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129.結婚

今回はちょっと長いです。

俺とさやかは29歳となった。相変わらず忙しい日々だったが、少しは落ち着いてきた。

周囲からは暗に、”まだ結婚しないのか?”との圧力を感じ始めている。


『メーティス。最近”結婚まだか”とよく話題にされるんだが、周囲から俺の結婚で話題にされているのか?」


『個人情報になるので、誰が言ったのかはお伝え出来ませんが、もうすぐ30歳とのことと、今や世界第一位の資産家ということで、かなり話題に上がっているようです。そして、ご結婚相手はさやか様と思われております』


うーむ、たしかにさやかとはずっと一緒に暮らしているし、そう思われるだろうな。しかし、さやかとは全然そんな感じではないんだけどな。実際キスはおろか、手をつないだこともないしな。


さやかは優秀だし、美しいし、なによりこの世界で唯一の魔石を体内に有した魔法使い同士だ。

既に前世の世界への転移する魔法陣は確立されているから、いつでも前世の世界に帰ることが出来る状態だったが、さやかと話をしてこの世界で生きていくことは確定していた。


いくら前世の記憶を有しているとはいえ、転生後はこの世界で生まれ育ったわけだし、何よりこの世界での仕事がある。まあ、忙しすぎるのが問題ではあるが。


そしてメーティスの問題もあった。メーティスは俺の従魔であり、俺の命令には絶対服従だ。もっとも俺からメーティスに命令したことはほとんどない。従魔にした当初に、”人類の進歩と幸福に寄与しろ”、”より完璧になるよう成長しろ”の2点だけ命令したことがあった。


従魔はマスターの思考に非常に影響される。

俺の場合は特に邪な考えは無く、前世からの癖で公共の利益を最優先としてしまう。

メーティスもその影響を受け公共の利益を最優先として行動している。


さやかはサブマスターであり、俺に何かあったらさやかがマスターとなるが、俺もさやかも居なくなったらメーティスはどうなるのか?

前世での従魔はマスターが死亡するとひどく不安定となった。マスターの死期が近いと分かっている場合は、事前に従魔契約を解除して、自由にするか、別のマスターに引き継ぐのが常だ。


