124.魔女狩り(1/2)
グブトル教団総主教の視点:
フランスのパリ郊外のかなり豪華な邸宅の一室で、私はニュースを見ながら苦虫を潰したような顔をしていた。
私の名前はピエール・ド・シャンパーニュ。年齢は60歳で、魔女と戦うために存在する、グブトル教団の第15代の総主教。教団のトップだ。
この教団は秘密性の高い教団で、300年の歴史を持つ。主に魔女や悪魔と戦う目的で活動をしている。
”疑わしきは粛清せよ。”が教義であり、過去300年で数百人、いや数千人を粛清してきた。
粛清された人は普通の人で、決して魔女では無かったと思われるが、少しでも魔法使いの可能性がある人物は粛清の対象だ。
私も若いころから10人以上を粛清してきた。
魔女や悪魔と契約した輩をこの世に放置するわけにはいかないのだ。もっとも、私は魔法使いとか悪魔との契約者などがいるとは信じていなかった。
古くから続く我らグブトル教団は、治外法権的な権力を有しているため、かなりの部分は時の権力者から不問にされてきている。その分、賄賂もかなり使っている。
信者には魔法使いや悪魔崇拝者が如何に世界を牛耳っているのか、排除しないと一般市民は奴隷になるなどと嘘八百を並べて信じさせていた。
しかし数年前に突如として魔法がこの世に公になり。いつの間にか魔法を使っての生活が普通になってしまった。
地球の危機も魔法により救われたことが公式のニュースで流された。
そして我が教義の性格上、魔法を使うわけにはいかないため、信者に対し、転移魔法やエリクサーはもちろん、メーティスとも会話しないように指導していった。
しかしながら、魔法を使っての生活が世間一般の常識となっていくにつれ、信者が次々に脱退していってしまった。
特にメーティスとのアクセス禁止が信者に受け入れられなかった。
これ以上魔法が一般的になってしまっては、グブトル教団の存在意義が無くなってしまう。何とかして、魔法普及の中心人物を粛清してしまわなければならない。
今日もニュースで、エリクサーの特集をやっており、私は不機嫌な顔つきでそれを視聴していた。
「何でも治る魔法の薬? そんなものは悪魔の薬だ。転移魔法も魔石ネックレスも、メーティスとかいうAIも、この世界には必要無い。全てぶち壊してやる。まずは魔法使いの主要メンバーを粛清しないとな」
我々は数年前からこいつら魔法使いたちの調査をしていた。
なぜかインターネットの情報や、ニュースにはこいつらの名前などが出てこないが、日本の東京に住んでいる井本史郎、佐藤さやか、の2名が魔法使いだと調べが付いている。
常に行動を共にしている橋本沙織という女も粛清の対象だ。
少なくともこの3名の粛清が当面の目標で、この3名粛清後、その仲間たちも粛清していく必要があるな。
いつものように、こいつらの資産はごっそりいただくし、若き魔女は粛清する前に総主教のこの私が慰み者にするのだ。
入手した情報に添付されていた写真では、佐藤と橋本という魔女はとびきりの美女だ。
今から下半身がうずく。
しかも井本とかいう若造は莫大な資産を持っているとのことだ。この資産は何とかして手に入れたいものだな。
魔法がこの世で一般的になってしまったため、教団の信者が続々と退団してしまっただけでなく、大口の出資者も教団から去ってしまった。
魔女を探し出して粛清する教義だが、ここまで魔法が一般化し、さらには魔法使いが世界を救ったことが一般に知れ渡ってしまっては、魔法使い=悪、との図式が全く成り立たなくなってしまった。井本とその仲間は絶対に許さない。
総主教である私は3名の拉致を実行部隊に命じた。”井本という男は拷問で資産を吐き出させたら殺せ。女は尋問するので殺さずに拉致して俺の前に連れてこい。”
実行部隊は今まで失敗したことのない、暗殺・拉致のプロだ。ここ数年でも何人もの人間を暗殺や拉致をしてきた。今回も失敗はしないだろう。
さらに奴らは拷問に関しても優秀だ。井本という若造も実行部隊の拷問に耐え切れず、全ての資産を私に快く譲渡してくれるに違いない。こちらも楽しみだ。
◇◇◇
主人公視点:
ある日メーティスからの念話が来た。
『井本様、敵対勢力が動き始めたようです』
おいおい、ただでさえ忙しいのに、またトラブルかよ?
