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結婚とか言われてもさ




「そういえば小鳥遊さん、結婚するんだってね」

「ああ、そういえば案内状来てたな」


 小鳥遊は小学校から高校まで一緒だった同級生の女の子だ。高校卒業以来ご無沙汰だったけれど。


「大阪行っちゃうんだってね」

「らしいな」

「はぁ〜 呑気なもんだね。お兄ちゃんの同級生で独り身なのって、お兄ちゃんぐらいなんじゃない?」


 余計なお世話だ。独身貴族万歳!


「さあな。でもよく知ってるな、お前?」

華澄かすみちゃんから聞いたから」

「……ああ、納得した」


 華澄…… ミディアムヘアで利発そうな勝気の女の子。チャームポイントのそばかすを気にしていて、からかった男子をよく蹴り飛ばしていたっけ。彼女とも小学校からの腐れ縁と言う奴で、不思議と仲が良かった。そういえば華澄も《《彼女》》に引けを取らない程の美少女で学校でも一二を争う人気だった。不思議と浮いた話は皆無で、何時も俺の傍にいてくれた。高校の《《あの一件》》の後、どん底まで落ちた俺を救ってくれた恩人でもある。なので二人が付き合い始めるのも自然だった。


 華澄も行先は違うが東京の大学に進学していた。ちょくちょく会っているうちに何時の間にか同棲していて、このまま流されて結婚するのも良いかもななんて思っていたものだ。結局二年前に、いまいち煮え切らない俺の態度に嫌気をさされて別れを切り出されてしまったが。


 そういえばあの後大変だった。俺達が別れたことが地元でも知れ渡り、俺に対する非難の電話がしばらく鳴り止まなかったのを覚えてる。

 そんな華澄と六花は小学校の頃から仲が良く、姉と妹の様な関係を築いている。今でも交流は続いているそうだ。


「華澄ちゃん心配していたよ「冴えない彼氏の育てかたに失敗した。つまらないものを野に放ってしまったって」」

「俺は珍獣か何かか?」


 何だよ「つまらないもの」って…… まぁそうなんだけど。六花の笑い声に思わず苦笑するしかなかった。ひとしきり別れた事に「勿体ない」の連呼を聞いたところで車内に沈黙が訪れた。そんな時だ、おもむろに六花が呟いたのは。


「私達も、もう大学卒業だしね」

「えっ?」


 そうか。もうそんな歳になるのか。


「お兄ちゃんが東京に行ってしまってから、いーーーっぱいうちのお手伝いしてきたんだから」

「六花ちゃん、凄く頑張っていたんですよ」

「そ、そうなのか」


 確かに俺が一方的に東京の大学進学を決めて家を出てしまってから、妹が色々と家の手伝いをしていたのは母さんから聞いていた。


「だからもう良いよね?」

「何が?」


 そこで一旦沈黙が支配した。雄弁に語っていた六花が黙り込んだと思うと、静かに運転に徹していた三好君が前を向いたまま口を開いた。ゆっくり…… 誠意を込めて。


「僕達、結婚しようと思ってます」


 声が出なかった。そうだよな、何となく察しはついていた。年齢的に見ても、そんな話が出ても不思議じゃない。只その事実に目を逸らそうとする自分が居ただけだ。


「そ、そうか。父さん達には?」


 動揺を感づかれないように、必死に平静を装ってみる。


「挨拶は済んでいるわ」

「あっ…… ははっ、そう。うん、おめでとう、妹をよろしくな」

「はい! お兄さん」


 我が妹ながら玉の輿なんて上手くやったな。


「お兄さん…… ね。うん、俺がお兄ちゃんだぞ!」

「はい!」

「どけっ! 俺がお兄ちゃんだぞ!」

「はいっ!?」

「止めてよお兄ちゃん! みっともない」

「おっおう……」


 怒られてしまった。これが〖妹を送り出す兄の気持ち症候群〗と言うやつか。


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