127.予知魔法商業化2
自宅に帰り、さやかとメーティスとで商業化の条件を検討する。
「そういえばさやかにアイディアがあるって言っていたけど、なんなんだ?」
「地震や災害や乗り物の危険を予知するのは当然として、イベント会場やスポーツ会場の天気を1年前からピンポイントで予知すれば、雨天中止の商業的な損失は最小限となるし、いい商売になりそうだと思わない?」
さやかっていつの間にかキャラが変わって無いか? こんながめつい性格だっけ?
「それに、台風の発生と進路も数か月前から予知できると思うし、大規模な停電や、システムの故障も事前に予知できるようになるような仕組みのアイディアもあるのよ。これらすべて特許でがちがちに固めておきましょう」
「わ、分かった。では特許で固めるのは早急に実施するとして、条件を決めていこう」
◇◇◇
1週間後、俺とさやかと橋本さんとで、サンフランシスコに移動する。前回と同じ場所で、同じメンバーとで話し合いを開始する。
まずはこちらからの条件を提示する。
・予知魔法用の魔法石の製造はメーティスが管理する。
・予知魔法の発動はメーティスが行い、メーティスとと接続できない場合は使用
できない。
・宇宙船での安全装置としての使用時など、メーティスと接続できない場合は
専用装置で起動可能とする。
・ライセンス料は、魔石1つ辺り1000ドル。および年間100ドルの使用料を科す。
・当面、軍事目的は認めない。
・ピンポイントでの天気予想のビジネスに関しては、別途特許使用料を支払う。
・システム障害予想のビジネスに関しては、別途特許使用料を支払う。
・新会社へi経済研究所が出資し、未公開株の49%の権利を得るものとする。
条件は概ね了承され、新会社設立と予知魔法の商業化がスタートした。
新会社の名称は”Magic forecast”とされ、CEOはジム・T・アレクサンダー氏が就任した。
なんだか、Magic何とかって会社名が多くないか? まあ分かりやすいっていえばわかりやすいので良いんだけどね。
予想通り、俺はまた激務に見舞われた。新会社設立、魔石の製造ライン立ち上げ、制御装置の考案、特許の取得、各方面への説明会への参加。
出来る限りメーティスに任せたり、橋本さんやさやかに丸投げしたり、ホームズ氏に一任したりして負荷を減らしたが、それでも殺人的な忙しさだった。米国国立気象局からは”出来るだけ早くに予報システムを立ち上げて欲しい”との突き上げは来るし、それらの動きを察知した日本の気象庁と地震予知学会からも圧力がかかってきていた。
前世でも目が回るような忙しさだったが、なんで転生先でもこんなに忙しいんだよ。
◇◇◇
忙しさが続く中、予知魔法の商業化は着々と進められた。そんな中、アレクサンダー氏の秘書と話をしているときに俺はうっかり言わなくてもいい事を言ってしまった。
ことの始まりは秘書のアイリーンさんの一言だった。
「予知魔法が未来を予知するだけじゃなく、過去も見ることもできると良いんですけどね」
どうやら彼女の両親は強盗によって自宅で殺されたのだが、まだ犯人は見つかっていないとのことだった。
その言葉に対し俺はうっかり、本当のことを言ってしまう。
「予知魔法では過去も見ることもできるんですよ」
それを聞いたアイリーンさんの目がらんらんと輝いたのを見て、”しまった!”と思ったが、もう後の祭りで、予知魔法による過去の出来事の映像化も商業化する流れになってしまった。
アイリーンの次の一言で実現しなければならない雰囲気になってしまったからだ。
「まだ犯人が見つかっていない犯罪被害者の救済になるし、冤罪で有罪になった人のためでもあるし、なにより全米で年間どれぐらいの子供が行方不明になっているか知っている? 36万人よ! 行方不明の子供の救済のためにも誰でも使えるようにすべきよ」
うーん、言っていることはもっともだ。前世では治安は悪かったが、意外と殺人事件や強盗が少なかったのは、凶悪犯罪に関しては、賢者の予知魔法による過去の確認が実施され、犯人の検挙率が非常に高かったからだった。
そんなわけで、未来の予知と過去の出来事の映像化サービスを同時に商業化することになり、さらに忙しくなってしまった。
◇◇◇
半年後、予知魔法の商用化の準備は整った。
宇宙船と航空機への安全装置としての予知魔法装置の設置が義務化された。
同時に過去の出来事も映像化できることが発表され、未解決の凶悪犯罪の再捜査や、冤罪を主張する受刑者の事件の再捜査を実施することが、各国政府から発表された。もちろん行方不明の子供の捜査も優先的に実施される。
