ギルドは存続ね♪ けってーい!
「いや、でもこのギルドは……」
「確かに我がギルド〖|Green cross〗は当社の社員のみで構成されている。しかしそれは結成時にメンバーが予想を超えて集まってしまったが為に、社外の一般プレイヤーが入団を敬遠したからだ。別に純血に拘っている訳じゃなかろう?」
「それはそうですが……」
とはいえ会社を去った俺を、その後も変わらず受け入れてくれるのだろうか? 考えれば考える程、不安が胸をざわつかせて仕方がないのだ。
高校二年の学祭の一件以来、俺は人から拒絶されることを極端に恐れていた。それは大学に進学してからも変わらず、全く人付き合いもせずに卒業を迎えた程なのだ。そんな俺を支えてくれたのは、共に上京し付き合っていた華澄だったのだが…… 結局俺には彼女を支えることができず、新たなトラウマを作って幕を閉じた。
きっと…… この関係も遠からず破綻する。
そう思えてならなかった。どうせ今だけの感傷なら、俺のことはさっさと忘れて……
「貴方が居ないとこのギルドは立ち行かないんです。私を誘っておいて、見捨てるつもりですか」
ブロンドの長髪が美しいヴァルキリーが不安そうな表情を見せる。彼女は受付嬢の支倉 詩織さん。ユグファンでゲームデビューということで立ち回りも初心者の域を脱してはいないが、真面目な人柄で着実に経験を積み上げてきている期待の新人である。アバター名も〖SHIORI〗。
普段は黒髪を後ろでまとめ、薄めの化粧に知的な眼鏡か似合う美人さんだ。
「いや、そんなつもりじゃなかったんだが……」
見捨てる見捨てないって言われてもなぁ…… 彼女の場合は、生真面目過ぎて周りと壁を作り孤立していた。もっと会社に馴染めるようにと、支倉さんの同僚から頼まれた経緯もあった。勿論、彼女の誠実さが気に入って誘ったのもあるが。
だからそこまで彼女に依存されているとは思ってもみなかった。
「マッケンジー、私の狙ってる秘宝級の鎧を一緒に探しに行くって約束です!」
「そうだったな……」
エルフのクミンが、サイズの大きいレプラコーンのフルプレートをカチャカチャ鳴らしながら、ぷりぷり怒って抗議する。俺は苦笑いするしかなかった。
「ギルマスぅ、早くオーディン一家の城門をぶち破りに行こうぜ!」
「おう、わかってる!」
バリスタ隊の隊長、ダークエルフのアランが、両手を頭の後ろに回してニカッと笑った。
「ギルマス!!」
「マッケンジー!」
「敷島さん!」
みんな思い思いに言葉をかけてくれた。どれもこれもが、とても暖かくて嬉しかった。
「マッケンジー、 ……いや敷島。うちのギルドメンバーはお前のことをようく知っているつもりだ。そしてお前がいなければ、このギルドは成り立たないというのが皆の総意でもある。ここまで言わせているんだ、もっと自分を誇っていい」
ドノバンが言った。
「みんな……」
俺は胸が熱くなって、こみ上げてくるものがあった。ギルメンのみんなをゆっくりと見渡す。笑顔で相槌を打ってくれたり、ガッツポーズをしてくれたりと様々だった。
「やる気さえ有れば何処からでもユグファンにログインできるんだ、そうだろ?」
ギルガメッシュが目を細める。
「ああ…… そうだな」
(このギルドのメンバーなら、大丈夫かもしれない)
何かが溶けていく様な気がした。
「じゃあ敷島くんが退社後も、変わらずギルドは存続ね。けってーい!」
アリーシャが言質を取ったと言わんばかりに、腕を突き上げた。
「「「「「「「「異議なし!!」」」」」」」」
ギルドメンバーの歓喜の声が高らかに響いた。