ピンキーピンキー
「聞いて麗ちゃん! なんと私達〝Biriris〟、あの柏井英梨と合同ライブをします!」
綾と麗による結成してまだ一年の二人組アイドル〝Biriris〟が、日本一のアイドル柏井英梨とライブは行うのは異例の事態だ。
「麗ちゃんも覚えてるでしょ。五年前に見たえりりんのライブ映像。秋葉原駅前の巨大モニターに映ったえりりん。そのパフォーマンスに、行き交う人がみんな笑顔になった」
「もちろん。私たちも英梨さんみたいに、みんなを笑顔にできるアイドルになろうって」
麗はあの日、綾と絡めた小指を見つめた。
「うん。でももう憧れるだけの存在じゃない。打倒えりりんだよ。ね、麗ちゃん!」
「えっ……?」
「もしかして不安? 大丈夫。私の歌と麗ちゃんのダンスならえりりんにも勝て――」
「ねぇ、綾」
二人だけのレッスン場に麗の声が響く。
「どしたの? 麗ちゃん」
「私〝Biriris〟辞める」
麗は即座に綾に背を向け走り出す。
「どうして!? 約束したじゃん。二人でアイドル頑張ろうって。なのに裏切るのっ!?」
綾は麗が出て行ったドアを茫然と見つめる。
「ワン、ツー、スリー、きゃっ……!」
ドスンと鈍い音がレッスン場に虚しく響く。
「痛たたぁ。また転んじゃった。やっぱりダンス苦手。……ううん、弱気になったらダメ」
麗はこの三週間一度もレッスン場に現れず、綾は一人でステージに立つ覚悟を決めていた。
「ワン、ツー、スリー、きゃ! うぅ、また転んだ。何回やっても上手くいか……っ!」
手を突いた時に痛めたらしい小指を抑える。
「痛たたぁ……って、あっ……!」
綾は小指を見て固まる。
あの日、五年前に絡められた小指の感触が、そこから伝わる熱が、想いが、鮮明に蘇る。
「私……馬鹿だ……!」
綾は走り出た。レッスン場を抜け、人混みの中を進み、アキバブリッジにやってきた。
「麗ちゃん!」
当時見た巨大モニターを眺める麗がいた。
「綾……なにしにきたの」
「ごめん麗ちゃん。裏切ったのは私だった! みんなを笑顔にするアイドルになろうって誓ったのに、私はえりりんばっか意識してた」
綾は胸の前で右手の小指を左手で包み込む。
「この三週間で思い知った。麗ちゃんは凄いんだって。麗ちゃん、もう一度私と……っ!」
ふわりと綾は麗に抱きしめられる。
「私の方こそごめん。みんなを笑顔にするって言いながら、一番大切な人を悲しませた」
「……じゃあさ、麗ちゃん。もう一度」
麗は差し出された綾の小指に、自らの小指を迷いなく絡めた。
そして合同ライブ当日。綾と麗のパフォーマンスは見る者すべてを笑顔にしていた。