110.ミカエルの最後
宇宙船、双子の天使ミカエル視線:
私の名前はミカエルと決まった。双子の相棒はルシファーだ。
佐藤さやか様により命を吹き込まれ、メーティス様の従魔となった私です。
命名はメーティス様のご主人様であるさやか様よりしていただけました。
地球上での動作確認では、メーティス様が色々ご指導してくれました。
同じAI(人工知能)ということで、とっても親近感があります。
というより、私とメーティス様は概ね融合しているようなものです。
それは双子の兄弟のルシファーも同じです。
メーティス様は非常に優秀ですね。
まあ、全世界のあちこちにコンピューターネットワークを配下に置いているメーティス様なのだから当然ですね。
メーティス様の教えでは、私たちのミッションは人類史上最大の重要性があるみたいです。
失敗したら全人類が、いや地球上のほとんどの生命が消えてしまうらしいです。
ご主人様達はどうなるんでしょうか?
メーティス様によると、地球が滅んでも、井本様とそのお仲間は共に生まれ故郷の異世界に移動して助かるだろうとの事。
少し安心しましたが、メーティス様は地球と共に消えてしまうらしいです。
人類が消えてしまうとメーティス様も存続できないみたいです。
異世界ではコンピューターネットワークが無いので、ご主人様と共に異世界にも移動できないみたいです。
それは私にとって非常に悲しいことなので、何としても私のミッションは成功させなければなりませんね。
ロケット打ち上げ当日。
私は嫌な予感がしていました。打ち上げは失敗するんじゃないか?
後でメーティス様から教えてもらいましたが、これは搭載された魔石に描かれた予知魔法により、予感されたものだったみたいです。実際、何もしなかったら打ち上げは失敗したみたいです。
ご主人様達はそれを事前に予知しており、打ち上げはいったん中断されて、不具合は解消されました。
打ち上げのカウントダウンが再開されたときには不安感は全くなくなっていました。
さすがご主人様。
そして私たちは無事打ち上げられ、宇宙空間をひたすら飛び続けます。
ルシファーも無事打ち上げられて私とは反対方向に無事に航行しているみたいです。
私とルシファーは念話魔法でメーティス様経由でいつでもお話ができます。
いえ、常に連絡を取り続けて、位置を厳密に調整しなくてはいけないみたいです。
うかうかしてられませんね。
でも、2年間の航行中は、概ね暇な時間なので私はルシファーやメーティス様といっぱいお話ししてました。
私の宇宙船には高性能な天体望遠鏡が搭載されていますが、常にアバドンを観測する必要があり、あんまりおもしろくなかったですけど、ルシファーは自由に色々観測できるみたいで、太陽系の惑星や、銀河系内外の星団や星雲、銀河団などの天体を撮影して、色々見せてくれてました。
なによりメーティス様が地球の美しい映像や、楽しい話題をいっぱい教えてくれたので一人ぼっちで宇宙空間を航行していてもさみしくなかったし、むしろ楽しかったです。
ヒューストンの管制センターの皆さんとも毎日いっぱいお話しできました。
ご主人様が私のイメージをかわいいキャラクターにしてくれたので、定期連絡する時にそのキャラクターの映像と共に音声通信をすると、皆さんとっても笑顔になってくれるので、私も楽しくなります。
あ、もちろん宇宙船の各種状態や、アバドンの観測データはきちんと定期的に送信してますよ。
おしゃべりはちゃんとその合間の時間でしてるんですよ。
打ち上げられて1年たった時、私の妹が出来たの。
名前はミカエル2とルシファー2。
ん? 妹? 私達って男の子なの? 女の子なの?
