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54.大賢者、呪いの人形に出会う

3月に入り、春休みになった。


俺とさやかは京都へ日帰り旅行することになった。さやかが急に行きたいと言い出したのだが、特に急ぎの用事もないし、ベンチャー融資関連は一区切りついたし、会社の株投資関係の作業は先輩方に任せて置けたので、急遽旅行を決定したのだった。


京都には転移魔法陣が無いので、二人で新幹線で移動する。

京都に着くと、さやかは有名どころの観光名所など見向きもせず(俺もあまり興味は無かったが)、古くから続いているような住宅街に入っていった。俺はさやかの目的がよくわかっていなかったが、黙って付いていった。


さやかはスマートホンで検索しながら歩いて行たが、やがて1件の呉服店の前で立ち止まった。


「ここだわ」


「ん? さやか、このお店が目的地」


「そうよ。井本君はこのお店の中から魔力が出ているのを感じない?」


その言葉を聞いて俺はおどろいて探知魔法を使ってみた。確かに魔力が感じられる。しかしどうして?

基本的に魔力は魔法を使える(つまり魔石を体内に有している)人間か動物が発するものである。死んだ動物から取り出した魔石は、しばらくは魔力を放出するが、数日も経たないうちに魔力はゼロになるのだ。


そして、この店からは魔力は感じるが、魔石を体内に持つ人間も動物も探知できなかった。

それでも魔力が感じられることに大いなる疑問を感じる。前述のとおり、魔石は魔力のある人間が魔石に魔力を注入しない限り数日で魔力を自然放出し枯渇してしまう。例えるなら経年劣化して数日で残量が無くなる携帯電話の電池の様なものだ。時々充電してないと電力は枯渇する。


そのように思いを巡らせてから俺はさやかに聞いてみる。


「どうしてここに来ようと思ったんだ?」


「実は私の体験を元に、魔石を持つ人を探す手掛かりになるかと思って、ポルターガイストとか、怪奇現象とかでネットの情報を色々検索していたの。そうしたら、この老舗の呉服店に呪いの人形があって、その人形の周囲では色々怪奇現象が生じているっていう書き込みを見つけたの。そして怪奇現象については私が患っていた魔力漏洩現象に酷似していたからもしかしたらって思って」


「そうなんだ、でもよく店の名前まで名指しで書き込んであったな」


「お店の名前までは無かったわ。でも似たような書き込みや記事なんかを色々確認したり、記事の写真を詳細に調べたりして大雑把な地域を割り出したの。そしてその情報を頼りにここまで来たってわけ」


「なるほど、それでどうする?」


「まずはもう少し詳細に調べて見ましょう」


俺たちはその家の周囲を歩き回ったり、ピッピを使って家の上から調べたりしてみた。

その結果、魔力の出どころはこのお店の裏側にある古い蔵の中からだと推定した。

さらにしばらく調べる内に俺たちは奇妙なことに気が付いた。


「さやか、魔力の放出に一定の周期というか、パルスを感じないか?」


「ええ、私も気が付いたの。魔力が時々パルス的に放出されてる。4つのパルスが4回放出されてるわね。」


「4,4,4,4か、どういう意味だろう?」


その後、俺たちは近くのファミレスで昼食を食べながら今後の方針を相談した。

まずは正面から訪問してみよう、そして追い返されたりしたらその時は別の方法を考えよう、という結論に達した。


ファミレスを出て、その呉服店に向かう。平日の昼下がりということもあり、お店には客は居ないみたいだった。俺たちは意を決して中に入る。


「いらっしゃいませ。あら、お若いお二人様、初めてお見掛けするお客様ですね」


店番をしていた初老の夫人が優し気な笑顔を向ける。


「突然の訪問を失礼します。実はここのお店の裏にある倉から、何か気の様な強い力を感じまして、お話をお伺い出来ないかと?」


お店の夫人は不審そうな表情を浮かべこう返す、


「なんのことなのかわかりかねますね。呉服を購入されるお客様でないのならお帰り願えませんか?」


「もう少しお話を聞いてもらえませんか? 我々は4,4,4,4という数字もこちらの蔵の中より感じてます。何かお心当たりは?」


それを聞いた夫人は真っ青な顔をして固まってしまった。しばらくしてようやく言葉を発した。


「分かりました。あなた方は今まで私たち家族がお待ちしていたお方なのかもしれません。こちらへどうぞ」


夫人に店の奥に案内された。そこは商談ルームの様で、ソファとテーブルが設置された部屋だった。俺たちは促されるがままソファに腰掛ける。

夫人はお茶を用意してくれて後、話を始めた。


「私はこ小林呉服店の第10代目当主の小林 亜紀と言います。あの蔵には先祖代々受け継がれている日本人形が置いてあります。とても古い人形で、私が小さな頃に祖母から話を色々聞かされてました。『あの人形には不思議な力があり、決して粗末に扱わないこと。捨てたり破壊したりしないこと。いつか4,4,4,4という数字を表明して訪ねてくる人が居たら、その人にこの人形を託すこと』と祖母から言われておりました」


