102.True-Dark教団殲滅作戦
米国の動きは素早かった。
ヘスティア―計画が人類を、そして地球を救う唯一の方法なのだから敵対する者は徹底的に排除する必要があるのだから当然だ。
殲滅作戦の準備はすぐに整い、2日後には殲滅部隊がボストン郊外のTrue-Dark教団本部を取り囲んでいた。
前回の功績もあり、攻撃部隊の隊長から、俺にも参加して欲しい、と依頼された。
そこで俺もさやかと橋本さんを連れて参加することにした。
といっても安全のため最前線ではなく、かなり後方の装甲車の中で様子をうかがうことになった。
今回もドローンが貸し出されたのでそれで周囲を確認しながら装甲車内で待つ。
今回はピッピも日本から連れてきて自由に飛ばしている。
『橋本さん、教団関係者は中に何人ぐらいいるかわかる?』
『うーん、100人ぐらいは居ると思うけど、10人以上になると心の声が雑音の様になっちゃうのでよくわからないのよね。探知魔法じゃわからないの?』
『うん、魔法も万能じゃないからね。数百メートル離れていると詳細な探知は難しいんだ』
『メーティス。中の状況は分かるか?』
『情報がかなり漏れているようです。私の存在も知られているようです。外部からのネット接続は完全に切られていますし、電力線も切られていて自家発電で電力は賄っているようです』
『教団本部は地下がシェルターになっているらしいからな。自家発電ぐらいはあるだろうな』
そうこうしているうちに教団本部攻撃作戦が始まったらしい。
最初は拡声器を使って投降を呼びかける事から始まった。
「君たちは包囲されている。手を挙げて投降するなら攻撃はしない。投降する者は30分以内に出てくるように」
しばらくすると、本部建物の中で騒ぎが始まり、20人ほどの人が建物から手を挙げて出てきた。
しかし、その後は何度呼びかけを行っても誰も出てこない。
俺たちは投降者に会わせてもらい、橋本さんの超能力と、俺の探知魔法で何人かから情報を入手した。
もちろん味方兵士も投降者全員から事情を聴きだしていた。
情報をまとめると、教団本部には相当数の武器弾薬があることが判明した。
しかも教団本部は一種の要塞の様になっており、かなり攻撃が難しそうだ。
攻撃部隊の上層部は司令部となっている装甲トラックの中で攻略方法を検討していたが、30分後に攻撃を開始すると決定した。
俺たちは指示された装甲車の中に再度入り、状況を見守った。
そういえば、前世では何度も戦争に駆り出されたが、この世界での本格的な戦闘を間近で見るのは初めてだな。
前世の戦争では、魔法で先制攻撃を行い、その後は白兵戦となることが多かったが、こちらの世界ではどうなんだろう?
俺はてっきり正面から突入すると思っていたが、軍用の迷彩を施した特殊な形をした車が現れ、ガスマスクと防護服に身を包んだ数人が車から降りてきて、ホースを敷地内のどこかに接続していた。
30分ほど放置した後、ガスマスクをつけた兵士が正面から突入していった。
兵士がヘルメットに着けていたカメラの映像で確認すると、シェルター内では信者らしき人が多数倒れていた。
兵士は次々に倒れていた人を運び出す。
結局戦闘らしい戦闘もないままシェルターは軍によって占領されていった。
画面を見ていた兵士が説明してくれた。
睡眠ガスを空気取り入れ口から送り込み、シェルター内の人をすべて昏睡させたとのこと。
シェルター建設した会社から建物の図面が入手出来ていたのでこの作戦ができたみたいだ。
いや、たしかに強固な地下シェルターで武装した敵を攻略するには有効な手段だが、想像していたのと違うな。
もしも前世の軍隊と21世紀の米軍が戦争したらどうなるだろう?