『敵対勢力って、True-Dark教団がまだ生き残ているのか?』
『それとは別の団体で、グブトル教団という、中世ヨーロッパから続く教団で、魔女狩りを実行している教団の様です』
『魔女狩り? この世界に魔女は居ないだろ? あぁ、橋本さんみたいに超能力者はいるかな?』
『グブトル教団のパソコンに侵入しました。どうやら確たる証拠もなく普通の人を魔法使い、もしくは悪魔との契約者として粛清しているようです』
『それってたちまち司法の手にゆだねられるんじゃないのか?』
『時の権力者や有力者との繋がりが太く、摘発を免れているようです。さらに粛清者の資産を拷問などの手口で教団の物にしているようです』
『とんでもない奴らだな。それが俺たちに目をつけたという訳か?』
『暗殺実行部隊と教祖との通話を傍受したところ、井本様の資産と、さやか様と橋本様の身体も目当ての様です』
『つまり、教団の奴らは犠牲者の資産だけでなく、若い女性は凌辱しているということか?』
『知りえた情報によると、その様です』
『いつ俺たちを襲う予定なんだ?』
『私の傍受を警戒しているのか、指令は口頭や文書で行っているようで、はっきりしません』
『わかった。ありがとう。とりあえず警戒しておくよ』
予知魔法を発動してみるが、ここしばらくは大丈夫そうだな。もっとも、対人の予知は行動が明確ではないため、あまり当てにできないんだけどな。
俺はさやかと橋本さんにも警告をしておく。特に橋本さんは攻撃魔法を使えるわけではないので特に気を付ける必要があるな。
『メーティス。俺たちの周辺の監視カメラに常時アクセスして、不審な人物が接触してこないか注意しておいてくれ』
『了解しました』
◇◇◇
数日が経ったが、特に異常もなく仕事に追われる日々を過ごしていた。
その日は早めに仕事を切り上げ、自宅のタワマンでくつろいでいた。インターホンのチャイムが鳴り、出てみると書留郵便とのこと。
仕事関係は全てi経済研究所に送ってもらうようにしていたので不思議に思い受け取る。
差出人は聞いたことの無い名前だったが、一応開いてみる。
中身は驚愕的な内容で、”i経済研究所のCEOの鈴木達也とその娘の望と恵の3名を拉致した。彼らを殺されたくなければ台場の第一マリーナに停泊しているヨットまで、井本、さやか、橋本の3人だけで来い”とのことで、係留されている位置やヨットの名前まで記されていた。
『メーティス。鈴木さん一家に連絡はとれるか?』
『魔石ネックレスに反応はありません。取り上げられ、破壊されたものと思われます。携帯電話にもつながりません』
『i経済研究所のオフィスとその周辺の監視カメラのデータを片っ端に確認して、いつどこで拉致され、どこに連れ去られたのかを確認してくれ』
『了解しました』
「さやかどう思う?」
「鈴木さん達は大事な人質なのだからまだ生きていると思うわ。でも奴らはある意味プロなので、警察に言っても無駄かもね」
「じゃぁ行くべきかな? 俺はともかくさやかと橋本さんも巻き込むわけにはいかないな」
「何言ってんの、私も橋本さんもターゲットなのよ。いつかは対峙しなくちゃいけなくなるわ」
そこへ橋本さんから念話が入る。どうやら隣の自宅から、俺たちの心を読んだようだ。
『私も大丈夫です。ご一緒します。逆に私だけ残されたらかえって危険だわ』
よし、では決まった。指定された時間まであまり余裕はないが、できる限りの準備をしておこう。さやかの言う通り、警察に動いてもらってもうまくいかない気がする。しかし、公安には連絡しておこう。
実は合衆国大統領からの要請もあり、俺たちの安全の為に、日本の公安が常に気を付けてくれている。
護衛までは付けられていないが、俺達を守るための専門チームも存在し、その担当者とは24時間連絡が取れるようになっている。
俺は念話で(携帯電話では敵に傍受される危険があるので)担当の伊藤さんに連絡を入れる。
『伊藤さん、こんにちわ』
『おっ? 井本君か? 何かあったか?』
『事件が発生しました。私とさやかと橋本さんを狙って、関係のない鈴木さん家族の3人が拉致されました』
『i経済研究所の鈴木さんか?』
『そうです。犯人の指令で、指定された場所に今から行きます』
