61.大賢者、女子高生の悩みを解決する
夏休みが近づいてきた。
新入部員の二人も、金井さんも、株投資口座を開設し、株の売買を開始していたが、当然の様に順調だ。
まあ、自分のお小遣い程度の資金で開始しているので、売買金額は大したことは無いが、着実に資産が増えるのは楽しいみたいだ。
しかし、ここ数日金井さんは目に見えて元気がなくなってきていた。
俺は気が付かなかったのだが、恵さんが金井さんの様子がおかしいことに気が付いた。
しかし、恵さんがが金井さんに「何かあったのか?」と聞いても、答えてくれなかったらしい。
恵さんは俺に相談してきた。
「最近、金井さんが元気が無いみたい。聞いても答えてくれないし、何か事情を知らない?」
「俺は全然気が付かなかったが、そうなのか? ちょっと聞いてみるよ。悩みって人に聞いてもらうだけでも軽くなったりするしね」
「うん、相談に乗ってあげて」
その日の放課後、俺は金井さんに声をかけて、カフェテリアに誘ってみた。
たしかに金井さんは元気が無いように見えるな。
「最近元気がないみたいだけど、何かあった? 俺で良ければ相談に乗るよ」
「うーん、でも……」
金井さんは躊躇しているようだった。
俺は手を伸ばして金井さんの頭に触れる。
金井さんは急に俺が手を伸ばしてきたのでびっくりした様だったが、特に嫌がるそぶりも無かった。
金井さんの頭に手を触れて軽くヒール魔法を使う。
ヒール魔法で気分を落ち着かせ、リラックス効果を出す作戦だ。
彼女はヒール魔法で気分が落ち着いたためか、話し始めてくれた。
「実は、隣の家が怖くて」
彼女の話では、彼女の自宅の隣家の息子兄弟が中学校から不良仲間と交流し始め、家や周辺で暴れたりしていたらしい。
昨年の12月に、その家の両親が近くの用水路に落ちで亡くなるという事故の後は、更にひどくなり、隣の家が不良の溜まり場になっているとのこと。
「それだけでもストレスなんだけど、この間、女の子が監禁されてるのを見ちゃったの」
金井さんが自分の部屋の窓を開けて空気を入れ替えていたら、隣の二階の窓が急に空いて、高校1年生ぐらいの女の子が顔を出してきたとの事。
女の子はこちらを見て何か言っていたが、声が小さくて聞こえなかったらしい。
女の子はすぐに顔を引っ込め、窓も閉じられてしまったが、それの一連の動きが不自然で、まるでその女の子が後ろから髪を引っ張られて窓から引きはがされたようだった。
しかも、女の子の顔には殴られたような跡がいくつもついていたように見えたとのこと。
「あの家は大人が誰も居なくて、不良しかいないので女の子は監禁されているんじゃないかと思うの。でも、証拠も無いし、警察に知らせて逆切れでもされたら怖くて……」
「なるほどね。現時点でその女の子が友達で自らの意思でそこに居るのかも不明だし、不良どもが家に溜まっているだけじゃぁ警察は動かないかもね」
「私がその子を見たことを、隣の家の不良達に感づかれたみたいなの。なので何かされるんじゃないかと心配で」
「そうだね。一応警察に相談だけでもしておく方がいいと思うよ」
「うん、今晩両親にも相談して、警察に連絡とってもらうね」
俺は金井さんに触れた時に、ヒールだけでなく、予知魔法も使ってみたのだが、彼女に危険が迫っている予感がした。
明らかに隣の不良どもに狙われている気がする。
これは人災なので、いつどのように災厄が彼女を襲うかはっきりしないし、他人に対しての予知魔法なので、予知力が弱く、はっきりしたことは分からない。
しかし、すぐにでも行動したほうがいいな。
金井さんはi経済研究所の社員にはまだなっていなかったので、結界ペンダントは渡していなかったが、俺は予備のペンダントを取り出すと彼女に渡した。
「これはお守りのペンダントだよ。金井さんに上げるから、いつも身に着けてくれない?」
「え、あ、ありがとう」
彼女は嬉しそうな恥ずかしそうな顔をして、素直にペンダントを受け取ると、早速首にかけた。
うん、これで少し安心だな。
「じゃあ、今日は金井さんを家まで送るね」
「えっ、そんな、井本君の家と方向が違うし、申し訳ないよ」
金井さんはちょっと嬉しそうに、でも慌てた様子でそう言った。
「いいんだよ。心配だし。それに俺もさやかも金井さんの家の近くに用事もあるし」
「あ、そうか、さやかさんも一緒なのよね。じゃあ送ってもらおうかな」
ん? なんだろう。さやかも一緒だって言ったらちょっと金井さんのテンションが下がったようなんだが、気のせいだよね?