メーティスの場合、電子的な生命体であり、前世での経験はあまり役に立たない。

マスターがいなくなったり、従魔契約を解除した場合にどのような振舞となるのかが全く未知数だ。


メーティス本人に聞いても、”判定不能です”との答えが返ってくるだけ。

当面は俺とさやかでメーティスのマスターとサブマスターを務める必要がある。


そのような理由もあり、俺とさやかはこの世界で生きていくことを決めたのだが、なによりこの世界が気に入っていた。


前世と比べ、科学技術と魔法が融合し始めた現在の世界は非常に快適で便利だ。

前世の世界は最初から魔法があったので科学技術が発展せず、ほぼ全員が魔法を使えるにもかかわらず不便で、停滞した社会だった。


俺とさやかに何かあった時、もしくは天寿を全うしてこの世を去った時、メーティスのマスターの後継者が居ないとまずいかもしれない。

従魔のマスターとなるためには魔石を体内に有した人物でないと不可能だ。

俺がこの世界の人と結婚して魔石を有する子供が生まれるだろうか? 前世ではわずかに居た魔石を有さない人間は、ほぼ結婚できないので、ほとんど事例は無い。


いつかはメーティスのマスターとしての後継者を育成する必要があるが、いざとなったら前世の世界から転移魔法で孤児の子供を養子に迎えるって手もある。

しかしこの世界での戸籍の取得の問題もあり、現実的ではないな。


やはり俺とさやかの間に子供をもうけることが必須だな。ということは、さやかと結婚する必要があるな。


というわけで、俺の中ではさやかと結婚は決定事項なんだが、俺は前世から女性の扱いは全く苦手だ。

さやかや橋本さんと常に行動を共にしていたので、女性恐怖症的な部分は無くなったが、異性として意識もしていなかった。


前世の記憶があり、俺は心理的には130才の老人的なので、女性に対し異性として見ていなかった部分はあったかもな。


というわけで、結婚をするにあたり一応プロポーズはすることに決めた。

まださやかの意思を聞いたわけでは無いし、どうすればいいかよくわからなかったので、近藤先輩に助言を求めることにした。

近藤先輩は既に結婚していて家庭を持っているので、プロポーズされた経験もあるし色々教えてもらおう。


久しぶりに近藤先輩に連絡を取る。


「近藤先輩、お久しぶりです」


「あら、井本君、お久しぶり。もう名前は近藤じゃなくなっちゃたけど、まあいいわ。井本君忙しすぎて全然連絡が取れなかったもんね」


「最近はようやく落ち着いてきたんですよ」


「そうなのね。それで今日はどうしたの?」


「はい、さやかにプロポーズしようと思うんですけど、どうしたらいいか分からなくて、近藤先輩に色々アドバイスをいただきたくて」


「あら、それはおめでたいわね。ぜひ協力させてもらうわね。プロポーズするってことは、すでに二人は恋人同士ってことね?」


「えっ? 全然そんなことは無いですけど」


「は? たしかずっと一緒に暮らしているのよね?」


「ええ、その方が便利ですし」


「うーん、一緒に暮らしているってことは、夜の営みとかはあるのよね?」


「夜の営みってなんですか?」


「井本君、マジで言ってる? 寝室は一緒なのよね?」


「いえ、同居していますが、寝室は別です」


「えっと、さやかちゃんとキスぐらいはしたことあるのよね?」


「キス? いえ、したことないですけど?」


「デートで、手をつないで公園を歩いたりしたことないの?」


「デート? デートってよくわからないですが、手はつないだことないですね。そもそも結婚していないのにキスしちゃまずいでしょ?」


「はぁーーー!!! 井本君あなた一体何歳なのよ。中学生じゃないんだから」


電話の先で近藤先輩が肩を落としている雰囲気が伝わってきた。


うーん、前世では結婚するまではキスはおろかデートすらしないのが常識だったからな。たしかにこの世界では映画やドラマで見るかぎり、結婚する前にお付き合いして色々経験するみたいだけどな。


「とにかく、一度井本君に会いに行くわ。そこで詳細を伝授するからね。分かった?」


そう言うと、会う日時を一方的に押し付けて電話は切られた。

なんか怒ってない? 怒られるようなことをしたかな?


◇◇◇


近藤先輩の視点:


まったく、井本君たら。

久しぶりに連絡が来て、さやかさんにプロポーズするっていうから喜んだのに、まだ手もつないだことが無い? キスもまだ? 一緒に暮らしているのに?


元々女性に対して奥手というか、常識が無い感じがあったけど、ここまでとはね。

井本君はプロポーズする気満々だから、さやかさんもその気だとは思うけど、井本君だからその辺りは全く確認していないっぽいわね。とりあえず私の方で確認が必要ね。


そう思い、さやかさんに連絡を取ってみた。


「もしもし、さやかさん? 久しぶりね」


「近藤先輩、あ、今はお名前が変わったんでしたね。お久しぶりです」


「近藤でいいわよ。職場では旧姓で通しているし」


「それで、突然どうしました?」


「えっと、さやかさんって井本君と一緒に暮らしているんだよね?」


「はいそうです。もう6,7年になりますね」


「二人は付き合っているの?」


「え? 付き合うってどういうことですか?」


ダメだ、井本君だけじゃなく、さやかさんも恋愛感情がおかしいわ。


「もう! 単刀直入に聞くわね。さやかさんは井本君と結婚したいの?」


「うーん、大賢者様が私と結婚したいならお断りはできないですね」


「大賢者?」


「あ…、失礼しました。最近ラノベにはまっていて、つい変な単語が出てしまいました」


なんだか怪しいわね。


「ということは、さやかさんも井本君のことが好きってことでいいわね?」


「はい、前世からずっとお慕い申し上げていました」


なんだかよく分からない子ね。前世? いつもはとてもクールな印象な子なんだけど、男女間の話題ではこんな感じなのかな? まあいいわ。井本君がプロポーズしても断られることはなさそうね。


「わかったわ。ありがとう。じゃあね」


そう言うと電話を切る。さて、準備開始しましょう。

井本君て今や世界有数のお金持ちで、世界中から注目を浴びてもおかしくない人物よね? そんな人物にホイホイ会えて、しかも意外と異性関係についてはポンコツだってのが面白いわね。


あれほどのお金持ちで、若くて、しかも意外とイケメンなんだから、女性なんかより取り見取りだと思うんだけどな。まあ、女性に全く興味を見せないところが井本君のいいところでもあるんだけどね。


◇◇◇


主人公視点:


近藤先輩との待ち合わせ場所に到着した。

待ち合わせ場所は銀座で、俺の姿を見つけると近藤さんが小走りで駈けてきた。


「井本君、直接会うのは久しぶりね」


「お久しぶりです」


「それにしても今や世界で一番有名な人物かと思うんだけど、全然目立ってないわね。なんでこんなに誰も気にしないの?」


そんなこと言われてもなぁ。俺は目立ちたくないからメーティスが気を利かせて俺に関するネット上の記事を片っ端から隔離しているからかな?

