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100.オリハルコン

どうやって50億kmもの遠距離まで念話を到達させることができるのか?

何もしない状態では10万Kmが限界だ。地球上ならそれで十分だが、宇宙空間では距離が短すぎる。

俺は今回の試験衛星の関係で親しくなったコニーという名のNASAの技術者に相談してみた。


「コニー、魔力によって試験衛星と通信するんだけど、距離は10万kmが限界っぽいんだ。何とか距離を伸ばす方法が無いかな?」


「え? 試験衛星と魔力で通信できるのか? そりゃ初耳だな。具体的にどうやって通信するんだ?」


「衛星には魔石を組み込んだ装置が組み込まれていて、その装置と魔力で通信するんだ。地上からはAIが組み込んでいる魔石から通信している」


「地上の魔石は1つなのか?」


「いや、世界中に散らばっている。」


「じゃあ、通信専用に魔石を1つ準備して、それをパラボラアンテナに組み込むのはどうだ? 実際宇宙空間での電波の通信はパラボラアンテナは必須なのは常識だ」


「なるほど! それは盲点だった。検討してみる。ありがとう」


ヒューストンの管制室で試験衛星での成功を確認できたので、もうここには用事は無い。

俺とさやかは日本へ戻り、そこで今回の通信に関する助言を検討してみることにした。


「さやか、通信に関するコニーの提案はどう思う?」


「通信専用の魔石を準備するのは良い案ね。念話用の魔方陣を描きこんだ専用魔石なら、通信専用にできるから、到達距離は伸ばせると思うわ」


「後はパラボラアンテナか? メティスはどう思う?」


『電波用のパラボラアンテナでは魔素は通過してしまうので、念話用アンテナには使えません』


『つまり、魔力を反射する素材で作れば念話用のパラボラアンテナは実現できるってことか?』


『理論上はそうなります』


「さやか、魔力を反射する素材って言えば!」


「そう、オリハルコンね」


「そうだ、オリハルコンだ。しかしオリハルコンがどんな素材でできているのかさっぱりわからない。鑑定魔法で調べても”オリハルコン”って表示されるだけだしな」


「水晶に魔力を注入することで魔石になるように、オリハルコンも普通の素材がベースとなっていると思うわ」


「確かにそれは言えるな。よし調べてみよう」


俺は近くにある工業技術センターに依頼することにした。

そこには蛍光X線試験機という、サンプルに含まれる元素を計測できる装置がある。

こんな装置は前世では無かったもんな。21世紀の地球は便利だな。


俺は以前前世のユレム国でお土産に買ってきたオリハルコンの短剣をストレージから取り出した。

これをすこし切り取ってサンプルにしよう。


そう思い、短剣から少し切り出そうとしたが、これが非常に困難だった。

前世でもダイヤモンドより硬いと言われた素材であり、何をやっても割ることができなかった。

魔法で破壊しようとしても、オリハルコンは魔力を跳ね返すので不可能だ。

熱を加えてもなかなか柔らかくならない。


電気炉を購入し、3500℃に熱してようやく破片に分離することができた。

おいおい、これって金属の中でも最も融点の高いタングステンより高い温度じゃねえか。

ようやく試料が出来たので、工業技術センターに解析を依頼した。

特急料金を支払ったので、翌日には結果が出てきた。


構成元素は鉄をメインに、クロム、タングステン、バナジウム、モリブデンがが高配合で含まれているとの事で、SKH材と呼ばれるステンレス鋼に近いとの事。


なるほど、前世では元素って概念が無かったので、オリハルコンは貴重だったわけだが、それほど特殊な素材では無かったってわけだ。

いや、タングステンなど、前世では入手できないな。


前世の世界では科学技術の知識なしでよくもまあオリハルコンを作れたもんだな。


さっそく、SKH鋼のボルトを購入して魔力を注入してみた。

水晶と違い、金属への魔力注入は難しかったが10分ほどでSKH鋼は青っぽいオリハルコンの色に変化した。


鑑定魔法で調べてみると、”オリハルコンのボルト”と表示された。

よし、成功だ。


SKH鋼ならこの世界で入手に問題は無いし、早速パラボラアンテナを作ってみよう。


「さやか、アンテナは何とかなりそうだ。念話通信用の魔石はどうだ?」


「もう完成しているわ。試しにメーティスに接続して通信試験をしてもらったけど、軌道上の試験衛星との通信は非常に良好らしいわ。それでもアンテナ無しでは100万kmが限界みたいね」


