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52.大賢者、パンデミックを防ぐ

ボストンには転移用魔法陣が無かったので、ニューヨークに転移してから国内線でボストンに移動する。さやかもピッピも一緒だ。

ボストン到着は深夜になったので、とりあえず空港のホテルに一泊する。


翌早朝、空港ホテルからボストン近郊のアルター製薬社までタクシーで行ってみる。

まだ早朝だったので、アルター社の駐車場には車はまばらだった。

マイケル・ヴァン・ジョンソンが来るのを待ち構えたかったが、駐車場入り口に立っていたら、非常に目立ってしまいそうだったので、俺たちは少し離れた林の中に移動し、ピッピに監視をお願いすることにした。


真冬のボストンは非常に寒かったが、魔力のあるピッピにとっては寒さなど大したことではない。

ピッピは駐車場入り口近くの木立の上にとまって、出社してくる車を監視してもらった。


やがて9時近くになり、出勤の車が続々とやってきた。

彼が在宅勤務とかだったら厄介だったが、9時過ぎに彼の運転する車が駐車場に入るのがピッピの目を通じて確認できた。


俺はピッピを操作し、マイケルが車から降りたところで、彼の持っていたバックパックのポケットに忍び込ませた。

スズメが一羽バックパックに忍び込んだことに気が付かず、マイケルは会社の建物に入っていった。


バックパックのポケットから顔だけ出したピッピと視界共有し、建物内を移動する様子を確認する。

いくつかのセキュリティーゲートをくぐり、マイケルは自分の研究室に到着したようだ。


研究室に入ったことを確認してから、ピッピをバックパックから外に出てもらい、研究室内の監視カメラの位置を確認する。

さらに、研究室内部をざっと確認する。


うん、うまい具合に、棚と棚の間が監視カメラに死角に当たるな。

ピッピを監視カメラの死角の位置に移動させ、「チュン」と一声鳴き声を上げさせる。

鳴き声に驚いてマイケルがピッピの姿を確認し、不思議そうな顔をしながらピッピを捕まえようと近づいてきた。

マイケルが監視カメラの死角に入ったところで、ピッピを通じて電撃魔法を彼にお見舞いする。


マイケルが気絶して倒れこんだことを確認し、ピッピを使い、棚と棚の間の監視カメラの死角部分の床に転移魔法陣を描く。


自分で描くのではなく、ピッピを通じてなので時間が掛かったが、なんとか床に直径50cm程度の転移魔法陣が完成した。

その間に、俺はアルター社近くの空き地に転送魔法を準備しておく。


早速転移魔法でアルター社の研究室の中に移動する。

とりあえず俺が移動し、研究室内の詳細を確認することにし、さやかには屋外で待機してもらう。


さてと、こいつがなぜどの様にパンデミックを引き起こしたのか探るとしよう。

俺はマイケルの頭に手を当てると、探知魔法で脳内の記憶を探っていく。

分かったことは以下だった。


 ・勉強も仕事も一生懸命頑張って今の地位につけたが、女性には全く縁がなかった。

 ・元々暗い性格で、女性とはデートはおろか、ほとんど話したこともなかった。

 ・学生時代は女性には気持ち悪がられ、男子からはいじめの対象となっていた。

 ・ようやく出来たと思った恋人は、実は詐欺師で、貯金を全て持っていかれた。

 ・マイケルは世を呪い、腹いせに多くの人を死にやる計画を立案した。

 ・ちょうど、遺伝子組み換えでウィルスを作り出せる研究をしたいたので、

  インフルエンザウィルスの遺伝子を組み替え、致死性と感染率の高いウィルスを

  作り出した。

 ・それを大量に培養し、自身が全世界を巡ってウィルスをばらまき、感染を広げよう

  と計画している。


いじめや詐欺にあっていたことには同情するが、その腹いせに罪もない何億もの人の命を奪うことは許されることではないな。

さらに調べると、培養済みウィルスはこの研究室に保管してあり、マイケルは今日それを持ち出し、明日のフライトで全世界にバラまく旅に出発するつもりだった事も判明した。

まさに危機一髪だったわけだ。

 

