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40.大賢者、南半球旅行に行く

夏休みも始まったばかり。真面目に授業を受けていたので特に補習授業に参加する必要は無し。

さやかは魔法陣解析ソフトの作成に夢中だ。そんな中、かねてから予定していた南半球への旅行をすることにした。


会社の方の朝会議には、旅先でも携帯電話やパソコンで参加できるし、移動中で参加できなくてもさやかに任せておけば良い。


旅の目的は、まだ行ったことのない南半球で、魔力を持った人や動物を探すことと、各大陸に転移魔法陣を作っておきたかったからだ。

更にさやかとの念話がどこまでの距離まで使えるかも試したかった。


旅行会社に依頼して以下のプランを立ててもらった。

東京 → オーストラリア・シドニー → 南アフリカ共和国・ケープタウン → チリ・サンティアゴ → 東京


それぞれの都市で1泊という強行軍だ。さやかにも同行してもらっても良かったのだが、さやかはソフト開発に時間を割きたいのと、現地で転移魔法陣を作ればさやかを呼び寄せるのはすぐにできるので、俺が一人で旅をすることになった。


総額は300万円を超えた。

視察旅行って名目で、会社経費にしておこう。


旅初日。新幹線で東京に向かい、成田エクスプレスで成田空港へ。特に問題もなくシドニー行きの飛行機の中の人になる。飛行時間は12時間以上か……。


成田空港ではさやかとの念話は出来た。少なくとも200kmは念話できるな。飛行機に乗って、500Kmほど離れたところで念話が途切れ途切れになり、600Km離れたところで念話が出来なくなった。ふむ、現時点では念話の到達距離はこんなもんか。


奮発してビジネスクラスで移動したのだが、12時間以上の移動はいささか疲れた。俺はぐったりしながらシドニー空港に降り立つ。

早速タクシーで中心街のホテルに向かう。ホテルでチェックインして荷物を置き、シャワーを浴びてから街に繰り出す。


歩きながら魔法陣を設置する良さそうな場所を探す。高速道路の高架の下に良さそうな空き地を見つけた。ガードレールで囲まれており、デッドスペースとなっている。とりあえずここに転移魔法陣を描いて早速日本へ移動する。


移動前にさやかに電話しておいたので、さやかは庭で俺を待っていた。

俺は移動後、さやかを連れてとんぼ返りでシドニーへ戻る。二人で魔力検知しながらシドニーの街をぶらつく。

夕食はオペラハウスが良く見える海岸線のおしゃれなレストランで食べる。


「なんか旅行っぽくていいね」


「そうね。この世界では子供のころからどこへも連れて行ってもらえなかったし、前世では観光旅行に行くって文化は無かったしね」


「そうだよな。前世では戦いと権力争いで観光どころではなかったよな」


俺とさやかはのんびりと夜景や町行き人並みを見ながらディナーを楽む。平和でいいなぁ。


その後、さやかは魔法陣解析ソフトの開発の続きをしたいということで、魔法陣を使って日本へ戻った。俺は一人ホテルに向かう。まあ、俺も日本へ帰ってもよかったんだが、旅ホテル代は予約時に払い込み済みだったので、せっかくだしホテルで一泊する。


翌朝、日本時間の8時半にパソコンで経済研究部のみんなとの定例打合せを行ってからホテルをチェックアウトする。

そのまま空港に向かい、今度はケープタウン行きの飛行機に乗り込む。


シドニー滞在中はずっと魔力探知を発動していたが、結局魔力を持つ人には出会わなかった。まあ想定内だけどね。


ケープタウンまでは20時間近くかかり、今回もうんざりした。


空港に着いたときは夕暮れ時で、俺は空港からタクシーでホテルに向かう。

タクシードライバーはムスッとした感じの無口で感じの悪い奴だった。しかも信号待ちでは携帯電話を操作しており、安全運転の意味でも不安を感じる。


タクシーは比較的広い道を通って街の中心街に向かっていったが、途中から様子がおかしくなってきた。繁華街から外れて、いかにも治安が悪そうな地区に入っていった。


「おい、タクシーの運ちゃん。道が違うんじゃないか?」


この国の現地の言葉は11もあるらしいが英語は通じると聞いていたので、俺は英語で運転手に話しかけた。

運転手は英語が分からないふりをして聞いたことのない現地語で何やかや返答してくる。なんなんだこいつは? めんどうなことになりそうだったので、パスポートや財布を入れている手持ちのバックをストレージに放り込んでおく。


そうこうするうちにタクシーは裏路地に入り込んみ、ナイフや拳銃を持ったいかにもガラの悪いおっさん連中に取り囲まれた。


やれやれ、ケープタウンは治安が悪いので繁華街以外には行かないように注意喚起が出ていたが、空港からのタクシーで勝手に治安が悪いエリアに連れて行かれるなんて思ってなかったぜ。


タクシーの運転手は黙ってトランクを開け、強盗連中は俺のスーツケースを引っ張り出して中を開けて物色し始めた。

旅行に必要な物はすべてストレージに入っているが、手ぶらで入国すると却って税関に怪しまれそうなので、小型のスーツケースに着替えとタオルだけ詰め込んである。もちろん金目の物なんて一切入っていない。


金目の物が無いことに腹を立てた強盗どもは、タクシーのドアを開け俺を引きずり出し、ポケットなどをまさぐってくる。ポケットにも何もないことが分かると更に激高して胸ぐらをつかんで俺に向かって叫んでくる。