その日はもう授業も無かったので、さやかを誘って、三人で帰ることにした。
念話でさっき感じたことをさやかに伝えておく。
バスで金井さんの家の最寄りのバス停まで移動し、そこから歩いて10分ほどの所に金井さんの家があった。
俺たちは他愛もない話をしながら歩いて行ったが、金井さんの家に近づくにつれ、金井さんに危機が迫っている予感が強くなっていった。
俺はピッピを使って、不良共の家を確認してもらった。
すると二階の窓から俺たちの帰ってくることを確認した不良共が確認しているのが見えた。俺たちの姿が見えた後、不良どもは家から出て、門柱の陰に隠れたことなどが分かった。
俺は念話でさやかに話しかける。
『さやか、気が付いているか?』
『うん、金井さん、自宅近くで待ち伏せされているわね』
『ああ、さっき話した隣の家の不良どもだろうな』
『どうする? 先制攻撃しておく?』
『いや、俺もさやかも不良どもに襲われても平気だし、金井さんには結界ペンダントを渡してあるから襲われても被害はないだろう。まだ奴らが俺たちを襲うかどうかは不明だし、最初に奴らに俺たちを襲わせよう』
『分かった』
『証拠のために、携帯電話を動画録画状態にしておくように』
俺は携帯を録画状態にして、胸のポケットに入れておいた。
さやかも携帯を録画状態でバックのポケットにカメラ部分が外に出ているように挿していた。
やがて俺たちは金井さんの家の前まで到着した。
すると、隣の家の門柱の陰からバットやゴルフクラブを持った男4人が飛び出してきた。
予想通りだな。
どうするのかと様子を見たら、奴らはいきなり俺たちにバットやゴルフクラブで殴り掛かってきた。
金井さんもいきなりバットで殴られたが、結界ペンダントの魔石が予知魔法で危機を察知し、自動的に物理結界を張ったので、バットは金井さんの頭の10cm手前で結界に弾かれた。
バットの直撃は結界で防いだが、金井さんはびっくりしてしりもちをついてしまった。
しかし怪我とかは無い様だ。
俺の方には奴らはゴルフクラブで殴り掛かってきたが、強化魔法を掛けている俺とさやかにとっては、まるでスローモーションでゴルフクラブを振り下ろされているみたいなもんだ。
俺もさやかも難なくゴルフクラブの攻撃を避けて、奴らを足払いで転がす。
「金井さん、直ぐに家に入って、警察を呼んで!」
「わ、分かった」
金井さんが慌てて家に入ろうとするが、不良の1人が、
「おい、まてこら!」
と追いかけようとする。
俺はさっと、そいつに近づいて襟首をつかみ、思いっきり引っ張った。
そいつは2mぐらい後ろに吹き飛んで、地面に転がった。
金井さんが家に入るのを見届けてから、俺は電撃魔法で奴ら全員を気絶させる。
「よし、こいつらの家に行ってみるぞ」
「了解」
俺とさやかは気絶している4人を奴らの家まで2人づつ引きずって行く。
家に入ってドアを閉めてから、俺は奴らの額に手を当てて、探知魔法で奴らの脳を探る。
「こいつとこいつがこの家の長男と次男で主犯格だな。そして、この兄弟は自分の両親を殺害している。保険金目当てだ。更に他にも何人かの女性を乱暴してから殺しているな」
さやかは他の2名の探知をしていた。
「こっちの二人もロクでもない奴だけど、殺人だけはしていないわね」
よし、こいつらは有罪だ。こっちの兄弟はだけ俺が審判する。
俺が探知魔法で知りえた内容は裁判で証拠にはならないし、今更調べてもこいつらの両親殺害の証拠は出てこないだろう。
なによりこの世界では未成年は極刑にならないしな。
俺は魔布をストレージから取り出すと、有罪兄弟2名を魔布で包み、ストレージに放り込んでおく。
残りの二人はそのまま放置。
「二階に監禁されている女の子がいるな」
「ええ、探知したわ」
