やはりこうなったか
ヨルムとの死闘? を辛くも勝利し、俺はルビィの元へ駆けつける。どうやら戦いは続いているみたいだ。
「これなら如何かしら! ローズ・ハリケェェェーン!」
ルビィの超必殺スキル、ローズ・ハリケーン。嵐のような暴風が吹き荒れて無数の赤い薔薇の花弁が舞う。
『なんの』
ルビィから50メートルほど離れた場所にロキは立っていた。彼は微動だにせず胸の高さに左の掌を突き出す。
耳を劈く轟音が響いた。薔薇の暴風が神ロキの5メートル手前で何かに衝突して霧散する。ロキが展開したバリアによって、ルビィのスキルは防がれてしまった様だ。
『なんだ? もう終わりか。ならお返しだ』
ロキが嘲笑う。スっと右手を掲げると、辺りを高温の水蒸気が包んだ!
「不味い!?」
言い様のない不安に駆られた俺は、慌てて駆け出す。ルビィが危ない!
『蒸し焼きにでもなれ。ベースドエッグ!』
「だから何で目玉焼き縛りなんだよっ!?」
いかん、ツッコんでしまった。 こんな時でもツッコまずには居られない自分の性と、ロキのしたり顔に腹が立つ。
俺はルビィの前に滑り込むと、透かさずイージスの盾を構え高圧の水蒸気の渦を受け止めた。
「っつ!…… 熱っ!」
「マッケンジーさん!」
「大丈夫か!」
「お陰様で!」
安堵した声色が聞こえた。どうやらかなり無理をさせていたようだ。
「ごめん、待たせた」
「助かりました! どうやらわたくしの得物では分が悪い様ですわ」
ルビィの得物、レーヴァテインはロキ自身が作った剣だけあって、流石に耐性は備えているか。
「蛇さんの方はよろしくて?」
「蛇? 嗚呼、ヨルムか。アイツは逃げたよ、一応勝利ってところかな」
『ほう、ヨルムは後で仕置きだな』
ヨルムと戦う為にルビィと二手に別れた時よりも、ロキはかなり禍々しい雰囲気へと変わっていた。改めて対峙してよく見ると、随分とズタボロになっているではないか。ルビィの奴、分が悪いと言ってる割には頑張ってくれたみたいだな。どうやらロキも本性を出してきたみたいなので、真面目に向き合わないとヤバいかもな。
しかしどうしたものか…… 俺もヨルムとの戦いで消耗しきっていて、HPもMPも心許ない。救いがあるとすれば此方のステータスはロキには解らないことだろう。
ならば…… ブラフでやり過ごす!
「派手にやられたみたいだな」
『其方のお嬢さんが思ったよりじゃじゃ馬でねぇ。少し手を抜き過ぎたようだ』
「手を抜いていた割には必死でしたわよ! プ〜 クスクス…… 」
俺の背中越しから煽るのはやめて。兎に角ここは強気で……
「それじゃあ俺とも遊んでくれるのかい? さっきの様な幻惑はもう通じないぜ」
『笑止。身の程をわきまえないと長生きできないぞ、小僧』
「ハァン! そんな手負いで勝負になるのかよ? 蛇野郎と一緒に神界へ強制送還するのがオチだぜ」
冷や汗ダラダラだが、余裕ぶって精一杯悪い笑みを浮かべてみる。チップは多目にベットする主義だ。
『ほう…… 随分と威勢のいいことだな。しかし…… 確かに今回は遊び過ぎたようだ。いずれ試させてもらおう』
よし、これは『今日のところはこれくらいに』フラグだ! そのまま帰ってくれ……
「これがフリというものですわ!」
「おい! 黙ってろって。お前はどっちの味方なんだよ?」
「ふへっ!? どうしました?…… あっ!?」
忘れていた。これがルビィという奴だ。遅れて彼女も気づいた様だが、もう元の木阿弥だ。
このままいけばロキも帰って防衛成功、イベント終了だったのに……
帰りかかっていたロキの顔色が一転、無頓着だった表情が巨悪な笑へと変る。
『今日のところはこのくらいで勘弁してやろうと思っていたのだがな…… どうやらとことん殺りあいたいとみえる』
「ほっ、ほう…… 良いのか? そのまま帰ってくれても構わんのだがな」
やはりこうなったか……
「ごっ…… ごめんなさい」
背後のルビィが小さくなっていた。