1.大賢者、記憶がよみがえる
両親の葬儀も終わり、数日が経過、少し落ち着いてきた。
まだ未成年だった俺は、父方の祖母が家に来て保護者として一緒に暮らすことになったが、祖母も自営業の仕事があったので直ぐに祖母の自宅に帰ってしまった。
祖母の家に来るように言われたが、父母の残した家に愛着があり、中学三年のこの時期に転校もめんどくさかったので、しばらくは自宅に一人で住むことになった。
その日俺は父母の遺品を整理していた。
不思議と悲しみは無く、どこか夢を見ているような非現実的な感じだった。
父親の書斎を片付けしていると、収納棚の奥に箱を見つけた。
その中には父親の書いたであろうメモと一緒に、古びた羊皮紙が入っていた。
その洋紙を手に取って広げたみるとそこには魔法陣が書かれており、次の瞬間俺は前世の記憶が一挙によみがえったのである。
前世では俺は地球ではない別の異世界で、大賢者として活躍していた。
大賢者としての魔力を駆使し、ようやく国内で暴れていたAランクの魔獣を一掃し、国を平和に導いたのに、時の王一族が俺の能力に恐れをなし、俺を抹殺したのだ。
国王は巧みに俺の殺害計画を掩蔽していたため、予知魔法で自身の殺害を予知できず抹殺されてしまった。
別に国王に逆らうつもりもなかったし、隠居してのんびり暮らそうと思っていたのだがな。
しかし、なんとなく嫌な感じはしていたので、転生魔法陣を描いた羊皮紙を万が一のために常に身に着けていた。
そしてそれが俺の死と共に転生魔法を発動させ、命が尽きると同時に俺はこの世界に転生されたのだ。
転生魔法は古くからあるが、転生とは生まれ変わりを意味し、転生された人はこの世から消えるだけで誰も戻ってこないので、転生魔法が成功したのか? どこに転生したのか? どのように転生されるのか? など重要なことが全く謎であり、この術を使う者はほとんどいなかった。
しかし俺は研究を続け、転生後に前生の記憶を呼び戻す魔法陣を編み出し、魔法陣が描かれた羊皮紙に魔法を付与し、その羊皮紙と共に転生させるようにしておいたのだった。
どうやら術は成功し、俺は21世紀の日本に転生したのだが、まさか新生児となって転生されるとは予想していなかった。
そして、一緒に転生された記憶を呼び戻す羊皮紙が俺の誕生後にしまい込まれていたため、これに俺が触れることもなく、つまりは前世の記憶を取り戻すこともなく、今まで普通の日本人としてなんの疑問も持たず過ごしてきていたのだ。
記憶が戻った時は中学生の井本史郎としての14年間の記憶にプラスし、甦った前生の大賢者としての100年の記憶が共存する形となり混乱したが、しばらくすると落ち着いてきた。
とりあえず、現在の状況を整理してみる。
両親は数日前に交通事故で他界。俺は中学3年にして天涯孤独となってしまった。父方の祖母が遠方に居るが、母方の祖父母は他界している。
告別式も終わり、遺品整理のために父親の書斎を片付けていたらメモと羊皮紙を見つけたのである。
そのメモによると、俺が生まれたとき病院の分娩室にこの羊皮紙が突然現れたらしい。
病院関係者は不思議がったが、父がこの羊皮紙を記念に譲り受け、保管していたとのこと。
そして俺はたぶん魔法を使える。前世の記憶を元に魔力を確認してみたところ、体内に魔力を感じることができたのだ。
こうして前生の大賢者としての記憶が呼び戻されたが、俺の中では中学3年までの日本での暮らしの記憶と、100歳の大賢者の記憶が同居する形となった。
とりあえず自分の現状について確認してみる。
魔法は現時点では使えない。
そしてこの地球では魔法を使える人や動物は居ない。
前世の記憶と知識はあるが、この世界ではほとんど役に立たない。
この世界の俺は、中学3年の男性、名前は井本史郎。
両親を失い、数日前に告別式が終わったばかり。
兄弟も居ず、頼れる親戚は遠方の父方の祖母だけ。
父と母は生命保険を含む比較的大きな財産を残してくれたはずだったが、父親の弟の叔父に借金があったとかで、叔父にほとんど持っていかれてしまった。
まあ、当面の生活に必要なお金はあるし、家も残された。
異世界へ戻る魔法は無いので、この世界で生きていくしかない。
当面の方針をまとめてみる。
①転生者であることは誰にも言わない。(言っても信じてもらえないしな)
②速やかに魔法を使えるように訓練する。
③魔法の件も誰にも言わない。気が付かれないようにする。
④のんびり生きるため、目立たずひっそり過ごす。
学校の集団検診でのレントゲン撮影で、心臓の横に石のような物が映り込んでいて再検査したことがある。
取り除くことは困難なので、様子見とされたが、前生の記憶がよみがえった今ならわかる。
これは魔石であり、魔法を使うためには必須の物だ。
転生魔法では、生まれ変わるだけではなく、魔石まで持つことができるみたいだ。
この世界(地球)についてこの14年間で勉強した知識から判断すると、魔石を有している人間や動物は地球には存在しない。
つまりこの世界で魔法を使えるものは俺だけである。
俺だけが魔法を使えるならチートだな。
前世で魔法力がずば抜けていたため、国王にいいように使われ、あげくの果てに恐れられて殺されてしまった。
転生先のこの魔法の無い世界では、魔法が使えるとなったらどのようにこき使われるか、考えただけでぞっとする。
いや、世界史の勉強で得た知識からすると、魔女狩りみたいに迫害される可能性もある。
そんなことにならないように、魔法については絶対秘密にしよう。
そう考えると、無意識に使っていた雲消し魔法(これは前世では魔法練習用の初期魔法だった)がインチキだと決めつけられたのは幸いだった。
よし、そうと決まったら早速行動開始だ。
主人公は記憶がよみがえり、異世界からの転生者だとわかりました。
果たして彼は魔法が使えるようになるのでしょうか?
のんびり生活できるのでしょうか?
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