131.側室
俺とさやかは35歳となった。結婚して早5年。既に3人の子持ちとなってしまっていた。そして3人は女、男、女の順に生まれて、3人とも魔石を体内に有していた。
名前は、長女:魔穂、長男:魔樹、次女:魔奈と名付けた。
さやかと俺は、子育てで今まで以上に忙しくなった。というのも、普通の子供と違い、魔力を生まれながらに有しており、普通の教育に加え魔法の教育や訓練も必要だったからである。
さやかは前世では魔法副大臣を務めていたこともあり、子供への魔法教育の知識もあったので助かった。なにせ俺は前世では子供はおろか嫁さんすらいなかったんだからな。
タワーマンションの隣の部屋で暮らしていた橋本さんも子育てに協力してくれた。橋本さんの読心術の能力は子育てには大いに役立ってくれた。
ある日の午後も、橋本さんが子供の相手をしてくれていた。さやかは仕事の為に仕事部屋にいた。
「橋本さん、いつも子供のお世話ありがとう。助かっていますよ」
「いえいえ、みんなかわいいし、良い子なので大丈夫です」
「橋本さんって結婚はしないの?」
俺はデリカシーもなくうっかり発言をしてしまった。橋本さんは少し寂し気な表情で答えた。
「私って心が読めるでしょ? 結婚して男の人と暮らしてもうまくいかないと思うの。夫婦間でもプライバシーは必要だけど、一方的に相手のプライバシーが筒抜け状態だし」
「あ、うんそうかもね。でも今まで好きになった男の人とかいなかったの?」
あ、またまた余計なことを聞いちゃったかな? 後でさやかに怒られそうだな。
「小学校とかでは好きな男の子は居たんだけどね。いじめにあっていた時に守ってくれていた子だけど、守ってくれて嬉しくて好きになっちゃったんだけど、心の中が読めちゃうでしょ? ある日”やっぱりこいつ気持ち悪いよな”って声が聞こえちゃって、儚い恋も終わっちゃったの。中学高校時代は男の子って性に目覚めるじゃない? 私に対してあからさまに性を意識して接してくるから、恋愛どころじゃなかったの」
「なっなるほど。なんとなくわかる気がする。橋本さんは美しいからなおさらだよね」
うーん、俺は前世では100才で、こっちの世界に転生後もそれの年齢を引きずっていたから、女性に対し性の対象って感じで見て無かったな。
なのでその辺りはよく分からないというか、よく覚えていないので分かったふりをしたけど、全然わかってないかも。
そんな俺の心を読んだのか、橋本さんがほほ笑む。
「井本君は女性を性の対象としてみる事が全然無かったから、分かって無いでしょ?」
「あはは、実はそうかも。僕の思春期って110年以上前なので、もうほとんど覚えてないかな?」
「うふふ、そうね。なので今私が好きな男性は、世界でただ一人、井本君なのよ」
「えっ? そうなの?」
「そう、でも井本君はもう結婚しているし、相手がさやかさんじゃ敵わないけど、できるなら私は井本君との子供が欲しいの」
うん? 俺との子供? なんとなく気持ちはわかる。橋本さんの能力だと確かに一般の男性との結婚は難しそうだよな。でも子供は欲しいというのもなんとなく理解できる。
「そうなんだ。さやかとも相談してみよう」
橋本さんは俺が事も無げにそう言った事にびっくりしたような顔をした。そして仕事をしていたさやかを呼んで橋本さんとの会話内容を伝えた。
「あら、橋本さんも彼のことが好きなのね。全然気が付かなかった。で、彼との子供が欲しいってことね。いいんじゃない? 一緒に育てましょうよ」
橋本さんはさやかまで同意したことにさらに驚いた顔をしていた。
まあ、この世界の常識では、妻の居る男の子供を妊娠するってのは倫理的に大きな問題ではあるが、前世では一夫多妻は当たり前だった。
さやかが前世で宮廷内の魔法副大臣の地位に登れた理由も、国王の側室だったからで、国王との子供を作る義務を負っていたのだ。
その記憶が強く残っていたため、さやかとしても橋本さんが俺の子供を作るということに対し拒否感や違和感は持たなかったんだろうな。
そんな感じで俺とさやかは橋本さんとも完全に一緒に住むことととなった。元々タワーマンションの同一フロアの隣だったので、リフォーム業者に頼んで、間の壁を取り払ってもらい、行き来できるようにした。
法律上は俺とさやかが夫婦であり、橋本さんは他人ではあったが、こればかりは仕方がない。この世界じゃ一夫多妻制は認められそうにないので、当面はこのままだな。
さやかと橋本さんは今まで以上に仲良しになっていったし、橋本さんも幸せそうだし、これでいいんじゃないかな。
そんな折、ちょっと衝撃的な話を橋本さんから聞かされた。
「井本君は全然気が付いていなかったので、言っておくわね。井本君のことを好きだったのは私だけじゃないのよ」
「うん? さやかもってことだろ?」
「違う! 恵さんと金井さんよ。あの二人も井本君にずっと恋していたのよ」
「えっ!? そんなことは無いだろ? 全然そんなそぶりも無かったし」
「あーもう、あの二人は何度も”そんなそぶり”を見せてたわよ!」
「そうなのか? 全然気が付かなかった」
「結局あの二人も井本君とさやかさんが従妹同士では無かったってことを知って、静かに身を引いたのよ」
うーん、突然そんなことを言われてもなぁ……。