『ちょっちょっと待ってくれ。公安のメンバーを直ぐに派遣するから早まらないでくれ。』
『私は大丈夫です。詳細はメーティスから聞いてください』
俺は念話を終了すると、行動を開始した。
◇◇◇
指定された時間に俺たち3人は指定された停泊地に行った。
指定された係留場所にはヨットというか、かなり豪華なクルーザーが停泊していた。
狙撃の可能性も考え、物理結界を発動したままクルーザーに近づく。
そこへメーティスから連絡が入る。
『鈴木さん一家の監禁場所が特定できました。都内のマンションの部屋に居るようです』
『生きているのか?』
『詳細は不明ですが、連れ込まれたときは生きていました』
『よし、鈴木さん達については、公安の伊藤に連絡して対処してもらってくれ』
『了解しました』
我々が今変な動きをして、鈴木さん達に万が一の事でもあったら大変だ。
指定の時間も迫ってきていたので、公安を待つこともなく俺たちはクルーザーの中に入ることにした。
引き続き物理結界を発動したままクルーザーに乗り込むと、覆面をした男数名が現れる。身体検査をされ、ハンカチやら橋本さんの魔石ネックレスなど持ち物は全て没収される。もっとも、没収されることを予想し、持ってきた荷物はほとんどストレージに移してある。
外国訛りの日本語で、クルーザー内部の船室内の一番手前の部屋に入るように命令される。
俺たちはおとなしくその指示に従った。
部屋に入る前から、その部屋に対する違和感があったが、中に入りドアを締められた時ようやく違和感の正体に気が付いた。
この部屋の壁はオリハルコンで作られている。
オリハルコンは魔法を反射する性質がある。また、非常に硬く、この世界でも最も固い金属に匹敵する。前世では魔法を跳ね返す盾に使われることが多かった(前世では高額なので、ほとんど市場に出回らなかったが)。
つまり、この部屋の壁は魔力では破壊できないことと、転移魔法で逃げることができないことを意味する。
しかしどうやってオリハルコンを入手したんだ? オリハルコンは製造過程で魔力注入が必要なため、全てメーティスの管理下で生産と販売がされているはずだ。
しかも、販売先は宇宙関連企業に限られ、主に魔力通信用のパラボラアンテナに使われている。
いや、まてよ? そういえば小型船舶用の船体への応用で研究用に生産の依頼が来ていたと聞いたことがある。軽くて丈夫で錆びない金属で、フジツボも付かないので船舶用に使えないかとのことで、比較的多く製造したはずだ。たぶんこの企業が教団関係か、担当者が買収されて横流ししたかだな。
それにしても、教団がオリハルコンは魔法では壊せない、オリハルコンに囲まれると、転移魔法や念話が使えないとよく知っていたな。
魔法研究関連施設に教団関係者が紛れ込んでいるのか?
俺はオリハルコンの壁に触れてみた。やはり船体用に発注されたオリハルコンらしく、けっこうな厚さがある。身体強化して殴りつけても破壊できそうにないな。もちろん魔法で破壊はできない。
部屋には電気が来ており、さらには監視カメラまで取り付けられていた。これが陸上の施設内なら電力線を使って魔力で通信することで、メーティスと会話できるのだが、海上の船舶内では電気ケーブル船内で閉じているため、メーティスと接続できない。敵もなかなかやるな。
さやかを見ると割と落ち着いている。橋本さんは不安そうな表情をしている。
さやかと念話で話をしてみる。
『敵は魔法のことに関して色々調べているらしいな』
『そうね。オリハルコンの部屋を準備したり、陸上ではなく船舶に閉じ込めたり。なかなかやるわね』
『そうだな。しかし奴らは勘違いしているな。オリハルコンで囲われても、その中でなら魔法は発動できる。こうして念話でも話しできるしな。それに、橋本さんの超能力はオリハルコンに影響を受けないしな』
橋本さんはこちらを見て頷く。彼女は魔石ネックレスを取り上げられているので、俺たちと念話で会話できない。しかし俺たちの心を読むことはできるので俺の考えは分かるようだ。
『橋本さん。この船の中にいる連中の心は読めるか?言葉に出さないで教えてくれ』
橋本さんはうなづく。敵の心が読めるようだ。
『敵の様子はどうだ? 鈴木さん一家が解放されたら奴らに連絡が入るはずだ。そんな状況になったら教えてくれ』