「女の子の方はさやかに任せる。俺は金井さんの所にいく」
俺は不良共の家を出ると、さやかの家に行った。
さやかは携帯電話を握りしめて、玄関で座り込んで震えていた。
「井本君、大丈夫だった?」
「あぁ、大丈夫だ。奴らは気絶しているよ。でも、隣の家の兄弟は逃げて行ってしまったようだ」
「警察へは電話したわ」
そう言ったとたん、遠くからパトカーのサイレンが聞こえ、ほどなくパトカーが到着した。
金井さんはまだショックでうまく話せなかったので、俺が警察に状況を説明する。
・隣の家が不良共の巣窟になっていること。
・金井さんが先日監禁されている女の子を見かけたこと。
・その子を見たことが隣の兄弟に知られたため、不安だったこと。
・彼女が心配で、家まで俺とさやかが送ってきたこと。
・不良共が門の陰に隠れているのがちょっと見えたので、念のため携帯を録画状態に
したこと。
(奴らが襲ってきたところは録画したが、俺たちが逆襲する前に録画は止めて
おいた。)
・奴らが襲ってきて、金井さんをバットで、俺たちにはゴルフクラブで殴りつけて
きたこと。
・金井さんにはバットは当たらなかったが、倒れてしまったこと。
・俺は少しボクシングをやっていたので、奴らを返り討ちにできたこと。
(本当は電撃魔法だけど)
・隣の家の不良兄弟はどこかへ逃げてしまったこと。
(本当はストレージの中だけど)
・この家の二階に女の子が監禁されていたこと。
その後監禁されていた女の子は婦人警官に保護され、警察が呼んだ救急車で運ばれていった。
気絶していた不良の二人は警察に連行されていった。
そして、不良兄弟は監禁の容疑で逮捕状が出て捜索が開始されるとのことだった。
(ストレージに入っているんだが)
かなり長時間事情聴取され、俺がパンチで4人もの不良共を撃退したことを、「ボクシングをちょっとかじってたので」とか説明してしまったため、清水ボクシングジムの会長にまで問い合わせが行ったと、後で聞いた。
ようやく事情聴取が終わり、家に帰れたのは夜も更けてからだった。
一足先に(女性だとのことで)聴取が終わり帰っていたさやかがご飯の支度をして待っていてくれた。
とりあえず、この日はもう遅いのでストレージに奴らを残しておくのも気持ち悪かったが、そのまま寝てしまった。
◇◇
翌朝、俺は奴ら兄弟をストレージから出す。
ストレージ内は時間が経過しないので、奴らはまだ気絶した状態だった。
俺は気絶した奴らの額に手を当てて、昨日よりさらに詳しく奴らの記憶を確認した。
奴らの両親は、彼らを更生させようと必死だったらしいが、それが鬱陶しかった奴らは、保険金目当てと、うるさい両親を始末する一石二鳥とかの考えで、雨の中両親をバットで殴って気絶させ、水かさが増していた用水路に放り込んだみたいだ。
その後は両親という制限が無くなり、多額の保険金も手に入ったので、奴らは悪事の限りを尽くしてきたようだ。
親の車を無免許で運転し、街中で無抵抗な女性を拉致・監禁し、酷いことを繰り返してきたことが分かった。最終的にはその女性たちは全員殺されていた。
犠牲となった女性は3人。
前世でもかなり修羅場を経験してきた俺ですら、吐き気を催すような記憶映像を見せられ、奴らに対する刑は確定した。
奴らは未成年なので、この世界ではもし犯行が発覚しても、死刑にはならず。いつまでものうのうと生き続けるだろう。
俺は前世ではこの最高裁判所の裁判官だった。人を裁く資格も有していると思っている。
さやかにも得た情報を伝え、刑を執行することにした。
庭の転移魔法陣へ奴らを引きづっていき、南極の魔法陣まで転移させる。防寒服の上下を1着だけ一緒に転移させた。
◇◇◇
不良兄弟(兄)の視点:
「ヤバいな。隣の女に監禁している女を見られたぞ」
