83.大賢者、超能力者に出会う
橋本沙織視点:
私は橋本沙織、18歳。
清掃関連の派遣会社に登録して、ビルの清掃のお仕事をしている。
派遣会社が寮として、ボロだけどアパートを貸してくれているので、生活ぎりぎりだけど生きていけている。
できる限り人と関わらないように生きていきたいが、なかなか難しい。
実は私は超能力者で、人の心を読むことが可能なのだ。
読むことが可能というレベルではない、人の心の中が意識せずとも流れ込んでくるのだ。
これが原因で、まともな人生をおくれていない。
物心ついた時から近くにいる人の心を読むことができ、そのため周囲には気味悪がれていた。
両親にも気味悪がられて、幼いころに両親に捨てられ、祖父母の家に追いやられていた。
ようやくそのころに、私以外の人間は人の心を読めないことが理解できた。
そして人の心を読み取り、それを指摘すると気味悪がられることも理解できた。
それ以後は人の心を読めることはひた隠しにしていた。
しかしそれでも限界があり、小中学校では人間関係がうまくいかなくなり、高校に進学した後は完全に孤立してしまった。
人間なら心の中と言動は一致しないことは多々ある。もちろん私の友達や先生も例外ではない。
しかし、思春期の女の子にとっては人間の本音が筒抜けにわかってしまう状況は辛かった。
その当時はまだ他人の心を読むことをブロックする能力がなかったので、相手の人の言葉での発言と、心の声をごっちゃになってしまい、会話が成り立たないこともあった。
当然人間関係がぎくしゃくしてしまい、しまいには酷いいじめにも会うこととなった。
メンタルが持たなくなり、高校1年で中退してしまった。
そのころには祖父母にも邪険に扱われ始め、家を飛び出すように東京に出てきて、安アパートに住んで、飲食店やコンビニのアルバイトなどで生活していた。
どこの職場でも人間関係がうまくいかなくなり、一つの職場で長く働けなかった。
一番うまくいったバイトは、たまたま求人にあった占いのお店の仕事だった。
私が若くて、顔も整っていたので面接は一発でOKで、数時間のレクチャーの後、すぐに占いの店に出された。
最初は不慣れで客を怒らせたり失敗したが、数日で慣れてきた。
さらにレクチャーされた内容を自分でアレンジして、最初に客に0~100の数字を心に浮かべてもらい、それを当てるというパフォーマンスを行うことで客の心をつかみ、さらに客の心を読んでどのような回答を欲しているかを判断して、客の希望に近い回答をすることにより、客を喜ばせることができた。
数か月後には行列ができるほどの人気ぶりで、歩合制だったこともありかなりお金を貯金できた。
しかし、近くの占いのお店の人に妬まれて嫌がらせをされたり、余りにも占いが当たるので訝しがる人が現れ、雑誌などでも注目され始めたので辞めざるを得なくなった。
結局、今所属している清掃関連の職場が一番楽だったので続けていられた。
清掃は基本は一人で行うので、同僚に気を使わなくていい。
清掃中はあまり人も近づいてこないし、帽子とマスクで顔が隠せるので、男性にもあまり興味を持たれない。
かれこれ1年は続けられていた。
仕事中は一人が多かったが、朝夕のミーティングや、週一回の会議には顔を出さねばならず、これが苦痛だった。
若くて整った顔のためか、職場の若い男性はもちろん、年配の男性までが卑猥な妄想をしながら声をかけてくる。
だいぶ慣れたとはいえ、非常に不快であり苦痛だった。
男性だけでなく、高校を中退して働いている私に同僚のおばさんも興味があるのか、声をかけられることが多く、コミュニケーションをとるのが苦痛だった。
当然友達と呼べる人はおらず、いつも一人で昼食をとり、帰りも同僚の誘いは全部断って一人で帰っていた。
その日も朝のミーティングで、今夜の飲み会を断ったところ、皆から白い目で見られ居たたまれなくなって逃げるように清掃場所のビルに向かった。
そろそろこの会社も辞職して、次の会社を見つけなくちゃ。
慣れているとはいえ、ようやく落ち着いてきていたのに疲れるな。
その日の作業を終えて、派遣会社の事務所から重い足取りで出てアパートに向かう。
私はこれからもずっとこんな感じで孤立して生きていかなくちゃいけないんだろうか?