小林夫人は話を続ける。


「不思議なことに、人形は作られてから150年以上経つのに、全く汚れたり壊れたりしないんです。私の母はこの人形を怖がり、何度か捨てたんですが、その度にいつの間にか蔵の中に戻ってきてしまうのです。母は半狂乱になり、人形をハンマーでたたきつぶそうとしても壊れず、油をかけて燃やそうともしましたが、どんなに強い火力で燃やそうとしても全く燃えませんでした。私の母はそれで心を病んでしまい、早くに亡くなりました」


小林夫人はそこまで行った後に立ち上がり、


「では、倉まで案内しますね。どうぞこちらへ」


俺たちは促されるまま倉に案内された。夫人はカギを取り出すと倉の南京錠を開錠し扉を開ける。倉の中は薄暗かったが、夫人がスイッチを押すと明かりがついて中の様子が見えた。


倉の中には日本人形だけがぽつんと床に置かれていた。長らく倉には人が入った気配が無いので、埃っぽかったが、人形の周囲には埃ひとつ無かった。そして人形の前には金色の粒がたくさん落ちていた。


日本人形は幼稚園児ぐらいの高さで、おかっぱ頭のかわいい顔立ちをしていた。着物を着ており外見上は特に違和感はない。


「実は私がここに入ったのはもう3年ぶりです。いつ入っても人形の周囲50cmぐらいには全く埃もなく、人形にも汚れひとつ無いんですよ」


人形からは魔力を強く感じられた。そして間違いなくこの人形の内部から魔力は放出されていた。夫人は言葉を続けた。


「倉の中に何もないでしょう? 実はこの倉に物を置くとしばらくしたら壊れてしまうの。特に陶器やガラス製品はダメね。電球や蛍光灯も割れてしまうので明かりも付けられなかったの。今はLED電球が普及しているので、3年前にそれに変えたら何とか故障せずに使えているの」


「人形の周りに置いてある金色の粒はどういう意味でしょう?」


「あれは純金です。取り除いても取り除いても人形の周りに現れるんです。ご先祖様からは、この人形を大切に保管するために、お人形が自らその費用を支払っている、と聞かされています。実際、数年に一度回収に来るんですが、今のレートで年に10万円位にはなるので助かってはいます」


「ちょっと調べても良いでしょうか?」


「はい、大丈夫です。でも実は私もこのお人形がちょっと怖いので、お店の方に戻ってますね。調べ終わったら声をかけてください」


そういって小林夫人は戻っていった。


「さて、さやかどう思う?」


「この人形も不思議だけど、この倉の床下には転移魔法陣が描かれているわね。」


「うん、そうだ。俺もそれは感じる。だとすると、この人形が捨てられても戻ってきてしまう理由も半分は分かるな」


「そう、転移魔法で戻ってくるのね。問題は誰がその魔法を発動しているのかってことね」


「俺たち以外にも魔法を使える人が居て、この人形が捨てられたらそれを探し出して転移魔法でここに戻す……、っていう可能性もあるが、そんなことをする理由が分からないし、俺は何らかのからくりで自動的にこの人形内の魔石が転移魔法を発動しているんじゃないかと思う」


「私もそれに賛成ね。どのようなからくりで、魔石が単体でそのようなことができるのか謎だけど」


「それに破壊もできない、燃やそうにも燃えない、ということは物理結界や耐熱結界が常時張られているってことだと思う。周囲に埃が無いって理由はよく分からないけど。でも魔力探知で見ても、物理結界や耐熱結界が張られているようには見えないんだよな」


「そうね、金が生成されるというのは、井本君が以前言っていた水魔法の応用だと思う」


「俺もそう思うが、軽金属ならともかく、金ぐらい原子量の大きな金属を生成するにはかなりの魔力が必要だ。そして魔石単体でどうやって魔力を集めているんだろう。考えれば考えるほど不思議な人形だな」


さやかと話し合い、この人形を持ち帰って調べる必要があることで意見が一致した。俺たちは小林夫人に声をかけて再度話をすることにした。


「小林さん、お人形は調べ終わりました。もしよろしけれはお人形を借用して調べたいんですが可能でしょうか?」


「大丈夫です。お人形は差し上げます。先ほど言いましたように、ご先祖様からの伝言で、この人形の持ち主に相応しい者が現れたら譲渡するように、とのことでした。あなた方は秘密の数字もいい当てましたし、この人形の真の持ち主となるべきお方だと思います。 もしあなた方が人形の持ち主として相応しくなければ、このお人形はいつの間にかまたここに戻ってきてしまうと思いますし」


「ありがとうございます。一応連絡先を置いていきますね」


そう言って俺は、i経済研究所株式会社の代表取締役の名刺を渡す。


「おおきに、あらこんなにお若いのに社長さんだったんですね」


「まだ立ち上げたばかりの会社なんですけどね。今後ともよろしくお願いします」


「よろしくお願いします。お店の評判にも影響しますので、このお人形の件はくれぐれも内密にお願いします」


「もちろんです。我々のことも内密にお願いします」


そう言って、俺とさやかはお店を後にする。小林夫人は俺たちが見えなくなるまで見送っていた。


主人公は呪いの人形に出会いました。この人形との出会いが本小説でのターニングポイントの一つでもあります。

ここから魔法と科学技術の融合が加速します。

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