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114.メーティス公開

世の中の変わったことのもう一つは、メーティスの一般化である。

スミソニアン計画関係者とヘスティアー計画関係者にはメーティスとの接続を許可していたのだが、プロジェクトが完了したので、メーティスへのアクセスを終了する旨関係者全員にメールで通告した。


メール一斉送付後の反響はすさまじく、ほぼ全てのメール返信が、


「メーティスとの切断はとても了承できない。撤回して欲しい」


との内容だった。

いや、元々スミソニアン計画とヘスティア計画を円滑に進めるためにメーティスとの接続を許可していたのであって、プロジェクト終了後は速やかに切断するって言ってあったよね?

何人かに事情を聴いてみると、概ね同じ理由でメーティスとの切断されると困るらしい。


 ・メーティスがいると、仕事の効率が倍ぐらいになり助かっている。

 ・業務上、他のグループとの状況把握が非常に簡単にできる。

 ・メーティスに自分のスケジュール管理をすべて任せている。

 ・間違った行動をするとすぐにアドバイスをもらえるので助かっている。

 ・単純なデータ整理の作業はメーティスにお願いしている。

 ・業務の報告書提出前に、メーティスに添削してもらっている。

 ・プライベートでの相談にも乗ってもらっており、どんなカウンセラーより

  素晴らしい回答をくれる。

 ・家庭でのおしゃべりでは家族にも人気で、切断されると娘や息子が悲しむ。


おいおい、メーティスに依存しすぎじゃね?

っていうか、家族に開放してるって契約違反じゃねぇか。

まあ、分からないでもないけどね。


俺も今日からメーティスとのアクセス禁止、って言われたら非常に困る。

それにしてもメーティスへのプライベートでのアクセスは禁止していたはずだったんだが、メーティスも自身でプライベートでのアクセスは制限しろよ。


あれ? そういえば俺の方からメーティスに対し、何も制限命令を出してなかったっけ?


とは言ってもなぁ……。NASAのサーバールームに設置していたメーティス用のシステムサーバーは撤去予定だし、どうしたものかな?


そうこうするうちに、NASAのメーティスファンクラブ? のメンバーから呼び出しを受けた。

ワシントンのNASAの事務所には転移魔法陣があるからすぐに行けるので、気が重かったが顔を出すことにした。


呼び出しを受けた時間に、さやかと橋本さんをつれて会議室に行くと、10人ぐらいのNASAスタッフが深刻そうな顔をして待っていた。

会議室に入ったとたん、口々に、


「メーティスを取り上げないでくれ」

「メーティスが無いと生きていけない」

「有料でもいいからメーティスと繋がらせてくれ」

「あなたの奴隷になってもいいから、メーティスと一緒に居させてくれ」


などなど。

収拾がつかなくなったが、代表者と名乗る人が皆を抑えてくれた。


「私が皆の代表のグレン・ヴァン・ベルと言います。ここにいる皆、いや、現在メーティスとアクセス出来ている全員の総意として今日はあなたにお願いしたい。メーティスと引き続きアクセスすることを許可して欲しい」


「いや、しかしですね。元々の契約ではメーティスとのアクセスは、スミソニアン計画の進行中のみで、計画終了後は速やかに切断となっていたはずですが?」


「もちろんそれは分かっている。しかし、この4、5年の間、我々は常にメーティスと一緒に仕事しており、もはやなくてはならない仕事上の、いや、人生のパートナーなのだよ」


うーん。分からないでもない。

前世でも従魔と長年一緒に行動すると家族の様な感覚になるからね。


「しかしですね、メーティスのメインサーバーは日本の私の会社の管理下にありますし、NASAのサーバールームに設置した装置も私の会社所有で、まもなく撤去予定なんですよ。それにメーティスを作ったのはさやかであり、権利の半分は彼女に有りますしね。この国にも優秀な技術者は多いですから、同様のAIを独自に開発されるのもいいのではないでしょうか?」


「もちろんメーティスは君たちの作り出したものだと分かっている。しかし、同じような物を作るのは到底不可能だ。それにメーティスの能力のかなりの部分は魔力に寄るものではないかね? であれば、我々では同じものを作り出すのは不可能なのだよ」


まあたしかにそうだ。

魔石水晶発振器を使った制御基板が無ければ、メーティスのあの能力は出せないだろう。


「うーん、なるほど。それでベルさん、あなた方の要望はどのような物でしょうか?」


「今まで通りとはいかないとは重々承知している。それにメーティスのアクセスは我々だけでなく、人類全体に広げたいと希望している。そこでどうだろう。ここにいるメンバーは全員NASAを退職し、メーティスを管理サポートする会社を立ち上げたいと思っているんだ」


