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121.宇宙旅行

少し時期は遡る。

ヘスティアー計画がまだ進行途中だったころ、NASAの研究員によって重力結界の魔石効果について研究が進められていた。

ヘスティアー計画が失敗した場合、シェルターへの避難ではじり貧となり、数十年後には人類は滅亡するだろうと予測されたため、巨大な宇宙船もしくは宇宙ステーションを建造して、宇宙への避難も研究されたからだ。


俺も研究に協力し、魔石やその制御装置も提供していた。研究はかなり進んでいたが、魔石を使った宇宙船打ち上げが実現する前にヘスティアー計画は終了し、重力結界研究チームもいったんは解散した。


しかし、重力結界を使った宇宙船打ち上げは、化学燃料を使用したロケットと比べ圧倒的に経済的で安全であることが研究で明らかになっていたため、引き続き研究をしたい旨NASAから打診があり、俺も許可していた。


ヘスティアー計画が終了し、1年後には、重力結界を使った反重力式打ち上げシステムが概ね完成していた。

魔石による重力結界により、宇宙船の質量に関係なく地球の引力を無効とし、結果として地球の遠心力で宇宙まで勝手に上昇してくれる。


宇宙船に重力結界の魔石を搭載するのではなく、魔石を多数搭載した台座に宇宙船を載せて宇宙へ運ぶ方式だ。重力艀はしけと呼ばれた。

宇宙船の大きさが大きくなると、魔石の数も多く必要になるが、一度艀を作ってしまえば、燃料補給は不要で、何度でも繰り返し使えるのが特徴である。


反重力艀と宇宙船に関しては、転移魔法の普及で経営危機に陥りつつあった航空機メーカーに優先的に開発と事業化を割り当てることになった。

ボーイング社やエアバス社など、世界的な航空機メーカーが名乗りを上げ、宇宙船や重力艀の設計・製造を開始した。


艀はにはかなり大量の重力結界用の魔石が必要になるため、各航空機メーカーで魔石製造ラインが構築された。

i経済研究所との契約で、重力結界用の魔石は1つ辺り1000ドルのライセンス料とした。100トンクラスの積載量の艀で1000個の魔石が必要になるので、ライセンス料は莫大になる。


契約時、俺は以下の条件を設けた。


 ・宇宙船の物理的規格や安全規格は最初から国際標準規格を制定し、世界標準仕様

  とすること。


 ・兵器への使用は禁止。


 ・魔石の生産および、魔石の制御はすべてメーティスとする。


2番目と3番目の条件で、かなり抵抗があったが、これを飲まないと使用許可は出せないとし、各国はしぶしぶ条件を飲んだのである。


ヘスティアー計画で重力結界の研究を行っていたチームがそのまま事業を引き継ぎ、各メーカーも共同会社を設立して開発を加速させたこともあり、3年後には試作の艀が完成し、それに搭載する宇宙船も試作機が完成した。


試作の反重力艀は1台だが、宇宙船は3機が並行製造されていた。1機は有人宇宙船で、観測用だけでなく、観光用にも使用可能な巨大な宇宙船であり、新型のイオンエンジンとともに、魔石による燃料補給システムを搭載し惑星間航行が可能な宇宙船である。地上着陸の装備は無いので、一度打ち上げた後は二度と地上には戻ってこない仕様だ。


もう一台は地上から宇宙への連絡用の小型宇宙船で、艀で打ち上げられ、自力で戻ってくる、スペースシャトルのような形の宇宙船だ。艀には同時に数台が搭載可能。


もう一台は、転移魔法陣が描かれた魔石を直径20mで展開する、転移用の宇宙船だ。

ヘスティアー計画の予備機だったミカエル2とルシファー2がそれぞれ木星と土星の衛星軌道に乗っており、ここで展開されている転移魔石により地球近傍から一挙に木星や土星近傍に宇宙船を転移することが可能だ。

