父との再会
病院は小高い丘の上に建っていた。医薬大を併設した、地元では知らない者のいない大きな附属病院だ。不謹慎だとは思うが、てっきり俺は地下の霊安室へ向かうのだと思っていた。案内されたのは意外にも最上階の場違いな部屋だった。
「どうゆう事だよ父さん、ギックリ腰って!」
「ダハハハ! 余りの痛さに死ぬかと思ったわい」
「母さんも母さんだ。「もう余り長くもたない」って言ってたよな!」
「あら、言ったかしら?」
「言ってたよ!」
「でも余り長くもたないってのは事実でしょう? 賢二から比べれば私達なんて、あと精々三十年程よ」
賢二とは俺のことだ。あと三十年って…… がっつり八十六歳迄は視野に入れてるじゃねーか。
「はぁ〜 ……信じらんね。六花達も教えてくれよ、俺はてっきり死んでるんじゃないかと思ってたぞ」
「ごめんね。でも正直に話したら此処に来てくれた?」
「…………来ないな」
「そういうことよ」
「まぁ、そうカッカするな。一応儂は怪我人だしな」
「そうよ。上京したっきり帰ってこない、まともに連絡すら寄越さなかった貴方に文句を言えるかしら」
「それは…… 済まなかったと思ってる」
どうやら俺の取り越し苦労だったみたいだ。まんまと父親達に嵌められた感も否めないが、確かに連絡を取り合う努力を怠っていた俺も反省すべきであろう。
「ところでこの部屋は何だ? 表にロイヤルスイートって書いてあったぞ」
軽く二十畳は下らない豪華な部屋にベッドが一台。隣にはうちよりも広いリビングルームに高そうな調度品がズラリ。いったい一日おいくら万円するのだろう? 二桁は固い。場違い過ぎる。
「他に部屋が空いてなかったんだ。仕方ないだろう」
「それにしたって限度があるだろう! いくらするんだよ入院費?」
「それは気にするな。ここの院長とキャバ友でな、友達価格にしてもらえる」
「はぁ…… 分かったよ」
後から聞いた話だが、「何時もキャバクラへ夫を連れ回してるのだから、こんな時ぐらいまけなさい」と母親が直談判したらしい。
こんな雲を掴む様な話をさせられるものだから、正直俺は油断していた。いや、術中にはまっていたのかもしれない。
「なぁ賢二よ」
急に襟を正した父親に(まずい!)と思ったが後の祭りだった。
「大学進学する時に交わした約束…… 覚えてるか?」
「ああ、覚えてる」
東京の大学への進学を許す代わりに会社を継ぐ、それが交わした約束だ。親の助けがなければ一人暮らしも学費もままならなかったので、渋々条件をのんだ。それに当時は深刻に受け止めていなかったし、上手く逃げて有耶無耶にすれば、諦めて社員から見繕うだろうと高を括っていた。……が、甘かった様だ。どうやら向こうは逃がす気が無いらしい。
「そろそろ儂も歳だ。賢二、会社を継げ」