魔法での攻撃できる範囲はせいぜい20mだし、俺クラスの大魔法使いでも100mが限界だ。
魔法による物理結界による防御が米軍の爆弾やミサイルにどこまで有効かは分からないが、突破されなくても衝撃波で結界ともども吹き飛ばされそうだ。
魔法を使える前世の人間と、使えない地球の人間での武器を持たず1対1で戦うなら、前世の人間が圧倒的に有利だが、21世紀の武器を持った軍隊に対し、前世の軍隊では敵わないだろうな。
そんな事を考えていると橋本さんが何かに気が付いたようだ。
「教団本部の地下に通路があるみたいで、何人かがそこを使って地下を東に向かって移動しているみたい。しかもそのうちの一人は……」
そこまで言ったところで突然橋本さんが白目をむいて倒れてしまった。
慌てて駆け寄って身体を揺すってみるが気を失っており、目を覚ます気配が無い。
俺は装甲車の中の連絡員に、教団地下に東に向かってトンネルがあり、誰かが逃げ出そうとしている旨を伝えると共に、配下にあるドローンとピッピを東に向かわせる。
しかし東側には林が広がっており、橋本さんが倒れてしまったいま、逃げた敵を見つけ出すのは困難だった。
1時間ぐらい探したが、逃げた敵は見つけ出せなかった。
◇◇◇
橋本さんは病院へ運ばれ点滴を打たれた。
ハイポーションを口からスポイトで飲ませてみたが、意識は戻らなかった。
俺は橋本さんの額に手を当てて探知魔法を使ったが、支離滅裂な記憶の断片しか探知できない。
これはまずい、この状態なのは脳に重大なダメージが生じていること意味する。
この場合はハイポーションでは無理だ。
俺は迷わずエリクサーを取り出すと、それをスポイトで橋本さんに強引に飲ませる。
間に合うか? 頼む間に合ってくれ。
脳へのダメージもエリクサーは有効なのだが、ダメージを受けてから時間を経ってしまうと効果が出ないとの文献を以前読んだことがあった。
エリクサーの効果が現れ、しばらくして橋本さんがようやく目を開けた。
「橋本さん、大丈夫?」
「あれ? 私どうしたの?」
「教団関係者が地下通路で逃げ出そうとしている、って話をしたところで、急に意識を失ったんだよ。覚えてる?」
橋本さんはしばらく額に手を当てていたが、やがて顔を上げて話始めた。
「思い出した。地下道を逃げていく教団のメンバーの心を詳しく読み取ろうとしたら、いきなり強い思念の様な物を浴びせられたの。逃げていたのは3人で、その内の一人だったわ」
「思念の様な物?」
「そう。その思念を浴びせられた瞬間に意識を失ったわ。そいつは男性で、教祖だと思う」
「俺たちが使う魔法ではないんだな?」
「うん。たぶん教祖は私と同じ超能力者だと思う。それも私より数倍も強い能力の持ち主ね」
「そう思う根拠は?」
「気絶する前の一瞬だったけど、教祖の心が読み取れたの。彼は人の心を読めるだけではなく、操ることもできるみたいね。でもそこまで読んだところで、心を読まれていることに気が付いた彼は、私の心を破壊する思念を送ってきたって訳」
「なるほど。確かにエリクサーを飲ませる前の橋本さんの心の中はめちゃくちゃで、脳に深刻なダメージを受けているように感じた。エリクサーが効いて橋本さんが戻ってきてくれて本当に良かった」
それにしても、あの距離から特定の人物の脳を破壊できるってすごい能力だ。
ある意味俺たちの魔法よりすごい。
俺たちの魔法は、念話と転移魔法以外は見通し距離、しかも通常なら数十メートしか攻撃効果の範囲は無いからな。
何らかの対策は必要だな。
「教祖はなぜヘスティアー計画をつぶそうとするんだ?」
「教祖は予言で、”地球は滅びる、しかし私についてくれば救済される”、って説いていて、地下シェルターで本当に助かると信じているみたいね」
「つまり自分の終末予言を実現するためにヘスティア―計画をつぶそうとしている訳か?」
「そうね」
だとしたらとんでもない奴だな。
しかもボストン郊外っていう、中途半端な位置に中途半端なシェルターを作ったって助かるわけないよな。
『メーティス、仮にこのシェルターが破壊されなかったとして、大災厄を生き延びる可能性はあるのか?』
『このシェルターを建設した会社のサーバーに侵入できました。そこから見取り図が入手できました。大災厄後の最初の夏ではこの場所の気温は150℃に達する見込みです。シェルター内の空調設備は一般的なもので、特に冷房能力は低いので、最初の夏を生き延びるのは不可能でしょう』
「橋本さん、彼は人の心を読み取るとか破壊する以外に能力はあるのか?」
「少ししか心を読めなかったから確実ではないけど、人の心を自由に操ることはできるみたい。それ以外の能力、例えば予知能力とは無いみたい」
「そうか、それで教祖の現在の位置は探知できるか?」
「うーん、分からない。あれだけの強い思念だと、相当離れていても気が付くと思うんだけど、気配は感じないわ。もしかすると、私のような超能力者がいつか現れることを想定して、自分の思念を外部に漏らさないような訓練をしていたのかもしれない」
いろいろ厄介な相手だな。
もし俺やさやかが奴に補足された場合、心を勝手に読み込まれるし、心を支配される可能性もある。最悪橋本さんみたいに脳を破壊される可能性もあるな。
早急に対策しないと。
俺はさやかと橋本さん、そしてメーティスも交えて対策を色々練ることにした。
True-Dark教団の教祖は超能力者のようですね。
はたして、主人公は彼をやっつけることができるでしょうか?




