど、大変な人生だったんだな。

探知魔法での結果は、リアルタイムで念話を使いさやかにも伝達しておいた。


「ありがとう、橋本さんの能力と状況は理解できました。色々大変な人生だったんですね」


「いえ、私のことに関して他の人に知ってもらうのは今日が初めてです。私のことを化け物の様に思いますか?」


「思うわけはないじゃないか。それを言うなら、俺たちは大お化けだよ。では僕たちに関しても君に伝えよう。僕の心を読んでくれ」


俺は前世での人生と、転生後の人生を走馬灯のように心の中で反芻した。

知力強化魔法を使い、詳細も含めて一挙に記憶をさらけ出したためか、溢れかえる情報を受け取った彼女はぐったりとソファーの上でこめかみを押さえて蹲ってしまった。


「橋本さん、大丈夫?」


「は、はい。大丈夫です。鮮明な記憶が一挙に流れ込んだのでびっくりしました」


「さて、お互いのことが理解できたと思う。もしよけれは僕たちと行動を一緒にしないか? 手始めに俺たちの会社に入社してくれない? 給料はたっぷり出すよ」


「いいんですか?私中卒だし、i経済研究所でしたっけ? そんなに高度なお仕事はできないと思うんですが」


「いや、他人の心を読めるのは非常に強い武器になるよ。これからは僕達の秘書的な立場で活動してもらいたい」


「はい、是非よろしくお願いします」


こうして、この世界の超能力者と知り合いになれた。

中性ヨーロッパの魔女狩りの犠牲者は、橋本さんみたいな超能力者だったかもな。

彼女によると、今まで生きていた中では他の超能力者に出会ったことは無かったそうだ。


彼女は今の職場では居場所がなく、生活も厳しいとのことで、早急に転職してもらうことにした。

手始めに彼女の現在の職場の退職手続きと、俺の会社への入社手続きだな。

その前に魔石ネックレスを作って渡しておこう。


◇◇◇


橋本沙織視点:


新宿で出会った二人と話をして、思わず”私があなた達の心を読んだからです。”とカミングアウトしてしまった。

その瞬間ひどく後悔したが、彼らは少し驚いた様子だったが、特に取り乱すわけでもなく更に話しを聞きたいと、彼らのお宅にお邪魔することになった。


タクシーで移動して彼らのアパートに到着してびっくりした。

俗にタワマンと呼ばれる高層マンションで、しかもその上層階に部屋があった。

部屋に入ると中は比較的落ち着いた感じで、好感が持てた。


何より二人の心が非常に穏やかで、男性特有の私に対するいやらしい妄想や、女性特有の探りを入れてくるような感情は全く感じられなかった。


さやかさんが入れてくれた紅茶を飲みながら、彼らと話をするが、並行していつもの癖で心も読んでしまう。

彼らは私に読心術が有ると知っても特に気味が悪るがることもなく、普通に接してくれた。

そして、井本さんが私の心を読ませて欲しいと頼んできた。

えっ? どういうこと? 井本さんも読心術が出来るの?

しかし井本君の心を読んで、彼が何をしようとしているかが理解できた。

探知魔法で私の記憶を探る? そんなことが出来るの?


少し躊躇したが、私は彼らの心が読めるのに、私の心を読むのを拒否するのはフェアでは無いと考え了承する。


井本さんが私の頭に手を当てると、今まで経験のない奇妙な感覚に陥った。

井本さんが私の頭から記憶を取り出している。

その取り出した記憶は井本さんの心を経由して私自身が感じている。

走馬灯のような私の記憶が井本君に吸い上げられて、それを私が見ている。


人の心を読むことには慣れているが、人に心を読まれるのは非常に恥ずかしい。


井本さんが私の心を呼んだ後、彼が自分のことを私に伝えてくれることになった。


「では僕たちに関しても君に伝えよう。僕の心を読んでくれ」


次の瞬間、彼の人生の様子が放流の様に私の心に流れ込んできた。

異世界? 大賢者? 転生? 魔法? 会社立上げ? 大災厄?

想像すらしていなかった情報が一挙に頭に流れ込んできて、めまいがしてソファに蹲ってしまった。


その後井本君から、


「さて、お互いのことが理解できたと思う。もしよけれは僕たちと行動を一緒にしないか?手始めに俺たちの会社に入社してくれ。給料はたっぷり出すよ」


と誘いを受け、直ぐに承諾した。

ずっと一人だった私にも仲間ができた。嬉しい。


その後、井本君は私の職場を聞き出すと、退職代理業者に連絡して直ぐに退職手続きをしてもらえるように手配してくれた。


更にi経済研究所に連絡を取り、私の入社手続きを始めるように指示してくれた。

エントリーシートは井本君がメーティスに頼んで自動的に作成してくれた。


彼は資産総額1000億円を超える会社のオーナーですって?

