34.大賢者、学園祭を楽しむ
6月中旬には学園祭があるとの事で、5月も下旬になると学園祭の準備で校内は騒がしくなってきた。
経済研究部も学園祭に出店することとなった。
文化部なのに学園祭に出店しないとペナルティーで部費を減らされるので、出店は必須だ。
部員全員が株取引をやっているので、例年は株関係の各種指標の意味と、儲けるコツなどをまとめて展示するという簡単な物だったが、今年はそれに加えて大国主AIのこの1ヵ月で大きく値上がりする推奨銘柄をいくつか、学園祭で紹介することにした。
株価上昇理由については、実はAIのアルゴリズムが良くわからない(自主学習方式でAIが勝手に自身の性能を上げていった)ので、先輩方と一緒に後付けで理由を考えて併記した。
俺とさやかは会社設立に関するやり方とまとめて展示した。
今更ながら思うが、あんまり人気が出そうにない展示だな。
普通の高校生は株はやらないし、ましてや会社なんか起こさないもんな。
そして学園祭当日。俺とさやかは生まれて初めての(前世も含め)学園祭を楽しむことにした。
経済研究部の説明は、先輩と交代で行うこととなったので、空いた時間に十分学園祭は楽しめた。
初日の土曜日。前半は俺とさやかは説明員として経済研究部の展示教室に詰めていたが、案の定あまり見学者は訪れなかった。
それでも、先生方や生徒の父兄の中には株取引に興味を持っている人も多いみたいで、色々質問してきたり、値上がり推奨銘柄について、メモを取ったりしている。
その中の一人が、
「この推奨銘柄は本当に上がるんだろうね?」
と質問してきた。
「少なくとも1ヶ月後には大きく上がっていると自信を持っています。しかし株取引は自己責任でお願いします」
俺たちは先輩たちと事前に取り決めた内容で返答しておく。
午後からは説明員から解放されたので、さやかと二人で学園祭を楽しむことにした。
喫茶店が出店している教室でお茶してやクッキーを食べたり、お化け屋敷を楽しんだり、たこ焼きやクレープを食べたり楽しく過ごせた。
特にさやかは楽しそうで、
「私は前世も含め、フェスティバルに行った無かったから、すごく楽しい」
「そうだな、俺は前世ではともかく、この世界では何度かお祭りには連れて行ってもらった記憶があるからそれほどでもないけど、さやかは初めてなんだな」
「うん、前世では魔法の練習ばかりで厳しく育てられてたし、この世界でも両親にも祖父母にもどこにも連れて行ってもらえなかったから……」
さやかは少し寂しそうにそう言ってさらに続けた。
「でも、前世ではオルペウス様にお仕えすることができて、この世界でもお会いすることができて十分幸せです」
「そうか、折角生まれ変わったんだし、この世界では楽しく暮らそうな」
「はい」
こうして学園祭初日は終わった。
翌日、学園祭二日目。
今日は朝から一般公開の日なので、より多くのお客がやってきた。
もっとも、経済研究部は相変わらずあまり人が来なかったが……。
午前中は俺とさやかが説明員だったので、展示教室に詰めていた。
そこに知った顔の女子が現れた。
「井本君。お久しぶりです」
「おっ! 鈴木恵さん? 久しぶり。元気?」
「う、うん。元気だよ。井本君も元気そうだね」
「うん、この高校での生活楽しんでるよ」
「そうか……、楽しそうで良かった」
恵さんは心なしか疲れたような悲しそうな感じだな。
「あの、鈴木さんはちょっと元気がなさそうだけど大丈夫? 僕で良ければ相談に乗るよ」
「う、うん。何でもないの。せっかくだから、ここの展示を説明して」
「うん、あんまりおもしろくないかもだけど、説明するね」
そう言って、他の客をさやかに任せて、恵さんに展示物を一通り色々説明する。ついでに俺が会社設立した話もした。
「えっ? 井本君会社を設立したの?」
「うん、会社設立って言ってもそれほど難しくないんだよ」
「でもすごいよね。一応社長さんなんだよね?」
「うん、まあそうなるのかな?」
「あ、あの、今度また色々相談に乗ってもらてもいいかな?」
「え? うん、いいよ、いつでも連絡してくれていいから」
「ありがとう。じゃぁまたね」
