119.ストレージ公開 その2
会議当日、デモの為、適当な物を詰め込んだストレージの試作品を携えて、サンフランシスコのMasic-Stone社の会議室に向かう。
転移魔法陣を使うので、移動時間はほとんどないのだが、時差だけはどうしようもない。
会議が始まり、俺は早速ストレージの商用化に当たっての条件を提示した。
・ストレジの使用時はメーティスが常時管理する。
メーティスと接続できない場合は使用できない。
・年間ライセンス料は、バッククラス:100ドル、スーツケースクラスが
500ドル、トラッククラスが1000ドルとする。
・当面、兵器の格納は認めない。
・生き物を収納するための魔布も同時に提供する。
そのライセンス料は人間一人収納換算で100ドルとする。
・ストレージに人を収容するのは、病気などの非常時以外は認めない。
(時間が停まるため、未来へのタイムマシンとして使われないようにするため)
これらの条件は概ね了承された。
◇◇◇
Magic-Storage社 CEOハートマン氏の視点:
大学での同期だったレナードからの誘いで、ストレージ魔法のビジネスに関われそうで、私は大いに期待していた。この日は試作品ができたとのことで朝からワクワクしていた。AIメーティス社のベル氏とも知り合いだが、ベル氏やレナードは世界を変えている会社を運営しており、輝いて見えた。
私も世界を変える会社を立ち上げることができるかと思うと興奮していた。
井本氏との第二回目の会議で、契約内容の概略も了承され、いよいよ試作品によるデモが始まった。
まずは、バックサイズのストレージだ。
井本氏が女性が持つようなちょっと大きめのサイズのバックを取り出すと、中から次々に物を取り出す。
旅行をイメージしたとのことで、着替えやお土産品、化粧品やドライヤー、枕まで出てきた。
バック自体は着替えを2,3枚入れればいっぱいになってしまうサイズだが、容量はスーツケース一杯分なので、広めの机がバックから出したもので埋め尽くされる。
彼は最後に温かいコーヒーカップと冷たいアイスが乗ったトレイをストレージから取り出すと、我々にごちそうしてくれた。これは5時間前に入れたものだとの事。要するにストレージ内では時間が停まるとのことだ。まるで手品だ。
つまりこれからは旅行に行くのにバック一つだけで済むことになる。これは画期的だ!
次に収納も見せてもらったが、机の上いっぱいの物が、次々にバックに入っていく。やはり手品のように見える。
次がスーツケースサイズのデモだ。
井本氏は今度はA3サイズの板状のものを取り出した。折り畳まれていたその板は、展開すると4倍のサイズになり、平らなドアの様な形状になった。
大きさは高さ90cm、幅60cmぐらい。彼はそのドアを壁に立てかけると、ドアを開けて中から次々に物を出してきた。
どうやら冬山登山を想定した品物を入れてきたようで、登山道具一式、テント、大量の食糧と水、テント内用の暖房や調理器具、酸素ボンベ、寝袋、それらが数人分と思われる数で出てきて、かなり広い会議室を埋め尽くした。
つまり、今後の登山家はA3サイズで厚さ10cmぐらいの板を持って行けば、エベレスト山も登れるってことだな。
ここまでくると手品ではなく、まるで魔法だ。いや、これはガチで魔法だったな。
井本氏は取り出したそれらを再びストレージにしまい込み、会議室はまた空っぽになった。
私はそのストレージ板を持たせてもらったが、軽金属で作られているらしく、非常に軽かった。
まさに画期的だ。
最後にトラッククラスのデモも見せてもらうことになり、ビルの裏側の駐車場へ移動した。
駐車場は2つ有り、遠い方の駐車場は不人気なのでほとんど車が止まっていないため、ここでデモをすることにした。
井本氏が運んできた1m×1m程の板を、彼が展開し、2m×2mの大きさの板にする。ドアの形状をしたその板を、ビルの壁に立てかけると、ドアを開いた。
井本氏が魔布を頭からかぶって中に入ったかと思うと、フォークリフトに乗って出てきた。
フォーリフトにはパレットに積まれた荷物が乗っており、駐車場に荷物を置く。
