51.大賢者、新たなる災厄を予知する
短い冬休みも終わり、新学期が始まった。
年が明けても株式市場はなかなか好調で、会社の資産は順調に伸びていった。
まったく、大国主AIと予知魔法様様だな。
その日、学校も終わり、俺とさやかは家にいた。
さやかは大国主AIの機能追加の作業をしていた。
なんか、ニューヨーク市場もAI予想の範囲に組み込むらしい。
俺はさやかが作業している横で、スペーステレスコープX社とスペースZ社の作業進捗の報告書を眺めていた。
その時、予知魔法による災厄の予感が来た。
さやかもそれを感じ取ったようで、俺たちは顔を見合わせた。
「またトラブルか? 今回の災厄の予感も急に来たし、人災だな」
「そうね。予知魔法のLvが違う私と井本君が同時に検知したってことは、どこかの誰かが災厄を引き起こす決断をたった今したってことね」
「そうだな。問題はどんな災厄が、いつどこで発生するかだな」
「私たちも何らかの影響は受けるっぽいわね。少なくともここ周辺は影響があることは感じるわね」
「うん、かなりの影響が出て、死者も多数出る感じだな。そして、災厄の発生は……、1ヵ月以内かな?」
「そうね。この感じだと影響がじわじわ広がっていく感じね。なので、発生日時ははっきりわからないわね」
よし、ちょっと災厄がどこまでの範囲なのか確認しよう。
俺はさやかと一緒に転移魔法陣で各大陸に移動して確認してみる。
まずはオーストラリア。
「さやか、ここでの予知はどうだ?」
「そうね。日本と同程度の感じね」
そのまま次はフランスへ移動。
「ヨーロッパでも、災厄は同じように発生するみたいだな」
「うん、ちょっとこちらの方が日本より早いかも?」
次に北米はニューヨークだ。
「ここでも災厄は感じられるな。そしてここが一番早くから発生するように感じるな」
「私もそう感じる」
その後、ロスアンジェルスとケープタウン、ブエノスアイレスにも行って同様であることを確認した。
「よし、とりあえず全世界ほぼ同時に災厄が発生するみたいだ。いったん家に戻ろう」
◇◇◇
俺たちは自宅まで空間跳躍で戻ると、今後の対応を相談した。
これまでに分かったことは以下になる。
・1ヵ月位先に大きな災厄が全世界を襲う
・災厄は突然襲うというより、じわじわ広まると思われる。
・現時点ではニューヨークが最も最初に影響を受けると思われる。
・かなりの人が死亡するほどの災厄となりそう。
・建物が破壊されたりはしない。
「これは、何らかの病気が世界に蔓延するんだと思う」
俺はこう予想した。
「私もそう思う。全世界でほぼ同時に発生しているから、人為的に病原菌がばらまかれた可能性が高いわね」
「問題はどうやって病原菌をばらまく人物を探し出すかだな」
「そうね。それに、時間の余裕はもうあまりないと思う。1ヶ月後には多くの死者が全世界で発生するということは、あと数日の内には病原菌をばらまき始めているんじゃないかと思うの」
予知魔法や探知魔法は万能ではない。
特に、人災を事前に予知して防ぐことはかなり困難だ。
しかも、世界のどこにその人物がいるのかは現時点で全くわからない。
その人物を数日のうちに特定し、なおかつ行動を阻止ししなければならない。
「どうすればいいんだ。どうやってキーパーソンを探す?」
この様な場合、予知魔法で1ヵ月先のニュースや報道を予知しようとしても困難だ。
報道は人間がやることであり、揺らぎが非常に大きいため、数分先ならともかく、1ヵ月先の報道内容を正確に予知魔法で見ることは困難なのだ。
しばらく考えた後、さやかが話し出す。
「私に実はアイディアがあるの」
「いい案があるのか?」
「そう、病気が発生するなら当然多くの人が情報を検索するよね。なので、プログラムを組んで、パソコンでその日の検索ワードのトップ10位をディスプレイに常に表示するようにして、それを予知魔法で確認しましょう」
「ふむ、似たようなことを株価予知でやっているもんな。行けそうだな。やってみるか?」
俺たちは早速パソコンとディスプレイをセットアップし、さやかが世界規模のSNSと、世界規模の検索エンジンの検索ワードのトップ10を表示させるプログラムを速攻で組む。
このパソコンを今からしばらくの間、常時稼働させることにする。
ニュース記事や原稿は、人が作成するため揺らぎが多く、予知魔法で内容を予見することは非常に困難だ。
しかし、ネット上の検索ワードに関しては、多くの人が検索した結果の平均になるので、比較的安定して予知できるのではないか?というのがさやかの予想だった。
俺とさやかは早速、そのパソコンの画面に表示される内容の予知を行ってみる。
すると、今日から7日後に、「新型ウィルス」、「ボストン」、という単語が検索ワード上位に出てきて、2週間後からは、「死亡率」、「パンデミック」、「入国禁止」という単語が上位に出てきた。
やはり災厄はパンデミックだったな。
さらに予知を進めてみると、40日後には「都市閉鎖」、「戒厳令」、「避難先」という単語に交じり「アルター製薬」という単語が上位に、60日後には「マイケル・ヴァン・ジョンソン」という人名が上位に出てきた。
たぶんこの会社とこの人物がパンデミックに関係していると思われる。
早速、ボストン、アルター製薬で検索をかけると、会社のサイトがすぐに見つかった。
遺伝子組み換えの細菌やウィルスを使い、有用な新薬や有用なたんぱく質を作り出す研究をしている会社のようだ。
更に「マイケル・ヴァン・ジョンソン」で検索をかけると、彼の名前でアルター製薬社の論文記事がヒットした。記事には彼の顔写真も掲載されていた。
「この人物が怪しいな」
「そうね。少なくとも何らかの関係者ね」
俺とさやかの出した結論は、”この災厄は我々にも甚大な影響及ぼすので、何としてでも防ぐ”ということだった。
早速準備をして、その日の内にニューヨークへ空間移動した。
主人公はパンデミックを予知しましたね。
どうやってパンデミックを防ぐのでしょうか?