テレビや雑誌のインタビューも全部断っているし。顔はほとんど知られていないんじゃないかなぁ。


「井本君の名前でネット検索してもぜんぜんヒットしないし。なんかおかしくない?」


はい、それもメーティスの仕業です。


「それよりも、今日はよろしくお願いします。さやかへのプロポーズをどうすればいいか分からなくって」


「そうね。まずは婚約指輪を買わなくっちゃね。さやかさんの左手薬指のサイズは把握してきたわよね?」


「はい、スマホでさやかの手の写真を撮って、メーティスに寸法を推定させましたから」


「……、まあいいわ。メーティスなら間違いはないでしょうから」


近藤先輩は先導して、宝石店に向かう。うん、なんか聞いたことがある有名なブランドだな。


宝石店には数多くの宝石や指輪などが展示されている。


「さて、婚約指輪は給料の3ヵ月分とか言われてるけど、それじゃあ高すぎるみたいだから、1ヵ月分で検討しましょう。井本君の月収っていくら?」


えっ?婚約指輪買うの? 聞いてないんだけど。


『メーティス。俺の収入を月収換算するといくらだ?』


『およそ150億円です』


「僕の月収は150億円だそうです」


「えっ? 150億? 資産総額じゃなくて、月収が? 桁違いね。そんな高い指輪はここでは売って無いし、十分の一で15億? もおかしいし、100分の1で1億5千万円? それでも高すぎるわね。じゃあ千分の一で1500万円ね。月収の千分の一の婚約指輪……、なんか安っぽい響きだけど仕方ないわね」


近藤さんが呆れたような顔をしてそう言う。

そんなこと言われてもなぁ、俺も自分の月収を初めて知ったわ。

月収の千分の一の婚約指輪でいいのか? まあ俺たちの前世では婚約指輪って概念は無かったからまあいいか?


店員がにこやかに近づいてくる。


「いらっしゃいませ。今日はどのような物をご希望でしょうか?」


俺が何か言う前に近藤さんが話す。


「こちらの子が婚約するので、婚約指輪を見に来たんです。あ、相手は私ではなく、私の後輩です」


「なるほど。ご予算はお幾らぐらいですか?」


「えっと、1500万円ぐらいを考えてます」


と俺が答えると、店員の態度が急に変わった。


「失礼ですが、冷やかしなら出て行ってもらえませんか?」


近藤先輩がむっとした顔で反論する。


「それはどういう意味ですか? 予算はもっと多くあるんだけど、常識的に考えてここまで下げたんですけどね」


「失礼ですがお客様のステータスでは1500万円の指輪を購入できるとは思えませんわ」


うん、今の俺の服装は量販店で数千円で買える普通の服だよな。でもなんか前世を思い出すな。

前世での晩年は仕事が忙しすぎて王宮で寝泊まりしていて、めったに外に出なくて、たまに買い物に行っても服装が適当だったから、高級店では”貧乏なじじいが冷やかしに来た”ってことで追い払われたりしてたな。


俺が郷愁に浸っていると店員はさらに小馬鹿にしたように会話を続ける。


「お客様でしたらこちらの15万円の指輪がよろしいかと」


そう言って、指輪を出してくる。


あぁ、これも懐かしいな。前世で俺が宮廷で他国の王様と面談を行うことになって、王様から”上等な服を買ってこい”って命令されて買いに行った時もこんな対応されたなぁ。世界は変わっても同じなんだなぁ。