今回製造された転移用の宇宙船は、地球近傍に設置される。


打ち上げ当日。まずは転移用宇宙船の打ち上げだった。俺も見学することにした。

打ち上げはフロリダの宇宙センターから行われる。

すでに宇宙艀の設置も筏の上へ宇宙船の設置も完了しており、あとは打ち上げを待つだけとなっていた。


さやかも橋本さんも見学したいとのことだったので、一緒に行くことにした。打ち上げちょっと前に見学場に到着。ロケットの打ち上げのようにカウントダウンの表示板に数字が表示される。

5,4,3,2,1,0。

カウントダウンが終了したが、一見なんの変化もない。数秒後、艀はゆっくり上昇を始めた。


うーん、全然迫力がないぞ。そもそも”打ち上げ”って言い方は変かな?

まあ、あれだけ巨大なものがゆっくり上昇しているのはある意味面白いがな。

他の見学客も微妙な反応だった。

しばらく見ていたが1時間もするとかなり小さくなった。しかし、迫力無し。

見学者もどんどん帰って行ってしまった。


打ち上げ風景は迫力はなかったが、打ち上げは成功し、数日後に転移魔法宇宙船はラグランジュポイントまで移動しそこで待機した。今後は太陽系内の移動のためのプラットホームとして活躍する予定だ。


地球上の転移魔法陣から直接宇宙に飛べばいいんじゃないかとの意見もあろうが、実は宇宙船などを宇宙空間まで転移する場合、非常に多くのエネルギーが必要であり、現時点では転移魔法では不可能であることが判明しているのだ。


試行錯誤の結果、重力結界を使った艀で、地球の自転を利用して宇宙空間まで宇宙船を移動させるのがもっとも効率的だとの結論に達していた。


今回打ち上げに使用した宇宙艀は、翌日地球に無事帰還した。


宇宙筏は点検を実施した後、太陽系内航行用の宇宙船を搭載して、こちらも無事打ち上げに成功したとのこと。


今回の試験飛行の結果が良好だったので、宇宙旅行の一般公開を視野に入れた。

宇宙旅行事業はNASAから独立して新規会社を設立してそこで運営することとなった。


案の定、ここでも打ち合わせに駆り出された。

今回は、NASAだけでなく、航空会社各社、旅行会社、保険会社、ホテル業界など、幅広い会社が関わってきたので、めんどくさくなり、米国のコンサルティング会社とメーティスに丸投げしておいた。


結局、以下のような契約内容となった。


 ・反重力筏を使うフライトの場合、1機・1回あたり5000ドルのライセンス料を

  i経済研究所に支払う。


 ・宇宙空間で転移魔法で太陽系内を移動する場合は1回あたり5000ドルの

  ライセンス料とする。


 ・軍事には利用しない。


 ・魔法の宇宙利用に関しては、世界共通の組織を設立する。

  各国独自での規制は認めない。


最後の項目に難色を示す国や団体も多かったが、それぞれの国や団体バラバラで規則を制定すると今後の禍根を残すことは明白であり、各国独自での開発に関してはメーティスが協力しないと表明したので、反対勢力も声をひっこめるしかなかった。


国連の組織の一部として、”国際宇宙開発機関”が新規に設立され、全体の取りまとめや規則の制定を行うことになった。


今回は大企業が最初から関与していたので、i経済研究所からの出資は無し。

どうやら、魔法関連の新事業領域のすべてにi経済研究所の資本が入るのに対し、抵抗勢力があるみたいだ。まあ気持ちは分かる。


その後、有人の試験飛行も行われた。

俺は”試験飛行にぜひ参加したい”と強く希望したが、却下されてしまった。

地球での最重要人物に万が一のことがあったら責任者の首が飛ぶどころの騒ぎじゃないってことが理由らしい。


i経済研究所が融資していたら、CEOの命令ってことでごり押しもできたんだが、資本関係がなかったので結局試験飛行には乗せてもらえなかった。残念。


各種実験の結果、無重力状態が続くのは一般顧客の旅行にはかなり無理があると判明し(宇宙酔いする人が続出した)、一般旅行客用には直径50mのドーナツ型の宇宙船を使うことになった。遠心力で1G相当の疑似重力を生み出す方式で、構造が複雑になり、建設費は上がるが、老人でも子供でもほとんど訓練無しで搭乗できる。


