57.大賢者、新入生を勧誘する
春休みも終わり、新学期が始まった。
入学式の準備を手伝ったりして、緊張した新入生を迎え入れたが、初々しい感じが良いね。
たぶん俺が1年の時は全然初々しさは無かったかと思うが。
入学式の翌日から新学期が始まったが、新学期最初の学年集会で転校生が紹介された。
転校生は2名で、一人は東京から父親の転勤で転校してきた女の子。
もう一人は俺もよく知っている元委員長の金井容子さんだった。
委員長? えっ? なに? どういうこと? 聞いてないんだけど。
恵さんの方を見ると、彼女も何も聞いていなかったらしく、こちらを見て”わからない”というジェスチャーをしていた。
午前中の授業を終えた俺たちは、金井さんをカフェテリアに連行して事情を聞いてみた。
恵さんが開口一番質問を投げつける。
「金井さん、どうしてこの学校に?」
「うーん、ちょっと色々あって……」
金井さんは恵さんとは別の進学校へ学区外からの越境入学したはずだ。
恵さんが入学した学校よりさらに偏差値の高い学校だったはず。
彼女はあまり話したくなさそうだったが、しばらくしてから話し出した。
彼女の話によると、
・越境入学した関係で、学校内に誰も知り合いが居なかった。
・本来なら認められない越境入学ということで、クラスで孤立していた。
・男女比では男子が圧倒的に多く、少ない女子生徒の輪の中に入れなかった。
・中学校ではトップクラスの成績だったが、高校ではクラスでも最下位の成績だった。
・家からだと通学時間がかかるため、アパートで一人暮らしを始めたが、
アパートでの一人が耐えられなかった。
「そんな時、クリスマスイブに井本君の家に行ったら、富士フリーダム高校の先輩を含め、皆楽しそうに和気藹々とパーティーを楽しんでいたのがうらやましかったの。特に、高校で虐めに合って、不登校になったと聞いていた恵さんが転校して、高校生活を楽しんでいたのを見たら、自分も転校したくなっちゃたの」
1月以降、散々悩み、親とも何度も相談して、4月からこの学校に転校することにした、とのこと。
「うん、まあ、ここに転校してきたんなら歓迎するよ」
「私も歓迎するわ」
「で、部活はどうするつもりなの?」
「もちろん井本君と恵さんと同じ部活に入るわね」
「それは良いけど、金井さん、経済に関心あるの?」
「クリスマスの時、井本君とかみんなに色々入れ知恵されたので、株取引口座を作って、投資を開始したの。色々勉強もしてるのよ」
マジか?
その時に先輩たちが俺たちを見つけてやってきた。
「おーい、井本、新入生の勧誘に行くぞー。って、あれ? この子はクリスマスパーティーにいた子じゃ?」
「はい、金井です。その節はお世話になりました」
「そうなんだ、転校してきたのか?」
「はい、今月から転校してきました。よろしくお願いします」
「おぉそうなんだ、どうだ、経済研究部に入らないか? 楽しいぞぉ」
「はい、そのつもりです。よろしくお願いします」
「よっしゃ! 部員さらに一名ゲット。部活は最低5名は必要なんだけど、来年俺たちが卒業しちゃうと2年生が3人になっちゃうんだよ。少なくとも後1人は部員が必要だ。だからこれから新入生を勧誘に行くぞ」
入学式の時の学校説明会の一部で、各部活の紹介が実施されていた。
人気だったのはテニス部とか最近できたボルダリング部とかで、文系では美術部等が人気だったが、経済研究部は全然関心を持たれてなかった。
このままでは廃部になってしまう。来年以降の部の存続をかけて新入生の勧誘を開始した。
結果は玉砕。
そもそも、この学校は他の一般的な学校と違い、”部活動参加を強制、もしくは奨励”ではないのだ。
つまり、部活に入らない生徒が非常に多い。
そんな風潮なのに、何をやっているのかよくわからない経済研究部に興味を示す生徒はほとんどいなかった。
先輩方と俺たちは放課後、生徒がほとんど居なくなるまで声をかけまくったが、結局一人も捕まえられず、がっかりと肩を落として帰宅することになった。
◇◇◇
翌日、ちょっと重たい気分で登校し、部室に集まる。
いつものように、部会なのか、会社の定例会議なのか分からない会議を開始した。
今日と今週の株投資の戦略打ち合わせと新規融資案件の状況説明の後、改めて金井さんの入部の歓迎のあいさつが行われた。
「金井です。今日から経済研究部にお世話になります。株投資は始めたばかりなので、色々教えてください」
「「よろしくー」」
現時点で、経済研究部の部員は全員i経済研究所の社員でもあるのだが、金井さんはどうしたもんかな?
