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19.大賢者、スポーツをする

秋も深まり涼しくなってきた。

クラスでは相変わらず浮いている存在で授業も暇だったが、授業中は探知魔法などの鍛錬、休み時間は体育館裏で強化魔法の鍛錬などをして過ごした。


11月にはスポーツテストが実施された。


最初に握力テストが行われて、握力計をぎゅっと握ったのだが、うっかり身体強化魔法をかけっぱなしで力いっぱい握っため、握力計が、バリン、という大きな音と共にぶっ壊れてしまった。


まずいまずい、冷や汗を垂らして焦ってしまったが、元々握力計自体が古かったこともあり、寿命で壊れたってで事なきを得た。


別の握力計での測定では身体強化魔法を無しでトライしたが、身体強化魔法で常に強化されていたためか、魔法無しでもかなりの力が出ているみたいで、平均的な値を出すのに少し苦労してしまった。


50m走でもやらかしてしまった。

かなり力を抑えて走ったつもりだったが、ぶっちぎりの一位で記録は5.5秒と世界記録級となってしまった。

全力疾走すると、本能的に身体強化魔法が発動されてしまうのをすっかり忘れていたための失敗だった。


この時も、タイムは計測した先生のミスとして片付けられて、再度走ることになったが、かなり手を抜いて走っても校内トップの記録となってしまった。


やばいやばい、目立ちたくないのに。

さらにはハンドボール投げでは100m以上投げてしまい、校庭の外にボールが飛んで行ってしまったり、散々だった。


ここまでくるとクラスメートの俺を見る目が変わってきている気がした。

お願い、ちょっとしたミスなので見なかったことにして。

魔法能力を伸ばすだけではなく、抑える訓練もしなくちゃな。


俺は反省をしながら家路についた。

その日の夜、久しぶりにシャーク正人選手から連絡が来た。


どうやら日本タイトルの防衛戦があるらしいが、相手というのは新鋭の選手で、天才ともてはやされているらしい。

どうやらかなり分が悪いらしい。


またスパーリングの相手と、例のマッサージもお願いしたいとのことだった。

謝礼も弾むとのことだったが、現時点では株取引が順調でお金には困っていないんだけどな。


でも乗り掛かった船だし、ヒール魔法をこの世界の人に対して掛けたその後の影響についても継続確認したかった。


明日来て欲しいとのことだったが、明日は土曜日で特に用事もなかったので了解の返事をする。


翌日、ボクシングジムに行くと会長が出迎えてくれた。

俺がシャーク正人とスパーリングをするといい影響が出ることを会長も理解していて、歓迎され丁重に出迎えられた。


事務所に入ると対戦相手の梅田幸雄選手のビデオも準備できており、俺は30分ほど彼のビデオを見て、特異なパンチや体の動き、癖、スピードなどを頭に叩き込む。


俺が見た印象では、梅田選手は天才だと感じた。

シャーク正人選手も実力があり、前回の日本タイトル戦を機会にぐんと実力は伸びたと思う。


しかし、確かに今の正人選手の実力では防衛戦に勝利することは難しいな。

本人もそれが分かっているので俺を呼んだんだろう。


着替えをして地階のリングに行くと、すでにシャーク正人選手が体を温めて待っていた。


「井本君、今日は急に呼び出して申し訳ない。来てくれてありがとう」


「いいんですよ。じゃあ早速始めましょうか? さっきビデオで見て対戦相手の試合スタイルは把握しました」


「さすが井本君だね。よろしく頼む」


カーン、会長が鳴らしたゴングと共にスパーリングを開始する。


前回の様にまずはシャーク正人選手の攻撃をかわしながら現在の彼の実力を見てみる。


ふむ、体の切れは悪くない。前回注入した強化魔法の効果は残っていないようだが、体の切れは前回からずいぶん良くなっている。


正人選手は真面目なので、強化魔法の影響が残っている間に練習を重ね、普段の何倍ものスピードで実力を向上させたのだろう。


一般人への強化魔法の影響はそれほど長くないことが分かりホッとしたが、その魔法がかかっている状態で訓練をすると、効果が大きくなるってのは新たな発見だ。もちろん正人選手がまじめに練習をこなしていたことが最も大きいのだろうが。

