これで勝ったと思うなよ〜
「ごめんなさい」
「気をつけろよ……」
ルビィに剣先でツン!ツン! されてちょっと負ったダメージにイラッとしてしまった。けれど本当はそんな事をする奴ではないことは分かっている。これまでも散々絡まれてきたが、ルビィは汚い手を使うことはなかった。分かってるんだよ、だけど悪態のひとつもつきたくなるだろう! だってめっちゃ痛かったんだもん。
目の前でシュンとしているルビィ。こっちに非はないが、美少女を落ち込ませたままでは何とも目覚めが悪いな。それにロキとヨルムに攻められて、ただでさえ人手が足らなくてピンチなんだ。S級プレイヤーでもあり、上位ランカーでもあるルビィには何としてでも手伝って貰いたいのが正直な気持ちだったりする。
こんな時は……
「はぁ〜あ、憂鬱だなぁ。(チラッ)あのウザ髭インチキ神『俺かっ!?』とキモい蛇『キシャシャ!?』を一人で相手しないといけないのか。(チラッ) 何処かに手伝ってくれる女神のような子、居ないかなぁ〜(チラッ)」
さりげな〜く助けてアピールだ。不意打ちでディスりを受けた一柱と一匹が、憎悪で黒い炎をメラメラさせているが相手にしない!
「コホン! しっ、仕方ないですわねマッケンジーさん…… 貴方に加勢してあげますわ」
「サンキュー、ルビィ。これで2対2だな」
俺に頼られて、ちょっと頬を赤らめ嬉しそうに名乗りを上げるルビィ。俺は知っているぞ、頼られたら断れない”ぼっち”なおまえを。そう、彼女は自分のギルメン達にも慕われていて、どんどん人を引き寄せるカリスマの塊みたいな奴だ。しかし彼女は残念なことに、喜んでもらおうと張り切り過ぎて何時も盛大に空回りしている。お陰でギルメン達に恐縮されて距離が縮まらないと、ルビィの補佐をしている女の子が言っていた。
不器用と言えばいいのか何と言うか、いつも頑張りすぎて””ハリケーン・ルビィ”なんて二つ名や、歩く厄災”とまで言われているルビィが不憫でならない。だけどそんな彼女の姿勢を俺は好ましく思えた。
『一人増えたぐらいで調子に乗るなよ小僧!』
『キシャシャ! シィー! キシャシャッ!』
「調子に乗っているのはどっちかな?」
「マッケンジー、背中は任せましてよ」
かくして俺とルビィ、相対する神ロキ達との戦いの火蓋は切られた。
『キシャー、シャッ!』
「ハッ!」
ヨルムの噛みつきを後ろに飛んで交した。透かさずルビィが俺の死角へ移動してカバーする。
『これを避けられるかな? 〖裁きの業火〗』
「オーッホッホッホ! 私が誰だかご存知で? 〖クリムゾン・ウェーブ〗!」
ロキの放った魔法は有効範囲を黒い火炎の海に変えるものだった。ルビィも負けじと武器スキルを発動し、剣から吹き出した炎で黒炎を相殺したのだった。すげぇ……
『おおっ、俺が打った剣〖レーヴァテイン〗ではないか!?』
「あら? やはり気づかれましたか」
ルビィの獲物〖魔剣レーヴァテイン〗は、失われし宝具〖ロストウエポン〗と呼ばれる一振りだ。成程確かに、北欧神話にも出てくるロキが手がけた武器ならば、ロストウエポンと言っても過言ではない。
『その剣をこちらに寄越せば、今回は見逃してもいいぞ』
「お断りですわ!」
ロキの提案に対し、ルビィは即断で拒絶した。まぁそうだよな。レーヴァテインは超難易度ダンジョンのクリア報酬だし。ニヤつくロキの表情からしても本気ではなかったようだ。
『では仕方がないな。塵になるがよい。〖ターンオーバー〗』
………… 突っ込まないぞ。
ロキの新たな魔法が炸裂し、黒炎に包まれた大地が上下反転する。なんて恐ろしい魔法なんだ。ルビィも咄嗟に回避して難を逃れている。
「流石ですわね。しかしわたくしもギルドを率いるランカーの一人。むざむざ殺られるわけにはいきませんの」
(ルビィが善戦している。俺も目の前の蛇野郎をなんとかしないとな…… そうだ!)
ヨルムンガンドと睨み合いながら、俺は妙案を思いついたのだった。