「よし、早速アンテナ制作に入ろう。それと遠距離通信確認の為、試験衛星を再度打ち上げてもらうか」


俺は早速ヘスティアー計画の秘書であるケイトさんに連絡して、試験衛星打ち上げ準備と、地上用魔力パラボラアンテナと、衛星用の魔力パラボラアンテナの製造を依頼した。


米国大統領からは、”俺の指示は最優先で実行するように”と指示されていたので、直ぐに製造は着手された。

1ヶ月後にはアンテナも試験衛星も完成し、別の用途で打ち上げ予定だったロケットを分捕って、打ち上げ準備もできてしまったのである。


俺はすぐさま発射場のある米フロリダ州のケネディ宇宙センターに移動して、衛星搭載用パラボラアンテナを見せてもらった。


折りたたんだ状態で、展開すると直径2mのサイズとなるらしい。

この状態ではまだ単なるステンレス製のパラボラアンテナだ。


俺はアンテナに手を当てて、魔力を注ぎ込む。

ボルトと違い、サイズが大きいので時間がかかったが、それでも15分ほどで魔力注入は終わり、アンテナが青い色に変化していた。

鑑定で確認するとしっかりオリハルコン化されていた。


さやかが核となる魔石を担当者に手渡す。


俺たちはそのままヒューストンへ飛び、そちらで仮設置が進んでいる地上用魔力アンテナを確認する。

こちらは直径5mとなるらしく、結構巨大だ。

まだ組み立て前で、倉庫にバラバラの状態で置かれていたので、さやかと手分けして片っ端からオリハルコン化していった。


非常に大きいので、魔力注入には時間がかかり、半日作業となってしまい、俺もさやかも魔力が枯渇寸前となった。

この地上用パラボラアンテナは本番でも使用するつもりだから、しっかりオリハルコン化しておかないとな。


◇◇◇


アンテナ試験用の宇宙船には、新型イオンエンジンの試作機も搭載され、イオンエンジンの試験も兼ねることになった。

1週間後に打ち上げられた。


今回の試験機は衛星軌道ではなく、惑星間飛行となる。

打ち上げ後、2日で距離が50万Kmを超え、パラボラアンテナを展開。

今までは”念話”と呼んでいたが、今後は”魔力通信”と呼ばれることになった。


今回の試作宇宙船との魔力通信は非常に良好であることが判明した。


さらに新型イオンエンジンの調子も良好で、試験機はガンガン加速し、1週間後には1000万Kmを超えた距離となった。

その距離でも魔力通信には全く問題は無く、メーティスによれば、50億Kmでも十分に通信可能と判断できるとのお墨付きをもらった。


新型イオンエンジンも性能的に問題は無いことが確認され、引き続き燃料が尽きるまで加速試験を行うことになった。


今回は試験機の制御用に信号は、通常の電波による通信と並行して、メーティスを経由した魔力通信でも実施されたが、NASA技術者はその通信速度に驚愕した。


通信速度とは、”到達に要する時間の短さ”と”通信の容量”の2点だ。

到達速度は1000万Km離れていても、計測限界を超えており、通信の容量は電波による通信の100倍以上という高速だ。


さらに技術者を驚かせたのはオリハルコンである。

パラボラアンテナを設計するために、予めオリハルコン化したSKH鋼の板を渡しておいたが、ダイヤモンドに匹敵する硬さと、タングステンよりも高い融点である事が分かり、こちらに関しても大騒ぎだった。


なにせ、オリハルコン化したステンレス鋼は加工が非常に難しいのだ。

切断もできなければ、曲げる事すら難しい。

5000℃まで熱を加えてようやく加工できるという。


なので、最初はステンレス鋼の状態でアンテナを製造し、完成後にオリハルコン化することになった。


オリハルコンに関しては軍事利用の観点で非常に有望だったみたいで、軍関係者が聞きつけて”製造方法の開示”や”サンプルを提供しろ”と圧力をかけて来た。


あまりにうるさいので米国大統領に対し、”軍関係者からのつまらない連絡が多く、ヘスティア―計画の遅延要因にもなりかねないので何とかしてくれ”、と申し入れたらその後はピタッと軍関係者からの連絡が途絶えた。


パラボラアンテナ分のステンレス鋼のオリハルコン化だけでもかなりの魔力と時間を使っているのに、軍用機や軍艦の装甲用にオリハルコンを作るなんてとんでもない。

そもそも大災厄を乗り切ることが出来なければ、軍用機や軍艦など意味は無いだろう。


協力しろとうるさかった軍関係者は更迭されてしまったらしい。

オリハルコンでパラボラアンテナを作って、遠距離の魔法通信を実現する。

発想がすごいですね。

色々な課題が一つ一つクリアされてますね。

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