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帝王学って美味しいの?①







 芳川さんの忠告通り、ここまでエレベーターを三回乗り継いだ。これが結構な曲者で、てっきり並んだ3基のエレベーターを使うと思ってた。だが実際は少し昇ったら降りて横のエレベーターに脇目も振らず、人っ気の無いフロアーの反対側に回った。ここにもエレベーターが3基並んでいて、真ん中のエレベーターに乗ったと思いきや、突如フリーホールの様に落ちた。



 どうして昇ったとか落ちたとか漠然な言い方なのかと言えば、有るはずの物が無いのだ。そう、エレベーターの中には階数を指定する釦も、今居る階数を案内する表示も無く、遠隔操作されてるのだそうだ。だから俺は乗り継ぐエレベーターの場所を覚えればいい。因みに間違えると、問答無用で知らない階に送られるそうな。そして程拘束されて取り調べを30分程されたあと、身分が証明される迄解放されないらしい。(芳川さんの体験談)怖っ!?


「スパイ防止のため、幹部にも容赦はしないそうですよ。ホント、あの時は《《楽しい体験》》をさせて頂きました。《《もしもの時》》は私を呼んでください」


 笑いながら話す芳川さん。だけど目が怖いです。

 二つ目のエレベーターを降りたら、少し廊下を歩いて10段程の小さい階段を昇った。そして左に折れると警備員の詰所があり、その中を突っ切って奥へ行くとエレベーターが1基だけ備えられていた。左手首に巻いた腕時計を一瞥する。ここまで案内されて、かれこれ20分近く経っていた。


「表の役員フロアに続く”No.1”のエレベーターを除くと、このエレベーターが役員フロアで乗り降りできる唯一のエレベーターです」

「役員フロアにまで行くのか?」


 役員フロアなんて、父親に案内されて会社の役員達と顔合わせした時以来だ。別にこの会社は役員フロアに一般社員を立ち入らせない訳ではない。が、だからといって一般社員、それも研修を控えた新入社員が出入りしていたら不審がられても仕方がない。今後の俺の社員生活を送る上でも、痛い腹を探られない為に用意された策だろう。



「着きました、こちらです」

「ここは……」


 芳川さんに連れてこられた場所とは、役員フロアの一角にある部屋の前だった。中に入ると12畳程の部屋の真ん中に、高そうな会議用のテーブルセットが置いてあった。


「どうぞお座りください」

「はい……」


 言われるがまま、とりあえず一番下手の席に座ろうとした。


「若、そんな端に座られてもやりにくいだけですよ。真ん中で構いません」

「あ、はい。あとその「若」って呼び方止めてください。なんか調子狂う」


 この部屋に入った途端、社長(父親)の子息扱いに変わった。つまり一介の中途採用の新入社員〖竜道寺〗から、次期社長候補の〖敷島 賢二〗として扱うということだ。テーブルセットの真ん中に座った俺は、向いに立つ彼に詳しい説明を求めた。


「芳川さん、それで残業っていったい?」

「もうお気づきになられていると思いますが、こちらには新入社員の竜道寺としてではなく、将来、この会社の行末を背負って立つ敷島 賢二として御足労いただいております」

「はい」

「若…… 賢二様には――」

「はいストップ! 様はいらないです」

「では、賢二さん?」

「まぁ、良いです」

「では此方としても、前々から言ってる様に私めに敬語は止めてください。貴方は将来の《《雇用主》》なのですから」

「だったら芳川も敬語は止めてくれ。俺達は同い年だし、俺は貴方のサポートを必要としている」

「分かりました。でも敬語は勘弁してください。もうこの身体に染み付いてしまっているので。それに最低限のケジメは必要ですので、適宜、扱いを判断するということでよろしいですね」



 この頑固者め。同い年なんだし、オレはもっと腹を割って話したかっただけなんだけどな。



「分かったよ。で、〖敷島 賢二〗として何をやらされるんだい?」

「はい、賢二さんには今後、終業後に帝王学を学んでいただきます」

「へっ? 終業後? 毎日?」

「流石に毎日は可哀想だとの社長のご意向もあり、勤務日だけです」

「ほぼ毎日じゃんか!? それに帝王学って…… 」



 うちみたいな成り上がりの会社に、そんな御大層な教えがあるなんて初耳なんですけどー?



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