123.エリクサー販売開始
ホームズ氏との打ち合わせ後、俺はエリクサーの試作品の製作と、製造方法の詳細仕様の作成、特許の作成に大忙しになった。
メーティスに大部分を丸投げしてしまったが、エリクサーの試作自体は現時点で世界で俺しかできないので、自分でやらなくてはならない。
ずいぶん前にたくさん作ってストレージで保管しておいたのだが、効果の確認や研究用に使いたいとのことで、大量に作る必要が出来たのだ。
以前簡易的な製造ラインを実家の庭のプレハブ小屋に作っていたが、あれから7年も経っているので、装置がまともに動くかの確認から始める必要があり、チリやほこりが絶対NGなので、徹底的な掃除も必要だった。
恒温槽や真空乾燥機もメンテナンスが必要だし、あぁめんどくさい。
俺は米国大統領の娘のスーザンを日本に呼びつけて、全部任せることにした。
スーザンは既に新会社の社員となっており、新会社の社外役員の一人の俺の命令には背くことはできないだろう。
スーザンは俺の依頼に大喜びで日本へすっ飛んできた。
役員(俺)からの命令に加え、恩人(俺)からの依頼であり、更には世界の英雄(俺)に関われるのが嬉しいらしい。
何より世界を変えると彼女が信じているエリクサーの製造に携わることができるのが光栄とのこと。
呼び寄せた直後から、朝から晩までずっと作業をしていた。
鬱陶しかったのは、米国のシークレットサービスの黒スーツの男どもが、実家敷地周辺でいつも待機していたことだ。テロに襲われた事実と、米国大統領の娘ってことで特別待遇らしいが、まあ実家には俺はほとんど寄り付かないから放っておこう。
こうして、3ヶ月後には会社設立も完了し、プレス発表となった。俺はもちろん発表には参加しない。
ホームズ氏とスーザンさんにお任せだ。
エリクサーの効果が絶大である事と、転移魔法、魔石ネックレス、ストレージ魔法、重力結界魔法による宇宙旅行など、世界を大きく変化させつつある魔法の実用化の第四弾ということで全世界の注目を浴びた。
会社設立時の役員の一人が、合衆国大統領の娘で、エリクサーの効果を自ら実証した一人である事なども話題を呼んだ。
ご丁寧にもスーザンさんは、エリクサーの効果を自身の写真を使って説明までしていた。
この日は試作のエリクサーを使い、各種効果を確認した結果も発表された。
・身体の欠損がエリクサー1回の服用で戻る事。
・脊椎損傷などを含む怪我はほぼすべて治る事
・統合失調症などの脳の病も治る事
・聴覚障害、知覚障害、その他の身体的な障害も治る事
・内臓疾患(腎不全、肝機能障害、胃潰瘍)も治る可能性が高いこと。
・先天性の身体の欠損も治る事
・怪我で死亡しても、15分以内なら蘇生する可能性がある事。
・火傷や凍傷による損傷も治る事
効果が無い事例も公開された。
・癌に関しては効果が無いこと
・細菌性、ウィルス性の病気には効果が無いこと
・アレルギーには治療効果が無いこと
・動物には効果が無いこと
・若返りの効果は無いこと
同時にハイポーションも製造・販売された。
こちらはライセンス料は1回で10ドルとした。
ハイポーションで治せるのはヒールと同じで怪我だけだが、大けがで、エリクサーを使用しないと治せないような時の応急処置の薬としても使用された。
小さなけがはヒール魔法で治せるが、大きなけがの場合複数回ヒール魔法を使わなければならないが、ハイポーションでは1回服用するだけで大抵の怪我は治った。
しかもハイポーションは身体を活性化する効果があるので、疲労時や病気での回復時に服用することで疲労回復に大きな効果が得られた。
そして、実用化に向けての声明が同時に発表された
・エリクサーやハイポーションの治験や規約に関しては、
全世界統一基準とすること。
・エリクサーの軍事利用は認めないこと。
・エリクサー服用に関しては緊急時以外は、医師が対応すること。
・製造に関しては、魔力注入が必要なため、メーティスが関与すること。
・販売と物流に関しても、メーティスが管理すること。
米国大統領の後押しもあり、エリクサー・ハイポーションの実用化に向けて、世界保健機構が全面的に管理する形となったのである。
◇◇◇
各種治験を終え、エリクサーが使用できるようになったのは1年後だった。
新薬としては異例の早さだったが、これは全世界にいる障害者や人工透析を受けている人などからの早急なる認可の強い要望があったことと、既に実用化されていたストレージに、エリクサー実用化までの間、医療目的で入る人が続出し、病院用のストレージがオーバーフローしてしまったからだった。
