45.大賢者、スペーステレスコープX社に融資する
10月に入り、ラ・トレル社への融資に関してはひと段落が付いた。
次にi経済研究所としては2件目の案件としてスペーステレスコープX社との融資の可否の為に詳細の打合せを実施することになった。
今回も本社は東京で、ビデオ会議での打合せとなった。
例のごとく、俺たちは年齢が上に見えるようなメイクと服装で会議に臨む。
実はこの会社への出資に関しては先輩方からは異議が相次いでいた。
大谷先輩は、
「宇宙望遠鏡は政府機関が莫大な費用をかけて実現するもので、民間企業が参入して利益が出るとは思えない」
岩崎先輩も、
「その意見に同意するわ。工夫して安価に望遠鏡の制作と打ち上げができても、需要が無ければ利益は望めないわよね。そして、ハッブル望遠鏡も、ジェームスウェッブ望遠鏡も稼働している今、どこまで需要があるのかしら?」
「うん、皆の意見ももっともだと思う。ただ、ハッブル望遠鏡も、ジェームズウェッブ望遠鏡も、一般の研究者や大学はほとんど使うことができないし、口径1.2mと小型の望遠鏡でも宇宙空間での観測が可能な宇宙望遠鏡には一定の需要があると思うんだよね。すごく成長するとは考えにくいが、僕としては出資したいと考えています」
「まあ、社長がそういうのなら。とりあえずスペーススコープX社の説明を聞いてみよう」
という流れで、打合せは予定通り行われることになった。
◇◇◇
会議当日、スペーススコープXの社長からの挨拶と会社説明から会議は始まった。
「初めまして、スペーステレスコープ社社長の谷口誠と言います。この度は融資のご検討感謝いたします」
この会社の特徴は、非常に軽量で打ち上げ時はコンパクトだが、軌道投入時には口径1.2mの大型の光学宇宙望遠鏡であり、その望遠鏡を2台同時に民間のロケットで安価に打ち上げ、宇宙望遠鏡を各種研究機関に時間貸しすることで利益を上げるということだ。
現在稼働中の各国の宇宙望遠鏡と一味違うところは、高性能の地球観測用の望遠鏡としても使える点だ。
更にはイメージセンサーを複数種類切り替えることで、赤外線領域、可視光領域、紫外線領域まで観測可能という機能も有している。
そして、地球を挟んだ反対側の軌道で2台同時に観測することで、疑似的に地球の直径と同じぐらいの口径の望遠鏡と同等の分解性能を実現できる点も特徴の一つだ。
既に基本設計は終わっており、資金難から実際の制作が中断中で、10億円の融資を受けたいとのこと。
事業計画も説明を受けたが、望遠鏡本体の価格は2億円、重さは500kg、想定寿命は10年、安価な民間宇宙船ロケットで他社の衛星と相乗りで打ち上げれば、1台当たり2億円の負担で打ち上げが可能。
2台体制で運用を行うので、打ち上げだけで8億の資金が必要。
地上設備や開発費用でさらに2億の合計10億円が必要。
各種ユーザーには1日100万円の賃料で貸し出しを行う。1年の稼働が3300日として、2台で年間6億円の売り上げとなり、運用費用を差し引いても3年後から黒字になると説明された。既に各パーツの製造準備は完了しており、資金の目途さえ立てばすぐにでも製造開始がでる状態である。来月10月に融資をしてもらえるなら、来年早々には望遠鏡は準備出来るとのこと。
この日は説明を聞いた後、詳細の資料を送ってもらい、融資の可否と条件は後日連絡する、ということで会議を締めくくった。
会議後、再度i経済研究所のメンバーで審議をする。
大谷先輩が最初に発言する。
「あの会社は技術がある事は分かった。たぶん安価に宇宙望遠鏡を稼働させられると思う。しかし、1日100万円の使用料金で、年間稼働300日はちょっと楽観過ぎないか? 俺たちじゃ、宇宙望遠鏡の市場規模なんて分からないけどな」
岩崎先輩も疑問を投げかける。
「たしかにそうね。300日稼働するほど、顧客が付く根拠も示されなかったし。それに先日ラ・トレル社に融資した関係で、10億円もの大金はi経済研究所の現預金の額を超えているわ」
その後も皆で意見を出し合ったが、予知能力で、この会社に融資しても問題ないことが分っているさやかと俺以外は融資に否定的な意見だった。
最後に俺がCEOとして決断する。
「みんなの不安はもっともだと思う。しかし稼働が話半分の年間150日としても、4年後には投資回収できるし、更なる費用の圧縮の余地もあると考える」