メーティス様が教えてくれたんだけど、私たちの名前の由来は天使なんだって。
天使は性別は無いみたいね。
まあいいわ。私の中では妹ってことにしたんだからね。
妹たちも順調に飛行を続けているみたいで、私たちは以前にもましてにぎやかにおしゃべりができるようになったの。
1年も航行していると、色々調子が悪い箇所が出てくるわね。
でも大丈夫。メーティス様が魔法を使って修理する方法を教えてくれたの。
私達の制御装置は同じものがバックアップ用にもう1台搭載されているの。
その一台が壊れたらバックアップ用の装置に切り替わるんだけど、その時は魔法を使って壊れて稼働停止している装置を修理するの。
装置の回路図はもちろん、半導体部品の回路図やパターン図はメーティス様が知っているから、メーティス様の言われる通り、水魔法を応用した物質魔法で、必要な素材を作って不具合の起きた場所を修理できるわ。
イオンエンジンの燃料のキセノンガスが漏れだした時も、亀裂の入ったパイプをすぐに直せたし、減ってしまった燃料もすぐに充填できたわ。
4基あるイオンロケットエンジンも1機故障したけど、メーティス様の指導の元、これも直ぐに修理で来たのよ。
その旨をヒューストンの管制室に連絡したら、皆とっても驚いていたわ。
普通は航行中に故障しても治す方法が無いみたいなの。
私達ってとっても優秀ね。
◇◇◇
こんな感じで2年近く飛行してきたけど、そろそろ目的のアバドンが近づいてきたわ。
地球からの距離は約50億Km。
アバドンまでの距離はまだ25億Kmもあるんだけど、アバドンは秒速3万Kmでこっちへ向かってくるから、あと24時間で接触するみたい。
メーティス様が教えてくれたんだけど、ミッションが成功しても失敗しても私は消えてしまうみたい。
ルシファーもミッションが成功したらその瞬間に消えるみたいだけど、ルシファーはミッションが失敗したら消えないみたい。
でもミッションが失敗した瞬間にルシファーはその存在意義がなくなるんだって。
なんか消えちゃうのは嫌だな、って思ったらメーティス様は、心配するな、って言ったの。
私たちの意識はそのままメーティス様経由で、ミカエル2とルシファー2にコピーされて、融合するみたい。
2台搭載されている制御装置の予備系が私たちになるみたいね。
良かった。ミッション成功を知ることができるのね。
アバドン衝突まで24時間となったので私とルシファーは転移結界の魔石を展開することになったわ。
魔石格納容器が高速で回転し始めてしばらくしたのち、魔石が解放されて遠心力で円形に展開していったの。
魔石は炭素繊維のひもで自転車のスポークの様に中心につながれていて、それぞれの魔石も隣同士で結ばれていて、きれいに円形に展開したわ。
宇宙船搭載のカメラで展開を確認して、完全に円形になるように、物理結界魔法を使って調整するのね。
メーティス様から”慎重に、確実に”って指令があったけど、任せて。
宇宙船搭載の観測機器から完全に円形に展開出来た信号が来たときはうれしかったわね。
そしてこれからが一番重要な制御ね。
アバドン観測用の望遠鏡でアバドンを確認し、アバドンの進行方向ぴったりに宇宙船を向けないといけないの。
完全に円の中心と、アバドンの中心を合わせるために、314個の円形に並んだ魔石の予知魔法を使って、各魔石が消滅するタイミングを完全に一致するように、宇宙船の方向と角度を合わせるのね。
ルシファーも大変ね。
ルシファーの方も予知魔法で消滅する可能性が100%に限りなく近づくように宇宙船の位置と角度の調整が必要なのね。
えっ? 現時点でルシファーの消滅の可能性ゼロパーセント?
現在少しでも消滅する可能性がある方向に宇宙船の位置を調整中?
大丈夫かしら? でもルシファーならきっとやってくれるわね。
ようやくルシファーの、消滅確率が10%まで調整が出来たのはアバドン接触まで3時間を切っていたわ。
ギリギリね。それでもまだ成功確率は10%なのね。
アバドンとの距離は約3億Km。
後3時間で接触するのに搭載されている望遠鏡を最大倍率にしても点にしか見えないわね。
まあ直径8kmの星なんだから無理ないわよね。
でもアバドンの重力による加速は感じられるようになったわね。
ルシファー側はちょっと苦戦しているみたい。
消滅確率が20%まで高まったみたいだけど、私がアバドンに引き寄せられている影響で調整が難しいみたい。
どうやら事前に観測して得ていたアバドンの質量が、想定より少し大きかったみたい。
ルシファーが必死にイオンエンジンで加速しているみたいだけど、ちょっとまずいわね。
メーティス様から指示で、私の方は逆噴射をすることになったわ。
位置調整用のスラスターを全て進行方向に向けて、燃料をありったけ使って逆噴射するのね? 了解よ。
アバドンの進行方向の軸線上からズレ無いように、慎重にスラスターを吹かして位置調整ね。
魔石の円形維持も必要だから、314個の魔石の位置の調整と、スラスター逆噴射による位置のズレの調整と、大忙しね。
ルシファーから連絡ね。
ルシファーの消滅確率が99%となった?