「お前何やってんだ。とにかく、隣の女が変な動きをしないか気を付けておけ」
しかし、隣の女は時々俺たちの家の様子を伺っているそぶりを見せていたので、隣の女も拉致することにした。
容子って名前の高校2年の女だが、とびっきりの美女だ。
十分拉致に値する。
仲間二人を呼んで、4人で掛かれば楽勝だろう。
バットで後ろから思いっきりぶん殴れば、悲鳴も上げることなく気絶するはずだ。
しかし、拉致する当日、女は他に2人と一緒に帰ってきやがった。
俺たちは門柱の陰で相談したが、3人の内の男は一人だがひょろひょろで弱そうだ。
もう一人の女はなかなか綺麗な女だし、こいつも一緒に拉致することに急遽決まった。
向こうは3人でしかも2人は女だ。こっちは男4人で武器もある。楽勝だな。
俺が真っ先にバットを持って飛び出し、隣の女の頭に向かい、思いっきりバットを叩きつける。
ガキッ、という音と共に、バットは女の手前10cm位で跳ね返される。
女は驚いてしりもちをついていたが、無傷の様だ。
女はすぐに起き上がると家に逃げ込もうとした。
俺は「おい、まてこら!」と追いかけたが、いきなり襟首を背後から掴まれ、後ろに投げ飛ばされた。
背中を強く打ったがなんとか起き上がったところで記憶が途絶えた。
◇◇◇
しばらくして、凍り付くような寒さで目が覚めた。
辺りは真っ暗で、凍てつくような寒さだった。
隣では弟が転がっていた。
俺は弟を揺すり起こす。
「おい、起きろ。何がどうなっているんだ?」
弟も直ぐに気が付いたが、弟もなんでこんな所にいるのか分からないようだった。
足元は固い氷で、暗くてよく見えないが、見渡す限り氷原が続いていた。
痛いような寒さで、急激に体が冷えてきた。
弟の方を見ると、防寒着を着ているところだった。
「おい、それはどこにあったんだ?」
「あ? 足元に落ちてたんだよ」
「このままじゃ凍えちまう。それを寄越せ」
「何言ってんだ。俺が見つけたんだから俺の物だ」
「やかましい。とにかく寄越せ」
言うことを聞かない弟に、俺は頭に血が上り奴を殴り飛ばした。
しかし、寒さで体が強張っているので、大したダメージを与えられなかった。
逆に防寒着を着込んで、多少は余裕がある弟の反撃を喰らう。
「うるせぇ。こんな時にも俺に向かって威張ってるんじぇねえよ」
いきなり弟から殴られ、転がったところで腹をけ飛ばされる。
「俺は前からてめえが大嫌いだったんだよ。死ねやタコ」
俺は何度も腹や顔を蹴られ、寒さと相まって動けなくなってしまった。
弟は、そのままどこかへ歩いて行ってしまった。
しばらく蹲っていたが、寒さで体が動かなくなっていく。
弟に向かい、「待ってくれ」と声をかけようとするが、声も出ない。
急激に意識が遠のいていった。
◇◇◇
弟の視点:
嫌いな兄貴をボコボコにできてすっきりしたぜ。
奴はいつも威張ってばかりで、俺に命令ばかりしてムカついていたんだ。
親が死んで保険金と遺産が俺たちの物になったはずなのに、全部兄貴が独り占めしやがって。
あんな奴はくたばればいいんだ。
兄貴を見捨てて、とりあえず歩き始めたが、一体ここはどこだ?
防寒着を拾って着たので、寒さは多少は防げるが、この寒さは尋常ではない。
しかも、風も出てきて、体感温度が下がる。
しばらく歩いていたが、風はますます強くなってきて、まるで嵐の様だ。
ついに歩けなくなり、倒れこんだ。
くそ! 兄貴が居なくなったんだから、残った遺産は俺だけの物だ。こんなところでくたばってたまるか。
しかし、もう体が動かない。
ふと前を見ると、俺たちが殺したはずの親が立っており、こちらを冷たい目で見ていた。
それが、俺の最後の記憶だった。
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