さらに話を続ける。
「我が社の資産だが、確かに現時点では7億ほどしかなく、融資資金に足りていないが、俺の予想では、近々ニューヨークダウが大きく値下がりするはずだ。その前に保有株を全て売却し、信用売りに転じておくことで、大きな利益が見込まれており、資金的には余裕ができる」
大谷先輩から苦言が出る。
「確かに大国主AIと我々予想、特に井本社長の予想は今まで外れたことはないが、ダウの暴落を予想しての全資産の空売りは、あまりにギャンブル性が高いのでは?」
「このところ、世界の株価は大きく値上がりしており、ここ辺りで調整が入りそうなことはアナリストの予想でも出ているし、リスクは少ないと判断している。ここ数日が山場になると予想しているので、ここは俺を信用して欲しい。今回の株取引のチャレンジがうまくいかなかったら今回の融資は無し。成功したら融資を行うということで了解して欲しい」
今まで、俺とさやかの最終ジャッジは外れたことはなかったので、何とかみんなの了解を得ることができ、本日は保有株の売却を進め、大国主AIの空売りの推奨銘柄から大きく値下がりしそうな銘柄を選んで信用売りを掛けていくことになった。
まあ、俺もさやかも、明後日のニューヨークダウの暴落と、その影響での日経平均の大幅値下げは予知魔法で把握しているんだけどね。
その日と翌日の市場は落ち着いていたが、その日の夜に米国政府の発表した「失業者数」が市場予想を大きく超えて大幅増だったことを嫌忌して、ニューヨークダウは大幅値下がりした。
米国の証券取引で多く使われていた自動売買システムが過敏に反応して株の大量売却を実行したため、更に株価が下がるという悪循環で、その日だけでダウ平均は2000ドルを超える下げ幅となったのである。
その翌日は、日本市場も朝から大荒れの様相となった。シカゴ日経先物は大幅に下落しており、経済アナリストが「世界大恐慌を上回る下げ幅」などと朝から煽りを入れていた。
俺たちは、その日はいつもより30分早めに定例会議を始めることにした。
大谷先輩は、
「井本社長、さすがですね。見事にダウが暴落しましたね」
「うん、予想が外れたらどうしようと、ひやひやしていたけどね」
まあ、ひやひやしてたっていうのは嘘であるが。
「それで、今日は信用売りしていた銘柄はどうしますか? 更なる値下がり期待でそのままにしますか?」
「うん、それなんだが、俺は今日一日限りの混乱だと思う。失業者数の数は一応想定の範囲内ではあるし、上がり続けた株価の調整が入りそうなタイミングでの失業者数の増加発表で一種のパニック売りと、それに伴う米国での自動売買システムの過敏な反応が原因だから、明日には正常に戻ると思う」
「たしかにその可能性もあるけどね」
「なので、市場が始まってパニック売りで大きく下がったところで、信用売りの銘柄は全て買い戻してくだい。さらに買い戻して得た資金を使い、実力以上に値下がりした銘柄をピックアップして、信用枠ギリギリいっぱいまで信用買いしてください」
「更なる値下がりの可能性もあるので、ちょっとリスクはあるけど、判断としては悪くないかと思うわ」
近藤先輩も俺の意見を肯定してくれる。
まあ、予知魔法で明日の日経平均が2日前の水準まで戻ることは分かっているんだけどね。
「昨晩の内に、さやかが大国主AIの改良して、パニック売りでの対応機能を入れてあるので、市場が始まって、しばらくしたら、大国主AIのはじき出した買い推奨の銘柄情報を元に、どんどん信用買いして欲しい。俺の承認はいらないので、各自の判断で行動してください」
「「了解!」」
その後、午前中で昨日の信用売り分を全て買い戻し、午後からAIの指示により値下がり幅が大きく、明日の戻り値も大きな銘柄の信用買いを資金ぎりぎりまで実施する。
結局その晩、ニューヨーク市場は大きく値を戻し、翌日の日経平均もつられて値を戻したのである。それにより、i経済研究所の保有資産は一挙に大きく膨らみ、10億円の融資も問題なくできるレベルとなったのである。
i経済研究所は宇宙望遠鏡の会社にも融資しましたね。
この宇宙望遠鏡が将来的に役に立ってくるのでしょうか?
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