橋本さんは再度うなづく。
その時、壁のスピーカーから声がでる。
「やあ、のこのこ罠にはまってくれたな。その部屋の中では魔法は発動できないだろう?」
「俺たちは約束通りやってきた。鈴木さん一家を開放しろ」
「ふっ。魔法使いに協力するような奴を開放するわけがないだろう? 男は財産を全て巻き上げてから殺すし、女は美人だから本国へ連れ帰り、楽しませてもらう」
やれやれ、とんでもない下劣な教団だな。
橋本さんがささやき声で俺に声をかけてきた。
「やつらは睡眠ガスを流し込む様です」
なるほど、探知魔法で確認すると、天井の一部にガスの噴き出し口がある事が判明した。
ガス用のパイプはオリハルコン製ではなかったので、ストレージから取り出した1円玉複数枚を魔法を使ってパイプと同じ直径の球体にして、同じく魔法を使ってパイプの中に詰め込む。さらにパイプをつぶしてガスが出てこないようにしておく。
「ガスのバルブを開けました」
さて、どうしたものか。眠り込むふりをした方がいいかな? どうしようか迷っていたら橋本さんがさらに言葉を続けた。
「あ、今鈴木さん達が解放されたようです。鈴木さんを拉致していたアジトは壊滅したみたいで、奴らは動揺しています」
じゃぁもう遠慮することは無いな。俺は監視カメラを魔法で破壊する。次にストレージの中からプラスティック爆弾を取り出す。これは以前テロリストから巻き上げたものだ。起爆装置も取り出し、ドアの鍵の部分にプラスティック爆弾を貼り付ける。
中から出られないように鍵は掛かっており、ご丁寧にドアノブも取り払われていた。爆弾に起爆装置を取り付け、タイマーを10秒にセットしてドアから離れる。
そしてさやかと橋本さんも包み込む大きさの物理結界を起動させる。
ダーン。
爆発音が鳴り響き、ドアの鍵の部分は完全に破壊された。ドアを開くとメーティスとの念話が復活した。
『メーティス。鈴木さん一家の状況はどうだ?』
『公安と特殊部隊の突入により、鈴木さん達は保護されました。怪我などはなさそうです』
よし、それならもう大丈夫だ。派手にやるぞ。
デッキに出て周囲を見回すと、船は波止場を離れ東京湾を航行中の様だ。
探知魔法を使い、船内を調べる。
ふむ、敵は操舵室付近に固まっているな。
「さやかはここで橋本さんを守って待機していてくれ」
「わかった」
「橋本さん、奴らはどんな状態か分かる?」
「人質が解放され、さらに私たちを閉じ込めていた部屋のカメラは映らなくなり、その直後に爆発音が聞こえてきたのでパニックしてるわね。返り討ちが怖くて様子を見に来れないみたい」
まあ、海の上に出てしまったので自分で退路を断ってしまったようなもんだもんな。
俺は一人で操舵室に乗り込む。
操舵室に近づくと、俺の姿を見たやつらは銃を乱射してきた。俺は物理結界を張っているので、銃弾は結界が全て弾き飛ばしてくれる。
めんどくさくなってきたので、電撃魔法で操舵室の全員を気絶させる。
まああっけなかったな。
早速探知魔法で彼らの脳内の情報を探る。船長は雇われ、悪事には関与していないな。他の3人は拉致の実行部隊で、各地でターゲットの拉致を繰り返しているな。
直接殺人は行っていないみたいだが、殺されると分かっている人間を拉致して本部に送り届け、さらには拉致した女性のレイプまで何度かやっているな。
船長以外は有罪。俺は魔布を取り出すと有罪の3名を包み込み、ストレージに放り込んでおく。
ひと段落着いたので、公安の伊藤さんに電話して状況を確認してみた。
「伊藤さん、鈴木さん一家は無事ですか?」
「鈴木さん達は無事に保護できたよ。怪我とか乱暴されたとかもない。井本君の方はどうなんだ?」
「こちらも片付きましたよ。現在はクルーザーで東京湾の海上なので、台場のマリーナに戻ります」
「井本君、今回は無事だったから良かったが、勝手に行動しないでくれないかね? 井本君に何かあったら私の首が飛ぶんだけどね」
「あはは、申し訳ないです。以後気を付けます」
さーて、フランスにある教団本部の連中に挨拶に行きますか。
また新たな教団に狙われてしまいましたね。
しかし、ここまで力をつけてきている主人公に立ち向かうとは、無謀な教団ですね。




