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27.大賢者、処刑の日を思い出す

俺は前世では大賢者として宮廷内で特別職に就いていた。

我が国は急に増え始めた魔獣からの攻撃を受けており、今では防衛するだけで手いっぱいだった。


俺にずば抜けた魔法の才能があることが分かって、国王の直属の養成機関で魔力を磨き上げられ、30歳の頃に俺は史上最高の魔力を持つ大賢者となった。


俺は魔法の長けた人材を徴用し、史上最高の魔法軍を築きあげて、魔獣との戦いを有利に進めることができた。


そして俺が80歳の時、俺を中心としたわが軍は最後の大攻勢を魔獣の巣窟に対し仕掛け、5年に渡る戦いでAランクの魔獣を追い詰め、ついに国内にいたAランクの魔獣を全て討伐することに成功したのだ。


Aランクの魔獣をせん滅させたので、当面の脅威は無くなり、王立魔法軍は規模を大幅に縮小され、俺は特別職である『魔法特別顧問』という役職名で余生を過ごすことになった。


我が国は平和になったが、長く平和が続いていくと宮廷内に腐敗が蔓延し始めた。コネによる昇進、わいろによる優遇は日常茶飯事となり、国内の貧富の差も拡大していった。


俺は『魔法特別顧問』という立場で各大臣や貴族や国王にまで苦言と忠告を繰り返していた。


どうやらそれらが国王や大臣たちにとって都合が悪かったらしい。

国王が崩御し、皇太子が新国王に就任すると、俺に対する風当たりはきつくなっていった。


俺は暗殺される可能性もあると考え、万が一の場合に備え、殺された場合に自動的に発動する転生魔法陣を自分の背中に入れ墨として彫り込んでおいた。


そして、転移後に記憶を呼び戻すための魔法陣を描いた羊皮紙を常に身に着けるようにしておいた。


そんなある日、国王に宮廷内の奥にある普段使われていない広場に呼び出された。


衛兵に取り囲まれるようにそこに連れていかれた俺だったが、そこには国王と内務大臣と側近たちがいた。


広場に着いたとたん魔力封印布で作られたローブを着るように命じられる。


魔力封印布とは、文字通り魔力を封印する機能のある布で、それで作られたローブを身に纏うと魔力で外に攻撃などができなくなる。


当然そんな要求など受け付けられないため拒否して、周りの衛兵を魔法で蹴散らそうとしたところ、広場の反対側に掛けられていた布がさっと取り払われ、その先にはギロチンに首を挟まれ、斬首寸前の状態に置かれている弟夫婦とその息子と娘が見えた。


「おとなしく言うことを聞かないとこいつらの首をはねるぞ。なあに、心配するな、お前は国外追放になるだけだ」


内務大臣がそう言ってくる。

俺の魔力を使えばここにいる全員を無力化するのは容易い。


しかし、魔法を使ったとたんギロチンの歯を押さえている者が手を離すことであろう。


ギロチンが1台なら何とかなるかもしれないが、4台では全員を救うことは不可能だ。

おれは仕方なくローブを身にまとう。


衛兵たちは魔法を使えなくなった俺の身体をロープでぐるぐる巻きにする。

更に広場中央に打ち込まれている頑丈そうな杭に俺を括りつける。


俺は身動きも取れず、魔法も使えない状態となり、できることは国王をにらみつけるだけだった。


内務大臣は俺に向かってこう言い放つ。


「魔法特別顧問のオルペウスは、国王をはじめ各大臣や侯爵様を始めとする貴族たちに大いなる不敬を働き、国内の政治を乱した。よってその罪を死によって償ってもらう」


俺の周囲から人が離れ、宮廷内の魔法使いが俺を囲む。


その時、現在の俺の一番弟子であり魔法副大臣でもあるエレーニが叫ぶ。


「お待ちください。オルペウス様はこの国を救った英雄です。不敬など一切しておりません。オリベウス様はこの国を憂いて数々の忠告をしているだけではありませんか」


国王がそれを良しとせず叫ぶ。


「ええい、うるさい。その小娘共々処刑を実行しろ。」


エレーニが乱暴に俺の方に蹴り飛ばされると同時に宮廷魔法使いが能力の最大級の火炎攻撃を俺達に向かって放つ。


「きゃーーー」


かわいそうにエレーニの身体はあっという間に消し炭と化した。

同時に俺の身体も炎に焼かれ燃え殻となっていった。


その時背中に彫り込まれていた転生魔法の入墨が転生魔法を発動し、俺の魂と羊皮紙を別世界に転生させたのだった。


今までは、俺だけが転生したのだと思い込んでいたが、エレーニが転生してここに居るということは、彼女は俺と同時に転生したことになる。


俺が準備し発動した転生魔法は2m程度の範囲で発動し、発動時には死亡した魂を転生させる機能を有していた。


つまり、エレーニは俺と同時に2m以内で死亡したので、彼女の魂も俺と同時に転生したわけだ。


それにしても今まで探知魔法で魔力を有する者を探し続けていたのに、エレーニが見つからなかったとは。


「エレーニ、いや、この世界の名前のさやかと呼ぼう。君は転校後はどこに住んでいたんだ?」


「祖父母の家は名古屋だったんです。」


「そうか、実は俺は他に魔法を使える人がこの世界に居ないかを確認していたんだ。日本では首都圏の方を何度か探査したが、西の方はまだだったな。気が付くのが遅れ申し訳ない」