予知魔法による捜査は3ヶ月後から開始される予定で、それまでに自首した犯人は減刑も考慮すると発表されたため、発表の翌日から犯人の自首が非常に増えたのである。
行方不明だった子供の居場所も誘拐犯人の自首で続々見つけられた。
そして、3ヶ月後に実施された予知魔法を使った過去の映像化操作により、非常に短時間で多くの未解決事件の犯人が検挙されていった。
その成果が連日ニュースで報道されると、自首の数はさらに増加してしまい、各国の警察署は自首犯人の対応で大わらわ状態になっていった。
半面、凶悪事件を起こすと、逃げることは絶対できないことが周知されたことにより、各国の都市の治安は劇的に改善されていったのである。
裁判所の仕事も激増することになったが、米国では司法判断や弁護をメーティスにゆだねることが法律で可能となり、裁判が非常にスピーディになっていた。
というのは、予知魔法による捜査は、必ずメーティスが介在することとなるため。わざわざ人間の弁護士や検察に説明しなくても。メーティスが全てを把握できており、刑法に則って適切な判断を下すからだ。
米国での裁判制度の改革がうまく機能したのを見て、各国政府も同様に法律を改正してメーティスによる司法判断が一般的なものになっていった。
◇◇◇
Magic forecast社秘書 アイリーンの視点:
私は予知魔法の会社、Magic forecast社のCEOの秘書をしている。
現在全世界を途方もない発展と変化の渦に巻き込んでいる魔法技術の新たな分野で仕事ができていることに喜びを感じている。
私には非常に心を痛めていることがあった。それは3年前に家に強盗が押し入り、在宅中だった父と母が殺されてしまった事だ。
ほとんど物証が無いため、犯人は捕まっておらず、両親もさぞ無念だろうと思っていた。
しかし、予知魔法の一つの能力として、過去に発生した出来事を映像化できることが分かり、希望が湧いてきた。両親はもう戻らないが、犯人を捕まえることができるかもしれない。
それからの私は、予知魔法の商業化に全力を尽くすとともに、政府や司法に対して予知魔法での過去の映像化を捜査と裁判の証拠として採用できるように働きかけていった。
幸い、犯罪被害者の団体に所属していたため、この団体を動かすことはそう難しくなかった。というより、犯罪被害者の団体が待ち望んでいた技術だったのだ。
被害者団体の何割かは、犯人が見つかっていない。
団体の総意として政府に強く働きかけた結果、予知魔法の商業化開始とほぼ同時に、予知魔法で過去を映像化したものが捜査や証拠として採用されることが決まったのである。
捜査中の犯罪案件は非常にたくさんあったが、予知魔法を起業化した会社の社長秘書の特権を有効利用して、私の両親の案件が予知魔法捜査第一号となった。
捜査当日は、警察の捜査班の他、Magic forecast社の技術者や役員連中の他、マスコミも大勢詰めかけていた。
第一号が社員の実家とのことなので、会社としてもマスコミを呼んで宣伝に使いたい意向とのことで、両親の捜査が公衆にさらされるのは嫌だったけど、優先的に捜査してもらえるのだかが文句は言えないわね。
予知魔法の装置を犯行現場の実家リビングに持ち込んで、犯行当時の日時を端末から打ち込む。直ぐに当時の映像が再生された。
犯人はあっという間に判明した。隣に住む初老の男だった。たしかに生前両親から隣の家の住民と敷地の境界線を巡ってトラブルがあったことは聞いていた。
裁判で我が家に有利な形で決着していたと聞いていた。それに対しての逆恨みだったようだった。
私は被害者の親族であり、家の中を案内する役目もあったので、記録された映像を直ぐに見せてもらえた。玄関から押し入ってきた隣家の男は、リビングでくつろいでいた両親を持ってきたナイフで殺害し、その後強盗に見せかけるため家を荒らしていった。それらはまるで誰かがそばでカメラで映したかのように鮮明に映像化されていた。
私が映像に移った犯人が隣家の男だと直ぐに証言し、装置で家から出た後の足取りを確認し、犯人が隣家に戻るところを確認できたため、警察は即座に隣家の男を逮捕した。
開発中の装置評価での映像を何度か見たことがあったが、実際の捜査での映像を見せられ驚愕した。ここまで確実に鮮明に映像化できるのね。
まるで魔法ね。
こうして予知魔法による犯罪捜査は大成功となり、マスコミが来ている目の前で犯人が逮捕されたことも相まって、全世界にセンセーショナルを巻き起こしたのだった。
ついに予知魔法まで商業化され、特に地震予知はタイミングよく実用化できましたね。
主人公はますます忙しくなりそうです。




