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63.大賢者、近藤さんの弟を救う

夏休み恒例のバーベキュー大会も終わり数日たったころ、食料の買い出しにちょっと離れた大きなショッピングモールにさやかと出かけた。


まだ車の運転ができる年齢ではないので、郊外に立地するショッピングモールは普通なら行きにくい場所ではあったが、モール近くの空き地に転移魔法陣を作っておいたので、比較的気軽に来れる場所になっていた。


それに、容量が非常に大きいストレージが使える俺たちは、毎日買い物をするのも面倒なので、大きなスーパーとかでまとめ買いしてストレージに放り込んでいる。

買い物に行っても手ぶらで帰ってこれるのも便利だ。


その日もさやかと食料品を大量に購入し、駐車場の隅っこでストレージに放り込んだ。

その後、しばらく自由行動として、俺はさやかといったん別れ、最新のパソコンを見たり、本屋に行ったりしていた。


すると、ベンチに座っている近藤先輩を見かけた。

俺はいつものように声を掛けようとしたが、なんか彼女の様子が変だった。

いつも元気な近藤先輩が酷く落ち込んでいて、泣きそうな顔で座っていたからだ。

しばらく様子を見ていたが、意を決して俺は声を掛けた。

「近藤先輩、こんにちわ。元気が無いみたいですが、どうしました」


すると近藤先輩がこちらを見上げたが、泣きはらしたような眼をしていた。

俺は再度声をかける。


「あの、何かつらいことがあったみたいですが、僕で良ければ相談に乗りますよ」


近藤先輩は俺を見て立ち上がろうとしたが、力なく再度座り込んでしまった。

こりゃ良くないな。

俺は近藤先輩の頭に手を当てると、ヒール魔法を掛けた。


ヒール。


効果は大きく、近藤先輩の顔に生気が戻り、ハッとした顔で俺を見上げてきた。


「あ、井上君?」


まるで、今俺に気が付いたみたいだな。


「どうかしました。お話聞きますよ」


「うん、でもプライベートなことだし」


「近藤さんは部活の先輩でもありますが、我が社の大切な社員ですからね。社長としては社員の相談に乗りますよ」


「ふふ、そうね。社長さんだもんね。うん、じゃぁちょっと聞いてもらおうかな」


「ではそこにコーヒーショップがありますから入りましょう。なーに、会社の経費で落としますから支払いは大丈夫」


「あのね、女性をお茶を誘うと時は、『僕がおごりますから』って言うの! 何が会社の経費よ!」


「は、はい」


そう言いながら俺たちはコーヒーショップに入る。

俺はアイスコーヒーを、近藤先輩はホットココアを購入して席に着く。


「で、何かこまったことでもあったんですか?」


「弟がね、もうダメかもしれないって」


「え?」


「知っているかもしれないけど、私の所は早くに父親が亡くなったので、母と私と弟の3人暮らしだったの。 特に最近は生活が苦しくて、私もアルバイトで家計を支えていたんだけどね。井本君の会社に入ってからはずいぶん楽になったので、感謝してるのよ」


「はい」


「今年の初めに、弟が歩道を歩いていたら、車が突っ込んできて跳ねられたの。頭を強く打って、それ以降ずっと意識不明の状態だったんだけど、とうとう脳死判定が出て、延命装置を外すことになりそうで」


「そうだったんですね。確かに弟さんが事故に会って怪我をしたって聞いていましたが、そんなに悪いなんて思いませんでした」


「母親はまだまだ延命したいって思っているみたいだけど、管にいっぱい繋がれている弟を見ているのがつらくて、もう回復の見込みがないなら、延命装置は外してもいいんじゃないかとも思うし、色々考えていたら頭が混乱しちゃって。弟はまだ小学校5年生なの」