「おい、金とカード類を出せ」


タクシーの運ちゃんを見てみると警察に連絡するでもなく、煙草をふかしながらニヤニヤとこちらを見ている。やはりこいつもグルだな。


いい加減面倒になってきた俺は周りにいる全員に電撃を喰らわせる。

パチーンという音と共に、全員が電撃を喰らい、タクシーの運ちゃんも含め気絶する。


やれやれ……。俺は奴らの持っていたナイフや拳銃を奪うとタクシーに放り込む。

ついでに奴らのポケットも探り、財布やらキーやら一切合切を奪い取り、タクシーに放り込む。


そしてそのままタクシーに乗り込んで、自分で運転してホテルに向かうことにした。車の運転は初めてだったし、免許証も持っていなかったが、このタクシーはオートマチック車だったし、知識としては運転の仕方は知っていたので何とかなった。


途中で大きな川のほとりに車を停めて、奴らから奪った銃やらナイフやら財布やらを全部川に投げ捨てておく。やがてホテル近くに来たので、適当な駐車場に車を停めて、面倒を掛けられた腹いせに、エンジンルームを開けて吸気口からジュースをたっぷりエンジンに飲ませてやった。


そのまま歩いてホテルに行き、チェックインして一休みする。

うーん、転移魔法があるのに最初だけ飛行機で移動ってのはめんどくさいし疲れるなぁ。

翌日は魔法陣を描く場所を探そうと思ったが、ピッピの協力の元周囲を探したら、このホテルの屋上は良さそうだということがすぐにわかり、非常階段で屋上まで上り魔法陣を描く。


さやかに携帯電話で連絡して、こっちに来るか聞いたが、


「ケープタウンには特に興味ないので行かない」


とつれない返事だった。


俺は翌朝ホテルをチェックアウトして、そのまま空港に向かい、チリのサンディアゴ行きの飛行機に乗る。

疲れるわ。


◇◇◇

ケープタウンのタクシードライバー視点:


俺はケープタウンで暮らす貧乏なタクシードライバーだ。他の多くの国でもそうだが、俺の国でもタクシードライバーは稼げる額は少なく、金が無い。

それでも俺は自分の車を所有しているので、雇われタクシードライバーより幾分ましだ。


生活に余裕が無いので、悪友と結託して月に一度程度、気弱そうな外国人旅行客をだまして悪友たちに襲わせて、巻き上げた金品を山分けすることで小遣い稼ぎをしている。


この日は東洋人のガキがタクシーに乗ってきた。ガキが一人か。綺麗な恰好をしているので、金は持っていそうだな。やるか。


俺は信号待ちの時、携帯電話から悪友たちにメールで『カモだ、いつもの所で』と送信する。その後何食わぬ顔でタクシーを運転し、途中からスラム街の方向に車を向ける。


「おい、タクシーの運ちゃん。道が違うんじゃないか?」


ガキが英語でわめいていたが、何言っているのか分からないふりして現地語で返事してやった。やがて仲間と示し合わせている場所まで来るとタクシーの速度を緩める。


仲間たちはいつものようにタクシーを囲み、銃を突きつけてくる。俺は恐れたふりをして両手を挙げてタクシーを停める。

仲間は外から『トランクを開けろ』と指示してきたので言うとおりにトランクを開ける。


いつものように完璧だな。

俺は名もなき旅行者から行く先を告げられるが、誤ってスラム街に迷い込んで運悪く強盗に襲われた。銃で脅され止むを得ずトランクルームを開けた、って訳だ。


仲間がトランクルームからガキのスーツケースを取り出し、中を開けたが金目の物が無かったらしく、奴らは怒ってガキを車から引きずり出した。

ガキは素直に出てきたので、仲間がポケットを探ったのだが、財布もパスポートも何も持って無かった様だ。


激高した仲間が胸倉を付けんでガキを怒鳴り散らし始めた。俺は車から降りて煙草を吸いながらその様子をのんびり見ていた。次の瞬間、俺は意識を失った。


◇◇◇

しばらくして意識を取り戻したらガキもタクシーも無かった。

それどころかポケットに入れていた財布もキーも無かった。

仲間たちは周囲に倒れて意識が無かったので揺すって起こすと、奴らのナイフや銃や財布も無くなっていることが分かった。

ご丁寧に一部仲間は買ったばかりのナイキ製の高いシューズや、腕時計まで奪われていた。


俺は仲間から「とんでもない奴を連れてきやがって!」と、ボコボコにされてしまった。俺は財布はともかく、商売道具のタクシーが無くなってしまったことにひどく動揺してしまった。まだローンが5年も残ってるんだ。無くなったらエライことだ。


俺はガキが行き先として指定した街中のホテルまで行ってみた。

不幸中の幸いとはこのことか。俺はホテル近くの駐車場で俺のタクシーを見つけることができた。ドアはロックされておらず、キーは刺さったままだった。


俺はタクシーが見つかったことを神に感謝し、エンジンを掛けた。次の瞬間エンジンルームから爆発音のような大きな音がして、煙が出てきた。俺は慌ててボンネットを開け、エンジンルームを調べる。するとエンジンに大きな亀裂が入っており、完全にぶっ壊れていることが分かった。


おいおい、エンジンがこれじゃお手上げだよ。

まだローンが5年も残ってるんだ。どうすりゃいいんだ? あんなガキを乗せるんじゃなかった。


俺は頭を抱えて、いつまでもその場所で蹲っていた。


主人公はトラブルに巻き込まれやすいですね。まあ、ひよわ(ぽく見える)な高校生の一人旅は何かと危険ですね。

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