76.大賢者、貧民の子供を救う
タクシーでセブ市中心街のショッピングモールまで行ってもらい、降ろしてもらう。
周辺を歩いて散策してみる。
南国の雰囲気はあるけど、ごちゃごちゃした街並みだなぁ。
一応歴史あるっぽい教会もたくさんあるんだな。
巨大モールのある周辺の街並みは綺麗なんだが、ちょっと路地に入ると様相が変わるな。
やはり貧富の差は大きいみたいだ。
前世の世界でも貧富の差が大きかったが、こちらの世界でも国によっては前世と同じくらい貧富の差があるみたいだな。
路上で商売らしいことをしている子供もいる。
ぼんやりそんなことを考えながら散策していると、怒鳴り声が聞こえ、車から出てきたドライバーが10歳ぐらいの男の子をぶん殴っていた。
殴られた男の子はブロック塀に頭をぶつけ倒れこんだ。
俺は慌てて男の子に駆け寄るが、殴ったドライバーはそのまま車に乗って行ってしまった。
男の子は頭から血を流しているが、意識はあるみたいだ。
「おい、君、大丈夫か?」
「あ、ああ。大丈夫だ。頭が痛いけど、お金稼がなくっちゃ」
男の子は立ち上がろうとするが、頭を打った影響か、ふらふらしている。
「俺はおまじないが使えるんだ。内緒にしてくれるんならケガを治してやるぜ」
「はぁ? あんた何言ってるんだ? 治せるんだったら治して見せろよ」
「まかせろ」
周囲を見渡すと、車はたくさん走っているが、歩行者は居ないし、こちらを見ている者もいない。
俺は男の子に手をかざすとヒール魔法を掛ける。
男の子の頭のケガはたちまち治る。
男の子は不思議そうに立ち上がると、頭に手をやる。
「あれ? 本当に怪我が治ってる? あ、足の痛みも無くなってる?」
「なんだ? 足もケガしてたのか?」
「そうなんだよ、あ、いや、そうなんです。半年前に事故にあって、左足がうまく動かなくなっちゃってたんです。でも、あれ? 治ってる?」
「そうか、良かったな」
「あにき、スゲーな。あんた魔法使いか何かか?」
まあ、魔法使いなことは間違いないな。
「ハンドパワーってやつさ。内緒だぞ。誰にも言うなよ」
「あにきは恩人だよ。誰にも言わねーよ。あ、いや、言いません」
「俺はセブ島へは初めて来たんだ。お駄賃あげるから案内してくれないか?」
「おぉ!いいぜ。まずはどこから行く?」
「こっちのお金を使い切っちゃたから、まずは両替屋だな。その後うまい飯屋に連れて行ってくれ」
「任せな。両替屋はこっちだ。俺の名前はサミー。よろしくな」
「俺は井本だ。よろしく」
街角にある小さな両替屋に案内され、そこでドル札を現地通貨に替える。
まあ、200ドルも両替すれば足りるだろう。
「さんきゅ。次はうまい現地料理屋に案内してくれ。飯はおごってやるぜ」
「おぉ、いいぜ。ちょっと高いけど、地元で美味しいって有名な店に案内するぜ」
しばらく歩いて、いかにも現地のレストランっていう感じのお店に案内される。
観光客っぽい人は居なくて、現地人ばかりだ。
サミーのお勧め料理を頼んでみる。チキンの料理とお米だが、素朴な感じだがうまい。
サミーも同じものを頼んでうまそうに食っている。
「おい、こいつはなかなかうまいな」
「だろ?これはチキンアドボって料理なんだ。昔は時々食えたんだけど、もう半年以上食ってなかったからありがたいぜ」
「ああ、価格も高くないし、いいな」
「あの、もしよければだけど、妹も腹をすかして家で待ってるんだけど、妹の分をテイクアウトしてもいいかな?」
「妹がいるんだな。いいぜ。っていうか親はどうしているんだ?」
「親父とお袋は半年前に交通事故で死んだんだ。俺と妹も一緒に巻き込まれたんだけど、俺たちはケガだけで済んだんだ」
事情をさらに聞いてみると、乗り合いバス(現地ではジプニーというらしい)で家族で出かけた時、ジプニーが崖から転落し、両親は投げ出されて即死。
サミーと妹のマリカは大怪我をしたがなんとか助かった。
両親が亡くなったサミーとマリカは遠い親戚に身を寄せることになった。
僅かばかりの補償金が出たが、全部親戚に取られてしまい。その後は追い出されてしまったらしい。
