目覚めたら
戦いは最終局面を迎えていた。
「右側から突っ込んで来るぞ! ドノバン」
「任せろっ! テメェら、蟻の子一匹通すんじゃねぇぞ!」
「「「「「シャー・オラァ!」」」」」
既に死に体だと思われた敵が最後の意地をみせている。流石五本の指に入る有力ギルドといったところか。壁役を買って出た重戦士のドノバンと、その指揮下の厳つい兄貴達が鉄壁の壁で敵の勢いを止める。
「マッケンジー、十一時の方向・ヴァルキリー・総数十八騎」
レプラコーン用のフルプレートに身を包んだエルフのクミンが駆け寄ってくる。ああ、俺かい? 俺の名はマッケンジー、ただのギルマス(ギルドマスター)さ。
「バリスタ隊!」
「おぅ、何時でもいけるぜ、マッケンジー!」
「ナイス! 頼むぞアラン」
「角度ヨシ! 安全確認ヨシ!」
「(撃)テェエェェ!」
隊長のアランの号令でバリスタ隊の弓戦車から放たれたスピアが、唸りを上げてヴァルキリーを貫いた。それでも運良く難を逃れたヴァルキリーが数騎いたが……
「ウィッチ隊、フォローにまわるわ」
「アリーシャ、何時もスマン」
「明日のお昼はえびアボかなぁ」
「わかったよ、用意しとく」
S級魔女〖劫火のアリーシャ〗とその部下達にかかればひとたまりもなかった。
「ギルマス、正面の壁抜けましたァ!」
「よし! ギルガメッシュ」
「任せたまえ。重騎馬隊、突貫せよ!」
「「「「「うぉおおお!!」」」」」
「一気に押し切るぞ! 総員、ご安全に!!」
「「「「「応!」」」」」
かくしてこの戦いは、我がギルド〖Green cross〗の記念すべき二百勝目を飾り幕を閉じた。
◇◆◇
「はぁ〜 疲れた」
目を開けると真っ暗だった。いや正確には、フルフェイス型インターフェイスのバイザー越しに微かな間接照明の明かりが見て取れる。
今日は仕事を終えて真っ直ぐ帰宅し、そのままベッドの上に直行していた。勿論そのまま爆睡…… という訳ではなく、ご覧の通りVRMMOへダイブしていたのだ。
それもこれも無作法な対戦相手のギルドのせいだ。昨晩いきなり宣戦布告をしてきて、有無も言わさず進軍してきた。お陰でドタバタと対応に追われこの有り様だ。
「祝勝会の料理を食べても満たされるのは味覚エンジンのみ。現実はコンビニ弁当。それでさえ今夜はありつけない……か。腹減ったな……」
コンビニに寄る暇もなかった為、今夜の糧食は確保できていない。キッチンの下の棚を物色してみたが、ストックしていたパックご飯もカップラーメンも切らしている。これはいよいよ覚悟を決めなくてはなるまい。コンビニに向かうか、空腹を耐えるかを。
「補給線を絶たれては無理ゲーだ。可及的速やかに食料の確保に向かうか」
コンビニに向かうため重い腰を上げ身支度を済ませようとしたところで、スマホが点滅していることに気付いた。
「んっ、 留守録か?」
画面には母親から数件の着信があったと表示されていた。