何度かドアの中出入りし、大型トラック2台分の荷物を運び出す。
荷物はデモ用のダミーで中身は空っぽとのことだが、すごい量だ。
「これは、税関を逃れて荷物を運ぶことも簡単になるな。」
私は思わずそうつぶやいてしまったが、井本氏はこともなげにこう答えた。
「ストレージ内に搭載された貨物は全てメーティスが把握するので、逆に密輸入は難しくなりますよ。メーティスが中身を知らない場合はストレージ機能が発動されないので密輸業者は使えないでしょう。」
「なるほど、それなら商務省からクレームが来る可能性は低いな。」
「現時点では兵器や爆発物も格納することはできません」
私は事業の成功を確信した。
よし、世の中を変えてやるぜ。
◇◇◇
主人公視線:
ハートマン氏は事業の成功を確信しているようだな。
まあ、めちゃくちゃ便利な魔法だし、前世でもストレージが使える人は引っ張りだこになるほどの人気だったからな。事業としては成功するだろう。
その後、詳細な条件を詰め、魔石はMagic-Stone社が製造し、バックやドア構造はMagic-Storage社がどこかに委託して作らせ、メーティスとリンクし魔法を起動するための制御装置は、大谷先輩の会社の大谷システムズに委託することとなった。
もちろんスタートアップ時の資本金はi経済研究所が全額融資し、Magic-Storage社の未公開株式の49%の権利を得る形で合意した。
1ヶ月後にMagic-Storage社会社設立の公式アナウンスが行われ、会社のホームページがつながりにくくなるほどの注目を集めた。会社設立から2ヶ月後、各種ストレージが販売開始された。
やはりというか、販売開始直後にすべて売り切れ、予約も半年先まで埋まってしまった。ハートマン氏や新会社スタッフは、早速製造工場の増強を図り、ストレージ魔法は急速に世界に普及していった。
特にバックタイプは、マジックバックと呼ばれ、旅行者の必需品となっていた。
スーツケースサイズは、各国の郵便局や宅配業者、配送業者に飛ぶように売れた。
今までは小型トラックで配送していたが、これが有れば、バイクでの配送が可能になり、非常に効率が上がった。
こちらはマジックスーツケースと呼ばれた。
トラックサイズについては、大都市間の輸送や、国際貿易に使われるようになる。転移魔法陣を使った輸送が一般的になりつつあったが、まだ貨物専用の大型魔方陣は無く、大量の貨物の輸送にはいまだに貨物船や列車、トラックが使われていた。
ストレージにより、小型の魔方陣でも貨物輸送ができるようになり、物流コストが劇的に下がったのである。
生き物をストレージに収納可能にするための魔布は、医療関係を中心に需要があった。
ニューヨークでのある脳梗塞患者は、深夜にニューヨーク中央病院に運び込まれた。
深夜の為、専門医が居なかったため、今までなら治療開始が遅れたのだが、先日から病院内で稼働を開始したストレージ式患者待機部屋が活躍することになった。
その脳梗塞患者は救急車で運ばれてきたが、その救急車も最新式でストレージ機能搭載救急車だったのだ。
患者は魔布に包まれてストレージに収納され病院へ到着。救急車から運び出されたのち、CT撮影。
その後再度魔布に包まれて、病院内のストレージに保管され、翌日まで待機状態になった。
翌日、脳神経外科の専門医が出勤し、CTで撮影された画像で治療方針を決定。ストレージ内から患者が取り出され、手術室に運び込まれて直ぐに処置が施され、大した後遺症もなく回復したのである。
世界で最初にストレージを導入したニューヨーク中央病院では、緊急患者だけでなく、入院患者の容態急変の対応も容易になったのである。
容態が急変した患者は速やかにストレージ内に移動され、医師の時間が空いた時にゆっくり対処が可能となり、治療が間に合わないために死亡してしまう事例は急減したのだ。
ニューヨーク中央病院の成功を見た全世界の病院が、我先にとストレージの設置を行い、その後、病院や救急車にも必須の機能となったのである。
ストレージ魔法もあっという間に普及し、社会にとってなくてはならないものになりましたね。
次は何が普及するのでしょうか?