金井さんに聞いてみると、
「とりあえず、前の高校では孤立してたショックで、勉強が遅れてるんで、しばらくは勉強に専念したい」
ということだったので、会社の方には参加せず、朝の会議では参考までに会社方針を聞いてみる、ということに落ち着いた。
その日の放課後、部室にお菓子屋ジュースを持って皆が集まり、金井さんの歓迎会を行う事になった。
部長の大谷先輩が口を開く。
「それでは、金井さんの入部を歓迎して、かんぱい」
「「かんぱーい」」
みんなでワイワイ他愛もない会話をしながら、お菓子を食べたり、パソコンで経済情勢を確認したりして、歓迎会を楽しんだ。
そこへ、珍しく、訪問者が部室に現れた。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは、新入生っぽい男女の2名だった。
「入部希望なんですが、よろしいでしょうか?」
大谷先輩が満面の笑みを浮かべて歓迎の言葉を発する。
「ようこそ、経済研究部へ。もちろん大歓迎だよ。俺は部長の大谷だ。まずは自己紹介を頼む」
「森田太郎です。よろしくお願いします。科学全般を学んでいて、特に天文学に興味があります。将来は科学者になりたいと考えてます。経済を科学的に分析してみたいです」
「原裕子です。将来は自分で事業を起こしたくて、その為にも経済に関して知識を得たいと思っています」
「おう、それなら二人とも非常に良い部に入ったと思うぞ。2年生の井本は、昨年自分で会社を興して急成長を遂げている会社の社長だ。さらに、その会社は今話題のスペーステレスコープX社とスペースZ社にも関係していて、色々な楽しい情報を得ることができるぞ」
その話を聞いて新入部員の二名は目を輝かせた。
「本当ですか? ぜひ宇宙望遠鏡に関して詳しくお聞きしたいです」
「私も、会社を興すにあたってのノウハウをお聞きしたいです」
二人は俺に詰め寄ってすぐにでも色々話を聞きたがった。
「おぉう。とにかくおいおい話は聞かせるよ。森田君、秘密保持契約の関係もあるので、宇宙望遠鏡の細かな話を聞きたかったら、俺の会社に入社したほうがいいぞ」
「入社します!!!」
「それと原さんは、起業するなら資金が必要だと思う。株の取引で資金を貯めたらどうだい?」
「はい、そうしたいのは山々ですが、株に関してはあまりノウハウが無くて」
「それこそこの経済研究部で色々知ることができると思うぞ。それに原さんも俺の会社に入ってくれれば、株予想システムの情報が手に入るので、株投資で損をする可能性は少なくなるぞ」
「そうなんですね。はい、私も井本先輩の会社に入りたいと思います」
こうして、経済研究部は3名の新たな部員が加わり、総勢9人となり、来年先輩方が卒業しても最低部員数の5名は超えていることになり、しばらくは安泰となった。
i経済研究所の方も、色々忙しくなってきているので、新入社員が入ってくれるのは助かるな。
新学期を迎え、さらににぎやかになる経済研究部だった。
金井さんも転校してきて、主人公はモテモテですね。筆者の高校時代と比べ……(´・ω・`)
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