今はスラム街で妹をケアしながら、路上で車の窓ガラスを拭いたり。金属ごみを集めて売ったりしながら生活しているとのこと。
「よし、じゃあチキン料理をテイクアウトして妹の所に行ってみるか」
「兄貴、恩にきるぜ。住んでいるところはこっちだ」
レストランでチキン料理をテイクアウトし、サミーの案内で近くのスラム街に入る。
ごちゃごちゃしたスラム街をしばらく行くと、掘っ立て小屋の狭い一室の粗末なベッドにサミーの妹が横なっていた。
彼女は右手と左足が無かった。
「俺の妹で8歳、マリカって名前です」
「マリカの手と足は事故で無くしたのか?」
「そうなんだよ。本当は切らなくても良かったみたいなんだが、治療費が無くて、結局切断する羽目になっちまったんだ」
「そうか」
「ほら、飯を持ってきたぞ。こっちの兄貴が奢ってくれたんだ。お礼を言え」
マリカは料理を見て嬉しそうに笑顔を見せると、お礼を言ってきた。
「ありがとうございます」
「いいよいいよ」
マリカにとっても、久しぶりのごちそうみたいで、おいしそうに食べていた。
マリカが食べ終わるのを待って、俺はサミーに聞いてみる。
「俺のまじないで、マリカを治せるかもしれないが、内緒にできるならやってやるぞ」
「え? 治せるの? もちろん誰にも言わないって約束するけど、本当に治るの?」
「ああ、完全に治せるぜ。今なら無料だぞ。やってみるか?」
俺はストレージからエリクサーを取り出す。
文献だと、エリクサーで手足の欠損も治せるみたいだが、俺は実際に手足の欠損が治るところは見たことが無い。
その情報も100年以上前の文献からで、真偽の程は疑問だった。
俺は周囲を見回し、誰も見ていないことを確認して、エリクサーの小瓶を蓋を開けてからマリカに手渡す。
「じゃあ、この薬を一気に飲んで」
マリカは恐る恐る瓶に口をつける。
「マリカ、兄貴のまじないは本物だぜ。俺の足も治ったんだ。飲んでみろ」
それを聞いて安心したのか、マリカは一気にエリクサーを飲み干す。
手足欠損者にエリクサーを服用してもらうのは初めてなので、本当に効果があるのか自信が無い。俺はじっと観察を続ける。
しばらく見ていたが、特に変化はない。まあ、そんなにすぐに欠損は戻らないよな、って思っていたら3分後ぐらいにマリカの身体が光った後に、右手と左足が切断部分から一挙に生えてきて、治ってしまった。
凄いな、こんな風に治るんだ。初めて見た。
マリカはしばらく何が起きたのか分からない様子で、自分の手足を眺めたり、動かしたりしていたが、やがて嬉しそうに叫んだ。
「お兄ちゃん!! 足が、手が、元に戻った。嬉しい」
マリカは寝床から起き出して、嬉しそうに飛び跳ねた。
サミーは驚いてマリカをじっと見ている。
「本当に治った。兄貴はやっぱり魔法使いなんじゃないか?」
「すごいだろ。何度も言うけど内緒にしろよ」
「分かった。男の約束だ。でも、俺は何にもお礼ができないぜ」
「お礼は良いよ」
どちらかというと、手足の欠損がエリクサーで治るかどうかを試すことができたので、俺がお礼を言いたいぐらいだ。
「お兄ちゃん、お腹空いた」
マリカがお腹が空いたらしい。うん、手足を生やしたのだから、お腹が空くのは当然だな。
俺はストレージから食べ物を色々出すと、マリカに出してやった。
ピザやパン、サンドイッチなど。ストレージ内は時間経過が無いので、食料はストレージに入れておくことが多い。色々な食べ物のストックがある。
「兄貴、ありがとう」」
マリカはものすごい勢いで出された食べ物を平らげていく。
その後俺は思案した。成り行きで治療しちゃったけど、サミーとマリカの貧困が解決したわけではない。
このまま分かれてもいいが、なんかすっきりしないよな。
偽善だとは思う。この国だけじゃなく、全世界には貧困にあえいでいる子供は数多くいる。
しかし、知り合ったばかりだったが、まっすぐな性格のこの子たちを見捨てるのはちょっと心苦しい。
さてどうしたものか……。
エリクサーの効果はすごいですね。
さて、主人公はこの子たちをどのように支援するのでしょうか?




