29.大賢者、米国へ行く
高校進学の前に俺はもうひとつやっておきたいことがあった。
ヨーロッパとサハラ砂漠に転移魔法陣は設置したが、アメリカにも設置しておきたかったのだ。
卒業式の翌日出発で、米国の東海岸と西海岸の航空チケットとホテルの予約を入れておいた。
さやかはすぐにはパスポートの準備ができないので、お留守番してもらうことにした。
まあ、俺が現地に行けば、さやかを転移魔法で呼べるしな。
成田空港からニューヨークまでの直行便で移動。
今回も荷物の大半はストレージに入れているので手荷物は最小限だ。
ピッピは今回もストレージで連れていく。
12時間も掛かってようやく現地に到着した。
今回も探知魔法で魔力を有する人や動物が居ないかをサーチしながらの旅行だ。
予約しておいたホテルにチェックイン。
ニューヨークの街をうろつきながら魔法陣を設置する場所を物色する。
ピッピも外に出して上空から魔力探知を行い、ついでに良さそうなところを探してくれる。
結局ホテルにほど近いセントラルパークの片隅の、あまり人が寄り付きそうにない一角に深夜の内に魔法陣を描いておくことにした。
深夜のニューヨークは一人で出歩かないようにガイドブックに書いてあったが、特に危険な目には合わなかった。
翌日も地下鉄に乗ったりして魔力探査を行ったが、結局魔力を有する人は見つけられなかった。
その翌日、西海岸のロサンゼルスに移動する。
西海岸にも転移魔法陣は設置しておきたいもんね。
ロスでホテルにチェックインしてから、魔法陣の設置場所を物色する。
あまり街の中心街から離れたところには設置したくなかったが、いくつかある公園であまり人目のつかないところが見つからなかった。
空き地に設置してもいいけど、いつ工事で掘り返されるか分からないのでそれは避けたい。
結局、屋上までのアクセスが比較的容易なビルの屋上に描くことにして、ピッピと視界共有をして良さそうなビルを見つけた。
深夜の時間に目星をつけたビルに向かい、非常階段で屋上まで上がる。
カギがかかっていたが、難なく解除し、屋上に魔法陣を描いておく。
屋上には防水シートが張られていたのだが、魔法を使いそのシートの下に描いておいたので、シートを引っぺがさない限り魔法陣は人目にさらされないだろう。
工事かなんかで魔法陣が見つかっても、こっちの世界の人にはなんだかわからないはずだ。
俺は非常階段で下に降り、ホテルに向かう。
ニューヨークと同様、この辺は治安が悪いので特に夜間は一人で出歩かないようにとガイドブックに書いてあるが、まあヤバそうなやつに絡まれたら全力で走って逃げるさ。
身体強化状態の俺なら、現時点で人類最速だからな。
そんなことを考えながら早足に歩いていると、女性の悲鳴と、男たちの怒鳴り声が聞こえてきた。
何となくトラブルに巻き込まれそうな予感はしたが、声のする路地を覗いてみる。
高級車から引きずり出されている女性と、いかにも強盗ですと言わんばかりの感じの男が3人が視界に入った。
うーん、やっぱり助けた方が良いよね。
魔法でこいつらを撃退するのは簡単だけど、目撃者もいるし、監視カメラもあるかもしれない。
素早く頭の中で撃退する方法を考えてから声をかける。
「おい、お前ら! 何してるんだ」
俺は強めに声を上げる。もちろん英語だ。
奴らはこちらをちらっと見たが、ガキが一人だと分かり、無視された。
女性は、
「お願い助けて。警察呼んで」
と俺に助けを求めてきた。
うん、仕方ないね。
俺は小石を拾い上げると、強化魔法を使って女性を掴んでいる男の頭に石を投げつけた。
プロ野球選手の全力投球並みの速さで正確に男の頭に石が当たり、男は「いてぇ」と叫んで頭を押さえてうずくまる。
残りの2名にも石を投げつけ、いずれも頭に命中。
奴らは女性から手を離すと怒りの表情を浮かべてこっちに走ってきた。
二人はナイフを、もう一人は拳銃を構えている。