後で俺が宮廷大賢者で、最高裁判所の判事で、魔法大臣だと分かった時の店員の慌てぶりも覚えているな。


近藤さんが顔を真っ赤にして怒った。


「失礼にもほどがあるわ。私は予算1500万って言ったわよね。もういいわ、こんな店お断りよ」


近藤さんが大声を出したためか、店の奥から店長らしき人が出てきた。


「お客様どうされました?」


「どうもこうもないわ。こちらの店員の失礼な態度にもう帰ろうとしていたところよ」


「田中さん、何があったの?」


田中とは店員の名前だろう。


「こちらのお客さんが予算1500万で婚約指輪を見せて欲しいと言われまして、冷やかしだから帰ってもらおうと思ったところです」


俺はてっきりその店長が店員を叱ってくれるかと思ったが、その期待に反して店長は店員の肩を持ち始めた。


「お客様、失礼ですが1500万円もの婚約指輪は非常識でございます。冷やかしと受け止めますのでおかえりください」


やれやれ、店長もか? 俺が何か言おうとしたとき、近藤先輩が先に口を開いた。


「もういいです。別のお店に行きますから。一応忠告しておきますが、この人の個人情報をメーティスに確認された方が良いのでは? 井本君、情報を開示してみて」


「えっ? ああ、うん」


メーティスは全世界ほぼすべての人の個人情報を掴んでいるが、通常は他者に開示されない。

個人情報を知りたい場合、開示される本人がメーティスに対し開示許可を出す必要がある。


「彼が誰なのか確認したら?」


店長はしぶしぶといった感じで、それでも念話を使ってメーティスに確認しているみたいだ。

ちょっと面白くなってきたので、メーティスが店長に通知している内容を傍受してみた。もちろん傍受など普通はできないが、俺はメーティスのマスターだからできるんだけどね。


『こちらの男性のお名前は井本史郎様、i経済研究所の代表取締役社長であり、Magicグループ各社の社外取締役であり、現在世界長者番付の1位とされている方です』


それを聞いた店長は驚きの余りぶっ倒れそうになり、店員田中は慌てて支えていた。


「こっこの店員が大変失礼な態度を取り大変申し訳ありません」


いや、あんたも失礼な態度取ったろ? 店員だけのせいにするなよな。近藤先輩も憤慨したようだ。


「店長の態度もひどかったでしょ? もう別のお店に行くからいいわ。あ、i経済研究所の関係者には社長への侮辱的な発言に対して注意喚起しておくわ。この店に来るなってね。関連会社の大谷システムズ社とラ・トレル社にも連絡しておくわね。もちろんMagicグループの各社にもね」


そう言って近藤先輩は俺の手を引いて店外へ出て行った。いや、めんどくさいのでこのお店で買っても別にいいんだけどな。前世での扱いも含め、こういうのは慣れてるから、と思ったが、近藤先輩は有無をも言わさず俺を引っ張って店から出てしまった。


店の中から、「お待ちください。井本様~」って声が聞こえたが近藤先輩は完全無視していた。

近藤先輩を怒らせると怖いのね。


「ひどいお店だったわね。だいたい井本君もそんな一般庶民の着るような服を着ているからよ!!」


ちょっとちょっと、俺にまで切れないで欲しいなぁ。


近藤先輩に連れられ、別のブランドの(こちらも有名ブランドの様だ)お店に入っていく。店員に同じように要件を告げると、こちらの店員の方はまともに対応してくれた。


「ご予算は1500万円ですか? 額が大きいので失礼ですが御身分を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」


俺が頷くと、店員はメーティスから俺の情報を聞き出したらしい。俺がVIPだと分かったようで、慌てて店長らしい人を呼びに行った。慌てて出てきた店長は満面の笑みで対応してくれた。


近藤先輩の主導の元、無事婚約指輪を選ぶことができた。もうこれだけで疲れちゃったぜ。その後、近くのカフェでプロポーズについて細かく指導された。


なるほどなるほど、えー、この世界ではそんなめんどくさいことをするの? 俺の前世では男が女に対し、”俺の妻になれ”とひとこと言うだけで済んだのにな。

その後に妻となる女の両親に何らかの貢物を渡しておしまい。


なんなの? その、ムードのある海辺のレストランでディナーを取りながら婚約指輪を取り出し、歯の浮いたような言葉でプロポーズって。めんどくさいんだけど……。

えっ、女性は一生に一度のそのイベントが何より重要? うーん、さやかはそんな希望は持っていないと思うけど……。えっ? 俺は女心が分かっていない? はい、分かってません。


事細かにプロポーズの方法を指導され、その場でプロポーズで使うレストランの予約を近藤先輩が勝手に行い、ようやく近藤先輩から解放された。疲れた。


◇◇◇


1ヶ月後、婚約指輪も完成しいよいよプロポーズの日になった。

前世では仕事に明け暮れていて女っ気がなく、生涯独身だったので、今回が前世も含めて初めてのプロポーズだな。

ちょっと緊張するが、さやかとは16歳の頃からずっと一緒に暮らしていたのでいまさら感がある。


さやかには、一緒にレストランでディナーを取ろうと前々から予定を入れてもらっていた。さやかもi経済研究所の役員であり、各社の社外役員も兼ねていたりするので非常に忙しい。

