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銀杏並木の見えるカフェ  作者: 二階堂真世
13/13

エピローグ

もうすぐ冬が来る。街路樹の銀杏は、キラキラ輝いている。

あの憧れた大学の前のカフェで、明菜に1千万円の小切手を渡す。使い切れないほどの資産の中から新たな事業のために出資するよう慎一が用意してくれたものだ。会うのは久しぶりだった。「ここを選んだのは、豊さんと、この場所、このテーブルで初めて声をかけられた思い出の場所だからよ」と明菜は若い学生たちが騒ぎながら闊歩している様子を眩しそうに眺めながら言った。「私たちも長い夢を見ていた気がするわね。どこで聞いたのかは知らないけれど、こんな大金寄付してもらっていいのかしら?充分直子さん親子には儲けさせてもらったのに。夫から逃げて来た妻たちと、親に棄てられた子供。暴力でねじ伏せられた弱い人の逃げ場所を作るのが私の長年の夢だったの。若くて風俗に売られる少女や夢を諦めヤクザ者に身を堕とすしかない人たちを沢山見てきたからね。裏社会で。この夢があったから今まで生きて来られた。一人でも助けてあげることができたらって、ずっと思っていた。自分のような悲しい女だけは、もう沢山だから」と明菜は遠い目をして言う。直子に言っているようで、そうでも無い気もして答えるのをはばかった。しばらく「空を目をそばだてて見ていたが、ロイヤルミルクティが運ばれて来たので、我に返ったように直子を見て微笑みながらが「お互い、年とっちゃったね」と笑った。「人生百年。80歳なんてまだまだ人生はこれから。昔は寿命の平均は50歳だったんですって。豊さんが、いなくなって長い夢を見ているみたい。明菜さんに救われなかったら、今も貧困にあえぎながら、どん底の生活をしていたんでしょうね。本当に、ありがとうございました。今、とっても幸せ過ぎて怖いくらい」と心から感謝していて、会ってどうしても言いたかったのだった。

明菜も、いつもの厳しい目が温和に笑みをたたえ「これからの人生はオマケみたいなものだから。好きなことをして思う存分人生を楽しむのよ。直ちゃんは、すぐ不幸な方にばかり行くんだから心配で。お母さんの分まで、今の幸せを逃がさないようにね」と言った。

直ちゃんと呼ばれて、うれしいようなくすぐったい気分になった。「夫や子供のためじゃなく、自分のためだけに好きなことを自由にやって生きるなんて、夢みたい。明菜さんのおかげで、経済的な不安から生まれて初めて解放されたのだから。協力させて下さい。何かお返ししなきゃバチが当たってしまう気がするもの」と言うのを制しながら、カフェの入り口を見て明菜は目を疑った。そこには豊が立って、こちらにまっすぐ向かって来るではないか。

「おばあちゃん。こちらが明菜さん?初めまして。孫の純也です」と快活に言う。声も姿も豊に生き写しだった。明菜は、しばらく口もきけないようだった。直子は「そんな所に立っていないで、座ったら?飲み物は何にする?」と、努めて平常心を装っていた。「買って来るから大丈夫」と、純也はカウンターの方に行った、「ソックリでしょう?この前も、社交ダンスを踊ってくれたんだけど、もう豊さんが乗り移っているとしか思えないの。明菜さんに見てもらいたくって。すぐ近くの大学に通っているんだけど。しかも、豊さんと同じ薬学部に。性格も良く似ていて、一緒にいたら、昔に戻ったみたいで変な気分になるの」と小声で囁く。そうこうしている間に純也がアイスカフェラテを持ってテーブルに着いた。明菜は、しばらく何も言わずに純也を観察していたが「豊さんの産まれ変わりみたい」と驚愕の声をだした。「そうだよ。直子と愛子と、そして明菜ちゃんと会いたくって戻って来たんだ」と言う純也の目は、まっすぐに明菜を見て優しく微笑んでいた。


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