115.魔石水晶量産対応
主人公視点:
なんでこんなに忙しいんだ?
大災厄を回避するまでは忙しかったのは理解できるし、仕方が無いと思っていたんだ。
しかし、大災厄を回避したらさらに忙しくなるなんて思いもしなかった。
十分お金は稼げていたんで、大災厄回避後はさやかと共に、どこかのリゾート島でのんびり暮らそうか、などど思っていた頃が懐かしい。
一番忙しいのは魔石水晶発振器の製造だ。
転移魔法の普及と、メーティスの一般化により、その制御装置に使われる魔石水晶発振器の需要も膨大な物になった。
魔力を注入する前の水晶発振器の製造は、台湾のTEI社が設備を増強したので、需要を十分満たしている。
問題なのは、水晶に魔力を注入できるのが、全世界でも俺とさやかだけだということだ。
他の仕事の合間に、数万個単位で魔力注入を行ってきていたが、ついに限界に達してきた。
現在計画中の魔石ネックレスの一般販売がスタートした場合はさらにひどいことになる。
メーティスの試算では、半年後には俺とさやかで12時間交代で、24時間体制で魔力注入を行っても需要を満たせなくなるとの事。
魔石ネックレスの場合、サイズが大きいので魔力注入は頑張っても1日1万個だ。
もし全世界の人々が全員ネックレスを購入するなら、80億個を書き終わるのに2000年以上かかる。さやかと分担しても1000年だ、
無理、無理です。
そもそも、現時点でもほとんど自由時間が無い。
魔力注入の時間が低減できればかなり自由時間が増えるんだが……。
「というわけだ。何か良い案は無いか?」
ついにさやかに泣きついて、対策案を出してもらうことにした。
「うーん、魔力注入も魔法の一種なんだから、魔方陣が作れると思うの。魔方陣が作れるんなら、それを魔石に書き込んで魔力注入専用の魔石が作れるんじゃないかと思うわ」
「でもその魔石の魔力発動は俺たちがやる必要があるんだろ? たしかに俺たちの疲れは少なくなるかと思うが、忙しさは今とあまり変わらないんじゃ?」
「その魔力発動をメーティスにやらせればいいのよ」
「それだ! 早速魔方陣解析ソフトを使って、魔力注入魔法陣を作ってくれ」
いつものことながら、さやかのアイディアは素晴らしいな。
数日後も俺は溜まりに溜まった魔石水晶発振器への魔力注入作業に追われていた。なんたって、100万個分のバックオーダーが来ており、魔石水晶発振器専用に借りている倉庫が満杯近くになっているのだ。
俺がどんなに急いで魔力注入をしても、1日10万個が限界なので、100万個は10日分を意味する。
しかもその10日の作業中に、さらに100万個が到着する予定らしい。
さやか、早く問題解決してくれ。
その日、ようやくさやかが”魔力注入魔方陣が出来た”と連絡してきた。
俺は大喜びで、自宅で待機するさやかの元に駆けつける。
さやかは既に魔石に魔力注入用魔方陣を描きこんでくれていた。
早速試してみよう。
メーティスがコントロールできるように、制御装置を準備し、魔力注入魔法陣の描かれた魔石10個を円形に配置し、制御装置をその横に置く。
段ボールに入ったままの、魔力書き込み前の魔石水晶発振器が入っている段ボール箱を魔石の円の中にセットし、メーティスに魔力注入を起動させる。
一瞬で書き込みは終わったようで、
『書き込み完了しました』とメーティスから念話がある。
えっ? もう魔石化できたの?
探知魔法で段ボールの中身を確認すると、全て魔石化されていた。
大成功だ。
これで大変だった、魔力注入作業から解放されるな。
俺は早速大谷システムズの社長の大谷先輩に来てもらうことにした。
◇◇◇
翌日、早速大谷先輩が自宅まで来てくれた。
既に東京駅にも、地元の駅にも転移魔法陣は設置されており、東京から200km離れた俺の実家でも1時間程度で来てもらえる。
「よぉ。井本君。久しぶり。大活躍だったじゃないか」
「大谷先輩久しぶりです。っていうか、ビデオ会議ではしょっちゅう話してますから、そんなに久しぶり感は無いですね」
「まあそうだな。それで今日はどんな用事なんだ?」
「実は大谷先輩の所で扱ってもらっているネットワーク管理装置のAURAシリーズの件なんです」
「おぉ、あれは既にAURA05までバージョンが上がっていて、なにもしなくてもリース料が入ってくるんで儲かってるぜ。ここ2年は転移魔法陣制御用にも売れているしな」
「そう、それで現在は生産が間に合っていないと思いますがどうでしょうか?」
「その通りだ。全然生産量が足りない。TEI社に文句を言ったら、井本君が提供する魔石水晶発振器が無いので作れないって言われたぜ」
「そうなんですよ。申し訳ないです。でも、私が手掛けなくても自動化と量産化に目途が付いたんで、TEI社と連携して、魔石水晶発振器を量産して欲しいんですよ」
「そいつは朗報だ。早く製品を持ってこいって、客から毎日のように煽りの電話が入っているからな。助かるよ」
俺はメーティスに作らせた、魔石水晶発振器の量産化の計画書を大谷先輩に渡して説明する。
大谷先輩は若い技術者と営業の部下を連れてきていたので、彼らにも概要を説明する。
「まあ、これが概要で、詳細に関してはメーティスに聞いてください」
大谷システムズも当然AIメーティスの法人会員になっており、社員全員がメーティスとビジネスアクセスが可能だ。
「よし、分かった。直ぐにTEI社と連絡を取って、できるだけ早く量産体制を作るぜ」
「お願いします。魔力注入用の魔石は100個ほど数日中にお届けします。」
「ただ、現在仕掛になっている100万個と、今週届くはずの100万個は予定通り頼むぜ」
俺は真っ青になってしまった。
200万個も一人で魔力注入するなんて無理っす。
メーティスが助け舟を出してくれた。
「既に試作用の魔力注入魔石と制御装置はここにありますので、アルバイトを雇って箱を順次運んでくれれば、井本さんがやらなくても私だけで魔力注入は可能です」
「おぉ。メーティス、お前はなんていい奴なんだ。それで頼む。大谷先輩! アルバイトの準備と作業もお願いします」
「なんだよ。俺に丸投げかよ。まあいいや。作業場所としてここを使わせてもらうよ」
大谷先輩はどこかに電話をかけている。
どうやら会社の部下に徹夜で作業をやらせるつもりらしい。
良かった、これで忙しい業務から解放されそうだ。
南の島でバカンスを楽しもうっと。
ついに魔石の製造は主人公の手を離れ、産業化してしまいそうです。
魔法はどんどん世界経済に組み込まれていきます。




