目の当たりにした現実
「なっ、なんじゃこりゃー!?」
病院の地下駐車場に降り立った俺は度肝を抜かれた。
「どうした? 早く乗らんか」
「こっ、これにか?」
目の前に立派な黒塗りのベ○ツ様が横たわっている。しかもこれ、リムジンじゃん。
「どうしたのお兄ちゃん、早く乗りなよ」
クスクス笑いながら六花が車へと乗り込んでいく。驚くと言ってたのはこの事だったのか。両親と向かい合ってフカフカの座席に座ると、隣に座る六花が得意気に語りだした。
「うちと和人くんの家で一緒にお食事会を開いた時にね、和人くんのお父さんとうちのお父さんが意気投合しちゃって」
「ガハハ…… 結納の品にくれって言ったんだがのう。ちゃっかり請求されてしまったぞ」
オーダーメイドだから流石に無理だと言われたそうだ。当然だろう、余裕で一戸建て買えるような車をお強請りしたんだから。仮にこんな車を結納で収められたら、六花はプレッシャーで大変だ。
「てゆうかこの車買えたの?」
「まあな」
信じられない、俺が上京する前まで四年落ちの国産の高級セダンだったのに。こんな車を買う金が何処に…… あっ、山売ったのか?
「父さん……」
「何だそんな顔して? どうせお前のことだから、山をいくつ売ったのかとか考えているんだろう?」
「人の心ん中読むなよ!」
「お前の考えとることなんぞ、読まんでも分かるわい。それに山は売っとらんぞ。それも家に帰ればおいおい分かる」
いったいこの後何が待ち受けているのだろうか? 父親の不敵な笑みが妙にイラッとくる。
父の会社〖敷島土木〗は、従業員五十人程の中小企業だ。地元ではそれなりに名の通った会社で公共事業に力を入れている。社屋もそれなりで、地上二階建てのそこそこ大きな建物だった。
そして会社の隣の敷地にうちの実家があった。二階建ての木造建築の家だ。近所では大きい方だったかな。まぁ、そんな認識だった。何が言いたいかと言うと……
「あれっ? あれれれれ!?」
おかしい? たとえ十年ぶりだとしても地元の景色を見紛うはずはないのだが……
「なぁ…… この辺りだったよな、うちの町内?」
「そうだよ、街も変わったからねぇ」
「いやいやいや、変わったってレベルじゃねぇよ!」
閑静な住宅街だった…… 筈なんだけど、目の前に広がるのはビル、ビル、ビル。どう見たってオフィス街だろ。そしてその奥に一際目立つ高層ビル…… あれれ…… 奇遇だなぁ、うちの近所?(見る影もないが)にも〖SHIKISHIMA〗なんて屋号の大企業が自社ビルを構えてたのか。月日が経つのは早いものだ…… 近所にあんなのが来たら、さぞかし肩身が狭いだろうな。同姓同名でもうちの会社は吹けば飛びそうな会社なのに。
「うちの会社も移転したのか?」
「そうだな、手狭になったから建て直すことになった。もう見えてるだろ」
「見えてるって…… ビルしか見えないんだけど」
物凄い嫌な予感が過ぎった。まさかね…… 何故かどんどん目前の高層ビルが近づいて来てるんですけど。ああ! あれか! 昔見た漫画のアレ! でっかい会社だと思ったら、その裏に有る掘っ建て小屋だったってやつだろ。流石に掘っ建て小屋は無いだろうが、あの高層ビルの近くに移転したんだな。うん、ちょっと落ち着いたぞ。
しかし現実は無常なもので……
「あの芳川さん、勝手に車寄せの前に止めちゃって良いの?
ねぇ? おい! めちゃくちゃ人が並んでますけどぉ!! なんか一斉にお辞儀してますけどぉー!」
リムジンのドアが開けられ、芳川さんが声をかけてきた。
「社長、賢二様、どうぞ此方へ」
まじかよ……