◇◇◇


何度かテスト飛行を繰り返し、数か月後に商業宇宙旅行の営業が開始された。最初の宇宙フライトは地球の周回旅行で8時間のフライト。


今回はゴネまくったので、最初のフライトのチケットがゲットできた。1フライトで1万ドルという高額にもかかわらず、申し込みが殺到したらしい。

俺は関係者特権をフルに利用し、さやかと橋本さんの分のチケットも入手した。


フライト当日、直径50mのドーナツ型、というより自転車のタイヤのような形の宇宙船に乗り込む。すでに宇宙船は1分間に5回転の速度で回っていて、遠心力が重力の代わりになっている。

宇宙船の構造上、1G相当の遠心力を発生させても問題ないのだが、安全のため0.8G相当の遠心力としていた。

宇宙船はすでに重力艀の上で回転しており、艀では重力結界も発動されていた。乗り込む時はエレベーターサイズの搭乗用シャトルに乗り込む。


さやかはうきうきしていたが、橋本さんは青い顔をしている。

聞いてみると、飛行機にも乗ったことが無いとのことだ。

あれ?世界各国に一緒に行ってるよね。主にアメリカだけど。えっ? あ、全部転移魔法だっけ? そういえばそうか。


ということは、橋本さんは飛行機をすっ飛ばして、いきなり宇宙船に乗り込むことになったのね。まあきっと大丈夫。この宇宙船を含め、すべての宇宙船にはさやか考案の予知魔法の魔方陣を描いた魔石が搭載されており、事故を未然に予知できるのだ。


そう言って橋本さんを慰めたが、橋本さんは緊張しっぱなしだった。


俺たちは、他の乗客と共に搭乗口からシャトルに乗り込む。シャトルは艀の真下までレールで移動し、艀の中央部の宇宙船との連結口から宇宙船内部へ移動する。

宇宙船の中に入った瞬間(正確には艀の上に出た瞬間)、重力結界の働きで一時的に無重力状態になる。

シャトルはそのまま宇宙船の居住エリアに移動し、回転している宇宙船の遠心力で、疑似的に重力が戻ってくる。


うんうん、遊園地のアトラクションみたいで楽しいな。さやかもニコニコ喜んでいる。橋本さんは相変わらず顔色が真っ青だ。


シャトルを降りて、宇宙船内部に入る。完成したばかりでどこもぴかぴかだ。飛行機や今までの宇宙船と違い、あまり重量に制限は無いので、がっちりした作りになっており、色々な設備も充実している。


地上にいるときはドーナツ型の宇宙船は横倒しになった状態なので、窓からは艀の上部か、空しか見えない。シャトルが何往復かして、今回の乗客50名がそろったところで離陸する。艀を地面とつないでいたアームがアンロックされ、艀は宇宙船を乗せたまま、地球の自転の遠心力の力で徐々に上空に上がっていく。


離陸と言っても(最近では打ち上げとは言わなくなった)、宇宙船の窓からの景色は全く変わらない。地上側の窓からは艀の上部が、上側の窓からは空しか見えない。飛行機と違い、離陸時も座席でシートベルトを着ける必要はない。乗客は船内を歩き回りながら、ディスプレイに映し出される離陸の風景を眺めている。


