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26.大賢者、仲間を見つける

2月に入った。


株投資の口座資産は500万円を超え、当面の生活費や高校の入学金と授業料には十分となっていた。

学校ではみんな受験一色で、授業も受験対策の内容ばかりだ。


俺が行く予定の学校は成績なんて関係なさそうだし、授業自体は相変わらず退屈だ。

それでもまじめに授業を受けるふりをする。


大半の時間は魔法の練習をしたり、ピッピとの視界共有で大空を散歩している。

今日もピッピの視界共有で散歩していると探知魔法で魔力を感知した。


えっ? 俺は一瞬何が起きたのか分からなかった。

魔力を探知したってことは、魔力を使える人か動物が居るってことだ。


東京やヨーロッパまで移動して魔力探知を行っても魔力を有する人や動物は全く探知できなかったのに、地元のこんな直ぐ近くで魔力が探知できた?


ピッピをコントロールして高度を下げ、魔力の元を探してみる。


やがて市役所近くの中央公園から魔力が探知されることが分かり、さらに高度を下げるとベンチに座っている制服を着た女の子から強い魔力が探知されることが分かった。


俺はピッピを女の子が座っているベンチに降り立たせる。

女の子はうつむいて座っていたため、ベンチから女の子を見上げてようやく顔が認識できた。

綺麗な整った感じの子で、歳は俺のこの世界での年齢と同じぐらいか?


しかし、この子の顔に何となく見覚えがある。 誰だっけな?


その子はピッピの存在に気が付いて、ピッピに顔を向ける。

そこでようやく思い出した。


この子は中学1年の時にこの学校にいた子だ。クラスが違っていたので名前までは思い出せなかったが、一風変わった感じの子で、ちょっと気になる存在だったので覚えていた。


しかしこの子は中学1年の1学期が終わるとどこかへ転校してしまったはずだ。

女の子が着ている制服も知らない制服だ。


俺は居ても立ってもいられなくなった。

ちょうどその時、授業の終了のベルが鳴った。

今日は3年生は半日授業なので午後からは自由だ。


俺は帰りのホームルームはサボることにして学校を飛び出す。

走って公園に向かう俺は移動しながらピッピの視界を通じて彼女を確認し続ける。


彼女はベンチにとまって逃げもせずに見上げてくるスズメに興味が出てきたようで、ピッピに向かって寂しげだが笑顔を浮かべていた。


20分ぐらいで公園に到着し、彼女の姿を確認した。

少し離れて様子を窺ってみる。


たしかにはっきり魔力を有しているのを感じる。

女の子の姿は薄汚れているって表現がぴったりな様子だった。


髪の毛はぼさぼさだし、お肌はガサガサ、さらに着ている制服もどことなく汚れている。

手持ちの荷物は小さなバック一つだった。


俺は仲間を見つけられたうれしさで心臓がドキドキ脈打つのを感じた。

なんとか高揚する感情を落ち着かせ、ゆっくり彼女に近づく。


ピッピを呼んで俺の肩まで飛んでこさせると、ピッピを目で追った彼女が俺の存在に気が付く。


俺を見て恥ずかしそうに顔を伏せる彼女の横に座り声をかける。


「こんにちは。僕は井本史郎っていいます。 確か中学一年の1学期だけだけど、同じ中学校だったよね?」


彼女はちょっとびっくりした顔をして俺の方に顔を向ける。


「えっと、そうです。この町の第一中学校に1学期だけ居ました。佐藤 さやかっていいます」


「佐藤さん、こんにちは。こんなところでどうしたの? すごく疲れているように見えるけど」


「えっと、何でもないです。このスズメちゃん、井本君に慣れているんですね」


「うん、僕の一番の友達だよ。ピッピっていうんだ」


そういうとピッピは彼女の肩に飛び移った。


彼女はびっくりした顔をしたが、すぐ笑顔になって、


「ピッピちゃん、よろしくね」


といった。


俺は疲れていて心にも傷を負っている様に見える彼女の為に軽くヒール魔法を掛けることにした。


「ちょっと失礼」


俺は彼女の身体に手をかざすと(触ってはいない)、ヒール魔法を掛ける。

更に頭に手を当て心にもリラックスできるヒールを掛ける。


ヒール魔法の効果で少し身体と心が軽くなったのか、ぽつりぽつりと自身の身の上を話始めた。


「私はね、呪われた子なの」


その言葉から始まった彼女の身の上話は以下の様なものだった。


さやかは俺と同じ年齢でこの町で生まれ育った。


物心ついた時から両親はネグレクト気味で、ほとんど放置されていたとのこと。それでも小学校までは比較的平凡な生活だったが、小学校高学年になると家や学校で異変が起き始めた。