「ホント、井本君って女心が分かって無いのね。前世で100年も何勉強してたのよ!」
はい、すいません。女心の勉強はしていませんでした。
◇◇◇
橋本さんの視点:
井本君とさやかさんが結婚して、私は一抹の寂しさを覚えていた。人の心が読めてしまう私の能力がある限り、普通の男性と夫婦になるのは考えにくい。
この世に聖人君子の様な男性がいるならその人と一緒に暮らしていけるんだろうけど、そんな人は今まで出会ったことは無い。
どんなに人格者といっても、その心の中に闇の部分はあるのだから。
いや、一人だけいる。井本君だ。彼には前世があり、前世では大賢者と呼ばれる地位にあった人格者だ。
転生したので見た目は若いが精神的には130才だ。強い欲望もなく、周囲の人の幸せを願っている、まさに聖人君子の様な人物だ。
私はもう長い間彼と行動を共にしていて、彼に強い恋心を抱いていた。でも彼の横にはいつもさやかさんが居た。そして、彼もさやかさんも体内に魔石を有する異世界からの転生者であり、二人が結ばれるのが自然だ。
二人には強い絆ができており、私が入り込む余地は無い。私にできる事は二人のそばにいて、二人の人生のサポートをするぐらいかしら。
そして、井本君とさやかさんが結婚し、子供もできて幸せな家庭を築いていった。私は横で彼らをサポートし、見守って言うことしかできない。でも私も子供が欲しい。
井本君の子供が欲しい。私の中でその思うが日に日に強くなっていった。
その日も井本君の家で二人のお子さんのお世話をしていた。さやかさんは仕事の為自室にこもっていた。ふいに井本君が話しかけてきた。
「橋本さん、いつも子供のお世話ありがとう。助かっていますよ」
「いえいえ、みんなかわいいし、良い子なので大丈夫です」
「橋本さんって結婚はしないの?」
私はドキッとした。
井本君の心を読んでみたが、特に深い意味は無く質問してきたのが分かった。
「私って心が読めるでしょ? 結婚して男の人と暮らしてもうまくいかないと思うの。夫婦間でもプライバシーは必要だけど、一方的に相手のプライバシーが筒抜け状態だし」
「あ、うんそうかもね。でも今まで好きになった男の人とかいなかったの?」
「小学校とかでは好きな男の子は居たんだけどね」
私は小中高での出来事を話した。
女性を性の対象として見てくる男性の思考が耐えられないこと、今まで付き合った男性はいないこと。
「なっなるほど。なんとなくわかる気がする。橋本さんは美しいからなおさらだよね」
ふふ、井本君って女性を性の対象として見ていないから全然分かっていないわね。でもそれが私にとって井本君の魅力なんだけどね。
「井本君は女性を性の対象としてみる事が全然無かったから、分かって無いでしょ?」
「あはは、実はそうかも。僕の思春期って110年以上前なので、もうほとんど覚えてないかな?」
「うふふ、そうね。なので今私が好きな男性は、世界でただ一人、井本君なのよ」
あ、しまった。うっかり告白してしまった。私の心臓は急に早鐘の様に鼓動した。
「えっ?そうなの?」
ええい、こうなったらどうにでもなっちゃえ。
「そう、でも井本君はもう結婚しているし、相手がさやかさんじゃ敵わないけど、できるなら私は井本君との子供が欲しいの」
こんなこと言ったら井本君から軽蔑されるだろうし、さやかさんに知られたらきっと私の事を嫌いになるだろうな。
でも間違いなくこれが私の今の気持ち。ついに抑えられなくなって言ってしまった。
言うんじゃなかった。私ったらなんてことを言ってしまったんだろう。
「そうなんだ。さやかとも相談してみよう」
えっ? 私はびっくりして井本君の顔を見た。井本君はちょっと驚いたような表情だったが、私を軽蔑したような顔はしていなかった。反射的に井本君の心を読んでしまう。
そうか、井本君の前世の世界では一夫多妻は当たり前だったんだ。
だから私の心の叫びを違和感なく受け入れたのね。
さやかさんがやってきて井本君が説明をしていた。
私ってなんてことを言ってしまったんだろう。
井本君はともかく、さやかさんは烈火のごとく怒りだすだろう。
私の今のちょっと寂しいけど幸せな日々は終わってしまうのね。そう考えていたらさやかさんが言葉を発した。
「あら、橋本さんも彼のことが好きなのね。全然気が付かなかった。で、彼との子供が欲しいってことね。いいんじゃない? 一緒に育てましょうよ」
えっ? 私はその言葉に驚いてさやかさんの顔を見つめる。さやかさんは怒るわけでもなく、やさしい微笑みを浮かべていた。
反射的にさやかさんの心も読んでみる。さやかさんは本心からそう言ってくれたのが感じられる。
そうか、さやかさんは前世で国王の側室だったのね。それで私が井本君の子供が欲しいって希望も違和感なく受け入れてくれたんだ。
そこからの展開は早かった。タワーマンションの部屋は業者に寄って壁が取り払われ、2つの住居は一つになって自由に行き来できるようになった。
私と井本君との間にも子供が生まれ、やかさんとその子供たちと共に一つの家族となり、ちょっと変則的だけど、私は幸せを掴めたみたい。
橋本さんと主人公の関係がこうなるとは……
でも3人と子供で幸せに暮らすと思います。