1時間もすると、高度は2万メートルを超え、上側の窓から見える空は、空色から暗い群青色へと変化していく。成層圏を超えたみたいだな。

2時間もすると、完全に宇宙空間に出たみたいで、窓の景色は一面の星で埋め尽くされた。


3時間後、艀が切り離され、宇宙船は単独で宇宙空間に漂う状態となった。

地球側の窓からは視野いっぱいに地球を望むことができた。

宇宙船内からは歓声が上がる。船内では食事の時間となり、船内のレストラン区域では窓の外の地球や宇宙空間の星々を長めならが食事を楽しめる。


俺たちも地球を眺める窓脇のテーブルで食事をとる。

国際宇宙ステーションの様に、地球を高速で周回しているわけではなく、アメリカのフロリダ州上空で漂っている状態だ。

宇宙船にも重力結界魔石が複数設置されており、地球からの重力をある程度相殺しているため、地球への降下速度はゆっくりである。


食事はなかなか豪華でおいしかった。


「さすがに8時間で100万円もするフライトだけあって、食事もおいしいな」


「そうね。特にビーフが柔らかくて絶品ね。最高級の和牛を使用しているみたいね」


「うん、宇宙から地球を見ながらの食事は最高だな。橋本さんは少しは落ち着いた?」


橋本さんは相変わらず顔色が良くなかったが、ようやく慣れてきたみたいで、食事も少しは取れているみたいだ。


「私は、飛行機はもちろん、船もジェットコースターも乗ったことないので、いきなり宇宙船はハードルが高かったみたいです。でもやっと落ち着いてきました」


「まあ、宇宙船って言っても、回転による人工重力はあるし、空気圧も高いし、飛行機よりよっぽど快適だな。そうだ、食事後に無重力エリアに行ってみないか?」


実はドーナツ部分は回転によって遠心力による疑似重力が働いているが、宇宙船の中心部分の部屋に行けば無重力が楽しめるのだ。

無重力室まではエレベーターでも、階段でも行ける。


食事後、俺とさやかは階段で無重力室に向かう。橋本さんは断固拒否ってことで席でお留守番。

俺とさやかは階段入り口から無重力室に向かう。無重力室はドーナツ型宇宙船の中心部分にあり、階段を上るにつて、遠心力の力は弱まり、無重力室では完全にゼロになる。

無重力室は大きなアクリル製の全面が窓となっており、照明も落とされているので、まるで宇宙空間に漂っている感じだ。


太陽の光は宇宙空間では有害なので、宇宙船は太陽の方向と垂直になるような向きになっているので、窓からは太陽は見えない。乗客も何人かは無重力室に来ていたが、宇宙酔いとなる人も多く、そういう人はそそくさと無重力室を後にしていた。


こうして、8時間のフライとも終盤に入り、着陸30分前には船内アナウンスで席についてシートベルトを着用するように指示があった。


やがて宇宙船は大気圏にゆっくり突入し、重力結界の効果で地球引力を弱めつつ、ロケット噴射により位置を調整しながら、離陸した場所にゆっくり着陸した。宇宙船の回転も徐々に緩められ、着陸時には回転はストップし、ゆっくり着陸した。


なかなか楽しめたな。橋本さんはそれほど楽しめなかったみたいだけど。

しばらくはこのようなフライトだが、今後は宇宙船の数も増やし、ロケットエンジンも強力にして、月周回旅行や、木製や土星への転移魔法による観光ツアーなども計画されている。

フライト料金も徐々に下げていくらしく、誰でも宇宙旅行を楽しめる時代が来るだろう。


転移魔法による航空機の需要激減の影響で、倒産寸前だったボーイング社やエアバス社などは、宇宙船の発注が殺到し、会社設立以来の好景気に沸いていた。


同じく、転移魔法の普及による客単価の低迷で、青息吐息だった各航空路線会社も、宇宙旅行に活路を見出し、復活しつつある。地上から軌道上へは転移は不可能で、宇宙船と宇宙艀を使うしかないからだ。


これより人類は急速に宇宙へ進出していくようになる。

魔法を使ってついに人類は宇宙を観光地化してしまいましたね。

次は何を商業化するのでしょうか?

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