なんとかその日はお互い予定を開けて近藤先輩が予約してくれたレストランで食事をすることになった。


ドレスコード推奨のお店なので、お互いそれなりの格好をして出かける。

近藤先輩の助言通り、今日は俺の運転で、この日の為に購入した高級乗用車でドライブを楽しみながらレストランまで移動する。

俺は運転席に座っているが、この車はAIによりほぼ自動運転だ。


さやかは何となくウキウキしている感じがするな。そういえばさやかと出会ってからあちこち移動したことはあったが、常に何らかの目的のある移動で、特に会社を立ち上げた後は、食事だけの目的でドライブなんてしたことなかったな。


ウキウキしているさやかとは対照的に、俺は緊張しまくっている。こんなに緊張したのって、久しぶりな気がする。

いや、前世の記憶が戻ってからはこの世界では緊張したことなんてなかったんじゃないか?


予定通りの時間にレストランに到着し、係の人に案内された席は海が見える一番よさそうな席だった。近藤先輩はどんな予約の仕方をしたんだ?


食事はとても素晴らしかったが、緊張で全然味が分からなかった。デザートも終わり、コーヒーが出されたところでプロポーズを実行に移すことにした。

プロポーズの手順も近藤先輩から伝授されていたのでそのとおり実行する。


”いいこと、念話でのプロポーズはダメだからね。ちゃんと言葉で言うのよ。”


そんな近藤先輩からの言葉を思い出す。


俺はポケットから婚約指輪の入った小箱を取り出すと、開いてからさやかの前に差し出す。


「さっさやか、ぼっ俺と結婚してください」


もう緊張で喉がのどがカラカラで、言葉がつっかえてしまった。恥ずかしい。

さやかは微笑みながら俺を見つめて返事をしてくれた。


「はい、お受けします。オルペウス様。前世からずっとお慕い申し上げておりました」


なぜかさやかは前世の名前で俺を呼んだ。うん? 前世から? あの当時は歳の差70才以上もあったんだぞ。まあいいか。これでプロポーズは完了だな。


次の瞬間、周りに座って食事をしていた客たちが一斉に立ち上がり、拍手喝さいとなった。えっ? 近藤先輩? あれ、大谷先輩も岩崎先輩もいる。

改めて辺りを見渡すと、知っている顔ばかりだった。


中学の同級生の金井容子委員長、鈴木恵さんとその父親の達也氏と姉の望さん、ボクシング元世界チャンピオンの加藤正人氏、ジムの会長の清水さん、今や国立天文台の所長となった加藤正樹氏。橋本さんもいる。 えっ? 元合衆国大統領のミラーさん、現合衆国大統領夫人のアンナさんと娘のスーザンさんもいる?


近藤先輩がこちらに近づいてきて話しかけてくる。


「井本君、ご婚約おめでとう」


「あ、ありがとうございます。なんでこんなに知り合いが居るんですか?」


「そりゃここの予約時に貸し切りにして、関係者をいっぱい呼んだからよ」


「じゃあ、今日僕がプロポーズするってみんな知っていたんですか?」


「そうね。そう言って皆で祝福しましょうって呼んだからね」


「そんなぁ。もしプロポーズで断られたらどうするつもりだったんですか?」


「それは大丈夫。さやかさんには事前に確認していたから」


こいつら、俺のプロポーズを見世物にしやがって。


『おい、メーティス。お前は知っていたな?』


『はい、知っていました』


『なんで教えてくれないんだ』


『近藤様から内緒にしておくように言われましたし、井本様から質問もありませんでしたので』


そりゃ、”このプロポーズは見世物になっていないだろうな?”なんて聞かねーよ!