彼のバックを探ってみると、パスポートとフライトスケジュールの用紙が出てきた。

それによると、

ボストン→ニューヨーク→ハワイ→東京→ソウル→北京→上海→ニューデリー・・・・

の様に世界各国を短期で移動するスケジュールだった。

世界中どこの地点でもほぼ同時発生にパンデミックが発生するわけだな。


彼から得た知識では、感染した場合の死亡率は20%を超える様だ。

ある意味これが成功したら、人類史上最大の殺人者ってことだな。

未遂の状態だが、有罪確定だな。


俺は彼の白衣を脱がし、ポケットの物を全部抜き取る。

どこに転送させるかちょっと考えたが、すでに彼が感染しているリスクを考慮して、サハラ砂漠への転送はやめにした。砂漠とはいえ、生き物がゼロなわけではないので、ウイルスの拡散の可能性があるためだ。

南極の内陸部なら、生き物は居ないからこいつが既に感染していても大丈夫だろう。

先日転移魔法陣を設置したばかりの南極にこいつを送ることにした。


こいつはブクブク太っており、転移魔法陣の大きさが50cmしかないので、こいつを立たせるのに少し難儀したが、何とか南極に転移させた。


さて、殺人ウィルスの始末もしなくちゃな。

俺は彼から剥ぎ取った白衣を着て、マスクを付ける。マイケルは金髪だったので、ストレージから金髪のウィッグを取り出し(これはクリスマスパーティーの余興で使ったやつだ)それを装着してから、研究室内のパソコンに向かう。


監視カメラからは、マイケルがパソコンを操作しているように見えただろう。

パスワードやデータのありかも先ほどマイケルの記憶から入手している。

パソコンに詳しいさやかと念話で連絡を取りながら、データベースから今回の殺人ウィルスのデータを消去していく。


次に、マイケルが培養してバラまくためにアンプル詰めされたウィルスの始末だな。

これは、実験室内の保冷庫の中に仕舞われていたが、100本もあった。

ある意味これは核爆弾より危険な代物だ。


アンプルをすべてストレージに放り込んで、その他、怪しげなシャーレなどは、研究室内の蒸気滅菌器に放り込んで、殺菌しておく。


さて、もうウィルスが保管されているようなものは無いよな?

探知魔法を使って、危険物をサーチし、危険が無いことを確認後、俺は魔法陣を使い外の魔法陣まで移動。

さやかと合流し、さらにサハラ砂漠の魔法陣まで跳躍する。


サハラ砂漠は真夜中だったが、月明かりで明るかった。

土魔法で穴を掘り、そこにウイルス入りアンプルをすべて放り込む。

穴を埋め戻してから、攻撃魔法の火魔法を使い砂の中のアンプルに炎を注ぎ込む。

しばらく火魔法を地面の下のアンプルに火魔法を注ぎ込んでいると、地面が溶岩の様に真っ赤になってきた。

しまった、やりすぎた。まあ少なくともウィルスはこれで死滅したはずだ。


これですべて完了。

俺たちは自宅まで転移魔法で帰った。


帰宅してから直ぐに予知魔法で、1ヶ月後のSNS検索ワード上位を予知してみる。

「円安」「九州水害」「首都高事故」などが予知される。

よし、もう大丈夫だな。

予知魔法でも災厄の予感は無くなった。


しかし以前から感じている、更に将来に発生すると思われる、漠然とした災厄の予感はまだ残っていた。

この将来の災厄に関しても、ぼちぼち調べ始めないとな。


◇◇◇

ウィルス研究員マイケルの視点:


私は今まで勉強を頑張ってきていた。

元々太っていた体型もあり。小中高校といじめに合いっていた。

コミュケーション能力も低く、特に女性に対しては話すことが出来ず、女性からは気持ち悪がられていた。

大学まで行くと、さすがにいじめは無くなったが、女性から気持ち悪がられることは変わらなかった。


就職してから数年した頃、行きつけのカフェでものすごい美人と知り合った。

向こうから声をかけて来たのだ。

俺は緊張してボソボソとしか話が出来なかったが、彼女は明るく積極的に話しかけてきてくれた。

連絡先を交換し、何度かデートを重ね、人生で一番楽しいんじゃないかと思えた。


やがて彼女から”結婚したい”と言われ、幸せは頂点に達した。

結婚に当たり、新居や結婚式場を探す、との彼女の言葉を信じ、自宅のパソコンで一緒に色々調べものをした。

その数日後、彼女との連絡が取れなくなり、同時に銀行に預金していた現金や、投資していた株などが全て無くなっていることが分かった。


調べてみると、彼女がパソコンを操作した時に、スパイウェアをインストールしたみたいで、それにより、銀行口座や証券口座のIDとパスワードが抜かれていた。

やられた。最初から私の財産目当てだったんだ。


全財産を失った私は、彼女だけでなく、この世の中の全てに私は怒りを覚えた。

いつかこの世界の全員に復讐してやる。


私は頭は良かったので、有名大学を首席近い成績で卒業し、遺伝子組み換えの研究をしている大手会社で働いていた。

私はこれぞ神の采配で、神は「遺伝子組み換え技術で人類に報復を」と言っているに違いないと思えた。


職場にも女性社員は多くいたが、仕事上でも、職場のパーティーでも女性に相手をされなかった。

そればかりか、男性社員にも飲みに誘われたりもしなかった。


お前たち今に見ていろ、全員地獄行だ。

私の目標は確定した。

新種の殺人ウィルスを作り出し、全世界にバラまいてやる。


それからの私は、目的を実現するため仕事にまじめに打ち込む。

そのおかげで、若くして主任研究員に昇格し、研究室を与えられた。

これで密かに殺人ウィルスを開発できる。

私は持っている知識と、会社の設備をフル動員してインフルエンザウィルスをベースに感染力が強く、毒性が強く(つまり死亡率が高く)、既存の抗インフルエンザウイルス剤が全く効かないウィルスを作り上げた。


さすがに中途半端な状態で、人に試すわけにはいかなかったが、この会社の最新の設備である、遺伝子シミュレータで作り上げたウィルスを確認して効果を確認できた。


これを全世界でバラまけば、感染者は1年足らずで10億人は超えるだろう。死亡率20%だから2億人は死亡するはずだ。

私は神の力を手に入れたのだ。


「私をさげすんできた野郎ども、覚悟するんだな」


ウィルスを大量に培養して、アンプルに詰めていった。

そろそろ会社側は俺の行動がおかしいことを気が付き始め、何度か上司から詰問された。遺伝子シュミレータを勝手に使ったのがまずかったか。

まあウィルスは完成したから首になってももういいけどね。


とは言っても、邪魔されたのではたまらない、今夜中に世界を巡る航空チケットを予約し、明日にでも行動開始しよう。


翌日、世界中にばら撒くべく、殺人ウィルスのアンプルを運び出すために研究室に行った。

研究室に着いた時、部屋の隅からスズメの鳴く声が聞こえた。


そちらに目をやると、棚の間にスズメが居てこちらを見ている。

厳重に管理されているこの研究室にスズメが居るなんて考えられない。

不思議に思い、スズメに近づいてみたところで急に意識を失った。


◇◇◇

しばらくして、凍り付くような寒さを感じて目を覚ます。


ここはどこだ?

辺りは薄暗く、見渡す限り氷原が広がっている。

風も強く、急激に凍えてきた。

なんでこんなところにいるんだ? さっきまで研究室にいたはずだ。

私の作ったウィルスはどこだ?


私は寒さに凍えながらも、移動してみた。

数分も移動したところで寒さのあまり動くことができなくなってきた。

氷の上に倒れこんだ後、急速に意識が薄れてきた。


『ちくしょう。この世界に復讐できなかった』


これが私の最後の意識となった。


主人公は無事パンデミックの発生を阻止できました。

南極に設置した転移魔法陣が早速役に立ちましたね。

励みになりますので、面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをつけていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] パンデミックを超える大きな厄災の予感とは何なのか気になりますね…
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