99.事前検証
年が明けて4月になった。
俺もさやかも大学二年生だ。
大学の単位は今のところ問題なく取れている。
ヘスティア―計画が失敗したら大学卒業とか全く関係なくなるんだけどな。
ヘスティア―計画は米国大統領からの最優先との指示もあり、比較的順調に進められている。打ち上げロケットの準備も順調だ。
今回は50億Kmを2、3年で移動する必要がある。
この様な長距離のミッションで通常使われる巨大惑星を使うスイングバイによる加速では到底間に合わないことが分かった。
そこでスイングバイなしで50億Kmを移動するために、スペースZ社の新型のイオンエンジンを使うことになった。
新型イオンエンジン自体は俺が事前に2台を発注済みだったので、製造はほぼ終わっており十分間に合うだろう。
しかし電力を供給するための原子力電池や、宇宙船本体は新規設計であり、しかも燃料を多く積み込む必要があり、魔石も比較的重たい。
そこで、ロケット2台で打ち上げ、軌道上でドッキングする手法がとられることになった。
アバドンを迎え撃つ側と、放出する側で2機を打ち上げるため、合計4機のロケットの準備が急ピッチで進められている。
この日は事前検証のために、実験衛星が打ち上げられることになっていた。
魔石を10個づつ積み込んだ衛星を2機搭載し、それぞれが魔石を円状に低軌道上の宇宙空間で展開。
引退している地球観測衛星をアバドンに見立てて、地球の反対側まで転移魔法で移動が可能かを検証するのだ。
俺たちはフロリダの打ち上げ場でロケットの打ち上げを見学したのち、転移用魔方陣で管制室のあるヒューストンへ移動する。
管制室から実験結果を確認するつもりだ。
ロケットは問題なく大気圏外まで打ち上げられた。
俺達はヒューストンの管制室から、状況を見守る。
打ち上げ2時間後に衛星が相次いで切り離され、しばらくして1号機と2号機は地球の反対側の軌道まで離れる。
一番の懸念だった魔石の円状への展開だったが、これはうまくいった。
制御装置による制御も問題なく行われた。
それから2時間後にターゲットの衛星を補足し、円状に広げられた魔石に、秒速7kmの相対速度で実験衛星を捉える。
テストは成功裏に完了できた。
移動魔法も魔石を組み込んだ制御装置により正常に発動し、1号機の転移魔法結界に捕らえられたターゲットの衛星は、地球の反対側の2号機の転移結界に瞬時に移動された。
それまで固唾をのんで見守っていた管制室のスタッフだったが、実験が成功した瞬間大歓声が上がった。
それはそうだ。人類の生存の可能性が一挙に高まったんだからな。
この成功を見るまで、魔法により物体を瞬間移動できるなんて実はスタッフは半信半疑だったのだ。
中には全く信じていない人もいたぐらいだ。
しかし、これで全員魔法の効果を信じてくれるようになった、
今回の実験で、いくつか課題も上がった。
1つは、魔石の円状への展開がうまくいかず、すこし楕円形となってしまった事。
本番では今回より圧倒的に大きな直径10Kmの円状に展開する必要があり、すこしでもいびつだとアバドンの転送ができない可能性が高まる。
もう一つはターゲットの宇宙船を転移魔法結界の中心に捉えることが出来ていなかったことだ。
ターゲットの衛星より展開された魔石の直径が十分大きかったので、実験は成功したが、衛星は展開された単位魔法結界の端の方に突入していた。
本番では8Kmのアバドンを10Kmの転移魔法結界で捕らえる必要があり、その辺りも課題として残っている。
さらにもう一つの課題があり、それは念話による通信は10万Kmが限界と推定されたことだ。
今回の試験衛星の制御装置は魔石搭載の従魔化した装置だった。
その場合はメーティスにより監視と制御が可能であることは今回確認できた。
しかし、地球軌道上までは念話は届くが、かなり減衰していることが分かった。携帯電話に例えるなら、アンテナの本数がギリギリ1本立っている程度だ。
メーティスの予想では、10万km離れると念話による通信は出来なくなるとのこと。
もちろん、電波を使った通信は可能なのだが、光の速度には限界があるので50億Km離れた場合、電波が届くまで4時間半。往復で9時間も掛かってしまい、トラブルがあった時の対処が困難になる。
失敗が許されないミッションなので、なんとか魔力による念話でも通信を確保したい。
現時点で魔力の到達速度は光速をはるかに超えることが分かっている。
正確な速度は計測限界以下で、少なくとも50億kmの距離ならば、ほぼタイムラグ無しで通信可能と推定された。
なんとか念話を50億kmまで到達させたいな。
しかし地球の科学者は魔法については何も知らないので、論文や文献をいくら探っても解決策など出てくるわけはない。
念話を遠距離まで飛ばすにはどうすればいいんだ?
一難去ってまた一難。念話を何億キロ先まで届けるためにどうすればいいんでしょうか?
主人公はどのように解決するか、推定してみてください。