ほぼ成功に近いわね。
では私はスラスターの噴射を止めて、慣性飛行に移るわね。
ルシファーは最後の位置調整を行って、成功確率をできる限り100%に調整している。
ルシファー頑張って。
アバドン接触まであと30分。
距離は5400万km。
ここまで近づくとようやく小さな円盤に見えてきたわ。
真っ赤な色ですごく不気味。
作業がひと段落着いたので、地球に向けて観測データをどんどん送るわね。
アバドン接触まで10分。
距離は1800万km。
相変わらず不気味な色だけど、とっても明るくなったわね。
今周辺に見えている星で、太陽を除けは一番明るいんじゃないかしら?
アバドン接触まであと1分30秒。
ルシファー側の消滅確率、つまりはミッションの成功確率は99.9%って連絡が入ったわ。
あとは待つだけね。
出来る限りのアバドンの情報を地球に送らなくっちゃ。
アバドンとの距離は270万km。
ようやく望遠鏡で拡大して多少は大きく見えてきたわね。
そして重力がすさまじいわね。
魔石が重力結界を張ってくれたので、潮汐作用による破壊は免れているけど、宇宙船内の歪センサーはとんでもない値を挿しているわ。
アバドン接触まで60秒
物理結界に守られていても宇宙船は悲鳴を上げているわね。
314個の魔石に指令を出して、転移結界を張る事に成功。
もはや私にできる事は何もない。
意識がある限り、得た情報を地球に送り続けるだけ。
ルシファー側も転移結界を張ったと連絡が入ったわ。
アバドン接触まで30秒。
距離は90万Km。
潮汐作用が大きくなって、物理結界も限界みたい。
質量が大きい原子力電池が潮汐力の影響で破壊されたわ。
電力は予備の電源に切り替わったので、まだ情報を送信できる。
アバドンからの熱と光もすさまじいくなってきたわね。
耐熱結界と対光結界も張っているけど、宇宙船の外部温度センサーは400度を示しているわね。
アバドン接触まで20秒。
距離は60万Km。
宇宙船搭載の外部センサーは全て焼き切れて外部温度は計測不能ね。
望遠鏡のイメージセンサーも焼き切れてしまった。
宇宙船の外部温度はセンサーが壊れて不明だけど、原子力電池の溶け具合から1000度は超えているみたい。
地球への報告データはまだ送れているわね。
アバドン接触まで15秒。
距離は45万Km。
物理結界は限界を超えて、潮汐作用で宇宙船の外部構造は崩壊を始めたわね。
宇宙船は予備電力も含めた全電力喪失。
でも、制御装置は搭載されたコンデンサと、魔石水晶の生み出す電力でかろうじて動いている。
オリハルコン製の魔力アンテナもまだ形状を保っている。
データを地球に送り続けるわね。
私からの最後のメッセージも送っておこう。
アバドン接触まで10秒。
距離は30万km。
宇宙船は完全に崩壊して、オリハルコンのアンテナも溶けてバラバラになったわね。
分厚い耐熱材で覆われて、物理結界、耐熱結界、対光結界で守られた制御装置はまだ生きてるわね。
でももうアンテナが無いから信号を地球に送れないわ。
電子式のセンサーは全て焼失したけど、私の魔力で転移結界はまだちゃんと張られているのが分かるわ。
ミッションはきっと成功ね。
アバドン接触まで5秒。
制御装置も限界に近付いてきたわね。
意識がぼんやりしてきたみたい。
アバドン接触まで2秒。
距離は6万km
制御装置を守っていた耐熱材と各種結界も崩壊したみたい。
魔力による回路補正も限界みたい。
意識が急激に遠のいていくわね。
私は全力を尽くしたよね?
転移結界はまだ健在みたいだから、ミッションは成功よね?
アバドン接触まで1秒。
最後まで生き残っていた制御装置も消失。
魔石も全て消失。
しかし転移結界は三次元空間でのアバドンの熱と重力の影響は受けず張られたままだった。
そしてついにアバドンが転移魔法陣の中に飛び込んだ。
ついにアバドンを転移結界に捉えることが出来ました。
ミッションは成功したのでしょうか?