レストランに居たメンバーが次々に声をかけてきた。


「井本、おめでとう。やっと結婚かよ」

「結婚式には招待してくれよな」

「おめでとう。やっぱりさやかさんを選んじゃったのね」

「ミスターイモト、地球の救世主よ。おめでとう。神の祝福が有らんことを」

「おめでとう。子供はたくさん作るんだぞ」


その後はテーブルが片づけられて、追加の料理が運ばれてきて、立食パーティーの様相になった。

なんなんだよ。まあでもさやかがが幸せそうな笑顔を見せているので良しとするか。

パーティーは深夜まで続き、お互いの交流を深めたのである。


◇◇◇


結婚式についてだが、俺は両親が居ないし、さやかは両親とは絶縁状態だし、二人だけで質素にやろうと思っていた。

しかし、周囲が全然それを許してくれなかった。


結婚式自体はなんとか小規模で行うことができて、身内は俺の祖母だけ、友人として例の婚約した時のレストランに来ていた人達を招待して、都内の教会でこじんまりと実施した。


しかし、結婚披露宴は後日大々的に行われることとなった。

俺は披露宴なんてやりたくはなかったんだが、近藤さんが、「きちんとやったほうが良い」と言い出し、現合衆国大統領が披露宴に参加する旨表明し、それを受けて日本国政府が、「国の宝物である井本氏の披露宴は国が全面的にバックアップする」と表明し、それを受けて各国の首脳や外務大臣クラスが参加を表明し……、もはや俺たちの結婚披露宴なのか外交の場なのか分からないような状態となってしまった。


やれやれ、前世の記憶が戻ったころの、”目立たないように密かに生きていく”って目標は完全に消え去ってしまったな。しかたがない、毒食わば皿までだ。俺はあきらめて外交の場となってしまった結構披露宴に臨むこととした。


披露宴会場は日本国政府主催となったたことと、各国のVIPが参加するため、迎賓館赤坂離宮での開催が決まり、俺たちのスケジュールは完全に無視され、各国の(特に米国大統領の)スケジュールに合わせて予定された。いや、俺達は公務員じゃないんですけど。えっ? 俺ぐらいのVIPになるとプライバシーなんて無いって? 勘弁してくださいよぉ。


少しばかりの抵抗もむなしく、迎賓館で大々的に披露宴は行われた。

俺の希望であった”マスコミのシャットダウン”は聞き入れられ、テレビ中継とか新聞・雑誌記者のインタビューが無かったのが救いだったけど。


披露宴の最初の挨拶が日本の内閣総理大臣ってなんなの? 来賓のあいさつで合衆国大統領っておかしいでしょ? 普通高校時代の友人とか、会社の同僚の挨拶でしょ?


大谷先輩とかにあいさつを頼んでも、”総理大臣や米国大統領のいる会場で挨拶なんてとんでもない”って断られちゃうし。


プロの映像クリエイターにより数千万円もかけて作られたという、”ミスター井本の成した偉業を紹介”ってビデオが巨大スクリーンで上映されたり、しかもその映像の出来が素晴らしく、会場は感動の嵐だったり。


特に大統領の娘がエリクサーで失った手足や視力が回復するシーンでは、皆感動のあまり泣きながら見ていた。いや、恥ずかしすぎるだろ。


3時間に及ぶ披露宴もようやく終わり、これで解放されるかと思っていたが、各国代表との会談が待ち受けていた。聞いてないんだけど。えっ拒否できないの?

米国大統領を皮切りに、各国代表との会談が行われた。各国の代表の話は概ね、”さらなる新会社を自分の国で起業してほしい”とかだった。もうめんどくさかったので、前々から考えていた持論を展開してやった。


「そんな個別の経済案件より、世界統一政府を作る方向に目を向ける時期に来ているんじゃないでしょうか? 各国の代表が自分の国の利益だけに目を向けている時代は終わりを告げていますよ。転移魔法で世界は一つになりました。これからは宇宙進出が加速し、宇宙から見たら地球はたった一つのふるさとなんですよ」


とにかく個別の経済的な要望から話を逸らすのに、”世界統一政府”ってのは効果があった。そんな簡単に実現するわけでもないが、以前から世界の理想としてはこの考えはあったんだからな。

俺のこの提案で、各国の代表も自国の利益のみの要望は出しにくくなり、しつこい要求は減ったので良かった。


各国政府との会談もようやく終わり、俺とさやかが解放された時は深夜になっていた。

疲れ切ってしまったので、俺はハイポーションを一気飲みしてしまった。

ふぅー、やっぱりハイポーションは疲れに利くなぁ。

今や全世界でも引っ張りだこの薬だ。


こうして無事? 結婚披露宴も終了し、俺とさやかは正式に夫婦となった。とはいっても元々一緒に暮らしていたし、見かけはほどんどなにも変らないんだけどね。

あ、寝室は同じになりました。

主人公はついに結婚しました。

プロポーズに関しては主人公はかなりヘタレでしたね。

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