俺は横のビルにさび付いたはしごが設置してあるのを横目で確認し、はしごと柱をつないでいる部分を空間魔法で破壊する。
更に地面と接地している部分も破壊してすぐにでも倒れる状態にする。
奴らがはしごの真横に来るタイミングで、梯子を奴らに向けて魔力で倒す。
奴らはいきなり倒れてきた梯子の下敷きになり、頭を打ったのか静かになる。
車の女性に近づいて見ると、特に怪我はないみたいなので、
「大丈夫ですか? こいつらが目を覚ます前に車で逃げたほうが良いですよ」
そう伝えると俺はその場を後にした。
うん、老朽化した梯子がたまたま倒れてきただけで、魔法を使ったように見えないよね。
俺はそのままホテルに戻り眠りにつく。
翌日はロスの街を魔力探査しながらうろついた。
ピッピにも協力してもらい、街中を探査したがやはり魔力を持った人は見つけられなかった。
あまり期待はしていなかったが夕方になったので探査は中断してホテルに戻ることにした。
ピッピを呼んで肩にとまらせてホテルに向かおうとした時、歩道脇に車が停まり、女性が下りてこちらに向かってきた。
「君は昨夜私を助けてくれた子じゃない?」
「えっ、ああ、昨晩の? 奇遇ですね」
「ふふ、もしかしたら出会えるかなって探していたのよ。昨晩は本当にありがとう」
「いえ、あの時はたまたま梯子が倒れてきて助かっただけで、僕があなたを助けたってことは無いですよ」
「それでもあなたが居なかったら私はひどい目に合ってたわ。ありがとう。お礼をしたいんだけど今晩ディナーでもいかが?」
俺は断ったのだが、彼女が是非にと引かなくて、降りてきた旦那さんらしき人からも熱心に誘われ断り切れなくなったのでごちそうになることにした。
ホテル名と部屋番号と俺の名前を告げる。
旦那さんと思われる人が
「では後でホテルに電話を入れますので」
そう言って去っていった。
まあ、今日の夕飯をどうしようか考え中だったし、ごちそうになるか。
ホテルでシャワーを浴び、明日の帰国の準備をしていると、電話が入った。
先ほどの旦那さんからで、ホテルの前で車で待っているとのこと。
俺はロビーに降りて、ホテルのエントランス近くで昼間の車を見かけて近づいた。
「こんばんは。じゃあ、後ろに乗ってくれる?」
お言葉に甘えて後部座席に乗り込む。
「まだ名前を言っていなかったね。僕の名前はエンジェル・ジョンソンという。こちらは妻でジュディだ」
「はい、今夜はよろしくお願いします。僕は井本史郎といいます」
車は近くの高級そうなレストランに到着する。
俺はカジュアルな服装だったが、その服装で特に違和感は出ない感じのレストランだったので良かった。
俺たちは食事をしながら色々話をする。
きけば、旦那のエンジェル氏は30歳で、航空宇宙関連のベンチャー企業であるスペースZという会社のCEOらしい。
うん、なんか聞いたことがあるような会社名だな。
妻のジュディも30歳で、彼の仕事のサポートをしているらしい。
昨晩は彼女が一人で比較的安全な道を走っていたところ、工事の車両が停まっており、わき道に誘導されたとのこと。
その脇道の先で、さらに誘導員が居て、被害にあった道に誘導されたらしい。
彼女の考えでは、工事にしては怪しかったので、その誘導員も強盗の仲間だったと考えているらしい。
彼女を実際に襲った3人組は警察が来るまで気絶したままだったので、即逮捕されたとのこと。
俺はエンジェル氏の名刺をもらい、
「何か困ったことが有ったらいつでも相談してくれ」
と言われ、その日は別れたのであった。
翌日、また飛行機に12時間近く乗るかと思うとうんざりしたが、パスポートの入出国の記録の矛盾が生じてしまうので、今回もしぶしぶ飛行機で帰国する。
成田空港から東京に出るまでもなんか遠く感じて、いつか成田空港の近くに転移魔法陣を作ろうかと本気で考えた。
主人公はロケット会社の社長と知り合いになりましたが、後でどのように関係してくるでしょうか?
(関係しないかも?)