それは俗にいうポルターガイストの様な現象で、物が飛び上がったり時には部屋全体が振動したりした。


最初は置物の位置がずれたり、部屋がちょっと軋んだりという些細な現象だったが、しばらくすると物が倒れたり、部屋全体が地震のように揺れたり振動したりした。


さやかの感情が高ぶると現象はさらに激しくなり、窓ガラスや食器類が割れたり、置物が飛んできたり、冷蔵庫などの大きな家具まで移動したり倒れたりした。


さやかが居るところでしか現象が起きないため、原因が彼女だと分かり、両親はますます彼女から離れていった。一応病院へ相談したり、寺や神社でご祈祷を受けたりさせたが、現象は止まらなかった。


しまいには両親はさやかを完全に見捨ててしまい、中学校の1年の時に彼女だけ隣の県にある実家に預けられてしまった。


実家の祖父母は最初は彼女の面倒を見てくれたが、現象が収まらず、祖父母もさやかを恐れて、ついに彼女は物置の様な離れの部屋に押し込められてしまった。


転校した学校にはしばらく通っていたが、現象が学校でも起こると生徒皆から恐怖の対象として見られ、先生からは自主学習でも卒業をさせるから学校に来ないでくれ、と言われ学校にも行けなくなった。


2月に入り、中学卒業も確定したが、学校から卒業式への参加は認められなかった。

そして卒業を待たず祖父母の家から追い出され、両親の住むこの町に先日戻ってきたとのこと。


しかし両親も彼女を嫌って家に入れてもらえなかったらしい。

ここ数日はホームレスのように街をさまよっていた。


幸い祖父母から追い出されたときに、少しお金をもらったので、しばらくは食べ物には困らなかったが、それも昨日で尽きて、昨晩から何も食べていないとのこと。


夜に街をさまよっていると、何人かに乱暴されそうになったこともあったが、彼女が恐怖のあまり悲鳴を上げると暴行しようとしていた男は目と鼻と耳から血を流しながら気絶してしまったりしたので、逃れることができた。


そこまで聞いて俺はさやかが何者か思い当たることがあった。


「誕生日と生まれた病院がどこか聞いてもいい?」


「うん、4月12日生まれで、生まれた病院はこの町の市民病院よ」


そこまで聞いてさやかが何者かすべて理解できた。

さやかの誕生日と生まれた病院は俺と全く同じだった。


そしてさやかを探知すると体内に魔石があることも分かった。

間違いない、さやかも転生者だ。


そしてさやかを悩ませた数々の現象についても心当たりがあった。

これらの現象は間違いなく『魔力漏洩現象』だ。


前世ではほとんどの人は魔力を有していた。


そして魔力を持つ人々は無意識に魔力を消費していたから、身体から魔力があふれ出すようなことは無い。むしろ足りなくなるぐらいだった。


しかし、ごくまれに魔力を有していても魔法を使えなかったり、何らかの疾患やケガで意識不明の状態が続いて魔力を消費できない状態が続くと、魔石からあふれ出た魔力により、周囲にポルターガイストの様な現象が発生することがあるのだ。


前世では比較的知られている現象で対処方法も確立していた。

この世界では原因も対処方法も分からないし、怪奇現象と思われ気味わるがられるだろうな。


俺の場合も半年前までは魔法を使えなかったのだが、無意識に実行していた雲消し遊びの行為が魔力を消費させていたので、『魔力漏洩現象』は発生しなかったと考えられる。


もちろん俺は行く当てのないさやかを家に来てもらうことにした。


「僕は半年前に両親が他界して一人暮らしなんだ。もしよければ僕んちに来ない? いや是非来てもらいたい。君に見せたいものもあるし」


「お邪魔していいの? 見せたいものって?」


「うん、是非家に来て。そこでお話するよ」


さやかに対しヒール魔法を掛けた効果で心が落ち着いたのか、彼女はおとなしく俺についてきてくれた。


家に着いてリビングのソファにさやかを座らせてから俺は説明を開始した。


「今から魔法陣が描かれた羊皮紙を君に触れさせる。そうすると君が何者なのか、なぜ奇妙な現象が君の回りで起こるのかを君は瞬時に理解できるだろう」


俺は自分の記憶を呼び戻すトリガーとなった羊皮紙を父親の書斎から持ってきた。

俺の予想が正しければ、この羊皮紙に書かれた魔方陣で彼女の前世の記憶も戻るはずだ。


「覚悟は良い? ゆっくり深呼吸をして心を落ち着かせてからこれに触れて」


そう言ってさやかに羊皮紙を差し出す。

さやかは恐る恐る手を伸ばして羊皮紙に触れる。


その瞬間彼女は雷に打たれたかのように硬直する。


その後、さやかはゆっくり顔を俺の方に向けこう言った。


「オルペウス様、オルペウス様ですね。私にはわかります。私はエレーニです」


やはり彼女は転生者だった。しかも俺も良く知っている人物で、宮廷魔法使いの第一人者だ。若くして宮廷内の魔法副大臣の座に居た人物である。


若干25歳で魔法副大臣となったのは歴代最年少であり、それだけ魔法能力は高かった女性だった。


俺は前世での最後の日に思いをはせた。

主人公はついにこの世界で仲間を見つけました。

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