「いえ、いいんです。それより私の魂まで救っていただき感謝しています」


俺は苦笑いをしながら答えた。


「いや、君が転生したのはたまたまだしな。でもこの世界で仲間ができたのはとてもうれしい」


「私もオルペウス様にもう一度出会えてうれしいです」


「君も俺のことはこの世界での名前で呼んでくれないか?」


「分かりました。えっと、井本様」


「いやいや、様はつけなくていいよ」


「はい、いっ井本君」


「うん、これからよろしくね」


彼女が腹ペコだったので、俺は有り合わせの食材でざっと食事を作ると彼女と一緒に食べることにした。


さやかは美味しい美味しいと嬉しそうに俺の料理を平らげてくれた。


「美味しかったです。もう2年近く、まともな食事はさせてもらえなかったので」


「うん、苦労したんだね。申し訳なかった」


俺たちは今後のことを話すことにした。


そして決まったことは、


 ・早急にさやかの魔法の訓練を実施し、魔法を使えるようにする。


 ・さやかも魔法に関しては誰にも知られないように注意する。


 ・生活についてはこの家で共同生活の形とする。


 ・さやかも高校には進学することにする。高校は俺と同じ高校とする。


我々はまだ未成年なので、高校進学を含む各種手続きに関しては俺の祖母を頼ることにした。


早速翌日から色々実行することにする。


彼女は洋服をはじめ私物をほとんど持っていなかったので、まずは必要なものを買いそろえることにした。


住む場所は、さすがに同じ家だと色々とやかく言う人が出てきそうなので、俺の家と同じ敷地内の別の建物に住んでもらうことにした。


元々はお手伝いさんが住むように作られた部屋で、入り口も母屋と別で、風呂もトイレも台所も付いている。


まずは洋服屋に行き、当面必要と思われる衣料品をたっぷり購入する。

さらに電気屋によって、生活に必要な電気製品を買い求める。


時期的に「新生活応援セット」なるものが有り、冷蔵庫、洗濯機、テレビなどがセットとなったのが販売されており、それを購入、家まで運んでもらうことにした。


ベッドやソファや棚などは元々部屋についていたので、掃除してそのまま使うことにする。


15時近くに概ね生活に必要な作業は完了したので、祖母の所にお願いに行くことにした。


祖母の家の裏庭には俺が準備した転移魔法陣があるので、俺の家の裏庭からさやかと共に移動した。


祖母はちょうど家にいたのでさやかについて相談をする。


さすがに俺は転生者で、さやかも同じ世界からの転生者、だとは言えないので、さやかは小中学校で俺の親友であり、親から虐待と育児放棄されたうえ、中学卒業と同時に実家から追い出され、行くところがないことを説明した。


そして、俺の家の離れで住むようにしたいこと、彼女の高校進学はサポートしたいこと、高校は俺が進学する予定の学校が働きながらでも卒業可能な学校なので、ここに一緒に進学したいこと、その為におばあちゃんに色々協力してもらいたいとお願いした。


しばらく考えていた祖母は、


「わかったわ。さやかちゃんは良さそうな子じゃないか。全面的に協力するわね。さやかちゃんは中学卒業後は住み込みのお手伝いさんとして、井本家に雇われるって形式でどうだい? 私が雇用主だ」


祖母はそう言って、さやかの両親の連絡先や中学校の名前など色々聞いてきた。


祖母は俺たちに向かって、


「うまくことを運ぶから黙って聞いてなさい」


というと、さやかの両親に電話をしてくれた。


電話はハンズフリーモードにしてくれたので、俺たちにも内容は聞こえてきた。相手は母親のようだった。


「もしもし、佐藤 さやかさんのご両親のお宅ですか? 私は彼女の友人の井本史郎の保護者である井本貴子といいます。今さやかちゃんをこちらで保護しているんですが行く所も無いようなので引き取りに来ていただけませんか?」


「はっ? 何勝手に保護しているんですか? その子は義務教育も終えたところですし、もう一人でやっていけるということで家を出てます。引き取りには行けません」


「そうなんですか? では、こちらで保有している借家に住まわせようと思いますが、敷金礼金として30万円が必要なんですが、お支払いいただけますか?」


「何言ってんの?そんなの払うわけないじゃない。さやかに支払わせばいいんだよ」


「しかし、さやかちゃんはお金を持っておりませんし、まだ未成年なので家を追い出すなら生活費用はそちらで持つ必要があるのではないですか?」


「バカ言ってんじゃないよ。さやかのことはこちらは関係がないからそっちで勝手にやってくれ。金はびた一文払わないし、もう連絡してこないでくれ」


さやかの母親はそういうと一方的に電話を切ってしまった。


祖母はにやりと笑うとこう言った。


「こっちで勝手にやってくれという言質が取れたからね。これで親御さんの了解は取れたわけだ。今のは録音してあるから、後から未成年誘拐とか四の五の言ってきてもこっちが有利だからね」


さやかの中学校からの高校への願書提出用の書類とかは全部祖母が『保護者代理人』としてうまくやってくれることになった。


頼りになるおばあちゃんを持って本当に良かった。


俺たちは家に帰ることにして祖母の家を後にした。


もっとも、祖母に手を振って駅の方角にしばらく歩いてから、祖母宅の裏庭に舞い戻って転送魔法陣を使って帰ったんだけどね。


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