ふむ、怪我ならハイポーションでも治りそうだな。脳に障害がある可能性もあるからエリクサーの方がいいかも。ポーションもエリクサーもまだ何個もあるからな。


「あの、弟さんのお見舞いには行けますか?」


「家族以外は面会謝絶なんだけど、良いわよ」


「じゃぁ今から行きましょう」


俺はさやかに携帯で連絡し、事情を説明して別行動とする旨伝えた。


「あら、さやかさんと来ていたの? ほっぽり出して大丈夫なの?」


「平気平気、じゃあ、早速お見舞いに行きましょう」


◇◇◇


病院は比較的近くに会ったので、ショッピングモールからタクシーで10分ほどで到着する。


近藤先輩に案内されて病室まで移動する。

弟さんの病室につくと、彼の痛々しい姿が見えた。


人工呼吸器につながれ、点滴やら心電図やらの管やケーブルがたくさんつけられていた。

顔は生気が無く、半年間寝たきりだったためか、手足などがやせ衰えているみたいだ。


「弟の裕樹よ。もうずっとこの状態なの。医者からは脳死状態で、もう目を覚ますことは無いって言われてるの」


近藤先輩が悲しそうに言う。


「お茶でも買ってくるわね。待っててね」


近藤先輩が病室を出たので俺はストレージからエリクサーの瓶と、エリクサーを作る時に購入したガラス製のスポイトを取り出す。


スポイトでエリクサーを吸い出し、裕樹君の口の隙間からエリクサーを少しづつ流し込む。

エリクサーは体内に入ると速やかに体に吸収されるため、間違って肺に入ることは無いし、仮に肺に入ってもすぐに吸収されるから、肺に溜まる心配はない。

俺は必要と思われる量を何回かにわたって裕樹君に流し込む。


ストレージにエリクサーとスポイトをしまって、裕樹君の様子を見る。

エリクサーの効果は劇的で、彼の顔色は急速に良くなり、1分後には目を開けてこちらを見てきた。


うん、大丈夫なようだな。俺が勝手に人工呼吸器を外すわけにはいかないので、ナースコールのボタンを押して、看護師さんを呼んだ。


看護師さんはすぐにすっ飛んできた。


「どうしました……ってあれ? 裕樹君目を開けている? なんで?」


看護師は大慌てで医師を呼びに病室を出ていく。

数分後に看護師は医師を連れて戻ってきた。


「裕樹君が目を覚ましたって? そんなわけ無いだろ」

などと言いながら医師が病室に入ってきた。

しかし、裕樹君を一目見て意識を取り戻していることに気が付き、大慌てで診察を始めた。

人工呼吸器もすぐに外された。


裕樹君は開口一番、


「のどが渇いた」


と言葉を出す。

うん、そうだよな。エリクサーを使うと、のどが渇くって文献で読んだことがあるな。


医師は看護師に水を持ってこさせると、裕樹君に飲ませる。

水を飲んだ裕樹君の次の言葉は、


「お腹空いた」だった。


うん、そうだよな。ポーションやエリクサーを使うと、エネルギーをたくさん使うので、お腹も空くってことも書いてあったな。


医師の指示で看護師が急遽流動食を準備するために病室を出るのと入れ違いに近藤先輩がジュースを買って戻ってきた。

医師が懸命に裕樹君を診察しているのを、彼が亡くなったと勘違いしたのか、缶ジュースを床に落とすと血相を変えてベッドに駆け寄った。


裕樹君が彼女を見て、「あ、おねえちゃん。おはよう」

と声を出したのを見て、ようやく意識が戻ったのだと理解して、号泣し始めた。


「うわーん、裕樹、よかったぁ……」


「お姉ちゃん、なんで泣いてるの? っていうか、ここ病院?」


裕樹君は、ベッドから起き上がると、医師が止める間もなく、ベッドから降りて立ち上がろうとする。

心電図のケーブルや、点滴の管をつけたままだったので、医師と看護師が慌てて、彼をベッドに寝かせる。


「まだ起き上がっちゃだめだよ。あれ? なんで起き上がれるんだ? 筋力がもどってる?」


しまった! エリクサーって、身体を元の健康な状態に戻してしまうので、弱って落ちていた筋力も元に戻してしまうんだっけ。やっぱりポーションにすべきだったか?

いやそれだと、脳の損傷が治らなかった可能性があるから、エリクサーでなくては駄目だったか。

筋肉まで回復していたんじゃ医者に怪しまれるな。


母親に吉報を電話で連絡している近藤さんを横目に見ながら、俺はそーっと病室を後にして逃げ出した。


後から近藤さんに聞いた話では、裕樹君はその日の内にモリモリ食事するわ、病室を走り回るわ、頭の傷は完全に消えているわ、酷かった床ずれは治っているわ、半年以上の点滴跡の痣まで消えているわ、現代の医学では説明のつかない状態となっており、医師はパニックしていたらしい。


しまいには、彼には双子の兄弟がいて、こっそり入れ替わったんじゃないかと疑いだす始末だった。


まずかった。岩崎先輩が暴漢に襲われたときにもエリクサーを使ったけど、あの時は暴漢事件のどさくさに紛れてごまかせたけど、病院でカルテとか記録がいっぱいある中でエリクサーを使うと、そりゃ大騒ぎになるよな。

以後気を付けよう。


近藤先輩からは。

「私がいない間に何があったの?」

としきりに聞かれた。


俺は。


「何もしてないよ。いきなり目を覚ましてこっちを見たんでびっくりしてナースコールしただけだよ」


と答えていたが、あまり納得していないような顔をしていたな。

まあ、弟さんが元気になったんだから良しとしてくださいね。

エリクサー、効果はすごいですね。さすがに伝説の薬ですね。

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