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冤罪   作者: はるあき/東西
7/17

嫌い?

「なぜ、なぜ、わたしがメッツアのかわりにイ、イオラ、た、たんこうに?」


 刺すような視線が少なくなりやっとクーイラサは息が出来るようになった。


「クーイラサ、お前は王族である私とサライスを騙した。それだけでも重罪だ」


 ランスの冷たい言葉にクーイラサは違うと(かぶり)振る。

 サライスはそのやり取りを呆然と見ていた。実感がない。クーイラサに騙されていたなんて。けれど、メッツアの行動が学園内とウェットダンの屋敷で正反対なのは確かだった。サライスが今までおかしいと感じなかっただけで。


「だ、だますなんて、わ、わたし、してません」

「しただろう。メッツアに虐められていると。騙された私は公衆の面前でメッツアを罪人と認めてしまった。可哀想なメッツアに罪人の名を被せてしまった」


 ランスの一言にサライスは止まっていた思考が動き出す。


「そ、それは、私がランスを急がせたせいで!」


 慌ててサライスは声を出した。メッツアとの婚約破棄を望んだのはサライスだった。父であるカンタス大公がメッツアとの婚約を破棄させてくれないため、サライスが従兄のランスに泣きつき卒業を祝う舞踏会でメッツアの罪を暴き婚約を破棄した。

 それはランスの思惑とも噛み合ってしまった。メッツアの名前があるために捜査が難航している犯罪があった。そのためメッツアから公爵の権威を奪う必要があった。婚約破棄はメッツアのよい醜聞となり、権威を取り上げるきっかけに出来る、と。理由とするのはクーイラサへの行いだけでまだ裏の取れていない犯罪の証拠でメッツアを断罪するつもりはなかった。


「舞踏会でと望んだのはクーイラサだったじゃん。人目があるから逃げられないって」

「えっ、わたし、そんなこと」

「言った。というよりそうするように仕向けた。サライスが父であるカンタス大公が婚約破棄を覆せないようにしたいという気持ちを利用して」


 ハミルの言葉にクーイラサは知らないと言うがランスがそれは許さない。父兄も参加する卒業を祝う舞踏会で婚約破棄を宣言したのなら覆せないとサライスに思わせたのはクーイラサだ。

 クーイラサはそんなと手を顔で覆ってしくしく泣き出したが、慰める者は誰もいなかった。


「やっぱ、姉貴たちが正解だったか」


 ハミルがあーあとボヤきながら呟いた。


「クーイラサはあざといからサライス様が騙されてるって言ってたんだよなー」

「ハミル! 何故それを早く」

「言ったよ。けど、『嘘だ』『クーイラサが可愛いから嫉妬しているだけだ』と取り合わなかったじゃん」


 エタサと二人で鼻で笑ってたよね?

 ナニエル様はメッツアの変貌に茫然として使い物にならなかったし、ランス様は公務でほとんどいなかった。


「ハミル様は私が嫌いだったのですか?」


 涙に濡れたクーイラサの問いにハミルは、ううんと大きく首を横に振った。

 クーイラサの表情が少し明るくなった。自分を嫌う者などいるはずはないから。


「嫌いじゃなくて、大嫌い。大嫌いも違うか。存在自体鬱陶しくて邪魔」


 思いもしない答えにクーイラサは呆然としていた。そんなことを言われるなんて微塵も思っていなかった。


「学園でもさー、当たり前のように生徒会室に入り浸ってて。私が悪いの、メッツア様の気持ちも分かるの、迷惑をかけるわけにはいかないからとかなんとか言ってたけど、私を慰めて、メッツア様を罰して、私は健気で可哀想な可愛い子ちゃんなのよ、てアピールしに来ていただけじゃん」


 ハミルは、ふわぁと欠伸をした。ハミルに緊張感なんて無いようだ。


「サライス様とエタサがまんまと乗せられて慰めてメッツア様を思いっきり罵っているし、ナニエル様は悲観にくれて仕事に手が付かず。俺に仕事が回ってきてさー。迷惑をかけるつもりが無いと言うんだったら生徒会室に来んなよといつも思ってた。言ったら言ったで、サライス様たちに冷たい奴だと俺が責められたし」

「ひ、ひどい」


 クーイラサはそう悲しそうに言ったが、サライスとエタサは身に覚えのあることに視線を落としたままだ。


「酷いのはどっちだよ。生徒会の仕事の邪魔だけしてさー。私は可哀想な被害者なのーて嘘泣きばっか。憎まれんの分かってて浮気の相手してたんだろ。被害者面するなっていうの。それにほんとに悪いと思ってんのなら、サライス様ときっぱりすっきり別れたらいいのに、うだうだ言ってサライス様の気を引くようなことばっか言ってるし。言ってることとやってることが正反対すぎて信じる気も起こらなかったー」

「浮気の相手なんて…、私は本当にサライス様のことが…」


 クーイラサが縋るようにサライスを見るがサライスはその視線に応えることが出来なかった。ほんの少し前なら人目を憚らず抱きしめてそう言われた喜びを噛み締めていたのに。


「ハミルはいつから分かっていた?」


 ランスの問いかけにハミルはいつかな? と首を傾げた。


「学園ではメッツア様が実際虐めてるとこ見たけどなんか違うって。嫉妬? て感じがしなくて、どちらかって心配? してる感じがしてさー。生徒会室でのクーイラサの話もクドイだけで中身が全く無いし」

「ハミル、お前は面倒だから反対していたと思っていた」


 ランスの呆れた声に酷いなーとハミルが軽い感じで反論している。


「面倒なのもあったよー。サライス様とエタサは熱くなってて何言っても聞かないし、ナニエル様はもう死しかメッツア様を救えないと思い込んでたし。けど、面倒だし、面倒になりそうだったから、捕まえる(ほご)だけにしとこって何度も言ったじゃん。それにさ、クーイラサが持ってきた証拠、整然すぎて信じる気なかったしさー。綺麗に揃いすぎ? 素人が揃えたと思えないくらい」


 確かにハミルだけが最後まで公衆の面前で婚約破棄など止めようと口にしていた。卒業式直前にクーイラサが持ってきた証拠も胡散臭いと言って調べ直すべきだとも。ランスもそうするつもりだったが、クーイラサを信じるサライスが暴走しパーティーの場で犯罪の主犯だと発表してしまった。メッツアの罪を知った民衆が調べ直す時間を許さず処刑を望んだ。


「ランス様も捕まえるだけ(そうしよう)としてたのに、クーイラサがサライス様にメッツアの罪を言うように唆して」

お読みいただきありがとうございます。

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