しかし、今の実力でも対戦相手に勝つのは難しいだろう。

それほどまでに梅田選手は天才で、評論家の間では世界ランカーになるのも時間の問題だと言われている。


カーン、第一ラウンドが終わった。


「正人さん、次のラウンドからは梅田選手の対戦スタイルを模してこちらからも打っていきます」


「分かった」


カーン、第二ラウンドスタート。


俺はビデオで把握した梅田選手の対戦スタイルでパンチを繰り出す。


梅田選手の得意は素早いジャブと相手のストレートパンチに合わせてくるカウンターパンチだ。

俺のジャブが面白いように正人選手に決まっていく。


焦った正人選手が右ストレートを繰り出したときにカウンターを合わせたパンチも見事に正人選手にヒットする。


逆に正人選手のパンチはことごとく防がれてしまう。


カーン


「ここでいったん説明させてください」


インターバルを乱すのは良くないが、正人選手へのアドバイスを行うため一旦スパーリグを中断してもらう。


「いいですか、まず正人選手のジャブは強力で重たいですが、梅田選手に見切られていて有効打とならないでしょう」


「ああ、君との対戦でよくわかる。だが具体的にどうすればいい?」


「パンチの威力を落としてもいいので、スピードを重視してジャブを出すようにしてください。また梅田選手のジャブは非常に速いので、彼の視線や腕の筋肉の状態からジャブを繰り出すタイミングを早めに見極めて避けるようにしてください」


「なるほど」


「そして今のスパーリングで分かったと思いますが、彼は相手のストレートへのカウンターパンチが非常にうまいです。それを避けるためには……」


俺は細かな対策指示を彼に出して理解してもらう。


「では先に例のマッサージをやりますので、リングを降りてベンチに寝てください」


俺はそう言ってグローブを取って正人選手にマッサージと称したヒールと強化魔法を施していく。


10分ほどのマッサージの後に、スパーリングを再開する。


カーン


俺は先ほどと同様に梅田選手を模した対戦スタイルで攻撃を繰り出す。

強化魔法の効果で、彼の身体の動きは急によくなっていた。また俺のアドバイスもあり、彼のジャブのスピードは一段上がった。


梅田選手のスピードを模した俺の動きではジャブを避けるのが難しく何度かもらってしまう。


チャンスと見た正人選手は得意の右ストレートを放ってきた。

先ほどと同様にカウンター狙いでストレートパンチを避けると同時にカウンターパンチを放つ。


正人選手はそのパンチを左でブロックすると共に、右ジャブを繰り出してヒットさせてきた。


お見事!

身体強化の効果もあるが、俺のアドバイスをすぐに実行できるってのもすごいな。


そんな感じで3ラウンド目のスパーリングは正人選手の優勢で終わった。


「うん、いい感じかと思います。今の感じを忘れないように練習とイメージトレーニングを続けてください」


「井本君、相変わらずの的確なアドバイスと、対戦相手とそっくりな試合スタイルだね。助かったよ。ありがとう。ここから先は俺自身で何とかする。さっきまで梅田選手に勝てる気がしなかったが、何とかなる気がする」


「お役に立てられたなら光栄です。試合を楽しみにしてます」


こういって俺はジムを後にした。


今回で分かったことは以下である。


 ・この世界の人への強化魔法は効果がある。


 ・効果は数日程度で無くなる。


 ・効果が継続している間に身体のトレーニングを行うと能力向上が大きい。


まあ、そうそう強化魔法を人に掛けることは無いのだが、一つの事実として覚えておこう。


しばらく、正人選手からトレーニングの状況についてメールが届いていたが、仕上がりは順調のようだ。


その翌週の土曜日、俺はピッピと一緒に公園を散歩していた。

ベンチに座って、ピッピと視界共有をして、大空の散歩を楽しんでいた。


最近は従魔魔法もLv3となったので、聴覚の共有と身体操作の共有もできるようになった。


つまり、意識を集中すると視界だけでなく音も聞こえるし、ピッピの身体を俺の意思で自由に操作できる。


もっとも、こちらで完全にコントロールするのは従魔に対しストレスになるので、基本は使わない。

ピッピに実行してもらいたい行動を念話で依頼してピッピに自発的に動いてもらう。


お天気も良く風もなかったので、ピッピの視界で空からの景色を楽しんでいたところ、突然足を蹴られた。


慌てて視界を自分に戻すと不良三人組が俺の目の前に立っていた。


「おい、井本、テメーのせいで俺たちはひどい目にあったんだぜ」


うわー、面倒なことになったな、身体能力では彼らより全然上なので、ボコボコにするのは簡単だが、それじゃぁ俺は不良と同レベルになっちゃうしな。走って逃げるか? 今後も待ち伏せされるのもめんどくさいな、どうしよう。