ストレージがいっぱいになってしまった理由は、肝硬変などのヒール魔法で治療困難な患者が危篤状態に陥った時、医者の判断でエリクサーが実用化されるまで、ストレージ内で時間を止めて症状の悪化をストップしたからで、それ以外にも大けがでヒール魔法では治療困難と判断された患者もどんどんストレージで保存されるようになった。
こうして早い時期にエリクサーが出回るようになったのだが、当然のことだがすさまじい需要が発生し、市場では最初から品薄状態となった。
製造委託された世界各国の医薬品製造会社では24時間体制で生産しているが、まったく需要に追い付いていなかった。
当然のことのように、転売屋や偽薬を売りつけようとする輩が現れたが、エリクサーは製造と流通を全てメーティスが管理把握しているため、転売屋や偽薬屋は直ぐに摘発され、警察のお世話になることになった。
それでも、販売開始から1年も経つと需要も落ち着き、需給は安定してきた。
この1年で、エリクサーの生産量は5千万本を超え、1本100ドルのライセンス料を取っているi経済研究所は、エリクサーの利益だけで1年で50億ドルとなったのである。
エリクサーの普及で、世の中も大きく変わりつつあった。
病院では外科の診療が様変わりした。今までのような手術での怪我の治療は無くなり、軽い怪我は医師によるヒール魔法での治療。大きなけがは複数回にわたるヒール魔法もしくはハイポーション、手足の切断などの大けがはエリクサーによる治療となっていた。
脳神経外科や心療内科。精神科も治療方法が大きく変わった。軽いうつ病や脳梗塞の後遺症などはハイポーションで治すことができた。
進行した認知症でもエリクサーで完全に元に戻った。不思議だったのは、認知症で失われた記憶までエリクサーで復活したことだった。
これに関しては世界各国の研究機関でも研究が開始された。
重いうつ病や精神疾患はエリクサーで完治することができた。
内科や循環器、泌尿器科などの治療内容も大きく変わった。糖尿病や肝硬変、腎機能障害、心臓疾患などもエリクサーで治療ができたので、軽い症状は今まで通りの治療で症状を抑え、深刻な状態になった場合はエリクサーで完治という流れが定着した。
エリクサーの乱用を防ぐ目的もあり、ライセンス料を高額にした影響もあり、エリクサーの市場価格はかなり高額になったが、1回だけの服用で完治するため、長期にわたる治療や投薬に比べ、エリクサーでの治療が金額的にも他の薬に比べ有利だった。
そして怪我や精神疾患、内臓疾患の治療はエリクサー・ハイポーションが中心となっていった。
◇◇◇
東京在住のB氏の場合:
彼は長年の不養生のため糖尿病を患っており、忙しくて糖尿病を放置していた影響もあり、深刻な腎不全を併発しており、3年前から人工透析を受ける羽目になってしまった。さらには網膜もダメージを受けてしまい、失明までは至らなかったが、視力が極端に衰え車の運転はできなくなり、私生活もままならない状態に陥っていた。
病気な悪化するまでは、中小企業だったが社長として頑張っていたため、資産はたっぷり保有していたが、このような健康状態では余生を楽しむことも困難で絶望の毎日を過ごしていた。
そこへエリクサー販売のニュースが飛び込んできて、B氏は治療予約開始とともに予約を入れ、運良く比較的早い時期にエリクサーによる治療を受けることができた。
失明寸前なのと、人工透析のダブルの障害が優先順位の上がった要因でもあるようだ。
治療当日、B氏は妻に付き添われてタクシーで地元の総合病院に行き、まずは事前の検査を受ける。その後、診察室でエリクサーを渡され一気に服用した。
服用した瞬間、ほとんど見えなかった目がいきなり見えるようになった。
数分の後には完全に見えるようになった。しかも、もともと極度の近視で眼鏡かコンタクトは必須だったのに、裸眼でもはっきり見える。
さらには慢性腎不全の影響で常に感じていた強い倦怠感も消え去ってしまった。
身体は活気に満ち満ちて、まるで20歳ぐらい若返ったかのようだ。
前評判は良かったので、多少期待していたのだが、ここまで効果があるとは思ってもいなかった。まるで魔法だ。エリクサー、まさに革命的な薬だ。
こうして、エリクサーとハイポーションで、人々の暮らしはまた大きく向上したのだった。
ハイポーションとエリクサーの商業化での影響は凄そうですね。




