懐かしい人達
「おおっ、立派になられましたな若っ!」
「社長、これから忙しくなりますな」
会議室に足を踏み入れると、長いテーブルの両サイドに沢山の役員の人達が座っていた。
「あっ…… あれ? こんにちは、お久しぶりです」
恰幅のいいおじさん、ガタイのいいおじさん、スキンヘッドでやたら厳ついおじさん、ヒョロりと気弱そうなおじさんも居れば、元気ハツラツなおじさんも居る。勿論おじさんばかりかと言えばそうでもなく、優しそうなおばさん、凄く美人なおばさん、氷の微笑を浮かべるおばさんや、ガサツなおばさんも居る。他にも色んなタイプの人達が見える。そして何れもが既視感もあり、凄く懐かしくもあった。
「そりゃあそうだろう。お前も子供の頃から顔を合わせてたんだからな」
父が懐かしそうに笑みを浮かべる。それもそのはず、この人達は俺が子供の頃から六花と共々可愛がって貰った社員だったからだ。
「元気だったかい? みんな心配していたんだよ」
「きっと勉強で忙しいんだろうねって話してたんだ」
やめてください、俺はそんな立派な人間じゃない。逃げるように田舎を飛び出した俺は、過去の記憶をシャットアウトし、兎に角この街のことを忘れようとしていたんです。
「東京で就職していたんだろ? 賢二君のことだから、仕事もバリバリこなしてるんだろうなぁ」
「六花ちゃんも鼻が高いでしょう? こんな素敵なお兄さんがいて」
そんなことはないです。俺は目的も目標も無くぷらぷらと仕事をこなしていただけです。東京で就職したのだって、その方が立派に見えるだろうと思っただけだし。要はマウント取りたかっただけの猿だったんです。
しかも妹には見透かされてて、だけどそれを認めるのが腹立たしくて、醜態まで晒してしまいました。そんな誇れる人間ではありませんから。
「ワッハッハ、悩みがあれば何時でも相談にのるぞ」
「いきなりみんなにワーワー言われたらびっくりするわよねぇ。ほら、賢ちゃん困ってるじゃないのよぉ」
涙が出そうだ。どうか許してください。俺は貴方達をガサツだ、デリカシーが無いだと比喩していました。
俺の目は曇ってました。俺の目は節穴だらけでした。
なんで気づけなかったのか…… 貴方達が実はこんなにも暖かかったなんて。
「俺は……」
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。