126.予知魔法商業化1
グブトル教団とのトラブルも解決して、数か月が経った。
グブトル教団のアジトのパニックルームに隠されていた数々の証拠データから、教団の悪行が暴かれたが、肝心の総主教と悪事の実行部隊が行方不明状態だった。
まあ、俺が拉致っちゃったんだけどね。
東京で鈴木一家を拉致・監禁していたメンバーは日本で逮捕され、事情聴取を受けていた。俺も参考人として呼ばれたが、”クルーザーに呼び出されたが、鈴木一家が救出されたとの情報を聞いたので、直ぐに逃げ出した”と証言しておいた。
エリクサーの販売関係も落ち着いてきてようやく一息付けてきた。
そんな折、エリクサーの販売会社であるMagic Medicine社のCEOのホームズ氏が”折り入ってお願いがあるので打合せをお願いしたい”と連絡をよこした。
ものすごく嫌な予感がする。身に危険が無い場合は予知魔法では予想困難なのだが、今までの経験から、また忙しくなる予感がするのだ。
『メーティス。俺の総資産はいくらあるんだ?』
『個人資産は約5兆1000億円です』
『えっ?なんでそんなに多いんだ?』
『i経済研究所が先日株式をニューヨークと東京証券取引所に上場しました。井本様の保有株の資産が一挙に膨れ上がりこの額に達しました』
おいおい、もう十分じゃね? これ以上あくせく働きたくないんだが……。
嘆いていても仕方がない、とりあえず打ち合わせに行くか。面倒なことは今まで以上に他人に振り向けてしまおう。
打ち合わせOKの旨を伝えると、早速打合せ日は明日に決まった。
メーティスめ、明日は久しぶりに比較的暇だったのに、めんどくさそうな仕事を入れ込みやがって。
そう、最近でのビジネスシーンでは、お互いの時間のすりあわせを全てメーティスに任せることが多くなってきた。世界のほとんどの会社がメーティスとビジネス契約しており、各人の時間のすり合わせは瞬時にできるようになった。
半面、あまり会いたくない相手に、”いやその日は別の会議がありまして”との嘘の言い訳は通用しなくなってしまった。
翌日、しぶしぶと打合せ会場であるサンフランシスコのMagic Medicine社にさやかと橋本さんを連れて向かう。
会議室に案内されると、既にホームズ氏がもう二名の男性と待ち構えていた。
「井本君、久しぶりだね。おかげさまでMagic Medicine社は絶好調だよ。世界中で悩める人を救っているよ」
「それは良かったです。それでこちらの方々は?」
「おぉ、紹介しよう。私のビジネスパートナーで、ジム・T・アレクサンダー氏だ。彼もNASAの職員で、宇宙船の安全対策の責任者でもある」
「ジムです。よろしく」
人懐っこい顔をした50代ぐらいの黒人男性だ。
「よろしくお願いします」
「もう一人は、米国国立気象局のマイク・リー・ペイン氏だ」
こちらは精悍な顔つきの東洋系の男性で、40代ぐらいに見える。
「マイクです。よろしく」
「よろしくお願いします」
「では早速本題に入ろう。ここにいるアレクサンダー氏は、井本君から提供された予知魔法の魔石を商業化したいとのことなんだ」
アレクサンダー氏が交代する。
「ここからは私が説明しましょう。私はNASAでロケットや宇宙船の安全関連の対応をしています。ヘスティア―計画で、妨害工作による打ち上げ失敗を事前に防げた予知魔法に非常に感銘を受けました。また、予知魔法を使って、宇宙船の位置調整をするアイディアにも感動しました。そして、この技術をぜひとも世界に広めたいと考えています。ご協力をお願いできないでしょうか?」
次に、気象局のペイン氏に交代する。
「私からも是非お願いしたい。ご存じのように気象予報はだいぶ進歩したとはいえ、まだまだ外すことがある。最近は温室ガスの排出は少なくなってきているとはいえ、まだまだ温暖化は進んでおり、大規模なハリケーンや水害が多発している。アレクサンダー氏によれば、予知魔法で気象予報も可能になるみたいではないか。是非気象予報にも応用させてほしい」
ペイン氏はさらに言葉を続ける。
「そして、気象予報以上に予知魔法を応用したいのが、地震予知だ。ご存じの通り、地震予知は各国で研究されているが未だに実現できていない。しかし予知魔法を使えば100%の予知が可能ではないか?」
「なるほど、ご要望は理解しました」
「君も知っているかと思うが、ここサンフランシスコの近くにはサンアンドレアス断層があり、地震多発地帯だ。ここだけではなく、カリフォルニア州全体が地震がいつ来てもおかしくはない土地柄だ。地震予知ができるようになれば、何千人という犠牲者を出さずに済むし、家屋の倒壊を事前に防ぐなど、人々に資産の保全にも役に立つ。是非ともお願いしたい」
人々の命や財産を盾に取られたら、断れそうにないな。また忙しくなるな。
それにしても、米国人って新規ビジネスをリレーみたいに次々に知人にバトンタッチしていく文化でもあるのか?
なんかこの雰囲気何度も経験しているような気がする。
「どうだろう? 多くの人の命がこの瞬間でも気象災害や地震で失われているんだ。直ぐにでも予知魔法商用化したいんだ」
うーむ。エリクサーの時も同じようなセリフを聞いた気がする。デジャビュだぜ。
『橋本さん。彼らに裏の意図は感じられるか?』
『大丈夫です。悪用や私利私欲の為のみでの考えはなさそうです』
『メーティス、お前はどう思う? 予知魔法を一般化してしまうと、株価の予想を予知魔法ではできなくなると思うが』
『株予想はずいぶん前から予知魔法を使っていません』
『えっ?そうなの?』
『はい。AIによる株価予測の的中確率が格段に上がってきており、逆に投入する金額が大きくなりすぎ、事前に予知した額と大きく乖離してしまうことが何度も発生し、リスクが高いと判断しました。最近では短期売買は実施しておらず、高配当や高成長の企業への長期投資としており、長期ホールド状態で、株の売買はほとんど実施していません』
自分の資産なのにメーティスとさやかに任せっきりで全然知らなかったわ。
『では、予知魔法を商用化しても問題は無いか。さやかはどう思う?』
『事故や自然災害を事前に防ぐ意味では商用化は賛成ね。それに他にも色々アイディアはあるし、特許を取得しておきましょう』
『よし、では決まったな』
「分かりました。予知魔法は商用化する方向で検討しましょう。こまかな条件はこちらで作成しますので、後日打合せを実施しましょう」
「おぉ。了解してくれたか。ありがとう。細かな部分は後日打合せで了解した。私たちは早速準備を開始するよ」
あーぁ、また了解してしまった。今回も忙しくなりそうだな。いつになったら暇になるんだろう……。
今回は予知魔法を商業化しましたね。
毎回”のんびりしたい”と言っている割には、人命を盾にされると主人公は断れないんですよね、