そう言って恵さんは去っていった。
うーん、大丈夫かな ?ヒール魔法を掛けてあげればよかったかも。
ちょっと心配になりながら後姿を見送った。
午後になり、説明員から解放されたので、さやかと学園祭を回ることにした。
今日は体育館での出し物を見に行く。
主にバンドグループの演奏披露だ。この学校にはミュージシャンを目指す生徒も多く、仲間でバンドを組んだりしている。
たこ焼きやりんご飴を食べながら、さやかとのんびり演奏を聴く。
演劇部による寸劇も面白かったな。
そろそろ学園祭も終盤に差し掛かっており、あまった販売品の投げ売りが始まったので、買い食いのため再度校内をうろつく。
そこで突然声を掛けられた。
「井本君、見つけた」
振り返ると、中学校のクラス委員長の金井容子さんが立っていた。
「お久しぶり。高校生活はどう?」
「あ、委員長。お久しぶり。高校生活楽しんでるよ。委員長こそどうなの?」
「もう委員長じゃないけどね。私も……、それなりにやってるわ」
「委員長は確か進学校の藤江東高に行ったんだっけ? けっこう大変じゃない?」
「そうなのよ。中学校時代の成績って結構いい線行ってたと思ってたけど、高校じゃ下から数えた方が早い成績だからいやになっちゃう」
「あはは、そうなんだ。この高校は自由でいいよ。部活も勉強も楽しくやってるよ」
「せっかく会ったんだから、校内を案内してよ」
「うん、いいよ。こちらは佐藤さやかさん。僕のいとこだよ」
「あ、そうなんだ。金井容子です。よろしくね」
「よろしくお願いします」
俺たちは金井さんを連れて、校内を色々案内してあげる。
と言っても、既に学園祭も終了時間に近かったので、あっという間に時間となってしまった。
最後にカフェテリアで休憩する。
「なかなか素敵な学校ね。思っていた印象と違ったわ」
「どんな印象だったの?」
「そうね。もっと暗いというか。不良生徒が多いイメージというか」
「おいおい、ひどいなぁ。あんまり不良は居ないかな? 逆に自分の目標を強く持っている生徒が多いような気がするよ。俳優志望やミュージシャン志望や、ユーチューバー志望の生徒もいるかな?」
「そうなんだ。私なんていい大学に行くって思っているだけで、目標なんかないなぁ。井本君の目標って何?」
「俺は親父と同じように会社を立上げて、それを巨大企業にすることかな?」
「あはは、大きな夢でいいわね。大学卒業と同時に会社立上げって感じ?」
「いや、もう会社は立ち上げて従業員も俺を入れて4人だぜ」
「え?ホント? すごいわね」
「会社立上げなんて簡単なんだよ。それを事業として回していくのが大変だけどね」
まあ、チートな能力で簡単に利益あげているんだけどね。
「いいなぁ。井本君と同じ高校に行きたかったなぁ……。そうだ!大学進学するよね? どこを目指すの?やっぱり地元の大学?」
「大学? ちょっと早すぎない? まあ東京大学を目指そうかと思っているけど」
知力強化魔法を使えば、東京大学入学もなんの問題も無いだろう。
「えぇっ! マジで言ってる?」
「うん、まあね」
「そう……」
金井さんはちょっとしょげたような表情を浮かべていた。
やがて学園祭も終了の時間になり、金井さんとも別れて片付けに入った。
経済研究部の撤収は数枚のパネルを片付けるだけなので、直ぐに終わった。
その後、部員のみんなで近くのファミレスで簡単に打ち上げを行う。
大谷先輩が乾杯の音頭をとる。
「経済研究部の展示が盛況のうちに終わってことに乾杯」
「「かんぱーい」」
「先輩、それほど訪問者は多くなかった気がしたんですが、盛況でした?」
「昨年と比べると全然盛況だぞ。特に部員の運用成績と共に、購入推奨名がらを掲示したのが良かったな。先生方や父兄を中心にけっこう推奨銘柄をメモっていった人が多かったな」
うん、あの推奨銘柄は買えば確実にもうかる銘柄を厳選したから、実際に買った人がいたら儲かるだろうな。
そんな感じで、和やかに打ち上げは終わり、20時には解散となった。
さやかは始終楽しそうだったので良かった。
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