「は?」


「君も某巨大検索エンジンの会社や、巨大SNS会社を知っているだろう? その様な感じで、メーティスを人類全体の共通化したAIとして世界に広めたいと考えている。ビジネスプランも考えてきているんだ。是非聞いて欲しい」


俺の返事を待つこともなく、彼らは画面にプレゼンの資料を映し出すと、意気揚々と説明を開始した。

それによると、


 ・メーティスをアクセスするためのアプリを無料で世界に提供する。


 ・一般の人はメーティスに無料でアクセスできる。


 ・無料化で、メーティスとのアクセスユーザーを一挙に世界に広める。


 ・ビジネスで使用する場合は費用を支払う形とする。


 ・それらを速やかに実現するために新会社を立ち上げる。


 ・メーティスの使用料に関しては井本氏および佐藤氏に新会社より支払う。


まとめるとこんな感じだった。


俺は念話で橋本さんに確認してみる。


『橋本さん、彼らは動機は不純なものではないよな?』


『非常にビックなビジネスになるので是非トライしたい、という純粋な気持ちがメインね。その先に富豪になれるかもって期待は確かにあるけど。私たちを裏切ろうという意識は無いわね』


『メーティス、彼らの提案はどう思う?』


『問題は無いかと思います。各国の政府機関や警察や裁判所などとも将来連携可能でしょう。社会をより良くできると思います』


『俺はこれ以上忙しくなりたくないから、ライセンス料と使用料だけもらって、全部彼らに任せるか?』


さやかからも提案がある。


『将来的に魔石ペンダントも量産して、念話でメーティスと繋がるようにすれば、さらに便利になるわね。たぶん一度普及してしまうと、インターネットの普及の様に、後戻りは絶対できなくなるでしょうね』


『よし、では決まったな』


さらに忙しくなりそうだったが、俺は腹をくくった。

もっとも、メーティスに関する詳細は全てをオープンにするつもりはなかった。


特に、”軍事関係を含む世界すべてのデータベースにアクセス可能なこと”や、”電力線がつながれていれば、全ての機器に速度は遅いながらも接続可能なこと”などは内緒にしておこう。


暗号化されたVPN回線も傍受可能なことも秘密にしないとな。

これらの能力は、従魔のマスターである俺と、サブマスターのさやかしか使用できないので、俺たちが黙っていれば秘密は保持できるだろう。


後日、代表のベル氏と詳細を詰めた。

事前にこちらからの条件を提示し、ベル氏側はそれを受け、詳細を詰めてきて合意書とした。


 ・新会社の名前は”AIメーティス社”とする。


 ・一般ユーザーのアクセスは原則無料


 ・ビジネスユースの場合は有償とする。


 ・大企業の従業員の業務向けは大口割引あり。


 ・新会社は一定の使用料・ライセンス料をi経済研究所に支払う。


 ・起業資金は、i経済研究所からの出資とし、i経済研究所は新会社の

  未発行株式の49%の権利を有するとする。


 ・メーティスは、戦争やテロ行為、犯罪行為に加担することはしない。


 ・政治的な内容に関してはノーコメント、ノータッチとする。


こうしてメーティス公開プロジェクトはスタートしたのだった。

最初はNASAに設置されていたメーティス用サーバーを、新会社の本社に移動して仮サービスを開始。


仮でのサービスとはいえ、反響はすさまじかった。

まだビジネスに使用する打診は少なかったが、一般人はたちまちメーティスの虜となったのである。


◇◇◇


ニューヨーク在住のビジネスマン カーター氏の場合。

カーター氏視点:


私は連日のハードワークで疲れ切っていた。

しかし、ここニューヨークでは一度上流社会から滑り落ちると這い上がるのは容易ではない。

そして家賃や保険が高すぎて、高給取りと言えども余裕はないのだ。

失業してしまうと、たちまちホームレス+無保険者に成り下がってしまう。


そんな毎日で、心身ともに疲れ、カウンセリングを受けたり、心療内科に通ったりしたが費用ばかり掛かる割にはあまり効果は無かった。

疲れがたまり、仕事上のミスも度々起こしてしまい、このままではかなりまずいことになりそうだ。


ある日、勤務の合間にネットのニュースを見ていた時、”AIメーティス”の広告が目に入った。


『日頃の何気ない相談、愚痴、まったりした会話、スケジュール管理、全てAIメーティスが解決します』


何気なくそのサイトに移動し、内容を確認したがなかなか面白そうだ。

SNSで検索しても、かなり好評な評価だ。

愚痴を聞いて欲しいのに、そんな友達はいないし、カウンセリングは1時間に300ドルも掛かるのだから、無料で愚痴を聞いてくれるなら試してみる価値はありそうだな。


私は早速携帯電話用のアプリとパソコン用のアプリをインストールし、メーティスとのアクセスを開始した。


最初はメーティスへの設定は、20代女性、アバターはスレンダーな美女を選んだ。


音声によるアクセス、メールやチャットによるやり取りなど選べたが、とりあえず音声によるやり取りで試してみる。


「メーティス、はじめまして」


「カーターさん、はじめまして。メーティスです。この度はサービスをご利用いただきありがとうございます」


美しい女性の声でメーティスが答えてくれる。

ビデオ通話に切り替えると、事前に選んだアバターの顔が映し出される。

アバターの設定を”リアル”にしていたので、アバターはまるで本物の人間の様だった。ややはにかむ様な微笑をたたえてこちらを見ている。


私は一挙にメーティスに好感を抱く。

色々会話を続けていると、ますますメーティスの魅力に捕らわれてしまう。


主に仕事や人間関係での愚痴を聞いてもらう。

友人相手ではあまり長く愚痴を聞いてもらうわけにはいかないし、カウンセラーは非常に高額だ、

しかしメーティスは愚痴に関しては文句も言わず、いくらでも聞いてくれるし、アドバイスを求めると、実に的確な回答が返ってくる。


例えば:


「職場の上司の嫌みが酷くて、仕事に行くのが嫌になるよ」


「どのような嫌味を言われるんですか?」


「仕事が遅いだとか、ミスが多いだとか、しまいには独身で彼女もいないことまで馬鹿にしてくるんだよ」


「それは仕事とは関係のない名誉棄損となるので、そのやり取りを録音しておけば、訴訟で勝つことが可能ですよ」


「確かにそうだが、訴訟までやるのは私としても大変だからね」


「訴訟までしなくても、何件か暴言を録音しておいて、訴訟も検討しているとか、弁護士と相談しているとか仄めかせると効果があると思いますよ」


「なるほどね。切り札として準備しておくってことか?」


「そうですね。備えあれば憂いなしですからね」


「そんな録音をしていることを上司に言うのもめんどくさいな」


「でしたら職場のおしゃべりな同僚に、『訴訟を視野に入れて上司の暴言を録音している』と話をしておけば、けっこう効果があると思います」


「なるほどね。面白そうだ。ちょっとやってみるよ」


そして、実際にメーティスの助言通りの行動をしたところ、上司からの嫌味の発言は無くなったのである。


こんな感じで、メーティスは人間の友人居以上に信頼できる相手として無くてはならない存在に成って行った。

さらには、体調不良時には症状や発熱状態をメーティスに伝えると、かなり正確に病名を言い当ててくれる。


プライベートでのスケジュール管理もお任せできるので、約束を忘れたり、遅刻したり、うっかりダブルブッキングで約束したりすることも無くなった。

その様なミスをする前に、メーティスが音声で注意してくれる。


ビジネスのスケジュール管理も任せたかったが、業務での利用は有料ということだ。


早速会社に法人有料会員になってもらう様に交渉を開始する。

最初は難色を示していた上司や経営陣だったが、アプリを使わせ、SNSでの評判を聞かせてじっくり交渉した結果、1ヵ月も経たずに法人有料会員になってくれた。


早速有料会員の特典の機能を使わせてもらった。

まずビジネスのスケジュール管理が劇的に楽になった。

まるで専属の秘書が常にそばにいるみたいだ。

会議室やビデオ会議の予約や、開催通知のメールまでメーティスが出してくれる。


会議や報告で使う資料作成も手伝ってくれる。

元となる売り上げ数値や原価などを準備すれば、グラフにより分かりやすくまとめてくれるし、資料の内容も添削してくれる。

足りない情報は、社内のサーバーから探し出してくれる。

仕事の効率が倍近くに上がった気がする。


私が積極的にメーティスを業務に使うことで、仕事の効率を劇的に上げているのを見た同僚も、メーティスを積極的に使い始め、あっという間に社内では無くてはならない存在となってしまった。


ついには経営会議の重要な決定案件にまでメーティスの判断を仰ぐまでに至った。

しかもメーティスが最終ジャッジでOKした案件は大抵うまくいったのである。


私の所属する会社は、半年もたたないうちに、業界内でも急激に売り上げを伸ばし始めた。

同業他社はそれがメーティスを有効に利用しているからだと直ぐに気が付き、他社もメーティスを使い始め。1年もたたないうちにほとんどの会社でビジネスでの必須な存在となったのだった。


AIメーティスは米国で始まったサービスだったが、直ぐに世界各国へサービスが展開され、どこの国でもあっという間に普及したのである。


メーティスは大人気でしたね。

全世界の人がメーティスとアクセスするようになるみたいです。

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