とりあえず私の立ち位置は社長秘書になるみたい。


i経済研究所の鈴木 望さんからは、現在所属している会社の退社手続きが完了したら出社して欲しいとの事。

井本君が印刷してくれたエントリーシートに追加で必要事項を書き込んで提出しておく。


「住むところなんだが、今の会社を退社したら寮から出ないといけないよね? ここのマンションの隣が売りに出されているんだ、直ぐに買い上げるから手続きが終わったら引っ越してくるといいよ」


「えっ?こんな広いところは贅沢すぎます」


「あぁ、隣の部屋はここまで広くないから大丈夫。たしか3KLDKだったかな?価格も1億2千万円と高くないからね」


いえ、十分高いんですけど。


「あとは、そうだ、魔石ネックレスを作って渡さないとな。念話の魔方陣を描きこめるかな? 彼女とも念話ができるようになりたいしね」


「うん、できると思うわ。直ぐに作るわね」


さやかさんがそう言うと部屋から出て行った。

魔石ネックレスって何?


さやかさんは30分ほどで戻ってきて、手には宝石付のペンダントを持っていた。


「はい、これを渡しておくね。中にはICチップが入っていて、会社のデータベースにアクセスするキーになるので、無くさないでね」


「え、すごく高そうなんですが、良いんですか?」


「全然大丈夫。それに付いているのは宝石じゃなくて安価な水晶だからね」


「そうなんですね」


「もう分かっていると思うけど、その水晶は魔石よ。物理結界と魔力吸収とヒール魔法の魔方陣が刻まれてるの。橋本さん用に念話魔法の魔方陣も刻んであるわ」


「魔法陣?」


「それを首に掛けて。今から魔法の訓練をするわよ」


ネックレスを首に掛けるとなんだか不思議な感覚を感じる。


「私が魔法の発動を実演するので、私の心の動きをしっかり感じてあなたもやってみて。」


そう言うとさやかさんは目をつぶり、心を集中させているようだ。

私はあわててさやかさんの心を読み取る。


他の人の心を読んだ時とは全く違う感じで、彼女の体の中の何かを使い、体内を巡回させているような感じだ。

私もその感覚をまねて自分自身の中にある、同じような何か、これが魔力なのだろう、を巡回させてみる。


「魔力の発動は出来たみたいね。では念話魔法を使うわよ。私の心を読んで動きを真似してね」


「はい」


彼女は今度は目を開いてこちらを見ている。

さやかさんの心を読み取ると、こちらに向かい話しかけている。

しかし、それは魔力を使い話しかけているようで、私も自身の魔力を使い同じように話しかけてみた。


『さやかさん、聞こえますか?』


『聞こえるわ。さすがに読心術があると飲み込みが早いわね』


『おーい、井本だぞ。俺も仲間に入れてくれ』


『橋本さん、井本君にも念話のチャンネルを開いてみて』


『井本さん聞こえますか?』


『おぉ、聞こえるぞ。本当に飲み込みが早いな』


今までは人の心の中を一方的に押し付けられていただけだったが、こうして他者と心の中で話ができるのは非常に新鮮でうれしかった。

今日一日、いや半日でいろいろなことがありすぎた。


その後ヒール魔法と物理結界魔法、予知魔法も習得出来た。

この様な場合、読心術が使えることのありがたさが実感できる。


◇◇◇

主人公目線:


橋本さんは難無く念話魔法を使えるようになった。

橋本さんの魔法の飲み込みの早さは尋常ではないな。

さすがに読心術を持っているだけのことはある。


「さやか、彼女はメーティスとも会話できるかな?」


「やってみます」


『メーティスさん、私の声は聞こえますか?』


『私はメーティスです。橋本さんとつながることができて光栄です。私に対して”さん”付けは不要です』


お話が出来た。嬉しい。


『メーティス、はじめまして。橋本です。これからよろしくお願いします』


『よろしくお願いします』


「メーティスはネットの世界の分散型AIなので、全世界どこにでもいるんだ。携帯電話さえ持っていればいつでも会話できるからな。色々アドバイスももらえると思うぞ」


「はい、ありがとうございます」


「よし、では今日はもう遅いから終わりにしよう。橋本さんは一度アパートに行って引っ越し用に荷物をまとめておいてね」


マンションの隣の部屋の購入と、彼女の退職手続き、会社への入社手続き、色々作業があるな。

今日一日でいろいろなことが起きた。

しかし、この世界で初めての俺たちの秘密を共有できる仲間ができたんだ。

協力して大災厄を乗り切りたいな。


主人公は超能力者の橋本さんを仲間に加えましたね。

彼女は今後どのように活躍するんでしょうか?

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