そう考えていると、俺が何も反応しなかったからか奴らの怒りが増したようで胸倉をつかんできた。


「この野郎、ぶん殴ってやるわ」


と、その時急に声をかけられた。


「おー、井本君、こんちは。おかげさまで良い調子だよ」


正人選手だった。どうやらランニング中のようだ。


「あ、正人選手、こんにちわ。先日はどうも」


「うん、先日はお世話になったね……、ってこいつら誰? なんか揉めてる?」


不良三人組は正人選手を見て驚愕していた。


「あぁ! シャーク正人選手!! 俺たち正人選手のファンなんです」


正人選手は地元出身の日本チャンピオンであり、不良三人組だけでなく、市民の多くが彼を応援していた。


「ああ、ありがとう。しかし見たところ井本君に対し、喧嘩を売っているように見えるんだけど、どうなの?」


「そっ、そんなことないです。僕たち元クラスメートの友達ですから」


「ふーん、そうなの? まあ井本君に喧嘩吹っ掛けても勝ち目はないもんな。なんたって俺より強いんだからな」


「正人さん、やめてくださいよ」


「おっとゴメン。内緒だったな。じゃあ俺は走り込みの途中だから、またスパーリングを頼むよ」


そう言って正人選手は走って去っていった。


不良三人組は呆然としながら俺から手を離した。


「おい、井本おまえ正人選手と知り合いなのか?」


「あぁ、ボクシングジムで何度かスパーリングしたことあるな」


そういって、軽くシャドウボクシングを披露してやった。


身体強化もかけてのパンチなので、彼らには目で追うことすらできなかっただろう。


最後に奴らに向かって構えてみせると殴られると勘違いしたのか、真っ青な顔をして大慌てで走って逃げていった。


やれやれ折角のんびりした休日だったのにな。

でももう俺に絡んできたりはしないだろう。

その後もしばらく魔法の練習をしてから家に帰る。


◇◇◇

数日後の夜、シャーク正人選手の防衛戦の試合があった。

テレビ中継で試合を見てみる。


試合前の解説を聞くと、


 ・正人選手は元チャンピオンの不調で偶然日本チャンピオンになった。


 ・実力では挑戦者の方がずっと上。


 ・今日はチャンピオンの交代が見られるだろう。


とのことだった。


まあ少し前の正人選手の実力だったら今日は厳しかっただろう。

しかしまぐれでチャンピオンになったというのはいただけないな。

日本タイトル戦の時は相手選手より十分実力は上になっていた。


解説者も見る目が無いな。


まあ、強化魔法の影響で、急激に実力が上がったってのは解説者の想定外なので仕方がない面もあるけどね。


カーン。

ゴングが鳴り試合スタート。


前回の日本タイトル戦と同様に1ラウンド目は正人選手は様子を見ているようだ。


挑戦者の梅田選手は最初から飛ばしてきている。

盛んにパンチを繰り出してくるがことごとく避けられたりブロックされて有効打は一つもない。


逆に正人選手は時々ジャブを繰り出し、その多くが有効打となっている。


まあ、1ラウンド目は様子見みたいでそれほど強いパンチではなかったみたいだけど、梅田選手はちょこちょこポイントを取られていることにだんだん焦ってきているみたいだ。


そして2ラウンド目。


正人選手は、このラウンドから攻撃を5割、防御を5割のようだ。ジャブを繰り出しながら時々ストレートも放ち始めた。


梅田選手は正人選手のストレートに合わせて得意のカウンターを狙うが、ことごとく防がれてしまい、さらに焦りが強くなっている感じ。


このラウンドも正人選手が受けたパンチはほとんどなく、逆に梅田選手が何発か有効打を受けていた。


そして3ラウンド目。


正人選手陣営は、これならいける、と判断したらしく積極攻勢に出始めた。


梅田選手は防戦一方で、何度か正人選手のストレートに合わせてカウンターを見舞うが、やはり防がれてしまう。


このカウンターのタイミングは俺とのスパーリングの時に何度も練習したから身体強化魔法をかけられた正人選手はその時に完全に避けるタイミングをつかんでいたからね。

でも身体強化状態が終了しても、そのタイミングで身体を動かせるのはさすがだと思う。


そして焦った梅田選手がストレートを繰り出してきたとき、逆に正人選手がそれに合わせてカウンターを繰り出し、それをもろに受けた梅田選手は完全に意識を刈り取られてぶっ倒れた。


そのまま10カウントを待つまでもなくレフリーストップをかけられ試合終了。

蓋を開けてみれば正人選手の圧勝だった。


うーん、正人選手の努力と才能はあったかもだが、むやみにこの世界の人間に強化魔法をかけるのも考え物だな。


そう思いながら正人選手の勝利インタビューを眺めていた。

身体強化をかけると、オリンピック選手以上の身体能力となるんですね。

そして、強化魔法はこの世界の人にもかなりの効果をもたらすみたいです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 初期にいた悪役キャラが一掃され、 今後も快適な現代TUEEEEができそうでスッキリしました。 [気になる点] 良くも悪くもなろうテンプレ。 作者は意図して執筆してると思うので、狙い通りです…
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