そんなことを考えながらとぼとぼ歩いていると、大学生位の男女が道端で周囲を見渡していた。
何の気なしに心を読んでみる、というより二人の心が勝手に流れ込んでくる。
二人で会話をしていると思っていたが、二人の口は動いていない。
しかし、明らかに二人は会話をしている。
『さやか、この辺りも大災厄時は酷いことになっているな』
『そうね。高潮? もしくは大雨による冠水? で膝位までの洪水が発生するみたいね』
『うん、やはり東京の地下街をシェルターにするのは難しいな』
『メーティスはどう思う?』
『この洪水は津波ではなく高潮の影響の様に思われます。高潮プラス豪雨の相乗効果と思われます』
『ということは、全世界的に海岸線沿いの標高の低い場所はシェルターには向かないってことだな?』
『そうなります。標高30m以上は必要と考えます。また豪雨に襲われますので、河川の近くも危険です』
その様な会話が私の心に流れ込んでくる。
私の心臓は早鐘の様に早くなった。
私と同じ能力を持った人に初めて出会えた。メーティスって人物が誰なのか分からないけど、少なくともこの二人は人の心が読める。
私は二人に近づき、心で二人に話しかけてみる。
『あなた達は人の心が読めるんでしょう? 私の心が読めたら返事して』
しかし、二人は全く反応を示さず、会話に夢中の様だった。
その内、移動し始めたので慌てて追いかける。
二人を追いかけて後ろを歩いていると、声が聞こえた。
『お二人の後を誰かが尾行しています』
この声は直接聞こえたわけではなく、何らかの声が二人の心を通じて流れ込んで来たのだ。
二人は同時に後ろを振り返り、私と目が合った。
『さやか、この子は誰? 知っている人?』
『知らないわ。井本君の知り合いじゃないの?』
「君、誰?」
井本と呼ばれた男性の方が話しかけてきた。
歳は私と同じぐらいかしら?
勇気を出して話をしてみる。
「あ、えっと、私の心の声は聞こえなかったんですか?」
「え? 何を言っているんだか分からないんだけど」
「あなた達お二人は、心の声で会話してましたよね? メーティスって人も会話に加わってました。なら、私の心の声も聞こえると思うんですけど」
男女二人は顔を見合わせた。
「なぜ君はメーティスの名前を知っているの?」
「それは、それは、私があなた達の心を読んだからです」
◇◇◇
主人公視線:
俺とさやかは大災厄を生き延びる方法を探るため、東京の街の大災厄時の状況を確認しながら街を予知魔法を発動しながら散策していた。
地下街をシェルターとして使えるのではないかと考え、大きな地下街のある新宿の街で、大災厄の最初の夏の様子を予知してみると、街は水没してようなイメージを得た。
メーティスの意見だと、高潮と豪雨による洪水らしい。
ここまで水位が高いと、かなり厳重に水対策をしないと地下は水没するな。
そんな話をしながら歩いていると、メーティスが話しかけてきた。
『お二人の後を誰かが尾行しています』
俺たちは反射的に同時に振り向いてしまった。
そこには俺たちより5mほど離れて、目鼻立ちの整った女性が立ち止まってこちらを見ていた。
年齢は俺たちと同じぐらいかな?
『さやか、この子は誰?知っている人?』
『知らないわ。井本君の知り合いじゃないの?』
俺は彼女に声を掛ける。
「君、誰?」
彼女が答えた。
「あ、えっと、私の心の声は聞こえなかったんですか?」
「え? 何を言っているんだか分からないんだけど」
「あなた達お二人は、心の声で会話してましたよね? メーティスって人も会話に加わってました。なら、私の心の声も聞こえると思うんですけど」
なぜ彼女がメーティスの名前を知っているんだ?
この名前は俺とさやかしか知らないはずだ。
『メーティス。お前の名前を俺たち以外は知らないよな?』
『はい、知られていないはずです』
俺は彼女を探知魔法で調べたが、魔力は有していない。
「なぜ君はメーティスの名前を知っているの?」
「それは、それは、私があなた達の心を読んだからです」
俺はそれこそ驚愕した。
彼女からは魔力は感じられないのに、念話ができるのか?
いや、念話は携帯電話の様に特定の人と話す魔法であり、周囲にいる人全員に筒抜けになるわけではない。
仮に彼女が念話魔法を使えるとしても、我々の念話を聞くことはできないはずだ。
探知魔法で心を探るという手もあるが、これは相手の頭に手を近づけるか、手を当てるかて初めて探知可能である。
しかし彼女は俺たちと数mは離れていた。
俺は彼女と詳しく話を聞くことにした。
「僕たちの心が読めるの? 僕たちの名前を言ってみて」
「井本史郎さんと佐藤さやかさんです」
「君の名前は?」
「橋本沙織といいます」
「もしよければ詳しく話を聞きたいんだが、僕たちの家に来ない?」
「えっ?いいんですか?」
「あぁ、別に構わない。俺の名前は井本、彼女は佐藤さやかで、東京大学の1年生だ」
「私は橋本沙織です。派遣社員です。」
「よし、じゃあ行こう」
ここから会社の事務所が近いので、いつもなら会社の屋上の魔方陣から家まで跳躍するのだが、さすがに橋本さんを跳躍させるわけにはいかないので、タクシーでタワマンまで向かうことにした。
主人公は超能力者に出会いました。
彼女は今後重要な役割を担います。




